とある男爵令嬢の狂気
病んでる女の子を書きたくてザザッと書きました。
やった!やったわ!
ついに手にいれたわ!
お爺様にお願いして、ようやく手に入れたの!お店で見かけた時は驚いたけど綺麗な子だからすぐに売れてしまうと焦ったわ。間に合って本当によかった!
あぁ可愛い!可愛い私のノエル!
一目見た時から私はあなたが大好きになったの!
真っ白な肌にさらさらの黒い髪の毛。宝石みたいな青い瞳の私のお人形さん。
可愛い、可愛い私のノエル。
あなたが壊れてしまうまで、私たちずぅぅっと一緒だわ!
『とある男爵令嬢の狂気』
人身売買っていけないことって知ってた?私はちゃんと知ってるわ。
この世界には、同じ人間なのに酷く扱う人たちがいるの。
無理やり家族と引き離たり、ご飯をあげなかったり、つらい労働を課したり、それに見合う報酬をあげなかったり、暴力を振るったり。
それは人間が人間にすることではないわ。だから、いけないことなのよ。
最下級でも私は貴族の娘ですもの。陛下が守る国民を蔑ろに扱う悪い人たちとは仲良くしちゃ駄目だって、ちゃんと教育を受けているの。
私の名前はシュゼット・ルクレール。ルクレール男爵の娘で、貴族よ。我が家の歴史はとっても浅いわ。
だって爵位をもらったのはお父様だもの。私の弟が継いでようやく二代目になるの。ちょっと前までは普通の人だったのに、急に貴族になったのよ。
お茶会とか、お勉強とか、今までやったこともなかったから、すごくつらいわ。何をしてもみんな私をバカにしてくるし。
友だちもいなくて淋しくて、毎日泣いていたの。だからね、お爺様にお願いしたのよ。「私だけのお友だちが欲しい」って。
そうしたらお爺様は私をこっそりとあるお屋敷に連れてってくれたの。そこには沢山のお人形があったわ。
まだみんな買われる前で、質素な服装にボサボサの髪の毛だったわ。買われるのが買われないのかわからなくて不安そうな顔をしていたわ。
その中にノエルがいたの。あぁ、可愛いノエル。私すぐにあなたが大好きになったわ。
真っ白な肌にさらさらの黒い髪の毛。宝石みたいな青い瞳。他のお人形よりもずっと綺麗だったわ。
ノエルを見た時、すぐに他の人に買われちゃうって焦ったの。だからすぐにお爺様にお願いしたのよ。「あの子が欲しい」って。
そうしてノエルは私のものになったのよ。
最初の頃のノエルはやせ細っていて肌が少し汚れていたの。可哀想。きっとちゃんと面倒を見てもらえてなかったからだわ。
だから、私はノエルにご飯をあげて、お風呂にいれてあげたの。ノエルはすぐに綺麗になったわ。綺麗になったノエルは本当に可愛かったわ。
黒髪も梳くとさらさらだけじゃなくてツヤツヤにもなったの。いいなぁ、ノエル。私の髪の毛は普通のブラウンだからとっても羨ましいわ。
お揃いのドレスを着て、一緒に勉強もしたの。私とっても嬉しいわ。だって、ノエルは私といつも一緒なんだもの。
こんなに一緒にいるんだから、ノエルは私のことを好きよね。好きなら何をしても許されるわよね。
じゃあ、ノエル。その綺麗な髪の毛も私とお揃いにしましょう。
毛染めを使ってノエルの髪の毛はすぐにブラウンになったわ。ふふふ、私たちまるで本当の姉妹みたいだわ。
ノエルはね、痩せていて背も低かったけど、少しずつ少しずつ健康になっていったわ。頬も薔薇を添えたように赤みを戻したの。
あぁ、可愛いノエル。こんなに可愛いあなたを他の誰かに見せたら、きっとみんなあなたが欲しくなっちゃうわ。
だからね、私あなたを閉じ込めることにするわ。安心してね、綺麗なお部屋よ。ベッドもあるし、勉強用の机だってあるわ。ご飯だって私と食べるんだから安心してね。私たちはいつまでも一緒よ。
あぁ、可愛いノエル。どうしてそんな顔をするの。そんな風な顔をされると私悲しくなるわ。大丈夫よ、ずっと私が一緒だもの。
でも私が成長するに連れて、ノエルが少しずつ壊れてきたわ。悲しい。
壊れ始めたノエルに新しいドレスをあげようとしたら、お母様に怒られたわ。綺麗に伸ばしてきた髪の毛もいつの間にか切られてしまったの。
お母様は私からノエルを引き離すつもりなのよ。私がいつまでもお人形遊びをしているのが心配なんだわ。
でも、ノエルから離れるなんて嫌よ。だって、私の大好きで大切なお友達だもの。
なのに、どうしてなの?ノエル。
あなたまで私から離れようとしていく。駄目よ、嫌よ。まだまだ一緒に遊びましょう。
外は危険がいっぱいなんだから、お家の中で遊びましょうよ。
ねぇ、ノエル。どうしてそんな目をするの。どうしてそんな声で話すの。どうしてそんなひどいことを言うの。どうして私と一緒にいてくれないの。
私はあなたが大好きなのに。あなたを買ったのは私なのに。
