表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

いたずら大魔王


私、栗原弥生の生活は不規則だ。

高校を卒業し、新卒枠で入ったのはパチンコ店。シフト制で早番遅番があり、遅番の多い私はほとんど昼過ぎに起きて夕方から出勤、日付の変わって少しして帰宅する。

そんな生活を三年続けている。それでも、なんとか生活できているのは同じマンションに住む、幼馴染のおかげだった。



「別に待っててくれなくてもいいんだよ。ご飯はありがたくいただくけどさ、ご飯作って帰っても私大丈夫だって。ちゃんと食べるよ」

今日も今日とて深夜に帰宅して、玄関を開けるといいにおいがした。今日は煮込みハンバーグらしかった。


まだ出来ていなかったようで、勝手に上がりこみ晩御飯を作ってくれている幼馴染に先にお風呂に入って来いと着替えを投げつけられる。

女の子のタンスを勝手に開けるのはどうなんだ。そういったところで鼻で笑われるだけなので飲み込んで、風呂場の脱衣所から三年間ちょいちょい言い続けている言葉を投げた。


「べつにいいんだって、気にするな。好きでやってるんだから」

そういわれてしまえば、もう何も返せない。

家の中に充満した、煮込みハンバーグのおいしそうなにおいが空腹感を刺激する。

やばいぞ、早く入らなければ空腹で死んでしまいそうだ。


カラス、と揶揄されるくらいのはや風呂の私はいつも通りササっとシャワーで済ませ髪も濡れたまま食卓についた。

出てくるタイミングでちょうど、出来上がったらしくテーブルの上にご飯が二人分並んでいた。

「お前ね、髪から水滴たれてんぞ。床が濡れてるだろうが」

私の心配はしてくれない。ひどいとおもいません? 床の心配はするくせに。

「いつか乾くでしょうよ。ほら、早く食べようよ」

呆れた色を浮かべる目をこちらに向ける幼馴染――如月花月を無視して私は手を合わせる。

「いただきまーす」

もう何を言っても無駄だと思ったのか、

「いただきます」

遅れてそうつぶやいた。



私の幼馴染は嫌になるくらい、出来た男だった。

料理はできるし、仕事も出来るらしいし、面倒見もいい、運動も出来る、顔もいい、身長も高い、神は二物を与えずなんて言葉こいつには適応されていないんじゃないかっていう男だ。


当たり前に人の中心にこいつはいる。

それなのに不思議と花月は私のそばを離れていかなかった。親同士が仲がよかったせいもあると思うが、生まれてほとんどの時間を私の世話につかっている。

今だって、ほとんど毎日私の帰りを待っててくれて一緒にご飯を食べてくれる。


「なに? どうしたの、そんなに熱心に見つめてくれちゃって。え、もしかして見とれてた? 俺がかっこいいことにいまさら気付いた?」

うざい。

「ハンバーグおいしいかったなぁって。その一言さえなければ今日は完璧だったのに」

空腹をみたし、すこしテレビを見ながら一息ついていたら無意識に私は花月の顔を見ていたらしい。


花月に対して色っぽい感情を微塵も持っていないが、私は花月の顔が好きなのだ。好みの顔は、と聞かれたら花月の顔とこの十数年間言い続けてきた。

ただ、花月本人そんなことを言ったためしはないが。

「もう、素直じゃないんだから」

「きもい」

私の言葉にひどーい、とかなんとか言っているが感情がこもっていない。


「あ、そうだ。弥生、次の休みいつ?」

「いつだったかな」

むしろ、シフトが出てる分で私の休みがあったっけ?

あれ、私今何勤目だっけ。四勤目じゃなかったっけ。うそ、七勤確定じゃん。

「……来週のどっかだよ」

一気にやる気をなくした私に察したのか、苦笑いを浮かべお茶を注いでくれた。

「この前もじゃなかったか?」

「そうだよ。私の休みどこよ!」

あー、マジやる気なくすわ。

「じゃあ、来週の休みの前日が早番だったらちょっと付き合えよ」

同情はしてても、休ませてくれないあたりが花月らしいがこの野郎だ。


だが、この決定に拒否権はないのである。この男は、私の面倒をよく見てくれるが、基本横暴だ。自分の言うことは絶対だし、反対意見は認めないのである。

「……分かった。アイス買ってくれたらまっすぐ待ち合わせ場所に向かうことを約束します」

「俺は、心配だよ。お前がいつ物に釣られてどこかに連れ込まれないか」

ジト目で心配された。ありがたくうけっとっておこう。


「なにかあるわけ?」

「久しぶりに三人で飯でも行こうぜ」

それは、とても久しぶりの台詞だった。

一年前まではよく聞いていた言葉だ。

「ほんとに久しぶりだね。紅一から?」

紅一というのは、小学校から一緒にいたもう一人の幼馴染だ。花月は親同士の縁だが、紅一とは普通にクラスが一緒で何気に気が合ってここまで続いた。


ここまで続くと、もう家族みたいだと勝手に思ってる。

花月はみたい、ではなく家族と断言するが。

「ああ。なんか、話があるらしい。昇級でもしたかね」

私に注いでくれたはずのお茶を飲み干し、嬉しそうに。


けれど、私は何かが胸に引っかかった。


「私のお茶」

「気にするな。また注いでやるって」

そういいながら、再び注いだお茶をまた自分で飲み干す。もう諦めて自分で注ぐことにする。だが、完全に嫌がらせスイッチが入ってしまった、いたずら大王は私の手からペットボトルを奪い、自分の腕の中に囲ってしまう。

うぜぇ。

来週が楽しみなのは分かるが、私に行き場のない喜びをこんな形でぶつけないで欲しい。毎回だ。

ふざけやがって。

いたずら大王とペットボトルの争奪戦を繰り広げながらも、私は違和感をぬぐいきれないでいた。



登場人物の名前です


栗原弥生 くりはら やよい

如月花月 きさらぎ かげつ

桜紅一  さくら こういち

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