回想録(1)
深夜になっても電気のついていない暗い部屋がある。
都内にある安アパートの一階にある一室だ。アパート自体はリノベーションがなされていて、外観は近代的な見た目になっているが、配管などの所々に古い建築の名残が見えている。駅近の物件ではあるが、家賃は抑えられているのだろう。
そこへ一人の青年が現れた。
黒いジーンズに暗いグレーのシャツという目立たない格好の彼は、慣れた手付きでベランダに侵入し、鍵のかかっていない窓から部屋の中へと入っていく。
「散らかってんな……。ミアは来てないのか」
彼はぼやきながら部屋を見渡す。窓から差し込む月明かりに照らされた部屋にはコンビニのレジ袋や脱ぎっぱなしの衣服などが散乱しており、少なくとも、その部屋の住人がきれい好きだとは思えなような場所になっている。
青年はあるものに気がつく。つけっぱなしのデスクトップパソコン。部屋の片隅にあるデスクの上で、煌々と明かりを提供している。
「立ち上がったまんまだな……ん?」
青年はパソコンに近づいていき、開かれている画面を覗き込んだ。画面には文書作成ソフトとエクスプローラーが開かれていた。
「小説……? いや、日記……でもないな」
細かい日付が書かれているわけでもない。エクスプローラーには今開かれているのと同じ様なテキストファイルがいくつも並んでいた。最後の更新時刻は最近のものばかりだ。
しかし、開かれている文書には、過去のことが書かれている。
「回想録、みたいなもんか」
彼はデスクに座った。
「読んでみるか……。時間はまだ、大丈夫だろう」
彼は、その部屋の住人が明日の夜まで帰ってこないことを知っていた。
だからだろう。自分の目的を果たす前に、その『回想録』を読み始めようと思ったのだ。
「……一番上のファイルから、かな」
暗い部屋で、青年はモニターの文字を追い始めた。




