【悲報】転生しました。
眠気の残る意識が、ゆっくりと覚醒する。
地面から伝わる冷たい感覚に、目を瞬かせた。
霞の残る眼を擦り、地面を認識する。目の前に広がる石畳の床、横を見ると、赤い垂れ幕が石の壁面を覆っていた。
―――あれ、ここってどこだ?
暗闇の中にいた記憶はあったが、誰かと話して……転生して誰かを護衛する役割を背負わされた?
護衛、という自分に課せられた使命だけは覚えている。
だが、それを誰から言われたのか、思い出すことが出来ない。
記憶の奥深くにしまい込まれて幾重にも鍵をかけられてしまったような嫌な感覚だった。
「っていうか、本当に転生したのか?ここってどこだ……っ!?うぇ、なんだ声が……」
自分の口から出る高い声に、不快感を覚える。自分の声ではない誰かが話しているような気分だ。
すると、
「……ふむ、我ながら上手く造れたな」
高いながらも、よく通る静かな声が聞こえた。
そちらへと顔を向けると、黒い立派なローブを羽織った女性がこちら見下ろしていた。
赤を主張とした、体のラインが浮き彫りになる服装だ。
豊かな胸元と白い太股が顕わになっており、視線をどこに向けていいか悩みどころだ。
肌は白磁のように白く透き通り、くっきりとした目元と金色に輝く神秘の瞳。桜色の唇。床に付きそうな長い髪をうなじ辺りで三つ編みにして結っている。
恐ろしいほどまでに、美しい少女だった。顔の造りそのものが完成された美術品のような、現実感のない美しさだ。
その中で目立ったのは、頭の左右から突き出ている二本の黒い角だ。そこから本当に生えているかのようだった。
「……コスプレ?」
そうだ。コミケとか、アニメイベントによくいるコスプレイヤーのようだった。
しかし、コスプレイヤーでは醸し出せないような雰囲気をこの少女は纏っている。
「よしよし、お前、私のことが分かるな?さあ、立ち上がるのだ」
なんとも古風な言い回しを聞いて不思議に思う。
あまりに唐突な状況に理解が追いつかず、そのまま呆然と座ることしかできない。
「おかしいな、魔法が失敗したか?魔法人形を造り出す魔法など久々だったから、どこかで式の間違いが……」
ブツブツといいながら、その少女は親指と人差し指を開くような動作を行う。
すると、その手から、半透明な板のようなものがいきなり出現した。
「あ、あの……どちら様?っていうかここ何処……」
「む、お前、自分の意思があるのか?独立思考型の『魔法人形』など聞いたことがないが」
どれどれ、と右手を優斗の額に置く。顔がぐっと近くなって、どきりと心臓が跳ねた。
……悲しき哉、女性経験のなさを。
んむ、と悩みの含んだ声を出して、新たに出現した半透明の板にある文章か何かを読んでいるようだった。
……あれそういえば、あの暗闇の中で、最初に会った人物を護衛しろみたいなことを言われた記憶がある。
もしかして、この女の子を護衛しろということなのか?
半透明の板を確認していた少女の動きがピタリ、と止まった。
「……種族『人間』?『魔法人形』ではなく……人間」
驚いたように優斗をじっと見つめた。
そこで、優斗は違和感を覚える。
やけに、少女の手が大きい気がする。額に乗っている少女の手は、自分の頭より更に大きいような錯覚。普通なら、こんなに……
そこまで考えて、優斗は自分の両手を見つめた。
「え……手が小さい……?」
見ると、自分の両手の大きさが、大人のそれではなかった。
まるで子鹿のように細い腕が視界に入っている。そして全身を見渡して………
「……」
自分が何も着ていない、生まれたばかりの姿であることを理解した。
「お前、にんげ――――」
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!?」
「ど、どうした!?いきなりなんだ!?」
「なんで!?なんで全裸なの!?うわああああああああああ全部小さくなってる!?手も足も……ムスコもおおおおおおおおおおおお!!!」
何!?何がどうなってる!?いやいやいやいやいやいやいやいやいやおかしいおかしいおかしいおかしい。
おかしいでしょ。おかしい。
なんで全裸なの!?なんで体が小さくなってんの!?
