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8/16

何でも屋を始めるそうです。5


「やっぱり不思議だなぁ」


その後、エイシャに食糧の買い出しを手伝ってもらい、レティのいる森の中へユートたちは戻っていった。

深い霧が立ち込める森の中。ユートと歩幅を合わせて、エイシャが片手に買い込んだ食糧の袋を持ちながらユートをじっと見る。


「ユート、キミ本当にこの森に住んでるの?」


「う、うん」


気まずそうに頷いたユートをじーっと見つめること三秒程。


「天恵は発動しないかーやっぱり本当なんだろうけど」


「僕が嘘をついてるって思うのは仕方ないと思うけど、あからさますぎない?」


こんな森の中に住んでいるなんて普通は思わないだろうが、エイシャは他者への不信感を隠す素振りを見せない。どこまでも正直者な性格のようだ。


「だってさ、信じられないって。この森って『眠りの森』って呼ばれる危険な場所なんだよ。低ランクの冒険者はまず生き残れないだろうし、高ランクの冒険者でもちゃんと準備しないと命の危険があるぐらいめちゃくちゃ危険なの」


「エイシャ、全然準備してないよね?」


「あたしは大丈夫!『隠密』の天恵あるから、魔物を引き付けるような動きをしない限り隠れられるし。もちろん一緒にいるユートにも私の天恵の力を分けられるからね」


「天恵の力を分けられるって……」


もしやと思いステータス板を開く。

存在する天恵欄の一番下に、赤い文字で新たな天恵が浮かんでいる。


天恵:『隠密』(広域)

所持:エイシャ・エーレ

敵対者のヘイト値減少に補正を得る。

(敵対者へ攻撃を行った場合、ボーナスは無効化される)


その文章に、ユートが失笑する。


(パーティボーナスってことか)


なんというか、本当にRPGに準拠しているような異世界だ。横を歩くエイシャは何かぶつぶつと考え事をしているようで、顎に手を置いたまま心ここにあらずと言った感じだった。


(ちょっと悪い気もするけど……)


エイシャを視認しながら、ユートは小さく『チェック』と呟く。

『観察眼』の天恵が発動し、視界先にいるエイシャのステータスが開かれる。


【名前】エイシャ・エーレ

【称号】偵察者 (スカウト)

【種族】人間

【ステータス】

HP:256

MP:50

STR:35

INT:12

VIT:23

DEX:60

AGI:82

【天恵】

隠密

情報収集

洞察力

風ノ足音


「僕のステータスどうなってんの」


「ん?なんか言った?」


「いいいいやいやなんでも!」


あはは、と引きつった笑みを浮かべてステータス板をさっと消す。

エイシャのステータスと自分のステータスを見ると、その違いは明確だった。まずステータス数値がゾウとアリを見比べるような有様だ。

そして、天恵数もユートが圧倒的に上回っていた。

エイシャがこの世界基準で強い方なのか、弱いほうなのかは不明だが、魔術師で十二歳ぐらいの子供という立場の自分が、エイシャの力を軽々と追い越している。


(これ、普通の人のステータスも見れないかな)


先程消してしまったステータス板をエイシャにバレないようにもう一度開いて、天恵を確認する。



隠密

パッシブ:技術・特殊

Lv31

他者の視界から逃れ、気配を断つ技能。

周囲の環境を利用し、自身の気配を消し去る。

ヘイト値減少+

ヘイト値減少効果は天恵Lvに依存する。



情報収集

Lv27

アクティブ:知識・特殊

必要な情報を得る技量。

周囲の環境情報から自らが望むものだけを抜き出し、戦闘知識に還元する。

非戦闘:成功率+

戦闘:成功率+、急所率+

成功率、急所率は天恵Lvに依存する。



洞察力

Lv43

パッシブ:知識・特殊

固有:偵察者(スカウト)

相手の虚言を見破る力。

嘘を見極め、正しい情報を収集する。

成功率+

成功率は天恵Lvに依存する。

(対象が自身よりも強い場合、成功率が大きく下がる)



風ノ足音

Lv46

パッシブ:特殊

固有:偵察者(スカウト)

素早く移動を行う技術。

訓練された足運びで疾走し、地形の阻害効果を打ち消す。

地形効果:無効

移動速度+

移動速度は天恵Lvに依存する。


(『洞察力』……これが嘘を見破る天恵か)


天恵効果を確認して、なるほどと納得する。『洞察力』の天恵は自身より強い存在には発動率が大きく下がると書いてある。

見た目から判断して、エイシャがユートを「自身よりも弱い存在」だと思い込んでいるために、『洞察力』の効果が失敗していると気付いていないのだ。


(効果基準が、全体的な基準じゃなくて個人的な基準っていうのは面白いな。普通のRPGならそんな風にいかないだろうし)


