75 家族とクローン
「起きてください、ナユタ君、起きてください」
俺は声をかけられて、目が覚めた。
「起きてください、今なら外に逃げることができますよ」
クルムがそう言っている。俺は今日の夕方のことであまり話したくない。
「根に持っていらっしゃるのはわかります。本当に申し訳ありませんでした。お詫びと言ったら何ですが、1つ、私の家族の話をしましょうか」
クルムはそういい、話を始めた。
「私には兄弟がいます。兄と妹です。でも兄は修行の旅として、2年前、勝手にどこかへ行ってしまいました。母はその翌年、病気で若くしてあの世へ行きました。父と私と妹の三人になりました。そうしたら、妻を亡くしたショックからか、父が暴走し始め、クローンについて勉強し始めました。最初は妻を再現するクローンを作ることに必死でした。でも、クローンを学ぶにあたって、強さを求めるようになりました。それからのこと、強い冒険者を集め、まだ未完成なクローン製造機を使ってクローンを作っていました。でも、まだ未完成のため、体を複製することはできず、一部を記録するカプセルのようなものを作りました」
クルムは、話を続ける。ただ、そこでちょっと話を止めた。俺とクルムの目が合う。クルムは「続けますね」と、言って話の続きをした。
「そのカプセルはその単体では何の意味もないものでした。父はそのカプセルをどうしたか。生きている人に使ったんです。これも実験だ、と言う綺麗事で。使った相手は私の妹です。私は父に失望しました。もし、死んでしまったら、などとは考えなかったのでしょう。そして、カプセルを取り込んだ妹は、無事、生きていました。そのカプセルの能力を持ち合わせて。父はこう思ったのでしょう。これを繰り返したら最強の人が作れるのではないか、と。そして、今のラミナが出来上がりました。もう、あの子は死んでいる。だって、もう、人間じゃありませんから」
そう言って、クルムは目に涙を浮かべた。
「形は違っても、家族がいないのは同じなんですよ」
クルムは涙を拭き取り、牢の鍵を開ける。
「さあ、逃げましょう」
もう、顔を合わせないとか、話を聞かないとか、そう言うことを忘れていた。俺は、この人に助けてもらう。それだけで頭がいっぱいだった。
*****
「今です。行きますよ」
タイミングを見計らって牢から出る。話ではエントランスを通るのが一番早いようだ。
「こっちです。なるべく足音を立てないようにお願いしますね」
俺はクルムの後をついて行くだけだった。
「このエントランスを抜けると、もう外です」
そう言ってエントランスを駆け抜けて行くと、数十人の兵士が見えた。
「…凍ってる?」
足元と口元が白い氷で覆われていた。
俺はなぜかあの王と話した場所に足を運んだ。
「プルガさん…!」
そこには誰もいなかった。
「ナユタ君、君は死にたいのかい…?」
「奥の部屋って何があるのですか?」
「…っ!」
王が座っていた椅子の奥に部屋があり、その扉が少しだけ開いているのが見えた。俺が来た時にはなかった部屋だ。
クルムは俺の前に走り、そこに行かせないようにする。
「あそこはダメだよ。ナユタ君が死んじゃう」
「でも、あそこに俺の大切な人がいるんです」
俺は無意識にそこに足を運んだ。遮るクルムを押し倒してからそこに行く。
俺は扉を開けるとそこには目を疑うような景色が広がっていた。
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