「鏡!」
「ん、な、なんだ?」
「いいから鏡!どこ!?鏡どこ!?」
「か、鏡ならそこにあるぞ?」
狼狽える少女に目もくれず、優斗は慌てて鏡の前へダッシュした。全身が小さくなっているため、鏡までやけに遠く感じる。
壁に飾られた楕円形の巨大な鏡の前に立つと、自らの状況を無慈悲に伝えてくる。
それはもうただの子供だった。
まるで、思考だけが自分で、他人の体を動かしているようだった。顔形もかつての気の抜けた顔ではなく、子供の割に目元はくっきりとしていて鼻も高い。頬の線から丸みがなくなり、徐々に大人へと変わっていく、その中間にあるようだった。
頭髪は前と同様に黒髪だったが、目元まで届く黒髪に、若干のクセがある。
見た目、誰だお前と言いたくなるような美少年っぷりである。
「誰……コイツ誰……」
鏡に両手を付けたまま、優斗は涙目になりながら絶句した。
どうしてこんなことになった。あの闇の空間で転生のことを教えられた気がするが、それに至るための枝葉が頭の中で折れてしまっている。
忘却の彼方だ。
「お、おい、大丈夫か?私の術式の失敗で頭がおかしくなってしまったなど、こちらとしても心が痛むぞ?」
後ろから歩み寄ってくる少女は、決まりの悪そうな顔をしている。
「……君、誰?」
っていうか誰だ。ここはどこだ。なんで僕は裸なんだ。なんで子供になっている。
聞きたいことがたくさんありすぎて、どこから聞けばいいか分からない。
問いた言葉に、優斗の前でふふんと腰に手を当てる。
「私はな、お前の主、魔王レティシアだ。レティシア・ノイン・ヴィリアーズ。どうだ、驚いただろう?人間から災禍の魔王と呼ばれた、それはもうとてつもなくすごい魔王なのだ!」
「へー……」
「は、反応が薄くないか?なんだその哀れみの目は……」
魔王。魔王ねぇ……。コスプレ趣味を持っているだろう少女から出た言葉が魔王ときた。
「早く卒業することをオススメするよ。今ならまだ間に合う」
「ど、どういう意味だ!?なぜそんなに悲しそうな目で私を見るのだ!?」
優斗にそう言われたレティシアは涙目になりながら猛抗議している。
いやまあ、まさか僕よりも深刻な人間がいるとはなぁ……。
中学生のときに右目を怪我したことにして白いガーゼを貼って「この片目が疼き始めてな……」なんてやってた自分よりも重い症状だとは。
レティシアはその後落ち着いて、納得いかなそうに指先に光を灯した。
そこから、中空に光の文字を記していく。
それを見た優斗は、ぐっと身を強張らせた。
え……?ま、魔法ほんもの?
と、迸った光の奔流が優斗の体に纏わり付くと、なんと服装へと変性していく。
たった数秒の間に、少女と同じ黒のローブと、青を主張とした修道服に似た服が生成されたのだ。自分の身に起こった変化に唖然としながらも、ローブの下にある服装を確認する。
やけに下半身がスースーすると思ったら、上着は長袖なのに、下はショートパンツだ。
「とりあえず、裸では何かと問題があるだろう。服はそれでいいか」
「……ショートパンツを長ズボンに変えて頂くことは……」
「却下」
「なんで!?」
「そっちの方がかわいいからだ!かわいいは正義!正義は揺らがないのだ!」
「力説やめて!恥ずかしいから長ズボンに変えてくださいッ!」
「さて……お前には色々確認したことがある」
「スルーなんですねッ!聞く耳持たないんですねッ……!」
子供の姿になっているのも恥ずかしいのに、ハーフパンツ姿とかどこの夏の小学生だよ。
めちゃくちゃ恥ずかしすぎる。
膝がすーすーして落ち着かない。
レティシアと名乗った少女は、大広間にあった玉座に腰を下ろして、目の前に立つ優斗に
「お前、『魔法人形』ではなく、『人間』なのだな?」
疑わしそうに目を細めて言った。
魔法人形ってなんだ。いや、言われなくても……人間だろう。
「えっと、君の言う『魔法人形』が何かは知らないけど、僕は人間だよ」
