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ゲームセンターの出会い(3)

 雨を気にも留めない帽子の少女に案内されてたどり着いたのは、駅からそう遠くないところにある公園だった。生憎の天気ということもあってひと気のない公園を進んでいくと、遊歩道の先に東屋がある。


「……結局、雨、気にしてんじゃん……」


 聞き取られない程度の小さな声でツッコミを入れながら帽子の少女と東屋の屋根の下に入る。傘を閉じた俺を振り返った彼女は、また俺の顔をじっと見てから小さく咳払いをした。


「……ボクの名前はミア。その『力』について少し話がしたくて、ここまで来てもらった」


「ボク……?」


 彼女の一人称を聞いて一瞬戸惑う。もしかして小柄な男子なのか?

 つい、彼女の胸元を見てしまう。膨らみがある。女性なのは間違いない。ただ、彼女の一人称が珍しかっただけだろう。

 視線を彼女の顔に戻すと微かに口の端が上がっているように見えた。胸元に不躾な視線を送ってしまっていたのがバレてしまったのだろうか。『健全な男子なんだ。仕方ないだろう』と開き直ってしまいたい気持ちにかられたが、認めてしまうようでそれも嫌だ。


「……えっと」


 俺は恥ずかしさに居心地悪くなりながら自己紹介を返す。


「俺は、久喜といいます」


「名前は?」


「え、あ。輝、です」


 ミアと名乗ったその少女は俺の名前を聞き、何が嬉しかったのか満足そうな表情になる。


「そう。それじゃあ、輝って呼ぶね」


「はあ、そうですか」


 俺は彼女の表情の変化に戸惑って薄い反応を返してしまう。ゲーセンからここまでくる間は冷たい無表情だったのに、一体何なんだ。

 だけど、そんなことよりも聞くべきことがある。


「早速ですけど、さっきから言っている『力』っていうのは……」


 俺は体力測定の日に気付いた『不思議な力』のことを思い出す。握力計の針を回したり、綱引きで圧勝したりと、やはり印象的なのは腕力だ。


「……急に腕力が強くなったり、とか」


 自分で言いながら、馬鹿馬鹿しいことを言っている気がしてきた。実際馬鹿にされてもおかしくはない。ただ、ゲーセンでいきなり見知らぬ人の腕を掴んで『その力がどーのこーの』と言ってくる方もおかしいとは思うが。

 しかし、彼女は俺の心配を他所に、笑うこともなくうなずき返してくる。


「そう。……ほんとは、こんなに乱れるはずはないんだけど……」


 そう言いながら、ミアさんはずい、と距離を詰めてくる。彼女の顔がすぐそこまで来たと思ったら、その手で俺の胸元を触れてきた。


「ちょ……」


 突然のことに咄嗟に離れようとするが、彼女は片手でしっかり俺の肩を掴み離さない。そして空いたもう片方の手の平を胸元に押し当ててくる。


「じっとしてて」


 有無を言わせぬ雰囲気があり、俺は固まった。触れられている胸元がじわりと暖かくなってくる。それは、彼女の手のひらの温度だけでは無いような気がする。


「半端に外れかかってる……。カモヤマの、せいか……」


「カモヤマ?」


 聞いたことのある単語に俺は反応した。カモヤマ、かもやま、加茂山……そうだ。


「加茂山先生……のことですか?」


 加茂山先生は俺が記憶を失った後、俺のカウンセリングを行っていたカウンセラーの先生だ。しばらく彼のカウンセリングを受けてはいたが、彼は俺に対して『記憶喪失の原因は精神的なものではない』という言葉を浴びせ、『魔法』という『不思議な力』を示してから姿を消してしまった。

 その後、田島さんに行方を聞いたものの、未だに消息が掴めないと聞いた。彼もまた、行方不明者であると。

 あれから……。あの『魔法』とやらを見せられたあの診療を受けたあの日から、繰り返し同じ様な夢を見る羽目にもなっているし、今日のような『馬鹿力』の暴走が本格化してきた。