この世界は、あらゆるシステムが人間の感覚によって左右される、RPGのような『現実世界』だということだ。

……と考えたユートだったが、『全能ノ気』といい『第六感』といい、自分で全くコントロールできない天恵もある。


―――よくよく考えてみれば、自分の天恵って『バグ』のようなものなのではないだろうか。


「ねえユート。キミが住んでる家って、もしかしてあれのこと?」


「―――え?」


そこでエイシャが話しかけてきた。指を差した先を見て、


「!?!?!?」


びっくりしすぎてユートの声が裏返った。

出かける前は廃墟同然の家屋が、立派な一豪邸へと変わっていたのだから。

曲がりくねった大木にゆるやかな階段がかけられており、その木の上にバルコニー付きの家がどかっと置かれている。


「すごいね、木の上に家を建てるなんて思いつかないよ。魔物も多いし、ああしとけば危険も減るから?」


「そ、そうだね。ちょっと大変だったんダヨネー」


ははは、と冷や汗をかきながらぎこちなく階段を上る。


(どうやったらこんな家作れんの……掃除だって言ってたじゃん)


自分の中の「掃除」の定義が間違っているのではないかと不安になる。上まで登って扉を開けると、その内装にまた驚愕することになる。

ふわふわの赤い絨毯に、二人用のソファと優美な机。脇には立派なキッチン、壁には何か獣の剥製が置かれており、立派な屋敷の内装がユートの目を突き刺してくる。


(写真でしか見たことないよこんな部屋)


ごくり、と唾を呑んだユートに対して、エイシャはと感心したような声を上げた。


「ユート!帰ってきたのだな!」


と、奥に続く通路の先から、レティがひょっこりと姿を現した。そこでまた驚いたのが、レティの容姿だ。

簡単に言うと、光の加減で紅く見える髪から生えていた角がなくなっている(・・・・・・・・・)

ぱたぱたとユートに近寄ったレティはそこで、横にいる少女を見てにっこりと笑った。


「ユートとは違う人の気配を感じたから誰かと思ったが……」


「うん、この人は―――」


「いきなりがーるふれんどなる者を連れて来られても反応に困る!」


「色々言いたいことあるのに先手打たれた僕の気持ち分かる?ねぇ分かる?」


「う、うむ?なんだ、反抗期か?いくらなんでも早すぎでは……」


ぐぬぬ、と渋面になるレティにユートが冷たい目を向ける。


―――もう色々とツッコみたいのに、更にボケをかましてくるからどうしようもない気がする。


「……もういいよ。この人はエイシャさん。危ないところを助けてくれたんだ」


「危ないところ?」


きょとんとした顔で、レティが目の前に立っている少女をじっと見つめた。

エイシャは照れくさそうに頬を掻く。


「あたし、エイシャ・エーレっての。あなたの弟さんが悪漢に追われてたから助けたんだ。この森に入るっていうから心配で一緒についてきたんだけど、問題なかったね」


そこで、レティが頭の上に更に「?」を浮かべる。


「弟?ユートは私の弟では―――」


「おっとぉ!忘れてた!レティ、そろそろお腹空いてない?エイシャもさ、ここまで来といてただで帰ってもらうのも失礼だし、一緒にご飯なんてどうかな!?ね!?どうかな!?」


「ど、どうしたユート。いきなり大声をあげるからびっくりしたぞ」


「ね、ほら、食糧も買ってきたしさ、お昼はエイシャもね、いいよね!?ね!?」


突然の大声と、食い気味で昼食の提案をするユートに、レティとエイシャがたじろいだ。

レティの弟という設定にしているのに、本人がいきなりその嘘に食いつくなんて冷や汗ものだ。

本当の正体は魔王で、ユートはその協力者。バレたら何が起こるか想像したくなかった。

そんなユートの気迫に、エイシャが苦笑しながら手に持っていた袋を近くにあった机の上に置いた。


「す、すっごい迫力だね……まあ、そんなに言うんなら、お言葉に甘えさせてもらおっかな」


「確かに、そろそろ昼食の時間だったな」


そこで、レティが固まった。ユートに近づいて耳打ちする。


「ユート、ユート」


「なに、どうしたの?」


「私はな、料理ができん!」


どやぁ、とした顔のレティに、ユートはでしょうね、と嘆息する。


「まあ、大体そうだろうとは思ったよ。……封印される前はご飯ってどうしてたの?」


配下(かぞく)の中に料理が得意な者がいたのだ」


「つまり、他人任せだったと」


―――なんかこう、ニートの我が子に料理を作る母親みたいな。


と、そこまで考えてほろりと泣きそうになった。自分も元々そういう立場だったことを思い出して目頭が熱くなる。

机に置かれた食糧の袋を漁りながら、何を作るか思考を巡らせる。


「いいよ、僕が作るからさ。レティとエイシャはそこで待ってて」


「え、キミって料理できるの?」


「まあ、そこまで期待しないでね。家庭料理ばっかりだし」


―――っていうか、この世界の人間は日本の料理が口にあうのか?


