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最初の依頼者らしいです。5


辺り一面、畑と田んぼ。

眼前に広がる光景に、ユートが息を呑む。


「こ、これ全部……?」


「壮観だな」


ユートの傍らに立っているレティが感心したような声を出す。恐るべき面積だ。アメリカなどの外国の農業で見るような広大さ。地平線の遥か彼方まで続きそうな農耕面積に圧倒される。


「ソフィー、村に住んでる人たちってどれくらいいるの……」


「獣人だけなので少なくて……五百人いるかいないかぐらいです」


えぇ……とユートがドン引き。

その中に老人やら、まだ働くに値しない年齢の人がいるとして、これほどの面積を三百人ほどで管理しているということなのだろうか。


「い、いくらなんでも面積に対する人の割合が少なすぎるんじゃ……」


「獣人は人間の労働力の何十倍もの体力を持っているからな。これぐらいどうとでもなる」


「嘘でしょ……ソフィー大丈夫?死なない?上司から無理な仕事押し付けられたりしてない?過労死する前に早く労基に連絡しないとダメだよ?多分無理だと思うけど悪質な労働条件言い渡す領主さんの証拠握っといた方がいいって。それに労災とか―――」


「あ、あの……ユート様が何をおっしゃっているか……ごめんなさい、私、貴族様のような教育を受けていないので……」


縮こまるソフィーにユートはしまった、と思い弁解する。

過労死問題やら違法労働やらが身近にあったユートのトラウマが一時的に引き出されてしまった。

とっさに謝ると、ソフィーはお気になさらず、と微かに微笑んだ。


「それで、村の者はどこにいるのだ?」


「はい、こちらです。ついてきてください」


きれいに整った畑や田んぼを横目に、ソフィーの後ろをついていく。

よく見てみると、畑の作物は元気が無いように見えた。


「ユート、分かるか?」


「なんか栄養が足りてないみたいな……肥料とかの問題?」


「いいや、そういうわけではなさそうだぞ」


「うーん……じゃあ土の問題とか?後は同じ畑で作物育て過ぎちゃったとか……」


「長年この土地を借りて農耕に勤しんでいるんだぞ?そんなミスを犯すとも思えんがな」


「そうだよねぇ……」


耳打ちのような小さい声で話していると、やがて集落が見えてきた。木々をつなぎ合わせた簡易な家が軒を連ねており、あまり良い衛生環境とは言えなかった。


「―――ソフィー?」


と、そこで集落の脇に隠れるように佇んでいた男性の獣人がソフィーへと近寄ってくる。


「あ……スレイヴ……」


「やっぱり、ソフィーだよな!どうしたんだその格好……それよりもその人たちは?」


男性の姿を見てすべてを察した。ソフィーよりも一つ上ぐらいの年齢だろうか。ボロボロの衣服、土と泥に塗れた手足。それに、体調も悪そうだ。

ソフィーがスレイヴ、と呼んだ少年の獣人は、レティとユートを訝しそうに見つめていた。


「その……こちらの方々は―――」


ソフィーは順を追って説明していくと、スレイヴの表情がどんどん険しくなっていく。

あ、これはまずい、と人の悪意に慣れているユートにはすぐに分かってしまうほどの変化だ。


「―――お前たち、ソフィーに何を吹き込んだ」


低い声でそう言ってきた。


(そりゃあ、まあ……信用出来ないよね)


揺り籠の使者だの、何でも屋だの、ソフィーを上手く騙して何かを考えている悪党にしか見えない。


「ス、スレイヴ、やめて!レティシア様とユート様にはとてもお世話になったの!疲れていた私にお風呂を貸して下さったり、ボロボロの衣服も新調して下さって……とても大切な恩人なの!」


「そうやって俺たちが騙されてきたのを知ってるだろう!?簡単に信用するなんてどうかしてるぞ!どうせ、俺たちを笑いに来たんだ……そうじゃなきゃ、こんな辺鄙な場所に来るはずがない!」


「スレイヴ……!!」


どう返答しようか迷う。

無言のまま立ち尽くしていると、レティが手をあげる。


「私たちを不審者と思うのは勝手だが、だからといってソフィーのことを蔑ろにするのは良くないとは思わないか?」


「何を偉そうに……っ!獣人だからって馬鹿にしてるんだろうあんたらは!……そうだとも、この村はもうおしまいだ。作物も育たない、税も払えない、挙句の果てには伝染病だ。もう無理なんだよ、俺たちがここで住んでいくのは……」


小さくなっていく声量に、ソフィーはスレイヴの肩に手を置いた。

その様子を見て、ユートはただ同情せざるを得ない。自己評価マイナス点を叩き出している自分を見ているようで心が痛かった。


「おいユート、この者の情報を確認してみろ」


「え……?それって『観察眼』使えってこと?」


うむ、とレティがうなずく。


「違和感を覚えるだろうが……後はお前に任せる」


「……ところどころ無責任すぎるのなんでなの」


ふぅ、と息を吐いてユートはスレイヴに近づいた。


「あーえっと……ちょっとそのままでいて下さいね」


「?なんだ……お前……」


「『チェック』」


ブゥン、と小さな音を出して、ステータス版が表示される。

その情報に目を通していくユートだが……


「……え?」


ステータス情報のある一部分の文字に、ユートの目が止まる。

レティへと振り向くと、コクリ、と小さく頷いた。

ステータス情報の羅列、その一部に、妙な文が混じっている。


「『呪毒』……って何?」


ステータス情報、上昇効果、低下効果が書かれている欄に、『呪毒』という文字が赤文字で点滅していた。

呪毒の情報を詳しく見るべく、ユートはその文字に触れてみる。


呪毒

魔術:弱体・毒・呪い

弱体属性『毒』および『呪い』の複合弱体効果。

毒(ランク3):「近接」技能を使用する場合、ダメージ10(固定)。

呪い(ランク3):各ステータスを-20%


「えっぐい事書かれてるんだけど!?」


「そうだ、えっぐいのだ。とても」


いきなり大声を上げたユートに二人の獣人がビクリ、と肩を上げる。


「な、なんだよ……いきなり大声出しやがって……」


「少し確認したいことが出てきてな。ユートも驚いているのだ。お前たちの長はどこにいる?」


「そ、村長様ならこの奥の建物にいらっしゃいます」


「そうか。それなら、伝染病を患っている者たち……ではないな、この村にいるもの全員をそこに呼べ。詳しい話はそれからだ」


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