 彼女がもし、彼の情報を少しでも知っているのならば、教えて欲しい。色々と聞きたいことがある。


「……加茂山先生を知ってるんですか?」


 しかし、ミアさんは俺を突き放すと頭を振ってから俺の胸元を指差した。


「……その質問には答えない。輝が知るべきは『力』の制御の仕方」


「答えないって、そんな勝手な」


「いつか、人を傷つけてしまうよ。そのままだと」


「う……」


 言葉に詰まった。

 確かにその懸念は持っていた。誰かと握手をしたとき、ふと肩をぶつけてしまったとき、そんなときにこの『馬鹿力』が暴走してしまったらと思うと、恐ろしい。今日の綱引きの練習だって、力が発動するタイミングがずれていたらもっと大きな被害が出ていたかもしれない。

 無理に加茂山先生のことを問い詰めて、彼女が語る『力の制御の仕方』とやらを身につける機会を失うほうが俺にとっての損失は大きい。

 俺は渋々、加茂山先生に対する疑問を飲み込んでから「わかりました」と返した。


「この力を制御する方法というのを、教えてください」


「……うん。それじゃ、早速。手のひらを出して、目を閉じて」


 行為の理由を聞いてから行動に移りたかったが、力の制御の仕方という情報を握られている以上、この目の前の少女の機嫌を損ねるのは避けたいので言うとおりにすることにする。

 一旦傘を置こうとしたら「片手で大丈夫」と言われたので、右手の平を上に向けて目を閉じる。


「閉じ……ました」


「手のひらの上に小さな竜巻を生み出す想像をしてみて」


「た、竜巻……?」


 何故、『馬鹿力』の話をしているのに急に竜巻なのか? 疑問に思ったが、しかし、従うほか無いだろう。

 唐突な竜巻という言葉に戸惑いながらもまずはイメージしてみる。右の手のひらの上で透明な空気の渦がぐるぐると巻き上がっていくような光景。

 しかし、なにかが起こる様子はない。

 今まで『馬鹿力』が暴発したときに感じていた胸元も、全く熱くならない。

 それから一分ほど、無い頭で竜巻についてイメージを膨らませたものの、何の手応えもなく、俺は目を開く。先ほどと何ら変わりのない手のひらがあるのみだ。


「これ、あってます……?」


「空気の動きが捉えられないなら、白銀の帯が渦を作るところを想像して」


「はあ、白銀の帯」


 最早何を言っているのかわからないが、なんとなく、漫画やゲームにおける風の表現のようだと思ったので『帯』については納得した。

 だが、帯の色についての指定があることに違和感を感じて、つい、質問を挟んでしまう。


「なんで、白銀?」


 別に、緑色とかでも良いだろう。むしろ、風の表現としては緑色や青色という方が一般的では無いだろうか。

 しかし、ミアさんはそんな俺の疑問に「輝の色だから」とよくわからない理由を間髪入れずに述べてきた。俺の色? どういうことだ?


「……良いから、目を閉じて、やってみて」


 もう考えてみてもしょうがない。一旦言われたとおりにやってみよう。どうせ、他に『不思議な力』についての手がかりなんて無いのだから。


「わ、わかりましたよ……んん、んー?」


 目を閉じて、その暗闇の中でイメージを再度ふくらませる。

 手のひらがある空間に、竜巻……いや、銀色の帯。でもなくて、白銀の帯。

 まずは一本の細い帯が、紐のような帯が手のひらの上をぐるぐるとまわる。続けて二本目、三本目……成る程、さっきのように何となく竜巻をイメージするよりやりやすい気がする。白銀という色も思ったよりしっくりと来る。