自分の高い声に違和感を持ちながら、優斗はレティシアから問いに答える。
それを聞いたレティシアは、椅子の肘掛けにしなだれかかりながら、ぼそぼそとなにか呟いている。
「お前……私に召喚された、人間、なのだな?」
「し、召喚?」
「先ほど、私が魔法陣を敷いて『人形創造』の魔法を行ったのだ。そうしたら、お前が生まれた。正直、こんなことは初めてで少し混乱していてな」
レティシアが顎をくいっと動かした。後ろを振り向くと、石畳の床に、幾何学模様の魔法陣のようなものが、赤い線で刻まれている。
あそこから、自分は生まれてきたのか。
……まさか、魔法が存在する世界に生まれ変わったというのか。
確かに、レティシアが使った謎の力は、まさに魔法だった。それも、シンデレラとかの童話に登場するアレみたいな。
「転移魔法はもっと高度な術式で魔力消費も尋常ではないからあり得ないし、人間創造の魔法も聞いたことがない……一体どういうことだ……」
ぼそぼそと小さく呟く少女に、優斗は頭を掻いた。と、そこでまた思い出す。
そうだ、そういえば、あの暗闇で話した誰かから、転生したらこの少女の護衛をするように頼まれたのだった。
………誰かは忘れてしまったが。
「えーと……ボクは、君の護衛になるためにここに来た記憶があるんだけど?」
恐る恐る、話を切り出してみる。
転生した、など信じて貰えるなんて思っていない。口下手すぎる自分では、そう説明するのが精一杯だった。
「……なるほど。護衛という主従契約……私の護衛役か……」
ぼそぼそと呟いていたレティシアは、なぜかゆっくりとその表情が嬉しそうに緩んでいく。
「護衛……私の護衛……そうか、ふふふ……」
「れ、レティシアさん……?」
なんだ、突然表情を緩ませて、ニマニマと笑っている。
すると、レティシアは玉座から立ち上がって、優斗に近づいてくる。
そして、いきなりギュッと抱きついてきた。
「むごッ!な、なにを……ッ!!」
「そうか、私の護衛か!そうかそうか、私を護ってくれるのか!ふふ、ふふふふ……!」
息ができな……ッ!っていうか柔らかいしいい匂いが……ッ!?
豊かな双丘に顔を埋めて、優斗は真っ赤になりながら抵抗する。
やっと拘束が解けたと思ったら、レティシアは優斗の両脇に手をかけてそのまま持ち上げた。
「そうだ!キミには名を与えなければな!なんという名前がいいか……」
うーむ、とまた考えこむ素振りを見せる。
まるでペットにでも名前をつけるような勢いだ。
……っていうか、話を聞いてくれないな。
「レオパルドはどうだ」
「却下で」
「ならばチャーリーは」
「それも却下で」
「うーむ、それならマ○オだな」
「土管工!?なにその名前の厳選力!?僕には星見優斗っていう名前があるから!」
「ホシミ ユート?ふむ、なんだ雑草に油を垂らしたような名前だな」
「ど、どういう意味!?ディスったの!?僕の名前ディスったの!?」
「それなら、キミの名はこれからユートだ。それでいいな?」
「……ああはい……スルーですよね……問題ないです……」
この魔王を名乗る少女、馬の耳に念仏にも程がある。
ユートをおろした後、レティシアはるんるんとスキップにも似た足取りでまた玉座に座り込んだ。
表情はまだ緩んだままで、にやにやと笑い続けている。
「あのー……少し、というよりたくさん質問いいですか?」
「うむ、そうだな、お前は生まれたばかりで何も知らないだろうし、なんでも聞いてくれたまえ!私の年齢、体重、スリーサイズ以外でな!」
「いや、訊きませんよそんなこと」
……この人、なんなんだろう、本当に。
若干ネジの抜けているような少女に呆れ顔のままユートは立ち尽くす。
すると、レティシアは、椅子に座りながら自分の太ももをぽんぽんと叩いた。
「ほら」
「え?」
「立ち話もなんだろう、さあほら」
……え。
それはつまり、そこに座れと?
