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昔の話は、誰にもしたことがない。
けれど語らないからといって、過去がなかったことになるわけでもない。
「……」
エントランスのパネルに、メールに載っていたパスワードを入力すると、難なく自動ドアが開いた。一人で中に入り、エレベーターまで行って【上】ボタンを押す。
いいんだ、と俺は思う。
こんな話を聞いて喜ぶ奴なんて、いないんだから。
大昔のことだ。
俺が殺し屋になった理由は、あまりにも単純。人を殺すのが楽しくてたまらない。それだけ。
だって俺は——
「っ、」
エレベーターの到着音に、少し驚いた。慣れない回想なんてしたせいか。地に足をつけていることが、殺し屋にとっては必須中の必須条件なのに。
ユキが妙な気まぐれを起こすせいで、俺もつられてしまったのかもしれない。
『俺、ちゃんと人間だよね、先生』
『ああ、お前は人間だよ』
開いたエレベーターのドアの向こうで、鏡の中の亡霊が微笑んだ。
『お前は、俺の大切な一人息子だ』
「うるせえよ」
思わずナイフを投げていた。
鏡が砕け散り、破片がパラパラと虚しく落ちる。




