彼の居場所。
彼の居場所はここじゃなかった。彼は毎日誰かにイジメられていた。靴を隠されたり、悪口を言われたり、暴力を振るわれたり、彼が大切にしているものを奪われたり壊されたりしていた。みんなと同じように僕も彼の事をいじめていた時があった。すごく苦しかったけど、そうしないと今度は僕がいじめられるんじゃないかと思い、怖くてやめられなかった。僕は自分が嫌いになった。自分もみんなも、そして彼の事も嫌いだった。彼自身の事が嫌いなのではなく、この場所にいる彼が嫌いだった。彼を嫌いになりたくなかった僕は、「ここは君のいる場所じゃない」と彼に言った。
「でも、ここが僕の居場所なんだ」
「そんな訳ないじゃないか。君は毎日いじめられて、泣いているじゃないか。どうして毎日ここに来るんだよ。こんなに苦しい思いをして人生楽しいわけないじゃないか」僕が怒鳴りながら言うと、彼は泣いてしまった。
「だって、お母さんがここがあなたの居場所なんだって言って、僕を無理矢理連れて来させるんだ。」と彼は声を震わせながら言った。僕の頭の中は彼のお母さんに対する怒りでいっぱいだった。
「よしわかった。俺がお前のお母さんに言いにいってくる」と言って、彼の手を引っ張って外へ飛び出した。彼の家に着くと彼のお母さんが出てきた。僕はいきなり「あなたは彼の事を何もわかってない。彼はあの場所で苦しんだいるんだ。毎日イジメにあって辛い思いをしてるのにどうして無理矢理連れて来させるんだよ。あなたは間違っている。どうしてそれがわからないんだよ!」と大声でいった。彼のお母さんは、事実を理解して、泣いていた。大声で泣いているお母さんに彼は、「お母さん、僕本当はあの場所は僕の居場所じゃないんだ。だからもういきたくないよ」と言った。お母さんは彼に抱きついて「辛い思いをさせてごめんね。お母さんあなたのこと何もわかってなかった。本当にごめんね」と言った。僕は何も言わず去っていった。次の日、彼は僕のところにやってきた。
「昨日はありがとう、あれからお母さんと話して別の場所で生きていくことにしたよ」
「そうか、よかったな。あと、僕はきみに謝らないといけないことがあるんだ。みんなと一緒に君をイジメてごめん。僕は最低の人間だよ」
「そんなことないよ。君は僕をこの場所から出してくれたし、僕がもし逆の立場でも同じことをしていたと思うよ」
「ありがとう」
「それより僕は君のことが大好きだから、もしよかったら僕と一緒に来てほしいな」
「うれしいけど、それはできないんだ。今は、ここが僕の居場所なんだ」
「そうか、残念だな。また会えるかな?」
「もし、いろいろ自分の居場所を探してみて、見つからなかったら会いに来なよ。そしたら一緒に捜しに行こう」
「うん。そうするよ」
僕は彼と握手をして、彼がこの場所から去っていくのを見送った。