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「は? 友達?」
だだっ広いホテルのロビーで、俺は読んでいた新聞から顔を上げ、思わず聞き返した。ソファの隣に座ったユウは、両手で顔を覆ったまま、こくこくと頷いた。
「リアちゃんに、友達ができたらしい……」
「は? いや……よかったじゃねーの。なんでそんな落ち込んでるんだよ」
「それはだって……だってさぁ……」
めんどくさいな、と新聞記事に目を戻す。
「いい歳してやきもちかよ。気持ち悪い」
「そんなんじゃないってぇ」
「あっそ」
聞き流して新聞を読んでいると、背後から首を締めるように抱きつかれる。
「おやおやー? 今日は珍しく、我らがユウ君が落ち込んでいるようだねぇ」
「ぐえ」
アヤセだった。
「名無し君、これはチャンスなのでは? 十年以上にわたるユウの絶対王政を覆す、革命の時なのでは?」
「か、革命の前に、俺の大動脈を解放してくれ」
どうにかアヤセの首絞めから抜け出したが、咳が止まらない。そんな俺に構うこととなく、アヤセが楽しそうに続けた。
「いやーなんでもね? リアちゃんのリアちゃんじゃない方が言うにはね、どうやら彼女には男の子の友達ができたらしいぞ。公園で出会って、その日に友達になるなんて、あの子も意外とやり手じゃあないかー!」
「もう無理死にたい」
はっはっは! と高らかにアヤセが笑い声をあげた。酒も入っていないのに、彼女はいつもこんな感じに素面でテンションが高い。それがたまに羨ましくもあるが、絡まれる身としてはもう少し静かにしていてもらいたいものだ。
「ユウは言う割に友達いないからなあー! まあ気にするなって。私たちがいるじゃん。ていうか、ユウのその落ち込みようから察するに、もしかしてリアちゃんって子に恋しちゃってたりするわけ?」
ユウは俯いたまま首を振った。
「いや、そういうのとは違う……例えるなら、これは、一緒に不妊治療してた友達に先に赤ちゃんができちゃって、置いてきぼりにされた女性の気持ち、というかなんというか……」
「なにその例え、超気持ち悪い」
「傷口に塩を塗らないで」