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【悲報】転生しました。2


「出たぞ!!魔王だ!!」


城門前にいた兵士の一人が、ユートを指差して声を上げた。ひぃっ、という声をなんとか押し込んで、ユートはバルコニー前にガクガクと立ち上がる。

が、その風体を見て、兵士たちにどよめきを起こった。


「子供……?」


「魔王の城から子供だと?」


「なんだ、一体どうなっている?」


現れた存在が予想外すぎたのか、兵士たちが口々に困惑の声を上げていた。


「あ、あのおおおお!!ちょっとお話というかぁ……」


「―――いや、待て。もしや君は、魔王に誘拐されたのではないか!」


「……へ?」


なんだって、とか、人間の子供を人質に、とか、哀れみと怒りの声がユートの耳に聞こえてくる。


……あれ、もしかしてこれはチャンスでは?


魔王なんていう危険人物の傍にいるよりは、ここで投降して、自分の安全を第一に考えたほうが、という思考の中に、護衛任務という役割が介入してきて上手く思考することができない。


「なんたる愚行!なんたる卑劣!魔王め、人の子を攫うとは!!」


「いくぞ、者共!あの少年を助けるために、今こそ正義を振りかざすのだ!!」


おおおおおおっ!!と、鬨の声を上げた兵士たちが、城門を壊そうと破城槌の準備をし始めた。

のだが。


『待て待て待てええええええええい!!貴様ら、私を何だと思っている!?』


ボッ!!と、火が燃え盛るような音が聞こえた。ユートが恐る恐るそちらを向くと、なんと黒い炎が城の前に浮かんでいる。見ると、それは凶悪な表情をした人の顔に見えた。


『いいか、貴様ら、よく訊け!!お前たちの前にいるのは、私が誘拐した人の子などではない!というかなんだそれは!このご時世はそんなに緩いのか!?私が封印される前は、子供の誘拐のみならず一言声をかけただけで事案ものだったぞ!?時代頑張り過ぎだろう!!ちょっと羨ましいわ!!』


なにやら羨望に満ちている。後半欲望ダダ漏れである。


「っていうかそれを魔王が言うのね……」


『ええい、人間の兵たちよ、お前たちの前に現れたこの少年は、私の右腕とも呼べる強大な力を宿した魔術の王よ!!私の力ほどではないが、お前たちを一瞬で薙ぎ払うなど造作もない!蟻を踏み潰すが如くだ!!私に刃向かうというのならば、まずはその少年を倒してみるのだな!!ワハハハハハハハッ!!』