「ん」


 直後、異変が起こった。胸元に違和感を感じる。『不思議な力』が暴走するときの、『馬鹿力』が出てくるときの熱さだ。

 同時に、前髪が揺れてまぶたをくすぐる感触。まるで、本当に目の前で風が吹いている様な。


「何か、胸元が……。『馬鹿力』が出るときみたいな……」


 俺は自らに起きた異変について訴える。すぐにミアさんの返事が帰ってきた。


「目を開けて」


 俺はまた目を開いた。すると、先程瞼の裏の暗闇に投影していたイメージの様な竜巻が、実際に手のひらの上で巻き起こっていた。

 白銀色の帯を伴ったような小さな竜巻。神秘的な光景を目の当たりにした俺はミアさんに目線をずらす。


「これ……!」


 ミアさんは応えるように頷いた。少し、微笑んでいる。


「やっぱり、すぐに出来たね。もう目を閉じなくても大丈夫。今度は、その竜巻を、維持しながら小さくしていって」


「小さくって……」


「大丈夫、出来るから」


 ここまで来たんだ。何も言うまい。俺は手のひらで踊る風を凝縮するように想像する。ばらばらと自由に回っているだけだった白銀の帯が収縮していく。サッカーボールほどのの大きさだった竜巻は、今や野球ボールサイズまで縮こまっている。


「出来、た……」


 安堵した俺は不用意に意識を逸らす。その瞬間、凝縮されていた竜巻が一気に弾けたようになり、空気の波が押し寄せてきた。


「うわっ……と」


 驚いた俺は思わず傘を落として、左手で顔にかかる風圧を防ぐ。目の前のミアさんは風で飛ばされた帽子をすばやく捕まえて、再度かぶった。


「……出来たね。今の感覚を忘れなければ、もう暴走はしない」


「今の……」


 今教わったのは、おそらく、意図的な力の出し方と、制御の仕方だろう。水道の蛇口のひねり方とでも言うべきか。適当にぐりぐり右へ左へ回していた蛇口の正しいひねり方と、そのひねる量を教わったから、不用意に水浸しにはしないで済む。……別に理屈も何も知らないが、俺はとりあえずそう理解した。

 だとしたら、もう一度やり方をおさらいしておこう。蛇口のひねり方とひねる量をしっかり覚えるために。

 俺はもう一度、手のひらを出して竜巻をイメージする。今度はもっともっと小さく、だ。

 俺の想像に応えるように胸元がひりつき、ビー玉程度の大きさの竜巻が出てきて、イメージをやめるとすぐに消えた。


 俺は喉を鳴らす。


 こんなもの、中学生の頃に体験した不思議現象でも同じようなものは無かった。あの頃の体験に並ぶ……いや、下手をするとそれ以上の現象だ。


「……それが、輝の『力』の本当の形。もうこれで、大丈夫」


 彼女はそう言うと、俺に背を向けて東屋を出ていこうとする。


「あ、ちょっと! 他にも聞きたいことが――」


 俺は落とした傘を拾って追いかけようと手を伸ばした。しかし彼女は俺の静止を振り切って走っていく……どころのスピードではない、走るスピードが滅茶苦茶早い。

 まるで地面を蹴って跳んでいるようだ。ものの数秒で十メートル近く差を開けられている。


「――速っ!」


 俺は傘もささずに数歩東屋から飛び出て、それから一瞬考える。

 あんなもの、普通の少女の出せるスピードではない。でも、多分あの少女は普通じゃない。『不思議な力』について手ほどきをしてくれた少女だ。だったら、あの子も『不思議な力』の使い手だろう。

 そうであれば、同じく『不思議な力』を使える俺にも同じことが出来るはずだ。


「……イメージか」


 脳内で、俺が地面をぽんぽんと蹴って素早く走るところを想像して走り出す。

 しかし、踏み出した足は、ぱちゃぱちゃと情けない水音を鳴らしながら普通の速度で走り出したのみで何も変化はない。無論、今や半ば『不思議な力』センサーと化している胸元の熱さも感じられない。


