連絡がつきまして
何やらまだ魔術講座が終わっていないようなので、十分氷の花を堪能した私は暇になる。
熱中している二人に話しかけづらいので、部屋の端に控えていた執事さんにもう寝ると伝える。
そうすれば、部屋を出てすぐメイドを捕まえ、私を部屋まで連れて行くように指示を出す。
いや、この年齢だし迷子になっても困るからだけど、常に監視されているようで中々落ち着かない。
まあ、廊下で寝こけるなんてことはしたくないので甘んじるが。
それに、それがメイドさんやら執事さんの仕事だから邪魔はしていけないのである。
だから様付けされるのも、前世の事を考えても年上の人から敬語で話されても気にしてはいけないのである…
最初は慣れなくて気まずかったが接客業だと考えればまだマシである。
感じるな、慣れろ。がお約束だ。
いまだに貴族扱いには慣れないが気にしてたって無駄なのだ。
向こうは仕事だし、こっちもある意味で仕事みたいなものだ。
別に偉そうにするつもりはないし、両親と姉を見てそれらしく振舞っておけばいいのだ。
でもそれらしく喋ったり振舞うのは、子供だから甘く見られている分はあれど、やっぱり面倒くさい…
今は育てられている立場だし文句なんて言えないけど、自立できるようになったら出て行こう、そうしよう…
それまではこの生活を頑張るしかないかー
メイドさんに先導されながらつらつらと考えていると、何時の間にか自分の部屋まで着いていた。
昼寝は姉と一緒だが、部屋はそれぞれ別に用意されている。
メイドさんに夜着に用意してもらい、礼を言ってから布団に入る。
着替えさせられるのは、恥ずかしかったが今は楽だと開き直ってる。
メイドさんは布団に入ったのを確認すると、挨拶をしてから部屋を出ていく。
布団に入ったがまだ眠くないため、今日母から貰った翡翠のブローチを手慰みに眺める。
母や自分の瞳のような翡翠を、窓から僅かに入る月光にかざす。
前世じゃお目に掛かることなどなかったであろうものに、改めて感じる家の規模に苦笑いが出る。
そのままボーッと眺めていると一瞬、月光とは関係なしに石が光った。
『あー、あー…えっと通じているかな?』
…今、私の勘違いでなければ、このブローチから金髪の声がした。
「…はあ?」
『あ、よかった!繋がってた』
母親には悪いが、これ返品しちゃ駄目だろうか…
『えっと、僕の事覚えているかな…?』
「はあ、流石に覚えていますが」
『だ、だよね?ちょっとこの石に細工させてもらってね、僕達と連絡が取れるようにしてあるんだ』
「へー」
『…質問とかあれば答えるられるし、もし何かあったとしても対応できるからね』
「ああ、じゃあまず何で貴族?平民の方が動きやすそうだけど」
浄化なんて言われてたからには、色々国を回るもんかと思っていた。
貴族ってしがらみ多そうじゃん。
『ああ、まず身元の安全のためかな』
「安全?」
『領主とか経済の影響を受けやすいからね。ある程度力があった方が安全なんだ。この家の貴族は地盤がしっかりしてるし真面目だから」
なるほど、これは必要事項か。
転生乗り気ではなかったけど、流石にすぐまた死ぬなんて体験したくないからな。
『それで、他には?』
「んー?あ、記憶に関してだけど…」
『ああ、浄化のお願いをしてるからある程度の精神年齢と経験、あとは混乱しないように君自身の情報を少しぼやかしたかな』
ああ、地球での個人情報が分からないのはやっぱりそのためか。
今の私はリリシアであって、特に困ることもないし別にいいけど。
『じゃあ、とりあえず今日はこれぐらいかな?通じるかの確認のためだけだし』
「ああ、そうなんだ」
『じゃあ、お休み』
また一瞬石が光って、今度は完全に沈黙した。
何かあればまた連絡がくるだろうし、今日はもう素直に寝るか…