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回想録(3)

 皮膚にじとりと湿った感触を覚えて、男は今の季節が夏であることを強く意識した。

 太陽も深くへと沈んでしまった深夜と言えど、日本の夏は湿度と温度が高く過ごしにくい。

 シャツのボタンを二、三開けながら男は『夏は暑い』という当たり前のことを思い出して、モニターから目を逸らす。


「エアコンとか、つけても良いかな……」


 パソコンの前から立ち上がり、電気のついていない暗い部屋の中でモニターの明かりを頼りに男は汚い部屋の中を探し始める。テーブルの上や椅子の近くなど、しばらくめぼしいところを漁るとエアコンのリモコンを見つけ出して手にとった。

 そして、天井を見上げてエアコンの本体がある場所を確認すると、その方向へエアコンを向けてスイッチを入れる。

 機械的な電子音が鳴り、数秒。冷たい空気が部屋に流れ始める。


「よし、ついた」


 男は満足気に微笑み、パソコンを振り返る。暗い部屋で明るいモニターをじっと眺め続けていたのが目の負担になっていることを、彼は目頭をぐっと押さえる動作で表している。

 それでも彼はまたパソコンの前に座った。それはまるで義務のような強制力が彼に働いているかの様に。


「ミアはしっかり見守ってるんだな……。それと……人見つかさ。とっくに『教団』から離れてるって情報だが……。さっきの『初夏の街頭占い』の話は、多分最近の出来事だよな……」


 男は呟きながら、顎に手を乗せて考える素振りを見せる。そして、額に滲んでいた最後の汗をシャツの袖で拭い、再びマウスを握る。


「何より、『銀のペンダント』について、あいつ、認識はしてるみたいだ。……加茂山という男には少し話を聞いてみたいが……。どうやら行方不明らしいしな……」


 彼は次に読むテキストファイルに目星をつける。時計の秒針が奏でる無機質な音に、マウスクリックの乾いた音が加わった。


「次は、そうだな。……『人差し指』か。相変わらず、よくわからない題名だ」


 そして彼は、その人差し指で左クリックを二回。彼の前に、また別の文字の塊が現れる。

 少しづつ部屋の時計の短針が、真下へと近づいていく。

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