「いや、いやいや、いいです。立ち続けるの好きなんでイイデス」
「そう遠慮するな、よっと」
「ちょ、やめ……いやあああああああああああやめてえええええええええッッッ!!」
レティシアが右手の人差し指を目の前で掲げた。その光がユートの体に纏わり付くと、なんと体が宙を舞い始める。
そのままレティシアの前まで飛んで、ゆっくりとその膝の上に降り立った。
すぐに抜けだそうとしたユートの体を、レティシアの腕ががっしりとホールド。じたばたともがくユートの心境もつゆ知らずに、レティシアはそのままぴったりと密着する。
「子供の体温は温かくて眠くなりそうだな。よし、好きなだけ質問するといい」
「う、失った……人として大切なものを失った……うっうっ……」
魔法で有無を言わさずなんて、ひどすぎる。
なんで、二六歳の自分が、こんな仕打ちを受けなければならないのか。
見た目一二歳ぐらいになってるといっても、精神年齢はそうではない。
背中辺りにとても柔らかい感触を感じて、もはや頭が沸騰寸前だ。
「こ、ココ、ここここここってどこなんですか?や、やけに大きい広間デスネ」
それを聞いたレティシアは、また得意気にふんっと鼻を鳴らす。
「ここは私の城、ヴィクティノイン城の謁見の間だ。《魔幻領域》の端にある城だな。……なんだ、そんなに緊張しなくとも殺しはしないから安心しろ」
そういう意味で緊張してるんじゃない!と大声で叫びたくなったが、ぐっと堪える。
レティシアの両腕の拘束が解ける気配もなく、抜け出すことは不可能だろう。
仕方なく、ユートは質問を続ける。
「……《魔幻領域》?なんですかそれ?」
「《魔幻領域》は私たち魔族の住む領域のことだ。人やドワーフ、エルフなどの住む《覇天領域》とこの領域の二つが存在しているな。……というか、敬語はやめて欲しいんだが……私のことはレティと呼んでくれ」
口を尖らせて、不満顔を披露するレティシアに困惑する。
そして、片手でユートをホールドしたまま頭を撫で続けているこの状況に、ユート自身の心はぽっきりと真っ二つに折れてしまっていた。
魔王を名乗る相手に―――魔法も存在していることを考えると―――敬語なしはいろいろ辛いような気がするが。
……護衛なんて必要ないんじゃないか?とユートは首をひねった。
護衛の約束なんてものをしてしまったけど、本物に魔王という存在なら、たった一人でどうにでもなるのでは。
……まあ、いいか。
もう少し詳しく聞いてみると、魔族の住む《魔幻領域》と人間たちの住む《覇天領域》の比は3:7の割合らしい。
「……レティは本当に魔王?」
「うむ、私こそ災禍の魔王レティシア・ノイン・ヴィリアーズだ。そこまで疑うというのなら……これでどうだ」
右手を掲げて、人差し指と親指を広げるようなモーションを行うと、なんとそこから紺色の半透明の板のようなものが出現した。
その板に白い文字が書いてあるのが分かって、ユートはそれを覗き込む。
【名前】レティシア・ノイン・ヴィリアーズ
【称号】災禍の魔王
【種族】魔人
【ステータス】
HP:3333-
MP:3333-
STR:333-
INT:333-
VIT:333-
DEX:333-
AGI:333-
【天恵】
魔眼
覇者ノ気
真影ノ衣
鋭キ魔刃
魔神ノ加護
詠唱破棄
超克者
弱体化
「これって……」
……RPGとかで見たことがあるような?
知っているRPGのパラメータなどで比べれば、とんでもないステータスであることはよく分かる。
だが、数字の横についている「-」はどういう意味なのだろう。
「ほら、どうだ?これが私の力の全てだ。ユートを作ったのは私だから、キミの力も私は確認することができるぞ」
「この板って、誰でも見ることができるってこと?」
「うむ、自分の力なら詳しく見ることができる。他人の力はその人物の名前ぐらいしか確認できないのだが……」
あれ、ということは……
ユートは恐る恐る、レティシアが先程やったように、人差し指と親指を広げるモーションをしてみると、スッ、と小さな音がして同じ半透明の板が現れる。
そこに書かれている文字を、ユートはゆっくりと確認していく。
【名前】ユート 真名定着
【称号】元素の支配者
【種族】人間
【ステータス】
HP:3820
MP:9999
STR:320
INT:999+
VIT:330
DEX:525
AGI:880+
【天恵】
観察眼
第六感
見切り
徒手空拳
全能ノ気
残影ノ衣
鋭キ刃
精霊王ノ加護
魔陣ノ操者
魔法創造
詠唱破棄
唯識者
並んでいる不可思議な文章の羅列とパラメータ。
しかもそのパラメータは、現在のレティシアのパラメータを凌いでいる。
「え、ええと……」
これが、自分の強さってことか?
