生まれたらしくて
《ウァーシス国のとある貴族の屋敷にて》
そこでは二十代初めの男が閉められた扉の前で右往左往していた。
その男は、肩までの髪を綺麗に整え、仕立ての良さそうな服も皺一つ無く、行動の割には堅苦しい雰囲気を持っていた。
柔らかそうな白金の髪も、アイスブルーの眼が冷たい印象に変えている。
全体的に見て、冷徹そうな見た目だが今は不安と期待といった、真逆の感情を強く出している。
そして先ほどから顔をしかめ、立ち止まって扉を睨み付けては、また扉の前を歩くことを繰り返している。
その男の側には、やや老齢の男性が執事服を着こなし直立している。
いい加減その様子を見かねたのか執事服の男が声をかける。
「旦那様、いくら焦られても生まれるわけではありませんよ。一度落ち着かれてはいかがですか」
「…分かっている、アルド」
また立ち止まった男は憮然とした様子で、執事服の男、アルドに答える。
言われた内容は頭では理解できているのだが、今まさに最愛の女性が出産の時を迎えていることに心が落ち着かない。
母子ともに体調は問題ないのかという不安と、自分の子供ができるという期待に板挟みになっている。
アルドもそれが分かっているのか、軽く目を瞑り脱力するだけで何か言う事はなかった。
再び歩き出してしまおうか、と男が考えていたところで扉が大きく開かれた。
出てきたのはアルドと同じくらいの年齢のメイドで、その顔は喜色に満ちていた。
「旦那様!お生まれになりましたよ!!母子共に健康でございます!」
その言葉を聞くやいなや、男は部屋に急いで入った。
そこには今丁度、助産婦から子供を受け取った女性がベッドの上で嬉しそうに笑っていた。
力が抜けそうになる体を叱咤して、男は女性に近寄る。
「リーフィア、生まれたのか」
「はい、エリオット様。元気な双子の女の子です」
大事そうに赤子を両手に抱えた女性、リーフィアが男、エリオットの方を向く。
出産を終えて疲れている様子は見えても、特に体調不良が見えない様子にエリオットはほっと息をつく。
赤子も両方とも今はリーフィアの腕の中で穏やかな寝息を立てている。
その様子を見て、改めて胸に喜びが湧いてくるのを感じる。
しかし、一瞬両方とも女児であり、双子である事実が脳裏をよぎる。
だが、今日この瞬間に母子共に健康であり、無事に生まれたことを素直に喜ぶことにした。
この日、屋敷の中は誰しもが喜びに溢れ、この双子の女児の誕生を祝った。
先に取り上げられた子を姉とし、エリシアと名付けられた。
後に取り上げられた子は妹とし、リリシアと名付けられた。
エリオットの心配とは余所に、この双子は仲良く成長していくのであった。