37 最初の教え子
「シオンさん!シオンさん!」
シオンはいちばん最初の教え子の声が聞こえ、辛かった。
(私も所詮、その程度の魔法使いか…私も心のどこかで「この魔法があれば…」などと考えていたのかもしれません。ナユタ君にあんな話をしておいて、自分が飲み込まれるなんて、情けないですね)
ゆっくりとシオンはナユタの方を向き、
「私は…大丈夫ですから…。ナユタ君は…ここから…逃げてください」
シオンが笑顔でそういってから、わずか数秒。
シオンを中心として爆発が起きた。
周りは誰も死ななかった。
「おい!大丈夫か?あれ」
「とてつもねぇ爆発だったぞ?」
「あの生徒、やばいんじゃない?」
周りの人々はざわめき始めた。
相手選手は守りの構えを取っていたので、怪我はなかった。
だが、もう一方の光景は闘技場にいたみんなが目を瞑りたくなる光景だった。
地面が円形に黒焦げているその中心で、一人倒れていた。
闘技場は時間が止まったかのように沈黙していた。みんな勝敗なんて忘れていた。
ひとりの少年がそばに駆け寄る。選手以外入ることを許されてはいなかったが、それを止める人は誰一人いなかった。
「嘘ですよね?シオンさん、嘘だと言ってください!
シオンさん、言いましたよね、魔法は怖いって言いましたよね!全部嘘じゃないですか!怖いならこんな事出来ませんし、しませんよ!
何が「大丈夫ですから」ですか!全然、見たところ大丈夫じゃないですよ!大丈夫なら今すぐ起き上がって俺を叩いてください!いろんなことを教えてくれたのに、うるさく口ごたえする、教え子を引っ叩いてください!
もとより、恐怖なんてなかったんですか!怖いって忘れてはいけないんじゃないんですか!シオンさんだって魔法を自由に使っていたんじゃないんですか!どうなんですか!はっきり言ってください!」
シオンは閉じていた目を開け、
「何言ってるんですか、大丈夫ですよ」
シオンはゆっくり目を閉じて、
「お相手、強かったですね。私は疲れました。ナユタ君は勉強になりましたか?」
「呑気なこと言ってる時じゃありませんよ!俺だって怒るときは、怒ります!」
「ナユタ君はいい魔法使いになると、私は勝手に思ってます。私が教えた初めての子がナユタ君でよかったです」
シオンはいつもの笑顔を見せる。
俺は何もできない。魔法も使えないし、父に教えてもらった技もここでは使えない。
俺は涙を流した。
「ダメですよ、女の子の前で男の子は泣いちゃいけません。ナユタ君には笑顔がお似合いです」
俺は必死に眼に浮かぶ涙を流さないようにした。
「ここまでを最初の授業としましょう。次の授業で持ってくるものをいいますね。私が最初の授業で教えたこととナユタ君の純粋な心です。授業内容は秘密にします。教えて欲しいですか?教えて欲しいなら私の手を握ってください」
俺は優しくシオンさんの手を握った。
「教えて欲しいですか。せっかちさんですね」
シオンは笑って続けた。
「授業内容は、ナユタ君を…」
そこまで言って、シオンは力が抜けていった。
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