年をとりまして
食堂に着くとすでに母親と、珍しいことに父親がいた。
部隊長なんてものに就いてるからには、仕事も大変らしく帰ってくるのは私たちが寝る前ぐらいなのに。
驚いていたのが分かったのだろう。
何故かどこか気まずげな父が視線をそらす。
その一方で、母は嬉しそうに笑っている。
「今日はね、部下の方々から帰らされたそうよ」
ふふふ、と少女の様に笑う母は可愛らしい。
どうやら父はあまり顔を合わせない娘たちの誕生日を祝うように進言されたらしい。
別に私は忙しいのは納得しているし、恐らく姉もそうだろう。
しかし、部下の人達、特に子供がいる人達からだが、父親として認識されないぞ!やら、可愛い盛りを見逃すなんて!やら、誕生日ぐらいは祝わないと!やら言われたらしい。
父本人も、朝早く出かけ、夜会うか会わないかの状態を心苦しくは思っていたらしい。
母の口から話される内容に、苦虫を噛んだような表情になっていく。
別にそこまで寂しいとは感じてないし、忘れてもいないが、こういったことは素直に嬉しく感じる。
成人してからは家族に面と向かって誕生日を祝われたことは殆ど無く、久しぶりの感覚で逆に新鮮さを覚える。
ふと横を向くと、姉が嬉しそうに顔を輝かせていた。
やはり頭が良いとは言え、父親にあまり会えなかったのは寂しかったのだろう。可愛い。
「ではっ…!今日お時間があるのなら本の内容を教えてください!」
普段静かな姉が声を弾ませて父にお願いする。
母は顔を綻ばせ、父は頷いた後、食後に書斎まで本を持ってくるように言う。
姉は興奮で頬を赤らめ、口をむずむずと引き上げている。天使か。
周りの人間も頬を綻ばせ、私は隣でデレデレになりそうな顔を引き締めて微笑みに留めている。
「…リリシアはどうする?」
姉に意識を向けていた分、余計に驚く。
思わず父の方を向くとこちらをじっと見つめてくる。
無言の圧力駄目、絶対。
姉を含め、他の人も私に意識を向けてくるが正直勘弁してくれ。
私は特に何も考えていない上に、即興で願い事なんて出てこない!
何とか考えるフリをしつつ、無理矢理頭を捻る。
周りの期待の目線を気にしてはいけない。
「…では、魔術が見たいデス」
苦し紛れでやや棒読みだが、これぐらいしか思いつかない。
内心冷や汗だらけで父親を伺うと納得したように頷いていた。
「では、実際に見せながら解説をしよう」
私も食後、一緒に書斎に来るように言われる。
父や周りの反応から言ってこの要望は大丈夫らしい。
心の中で盛大に安堵の息をつく。
何故仮にも誕生日にこんなにハラハラしないといけないのか…
ようやく始まった食事は普段よりも豪勢で、最後には小さなプチ
ケーキだった。美味い。
食後、書斎に行く前にと母からプレゼントを渡される。
姉はアイスブルーの石が付いた銀色の綺麗なしおり、私には楕円型の翡翠色石のブローチだ。
シンプルで中々可愛いと思ったが、よく見たらこの石宝石じゃ…
ちょっ、マジか貴族…!!
誕生日プレゼントでも精神的疲労を負いながら、次はいよいよ本命のお父上様の魔術講座です…
勘弁…
ええ、勿論姉上様は期待に目を輝かせていらっしゃいます。
私も一応魔術については期待はしてますよ?
書斎の扉をノックしてから入ると、本棚だらけの部屋の椅子にお父様がすでに座っていらっしゃいました。
やや興奮気味の姉が出した本の内容を確認すると、お父様は一瞬で氷の花を二本手のひらに出して見せた。
…マジか。
姉とそれぞれに氷の花をもらい、父の解説が始まったが初めて見た魔術と氷の花に夢中で一言も聞いてませんでした。
…サーセン。