と、レティが後ろから、自分のステータスが書かれているパネルを覗き込んできた。
「ふむ、ユートは魔術特化の天恵持ちか。なんという天恵の多さ……少し嫉妬してしまうな」
「天恵……って、この並んでる文字のことだよね?」
「その通りだ。この世界に生きる者は誰しも何かしらの天恵を持っている。いわば、才能そのものといったところだな」
「……自分で才能を確認できるなんて凄いなぁ」
「自分の情報を可視化しているこれは私が使っている魔術だ。人間は魔道具を使って自らの天恵を確認するというが……まあ、私もそこまで詳しくは知らん」
「そ、そうなんだ」
この世界、本当にRPGの世界のようだ。
……やっぱり、魔物とかいう存在もそこら辺にうじゃうじゃいるんだろうか。
ブツブツと考え込んでいるユートにレティは首をかしげていたが、何かハッとしたようにユートの脇に手を添えて立ち上がった。
「そうだ、ユート!こんなことをしている場合ではないのだ!」
「え?何かあるの?」
「うむ!ユートを召喚して舞い上がってしまっていた。ちょっとこっちに来い」
片腕でユートを持ち上げながら、レティは近くにあった窓を開けて、そのバルコニーに歩を進める。と、そこでレティは姿勢を低くしてユートを下ろした。
「ほら、ユート。ちょっと外を見てみろ」
恐る恐る、ユートが外を見る。
その先に広がるのは、草木の枯れた濃紺の大地だった。毒の混じったような濁った土が周囲に広がり、紫紺の葉樹が生い茂っている。
まさしく、そこは魔界と呼ぶに相応しい様体だった。
が、その大地に、人がいるのが確認できる。
ずらりと整列した鉄製の防具と武器。有に千人は超える人間が、城門前に集っている。
「……なにあれ」
「うむ、私の領土に隣接している人間の国の兵士たちだ」
嫌な予感に、ユートの顔に冷や汗が伝う。
「き、聞くまでもない感じですよねぇ……?」
「私の封印が解除されたのは三日前なのだが、どうやら復活の予兆を察知されたようだ。討伐隊を組んで私の城の前で待機している」
うっわぁ絶体絶命、とユートが絶望に満ちた表情に転じる。
「で、でも魔王ならあんな人たち余裕で倒せるよね?だ、大丈夫だよね?」
「はっはっは、何を言っているユート」
ニコニコと微笑んで、高らかに笑う自称、災禍の魔王。
「無理」
「ですよね!?なんか弱体化みたいな天恵あったもんね!?」
知ってる。なんかさっきレティの天恵見たら弱体化とかいう天恵がちゃっかり最後にあった。
……っていうか、天恵っていう位置なのか、弱体化って。
「長い間眠っていたものでな、力のほとんどを発揮できないのだ。おそらく、人間の熟練の兵士五人と戦ってなんとか勝てるぐらいだろう」
「……それ、普通に強くない?」
絡んでくる不良をなぶり殺しにできるよ!って言ってるようなものじゃないのかな、と呆れ顔になるユート。
ずらりと並んでいた兵士の前に、旗を持った人間が立っている。なにやら演説をしているようで、兵士たちを鼓舞していた。
「ユート、後は頼む」
「……え?」
ぱちくりと、レティの視線とユートの視線が交差する。
じーっと互いを見つめて動かないこと五秒ほど。
ぐっ!と、レティの右手に親指が立つ。
「僕、護衛やめていいですか?」
「直球で主に逆らう発言をするなぁ、ユートは」
「いや無理だよ!?あんな人数相手に戦うとか絶対無理だからね!?」
「何を言う、ユートの力を見るに私の本来の力の五割ほどを持っているぞ?」
「それ強いの!?基準分からなすぎだよ!?」
「いいからほら、行ってこい!」
「いっ……待って―――!?」
とん、と肩を押されてバルコニーの前で前のめりになる。うわぁ、と声が出てしまったのが運の尽きだ。
サブタイトル整理中ですので、後から変更するかもしれません。




