トカトカ国のものがたり あとがきは400文字
<とか><とか>と並ぶレポート指し示しとかとか国のものがたりする(永井陽子遺歌集『小さなヴァイオリンが欲しくて』2000年10月、砂子屋書房刊所収)
掲出歌は、愛知県立大学外国語学部で教鞭をとっていた永井陽子が、言語区分不可能な学生たちの様態をあげつらい、かつ当て擦ったともいえる一首である。歌集中、<とかとか国>に触れられているのはほかに五首で、いずれもれんげや桃が咲き乱れているとか、交通量は多くないといった程度の域を出ない。
永井は1999年2月から40日間、肝炎のため入院し、10月より休職。翌2000年1月26日、自ら命を絶つ。享年48歳。
人口に膾炙した代表歌、<べくべからべくべかりべしべきべけれすずかけ並木来る鼓笛隊>のような、めくるめく言語遊戯を展開した彼女が、とかとか国のものがたりを書き置いてくれたとしたら、どんな内容になっていただろう。そんな想像をめぐらせながら、物語を紡いでみた。