事故りまして
「いらっしゃいませー」
近所のスーパーのレジ打ちをこなしながら、早く家に帰ってゴロゴロすることを考える。
二十半ばになって親からは早く就職するように言われているが、採用されないんだから仕方ない。
と、いうか最近スーパーの常連さんとも仲良くなっているから、ここでのパートは居心地がいいのである。
社員さんなんかにはいっそこのスーパーに就職しないかなんて誘われているが、発注とかその他の業務は面倒くさそうなのでお断りしたい。
このままではいけないなという意識はあるが、何よりも面倒くさいという感情が自分の中を支配している。
就職に関しても、こういった感じで過ごしてきたのでアピールできる所が全然ないのである。
正直宝くじでも当たってぐうたら過ごしたいのが本音である。
学生の頃からこんな感じだったので筋金入りの面倒くさがりだと思っている。
スポーツは友人と話しながら、本はラノベや漫画、勉強は得意科目と苦手科目で相殺して平均点。
ある程度は真剣にやってものめり込むまではやらないし、レベルは素人やお遊びの範疇を越えない。
まあまあ広く、浅くが私の行動範囲である。
まあ、今のパートも大きな失敗もしなければ、何か功績を残しているわけでもない。
ただのパートの一人である。
「すみません、商品を取りたいのですが取れなくて…」
「あ、はい。どの商品でしょうか?」
品の良さそうなお婆さんの声を聞いて意識を向ける。
そこには白髪を綺麗にまとめて、落ち着いた色の服を着た小柄なお婆さんが困った顔で立っていた。
そのお婆さんが指を差しているのは、成人女性がギリギリ届くか届かないかの位置にある商品だった。
幸い自分は成人女性の平均身長は軽く超えているので、問題はない。
「この商品でよろしいでしょうか」
「ありがとうございます。この年だと腰が曲がっちゃって」
嬉しそうに商品を受け取るお婆さんを見て和やかな気分になる。
いくら私が面倒くさがりとはいえ、別に仕事をサボる気はないし感謝されれば嬉しいと感じるのである。
「では、ごゆっくりどうぞ」
まだ買う物があるお婆さんに声をかけ、レジに戻る前に軽く商品の前出しを行う。
今日は雨が降ってお客さんの出入りが少ないからできることである。
ただし、雨の日の閉店後の片づけは殊更面倒くさいので、夕方までの今日はラッキーである。
「待ってよー!」
「やだよー、俺先行くから!」
客が少なくて広い店内をここぞとばかりに小学校低学年ぐらいであろう子供が走っている。
こういうのは鬱陶しいし邪魔だし危ないから今すぐやめろ!
というか、親はいないのか?
おい、精肉コーナーの前で喋ってないで注意しろよ!!
傘の水滴などで床は滑りやすくなっていて、このままでは絶対に事故が起こりそうなので
渋々、 渋 々 !ながら自分が注意しようとする。
「あのお客様…」
声をかけようとしたその時
ガチャガタガンッ
「痛っ!」
「うわ!痛い!」
案の定商品棚にぶつかって落ちた商品が散らばる。
そこまでは怪我の確認と片付けだけで済むはずだった。
どんな風にぶつかったのかは知らないが、ぶつかった商品棚がこちら側に取れてきたのである。
「は?」
人間想定外のことが起こると固まってしまうのは正しかったらしい。
商品棚がぶつかるその直前にようやっと頭を庇う体勢にうつる。
これから来るであろう痛みに備えて目を固くつむった。