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「いとこは……リアは、とにかく甘いものが好きでしたよ」
甘いパンを食べたからか、そんなことを不意に思い出した。探偵はバゲットを食べながら、ふーんという顔で聞いている。
「砂糖菓子とか、今思えば、たぶんあんまりもらえてなかったんでしょうね。甘いお菓子をあげると、飛び跳ねて喜ぶことこそなかったですが、無言ながらに目の色を変えて食べてたように思います」
「砂糖は愛情の代わりって、確かによく言うよね。なるほど、なるほど。じゃあ何か、よく一緒にした遊びとかはなかったかい?」
「遊び、ですか……」
指についたジャムを舐めながら、ふとまた記憶が蘇ってきた。
「アテレコごっこ、ですかね」
「ほお。というと?」
「家とか庭とか、そこらへんにある何かを持って、その心の声を適当にアテレコする遊びです。まあボールペンとか、スコップとかを手に持って、勝手なキャラと物語をでっち上げるだけなんですけど。アテレコするのは大概僕で、リアはいつも質問する役でした。リアは何をしていても白けてるような子でしたけど、その遊びだけは、面白がっていた気がします」
「そうか、そうか」
探偵はバゲットの残りを食べてしまうと、コーヒーを胃に流し込んだ。
「いいお兄さんだったんだね」
「そんなことはないです」
「謙遜しなくてもいいさ」
「あの、ひとつ聞いてもいいですか」
窓辺の林檎を気にしながら、尋ねた。
「なんだい」
「柊木さんは、ご結婚されてるんですか?」
探偵はそれを聞くと一瞬黙ったが、すぐに快活に笑い始めた。
「残念ながら、ずっと独身だよ。過去に結婚したこともない。どうして?」
「そうですか。気になっただけです」
探偵がマグカップを流しに持っていき、その場からいなくなると、僕は林檎の方を無言で見つめた。林檎は不服そうに「な、何よ。向こうが嘘をついてるだけよ!」と唇を尖らし、窓の外を向いた。