「……イメージの方法が違うんだな……じゃあ」


 今度は、自分の脚力が強くなるイメージだ。『竜巻を出す』というものとは違うが、今までも『馬鹿力』を出していたりと身体能力を強化できていた前例があるのだから、この考え方は間違っていないはず。

 思った通り、すぐに胸元が熱くなった。


「おしっ」


 地面を蹴ると、今までの自分では考えられないような速度で周りの景色が動いた。

 予期せぬ風の抵抗の強さにおののいて姿勢を崩し、少し転びかけたが、コツを掴むとすぐに速度が出せるようになった。

 だが、そんな速さで駆けたのも束の間、遊歩道の出口まで来るとミアさんが待ち構えていた。


「……さすが、もうそこまで使えるんだ……」


 俺はミアさんの目の前までくると、水しぶきを彼女に引っ掛けてしまわないように注意を払いながら減速して足を止めた。

 胸元の熱さがなくなるのと同時に、全身を疲労感が襲ってくる。さっきの力の副作用のようなものかもしれない。やっぱり、あんまり身体に良くないのかも、と不安に思ってから彼女の腕を取った。


「待ってください、別に酷いことをするつもりじゃないんです。少し話を――」


 そこで俺は彼女越しに、黒い靄が遊歩道出口のベンチの周囲にまとわりついているのを見つける。


「――また、か」


 俺が『不思議な力』を使った後に時折現れる視界の靄。気味が悪いから、あまり愉快じゃないんだよなあ……。

 俺が苦い顔をした直後、ミアさんの表情にも驚きのようなものが見られ、彼女はそのまま後ろを振り向く。

 彼女の視線の先にも黒い靄があるのかもしれない。「見えるんですか?」と聞くと、俺に後頭部を向けたまま頷いてみせた。


「惹かれてきたのか?」


 彼女はそう呟く。『あれは、しばらくすれば消えるんですよ』。俺がそう言おうとした瞬間、彼女は「何するんだっ」と威嚇するように叫んでから俺の腕を振り払い、跳ぶようにして走り出した。


「待っ」


 彼女が向かった黒い靄。その靄が覆うものを見て俺は気がつく。あの靄が覆っているのはベンチじゃない。ベンチの横に置いてあるダンボール箱に靄がまとわりついている。


「やめろっ」


 彼女は靄に向かって飛び蹴りをかます。靄は一度霧散してから、彼女から距離を置くように中空に集まり始めた。

 ミアさんはダンボール箱の中から何かを取り出すと、その腕に抱き、中空に浮かぶ靄の塊を睨む。


「あ、猫……」


 彼女が抱いているのは猫だった。大きさからして子猫だろう。おそらく、捨て猫だ。ダンボール箱にはテンプレの如く『拾ってください』とでも書かれているのだろうか。こんな雨の日に捨てるなんて、胸糞悪い。


「見たこと無い、こんなの……!」


 ミアさんが睨む中空の靄。いつもならそのまま霧散して消えてしまうそれは、徐々に濃くなっていき、徐々に形を作り出していく。

 まだ、輪郭ははっきりしていないが、黒い人影のような姿に、鳥類のような羽。天使のような姿。

 ……ただそれは、天使という単語でイメージするような神々しいものではなく、禍々しい黒色だった。


「黒い、天使だ……」


 呟いた。直後、輪郭の無いその天使は――顔の表情もみえないほどに曖昧とした存在であるのだが――明確に俺を見た気がした。


「輝、逃げて!」


 子猫を抱えたミアさんの声が飛ぶ。同時に黒い天使が俺に向かってきていた。


「ひっ」


 息を飲んで後ずさる。少しでも距離をとろうと俺は夢中で両手を突き出す。それから、そのまま脚をもつれさせて後ろ向きに転んだ。黒い天使は俺の目の前まで来ていた。


「うおお……」


 しかし、何もしない。してこない。心臓がばくばくと跳ねる。

 目の前を黒い靄が覆っている。何者かの曖昧な顔が、俺を覗き込んでいる。

 靄の、口に当たる箇所がうごめいた。


「く、き」


「俺の、名前……!」


 尻餅をついた姿勢で目の前の天使の影から目をそらせずにいると、その天使はすぐにかき消されていった。いつの間にかミアさんが近くまで来ていて、蚊柱でも払うかのように俺の目の前の空間に向かって何度も蹴りを放っていた。