「ちょっ……!!何勝手に煽ってんの!?やめて!!痛いの嫌だからやめてッ!!」


後ろを振り向いてみると、こちらにガッツポーズを向けるレティの姿。


「なんたることだ……危うく騙されるところであった!!弓兵、矢を番えよ!!」


「ってなんでそうなるの!?ちょっとは魔王疑おうよ!?もしかしたら本当に誘拐した子供かもしれないでしょ!?ねぇ!?」


「問答無用!!弓兵!!放てッ!!」


「聞く耳持たずってなんなの!?なんで僕の周り、人の話聞かないの!?」


揃いに揃った弓兵の矢が、ユートへと降り注ぐ。

天空を蹂躙する弓矢が、ユートの視界に映り込む。


―――あ、これ死んだわ。確実に死んだわ。


諦めモードに移行したユートの思考は、ただその場で立ち竦むという選択肢しか選べなかった。

突き刺さる矢の音。風を切る無数の弓矢。ユートはぐっと目を閉じて、襲い来る激痛と死を待った。

……が、どれだけ待っても痛みは訪れない。

ゆっくりと目を開けてみると、バルコニーに突き刺さる無数の弓矢が視界を蹂躙している。だが、まるで自分を避けるように一本もユートを突き刺していない。


「……どうなってんのこれ?」


と、そこで、自分の視界の左端に、妙な言葉が出てきたのが分かった。そこに視線を移動させて、ゆっくりと読みあげる。


天恵「見切り」発動。

天恵「残影ノ衣」発動。


「天恵発動って?……え?」


急いで自分のステータス情報を可視化する半透明の板を出現させて、天恵欄にある二つのスキル名を指で突いてみる。

すると。


見切り

パッシブ:近接・回避

Lv1000

卓越した体の動きで攻撃を回避する。回避率+。

回避率は天恵Lvに依存する。

-この天恵はマスターしています-


残影ノ衣

パッシブ:魔術・回避

Lv1000

闇の精霊の加護。敵対者の認識を阻害する。回避率+。

回避率は天恵Lvに依存する。

-この天恵はマスターしています-


「回避率プラスって……えーと?」


つまり、この二つの天恵のおかげで、自分に弓矢が当たらなかったという認識で良いのだろうか。

城門前を見ると、驚愕でわなわなと震えている兵士の姿が見えた。


「そ、そんなバカなッ!!あれだけの矢を浴びせたというのに無傷だと!?」


ざわざわ、と怖れるようにこちらを見る兵士たちに、ユートは冷や汗をかいた。


―――生きた心地しなかったんですが。


普通ならあんなこと体験したくない。心の声を自分の内にしまって、ユートは後ろで佇んでいるレティに目を向ける。


「ユート、ユート。早く反撃しなければまた弓矢が飛んで来るぞ」


「いや、そうだけど……僕って何か使えたりするの?」


「何を言っている。魔法があるだろう。そうだな……お前の力だと、ファイアーボールで十分だろう」


「それって……あのRPGとかで魔法使いが一番最初に覚えるアレのこと?」


「む?あーるぴーじーというのが何かは分からんが……まあ人間が使う初級の魔法なのは確かだな。ほら、ユート。一発御見舞してやれ」


「え、えぇー……」


うーむ、と考える。

―――そもそも、魔法ってどういう風に使うんだろう。感覚的なものだろうか。


何か神様に祈ったりとか?と思案しながら、ユートはよくある方法で魔法を試してみることにした。

指先を突き出して、兵士たちへ向ける。


「……じゃあ、《ファイアーボール》?」


その言葉と同時だった。


天恵「全能ノ気」発動。

天恵「鋭キ刃」発動。

天恵「精霊王ノ加護」発動。

天恵「詠唱破棄」発動。


視界の左下に映る天恵発動のログのようなもの。そして、魔法による異変が発生する。

ユートの指先に螺旋状に火の粉が集ったかと思うと、それは拳大の火球へと変化した。その火球は指先を離れると、まるで投擲された野球のボールのように一直線に兵士たちへ飛んでいく。


その中間、拳大の火球が、空気に反応するように肥大化した。

兵士全てを覆い尽くすような巨大な火球へと姿を変えて、火炎の雨となって降り注ぐ。


「ま、魔術障壁を展開しろッ!!!」


恐怖と絶叫。兵士たちの悲鳴が響き渡る。

阿鼻叫喚の様体に、ユートはただポカンとその状況を眺めることしかできない。


「おお、ファイアーボールなどという初級の魔法でもこの威力か。流石は元素の支配者(エレメントマスター)。とんでもない魔法だ」


「い、いやいやいやいやなんなのこれ本当に!?天恵欄見ないと……!!」


急いで自分のパラメータ板を広げて、天恵の情報を確認する。


全能ノ気

パッシブ:魔術・オーラ

Lv1000

魔術を知り尽くす者のオーラは、弱者を恐怖に陥れる。敵対者に「恐怖」を付与する。

「恐怖」の付与時間は天恵Lvに依存する。

-この天恵はマスターしています-


鋭キ刃

パッシブ:特殊・強化

Lv1(この天恵にLvはありません)