一瞬だけ思案。話題をそらしたことには成功したので、料理の良し悪しは別にどうでも良いことにする。


「あのキッチン使っていいよね?」


ユートの提案に、レティはうむ、と頷いた。

指さした先にあるのは、日本にもあるような一般的なキッチンだ。コンロのようなもの、棚にはまな板やら包丁やらが収納されており、明らかにこの世界の文明の基準を逸脱している。


(この世界の基準を知りたいんだけど、後で色々と確認しないとなぁ……)


後ろを振り返るとエイシャと話し込んでいるレティの姿。

ふぅ、と息を吐いて、ユートは早速料理を開始した。


数十分後、机の上に並べられた料理に、レティとエイシャが目を丸くする。

日本の家庭料理である肉じゃが、ハンバーグ、野菜の盛り合わせもあり、ユートがオリジナルで作った柑橘系のドレッシングがかけられている。

米に類似する穀物もあったが、日本の米と比べて甘みが強い。水さらすと旨味が強く出る魚も存在したので、炊き込みご飯も調理済みだ。

そして定番の味噌汁……は、味噌に類似する調味料が存在しなかったため作れず、コンソメスープの皿が湯気を立てていた。

ほかほかと湯気を立てる料理の数々に、エプロン姿の少年を見ながらレティとエイシャが固まっていた。


「こ、これ全部ユートが?」


「口に合えば良いんだけど、無理しないで残してもらっていいからね」


恐る恐る、といった表情で一口。瞬間、ほっこり顔になった二人に安堵して、ユートも食事を開始した。


(やっぱり食材の持ち味は違うけど、これはこれで……)


一人暮らしであったユートの料理スキルは、並の人間以上のものとなっていた。下手をすれば店の料理に出せるような一品なのだが、本人がそれに気付いていないため才能の持ち腐れとなっている。

数分後、食事をしながら会話をしていたエイシャが驚き声を発する。


「あの道具屋で宝石を課金したぁ!?そ、それ本当!?」


「近くに目ぼしい店がなかったから、仕方なく……」


「あの店、評判悪いんだよー。貴族たちには媚びへつらうわ、客次第で接客の態度も違うわ、もう真っ黒。裏の仕事も手伝ってるって噂があってさ。よく換金して貰えたね……」


「う、運が良かったみたい……ははは」


本当は『全能ノ気』の天恵で強盗紛いのことをしてしまったのですが。


「そんなことがあったとはな……私もユートと一緒に街に行けば良かったか」


「というか、なんで森の奥に家を建てたの?レティシアさん、見れば結構若いよね?どうしてこんな場所に住み始めたの?」


げ、とユートが固まる。ここで妙なことを言えば、レティの素性がバレてしまう。

固唾を呑んでユートが見守るなか、レティはドヤ顔。


「なんでも屋をやるにあたって、自分たちは謎の存在でなければな!」


「秘密結社じゃないんだから……」


ユートの呆れ声。

なんでも屋の定義がどんどん崩壊していく。そもそも、こんな森の中になんでも屋を開いても、客なんて絶対に来ない。


「なんでも屋……それってさ、ここで店開くんだよね?」


「うむ、ちょっとした隠れ家的な店にしたいと思っている」


「ふむふむ……そっか……」


サラダにフォークを突っ込みながら、エイシャは何か悩んでいるようだった。

そして。


「ね、レティシアさん。あたしもその仕事、手伝わせて貰えないかな?」


きらきらとした顔で、レティに提案を持ちかけた。ぎょっとするユートを尻目に、レティは腕組みをする。


「む、というと?」


「この店ってさ、つまり選ばれた人じゃないと来られないっていうスタンスでしょ?それなら、ちょっといい考えがあるんだよねー」


「ほう……」


そこで、エイシャがレティとユートにその考えを説明する。

一通り聞いた後、レティは満足げに立ち上がった。


「なるほど、実に面白い!その話乗ったぞ、エイシャ!」


「よし、交渉成立ね!じゃあ、給料の話なんだけど―――」


一人、ぽかんとした表情で立ち竦むユートは、エイシャからの説明に冷や汗だらだらである。


(……やるしかないよね、もう)


「―――うむ、それで良い。それではこれからよろしく頼むぞ、エイシャ。私のことはレティと呼んでくれ」


「こちらこそよろしく、レティ!」


ぐっ、と握手をする二人。ユートはその光景をただただ見守ることしかできない。

と、エイシャがユートへと顔を向ける。


「じゃ、ちょっと行ってくる!キミにも仕事あるんだからしっかりね!」


「拒否権すらないのもあれだけど……レティが満足ならそれでいいよ」


ごちそうさまでした、と一声出して、家から飛び出していった。

そんな光景を見て、レティはユートの脇に手を入れて自分の膝の上に乗せる。


「むふふふ、楽しくなってきたな、ユート!良い人材と出会えて私は嬉しいぞ!」


「……」


もうどうにでもなれ、とユートはただただ嘆息するしかできなかった。



次から本格的に物語が始まります。更新が停滞していて申し訳ありません。

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