あぁ、お別れが近いわ。ノエルが壊れてしまう。壊れたノエルは遠くに行ってしまう。悲しい。悲しいわ。
「シュゼット…」
嫌よ、ノエル。そんな低い声ではなかったじゃない。せせらぎのような透き通った声だったじゃない。
「君がわからないんだ。」
違うわ、わからないのはノエルの方。どうしてそんなことを言うの。昔は言うことをちゃんと聞いてくれたじゃない。
「君は僕を好きなんだよね。」
えぇ、大好きよ。大好きだったわ、可愛いノエル。でも、あなたは壊れてしまう。壊れたあなたを好きでいれるかはわからない。
「君は僕のことを最初から知っていたのではないの。」
えぇ、知っていたわ。あなたを初めて見たのは人買いの屋敷なんかじゃない。爵位をもらうお父様が初めて呼ばれた王宮で見かけたのよ。
「君は僕が誰かを知っていて…それでいて僕をここに閉じ込めていたのか。幼い君が…」
そうよ。だって王宮で何が起こっているかなんて国民もみんな知っていたわ。
みんなが大好きな王様が弟君に裏切られたこと。王様の家族がみんな殺されてしまったこと。
でも私は違うことも知っていたわ。お父様が命をかけて守ったノエルがいたこと。お父様がノエルを守るために人身売買にかけたということ。
全部、知っていたわ。
「シュゼット…」
やめて、そんな声で名を呼ばないで。私のノエルはそんな風に私を呼んだりはしないわ。
ノエルはいつだって綺麗な顔で、すべてに絶望したような瞳で、生と死を彷徨っていたわ。
私がご飯を進めても食べてくれなくて、本を読んでも聞いてる素振りすら見せてくれなかった。
だからね、いけないと知っていたけど私はぶったの。ノエルのことを。何度も、何度も。
だって、私のお人形だもの。私がノエルをどう扱おうが誰にも咎めることは出来ないわ。
ノエルは私が買ったのよ。だから私の言うことを聞かないといけないの。
ご飯を食べないなら手を打ったわ。
本を読まないならお尻を。礼儀作法の授業を受けないなら胸を。
何度だって鞭を振るったの。
その度にノエルは感情を見せてくれたわ。背筋がゾクゾクするような憎悪という感情を。
私、それが堪らなく好きになったの。
綺麗なあなたの顔が醜く歪むのが気持ち良くて仕方がなかったわ。
だからノエルが生きているって噂がで始めた時に、無理やりあなたの髪の毛を染めさせてドレスを着せたの。ノエルはプライドが傷ついて涙目になっていたわ。
私の姉妹と偽って同じ家庭教師をつけた時、勉強の不出来を馬鹿にすると怒っていたのも知っていたわ。
悔しそうな顔が堪らなかったの。
美しくて身分のあるあなたが私ごときに歯向かえずにいるなんてなんて滑稽なのかしら。
本当は逃げ出したかったのよね。外はあんなに危険だと言ったのに、あなたってば若い侍女と駆け落ちの真似事なんてするから、部屋に鎖をつけなきゃならなくなったわ。
ロープで足を縛って、猿轡をはめられたノエル。そんなノエルの前で侍女に毒を飲ませたのは今でも本当にいい思い出だわ。
だってあの時のノエルの顔は最高に絶望に満ちていて美しかったんだもの。
あぁ、また私のノエルに戻ってくれたって、私すごく嬉しかったのよ。
でも、あなたが壊れていくのを止めることは出来なかったのね。
あなたはどんどん成長して、自分で自分の身を守れるようになってしまったわ。
私の小さな檻なんて、とっくに抜け出せるほど強くなってしまっていたのね。
あぁ、ノエル。私の可愛いノエルはもういないんだわ。
「シュゼット…お願いだ。そうではなかったんだと一言いってほしい。君に狂気などなかったんだと。」
いやよ、やめて、触らないで。
あなたは誰なの。私のノエルはどこ?
さらさらの黒髪に宝石みたいな青い瞳の王子様。あなたはだれ?
「シュゼット…お願いだ…」
あぁ、ノエル。あなたは壊れてしまったの。私のノエルはどこにもいない。
お人形遊びは終わってしまったの。
「ブリュノ殿下。私のような身分の低い者に膝をついてはなりません。殿下は何かを勘違いしておいでです。私は幼い頃にいけないと知っていて人身売買を行いました。そして、一人の子どもの人生と自由を奪ったのです。あの子は死んでしまいました。その罪は償わねばなりません。」
「シュゼット…!」
「お優しい殿下。あなたが無事に国の中枢に戻られてよかった。…どうか、私のような罪人ではなく、罪もない子供たちをお守りください。」
「シュゼット…お願いだ…どうか…すべて愛ゆえだと言ってくれ…」
あぁ、ノエル。あなたが大好きだったわ。でも私はあなたを壊してしまった。だから、きっとこれは罰なのね。
足首に巻きついた重い鎖は私から自由を奪い、家族を奪った。
「シュゼット…お願いだから…これ以上、僕を狂わせないでくれ…」
今はただ、ひとりの男のお人形。