磨かれた技はより鋭く敵を討つ。使用する技能:「近接」「魔術」「特殊」の効果を+1。


精霊王ノ加護

パッシブ:魔術・強化

Lv1000

精霊王に認められた者に贈られる聖印の加護。僅かな魔力で奇跡を成し、悪意ある魔術を打ち払う。

魔力消費量-、魔術抵抗力+。

魔力消費量、魔術抵抗力は天恵Lvに依存する。

-この天恵はマスターしています-


詠唱破棄

パッシブ:魔術・強化

Lv1000

魔術の極意を識るものに与えられる魔術技能。短い時間で魔術を具現化する。

詠唱速度-。

詠唱速度は、天恵Lvに依存する。

-この天恵はマスターしています-


「ヤバいことしか書かれてないんだけど!?」


全能ノ気という天恵によって兵士たちに恐怖を植え付け……鋭キ刃という天恵はつまり、魔術の効果をワンランク上げる効果を持っているようだ。

そして精霊王ノ加護、詠唱破棄という天恵のおかげで、魔法を使う時に使用する魔力と詠唱時間を短縮することができるようだった。

と、そこで暗黒の炎が形を成し、悪魔のような表情で兵士たちを嘲笑った。


『どうだ、愚かなる人間どもよ!!これが私の側近、魔術王の力だ!!これ以上傷つきたくなければ、早々に逃げ帰るが良い!!』


「クッ……!?……撤退ッ!!撤退だッ!!逃げろおおおおおおおおおおおおおッッ!!」


耳を劈く悲鳴ような声。

その言葉に、兵士たちは散り散りになって逃げていった。


しばしの静寂の後、ユートはそのまま茫然と突っ立っていることしかできなかった。


「こ、これは……勝ったの……かな?」


「ユートぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


「いっ!?ち、ちょ……待っ!!」


後ろから抱きついてきたレティの胸に包まれて、そのまま拘束される。


「よくやった、ユート!お前は最高の配下(かぞく)だ!!」


「か、家族って……」


「だってそうだろう!私がお前を生んだのだ!私がお前を召喚したのだ!私たちは配下(かぞく)も同然ではないか!」


「う、うーん……そういうことになるのかな。あの、そろそろ抱きつくのやめて……」


「なんだ、恥ずかしがらなくても良いのだぞ?むふふ、やはり、配下(かぞく)が増えるのは良いものだな!」


そう言うと、レティはユートの頭から手を離すと、今度はユートの手を握った。


「この城は守られた!あの兵士たちが来るのはまた今度になるだろうな」


「それなら良いんだけど……いずれまた来ちゃうと思うよ?」


「そうだな、それはそうだろう。だから私は必死に考えた。そして、つい先程結論が出たのだ」


「それ全然考えてなくない?」


行き当たりばったり感が半端じゃ無いんだよなぁ、とユートが頭を抱える。

にんまりと笑ったレティは、玉座に座ってこう言った。


「人間の領域で何でも屋をやろう、ユート!!」


「どうしてそうなるの!?」


いや、訳がわからない。


「?なんだ、ユートは嬉しくないのだな……少しがっかりだ」


「そうじゃなくて何でも屋っていう発想に至るのが全然理解できないんだけど!?」


「だってこの城にいてもつまらないから」


「そんな理由!?」


「善は急げというだろう!ユート!!もう目当ての場所は見つけてあるのだ!今すぐにでも行こう!さあ行こう!!転移魔法なら心配するな!玉座の裏にある隠し通路の先に一度だけ使える転移の魔法陣があるからな!」


「わ、分かったからさ!その前に色々準備しようよ!?食糧とかどうするんだろう……」


「気にするな、どうにかなる!」


「どうにかならないから言ってるんだけど!?」


楽天家にも程がある。

レティのきらきらとした表情に、ユートはため息をついた。


……まあ、自分ができることは限られているとは思うが、後で自分の天恵について確認しておこう。後は魔法についても学ばないといけないかな。


これから、色々と大変そうなことが起こるだろうという予感が背筋を伝う。


―――もうちょっと、この現実離れした状況を理解していきたいんだけどなぁ。


二度目のため息が、ユートの口からこぼれ落ちた。


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