わかっているから。
冬休みに入る前の
最後の月曜日。
重い体を引き摺る様にして階段を上る。
あと5分で授業が始まってしまうせいか、周りの人は早足で階段を上って行く。
そんな気力も無いあたしは、ノロノロと、手摺に半ば寄り掛かりながら歩く。
「ようやく…2階。」
あたしの教室は3階。
頭がガンガンする。
昨日、先輩達が引退して、初めての大会が終わった。
アンサンブルの大会で、あたしはサックス6重奏のチームリーダーになっていた。
65チーム中15チームが県大会に進むことが出来る。
もちろん、県大会を目指していた。
しかし、結果は16位。
15位のチームとは、その差1点…。
そんな漫画みたいなことがあるのか…と思う前に、涙が溢れて来て、廊下で泣き崩れてしまい、それこそ顧問の先生が血相変えて飛んでくる程だった。
そして、昨日まで、土日も祝日もなく練習して、家でも毎日夜遅くまでスコアと睨めっこして曲想を読んでいた疲れか、それとも思いもしない結果へのショックか、今朝から体調を崩してしまった。
「あと一階だけ…。」
早く行かなきゃ、遅刻しちゃう。
手摺に手を掛けた瞬間…。
「おい。」
背後から、誰かに声を掛けられた。
振り返ったら、あいつがいた。
飛行機乗り志望の、あいつが。
「昨日だったよな、大会。」
「うん。そうだよ。」
「…どうだった?」
「16位。ダメだった。」
「そうか。」
あいつはそう言うと、じっと考え込んだ。
何も言わないから、もう行ってしまおうかと思って、回れ右を仕掛けたら、突然顔を上げて
「良かったな。」
と、言い出した。
「何が?!どこが?!」
良い訳ないじゃん。
目標達成出来なかったのに?
それで何が良いって言うの?
そんな疑問が渦巻いていた。
「だって、6人中4人1年生だろ?で、そのうち初心者3人だろ?それなのに、そういう順位を出せるってことはさ、素人集団をそのレベルまで引っ張り上げれたってことじゃないか?」
確かにそうだ。
今年の1年生にはサックス経験者がほとんどおらず、4人中3人が初心者なのだ。
しかも2年生は2人しかおらず(これはあいつが退部したせいでもあるが…)これで大会に出られるのか?と、当事者も周りも顧問も正直疑問だったのだ。
「まあ…そうなる…かな?」
曖昧に頷くと、だろ?って、あいつは笑った。
「みんな、上手くなったか?」
「うん。音量も出るようになったし。」
「そうか。じゃあ、次の夏が楽しみだな。」
「うん。」
嬉しかった。
こんな風に褒めてくれる人、いなかったから。
じんわりと、目頭が熱くなる。
「……。」
ありがとう、と言おうとした途端、無機質なチャイムが鳴り響いた。
「うぉっ!!やべぇ、またな!!」
あいつはそう言い残すと、猛ダッシュで教室に駆け込んで行った。
…あたしもやばい!!
階段を一つ飛ばしで駆け上がる。
まだ少し頭が痛いけど、きっと今日は平気だ。
チャイムが鳴り終わるギリギリで教室に滑り込み、席に着く。
鞄から教科書やらノートを取り出して、ほぉっと息を吐く。
そして、誰にも聞こえないように、口の中に残ったままの言葉を吐き出した。
―ありがとう。
吹奏楽部短編第2号です。
登場人物は変わりません(笑
しかも、かなり時間飛んでます。
すみません。
ちなみに、これは作者自身の周りにいる人間をモデルにして書いてます。
作者がサックスのアンサンブルで大会に出て、あと一歩の所で県大会を逃したのは事実です(泣
これからは夏に向けて、助走ですね。