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告白



もう日が沈んで、月が昇ってどのくらい経っただろうか。

目の前では花月がはちきれんばかりにニコニコとジョッキを傾けていた。

よくそんなに飲めるよね。私も紅一もあまり飲むほうではないのでちょいちょいウーロン茶をはさみながらずっと飲み続けている花月を見守っている。


あの後、紅一が口を開こうとしたまさにその瞬間に花月が現れたのだ。

見計らったかのようなそんなタイミングの登場に私も紅一も顔を見合わせ苦笑した。


「なぁ、俺にばっか飲ませて楽しいかよ」

若干顔が赤い気がするが、これだけ飲んでそれだけだからなんともいえない。因みに、飲み始めて3時間だが、延々と飲んでいる。

「飲ませてはいないだろ。花月が勝手に次から次に頼んで飲んでるんだ」

やれやれと口には出していないが、紅一は呆れた口調だ。めんどくさいなぁ、と顔に書いてある。


私はそもそも飲んだ花月の相手はしないと決めているので、隣の紅一に任せている。

3人でいるときはもっぱら花月の世話は紅一に投げる。それが、上手く最後まで付き合うコツである。

「ひどくね? いつも弥生にはやさしいくせして俺には冷たいし、弥生も俺にはスルーとかしちゃうくせに紅一にはそんなことしねーもん」

始まったよ。

「あのね、花月とは四六時中一緒にいるのになんで紅一と同じ態度が取れるのさ」

一ヶ月に一回、二回、そんなペースでしか会えないのにもったいない。


そういえば、花月はむぅ、と頬を膨らませる。成人を過ぎた大人の男がやっていいことではないが、なぜかよく似合っている。こんな表情が似合う成人男性なんて珍しい。

「学生のころはお前らずっと一緒にいたじゃん」

「そもそも、弥生とおれは趣味も話も花月より合うからしょうがないさ」

そうなんだよね。花月とは趣味が合うというより、家族のようだから一緒にいるだけで話が合うわけではない。むしろ、合わない。

「久しぶりなのにひでぇこというじゃん」

完全にいじけモードに入ってしまったようだ。私は無視を決め込んで、えびマヨを頬張る。がんばれ、紅一。


私の無視の気配に気付き一瞥くれた後、わざとらしく息を吐き、

「話も合わないのにずっと一緒にいるって、おれからしたら話が合うってことよりすごいことだと、大事にしてる証拠だと思うんだがな」

そうこぼした。

その普段では絶対にこぼれてこないであろう、花月のための言葉に酔っているんだな、と思った。

花月に視線を移せば、苦虫を噛み潰したような顔を一瞬だがしていた。だが、すぐさま、元のふてくされたいじけた顔をして、

「話があるんじゃねーの?」

無理に話を変えた。


隣に座る紅一の空気が変わる。

「…………」

視線だけを移すと、彼も私を見ていて。まるで、助けを求めるようなその視線に鼻の奥がツンとした。

私は、いつも大事なところで彼らの助けにはなりえないのだ。


「なんだよ、また弥生が先に知ってるパターンかよ。さっき、俺が来る前に話してたんだろ」

さっきよりは、明るめのトーンで花月がぶすくれる。冗談交じりのその声の色に紅一の表情がさらに硬くなるのを私は見逃さなかった。

「話してない。話す前にお前が来たんだ」

いつもより、硬いその表情に花月は気付いているのか気付いてないの、グラスに残ってた残りのアルコール分を飲み干すと追加の注文をしている。

自分の分と私たちのウーロン茶まで。

「でもさ、やっぱり話そうとしてたんじゃん」

やれやれと言いたげに。


わざとらしくむくれる花月。子供がするようなその表情は彼によく似合っている。

「むくれるなよ。結果的には弥生も知らないんだ」

いつも通りであろうとする紅一の声音に花月の表情が微かに変わった。それは、私にしか分からないくらいのほんとうに微かな色の変わりだった。


その色に気付かず紅一が覚悟を決めたように花月をまっすぐに見た。

そして――――


「おれさ、結婚することになったんだ」


感情の一切こもっていない声で、そう言った。








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