「輝っ! 大丈夫!」


「あ、ああ……」


 問いかけてくる彼女をよそに、俺は霧散した黒い靄がまた中空で天使の形になるのを見ていた。天使はまた向かってくるかと思いきや、そのぼんやりとした輪郭の腕を俺に向ける。

 ――指差し?

 その行動を、そう受け取った瞬間、天使はまた空気に溶けるように消えていく。今度はもうどこにもあの黒い靄は再集結していない。気配もない。


「た、助かった……」


 俺は安堵のため息をつく。雨の日に尻餅をついたせいでズボンが不愉快な濡れ方をしてしまっているが、それを気にするどころではなかった。

 得体の知れない黒い靄。

 それが何なのか、それにまとわりつかれることで何が起こるのかはわからないが、嫌な感じがしたのは事実。それに、さっき不思議な力の使い方を教えてくれたミアさんですらあんなに必死に追い払っていたんだ。何か強力なものなのだろう。

 あれにまとわりつかれていたらと思うと、考えるだけでも恐ろしい。


「輝」


 ミアさんが、あの黒い天使が消えていった空を睨んでいる。俺はいい加減立ち上がって、ミアさんの方に向き直った。彼女はどんよりとした空を睨みながら子猫を抱いていた。


「あんまり、その力は使わないようにして。それから、変なことがあったらボクに連絡して」


「あ、ああ。はい。それは、全然……」


 もとより、力が勝手に出てくることで困っていたんだ。使わないで済むならなんの問題もないし、本望だ。しかし、振り返って俺を見たミアさんの真剣な表情が俺の不安を招く。


「絶対だよ」


「……わかりました」


 あの力に何か問題があるのだろうか。あの天使を呼び寄せてしまうような。


 ミアさんは俺の不安などつゆ知らず、子猫を抱えたまま器用にメモとペンを取り出すと、俺に渡してくる。

 メモには下手くそな字で『針谷弥亜』という名前と、電話番号が書かれていた。

 雨で濡れてぐしゃぐしゃになってしまわないようにすぐにブレザーの内ポケットにしまうと、ミアさん――いや、弥亜さんは「またね、輝」と言って、子猫を抱えたまま歩いていってしまった。


 俺はその背中を呼び止めることが出来なかった。

 加茂山先生のことも、不思議な力についても、黒い天使についても、聞きたいことはある。そもそも、彼女が何者なのかということも。

 それでも呼び止めることが出来なかったのは、突然起こり始めた色々なことに俺の頭が混乱していて整理されていないからだけではない。何か常識の外の世界に自ら踏み込んでいくということに対して、勇気が出なかったからだ。


 今までもこういった奇妙な現象に出会ったことはある。でも、それは誰かに巻き込まれて遭遇したものばかりだったし、誰かがいたから乗り越えられたものだ。……一樹や、柏崎さんの様な誰かが。


「……そうだ」


 俺はふと思い当たる。

 この力は、記憶をなくしてから得たものだ。だとすれば、失った記憶にこの力の手がかりがあるに違いない。

 一樹に相談をしに行こう。なにか知っている風だった彼なら……いや、そうじゃなかったとしても、『こういうこと』は得意分野のはずだ。中学時代に嫌という程思い知っている。


「中学か……」


 俺は今更のように傘をさし、駅に向かって歩き始めた。


「それでも、全員揃っては、もう無理なんだよな……」


 つい、呟いてしまった言葉を口の中には戻せずに、俺はうつむいてしまった。そういえば『最後の日』もこんな雨の日だったな、と思い出しながら。

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