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荘厳の絡繰人形  作者: 橘 春宵
第二章 箱庭百枷と忌まわしき一族
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「………とても疲れているようだな」



約束通り、授業終了後にまっすぐ百枷に会いに来た司は、何故だか途轍もなく疲労していた。


「近道を教えたはずだが?」

「ち、違うんだ百枷…ちょっとだけ、学校の友達に足止めされて」



司の言う『学校の友達』とは、勿論古壱菜緒のことである。「昨日私、見たんですからぁ!!今日はぜーったい行っちゃダメですよっ!!」と騒ぐ菜緒を説得するのに骨が折れ、司は主に心が疲弊しきっていた。



「友達か」


例の本しかない客間に通され、ちゃぶ台を出してから緑茶をいれに行っていた百枷が、帰ってくるなり独り言のように呟いた。

聞き逃さなかった司は迷った挙句、極めて自然に百枷へ問うた。



「そういえばさ、百枷には仲のいい友達とかは居ないの?……というか、百枷って今幾つ?」

「?私には司がいるじゃないか。歳は言っていなかったか。十六だ」

「そっ、そういうことじゃなくて……って、百枷、十六歳なの!?僕と一つ違い!?もっと小さいと思ってた…!」


照れと驚きが交差する。そんな司を見て、百枷はクスリと笑った。



「私はこの雑木林からは基本出られないんだ。学校も行けない。


…許可が下りれば出られるかも知れんが、下りたことはないな。私は小学校入学前からここに隔離されているから」



どこからの許可か。


そんなことは無知な司でも分かった。両親だ。



その両親は?



こちらの方も、予想は出来ていた。あの大豪邸だ。菜緒と共に村を回った際帰りに見た、珍しい苗字の謎の大豪邸『箱庭家』。菜緒はあの時、灯りがついているのを珍しいと言っていた事を司は覚えていた。


一体この箱庭家は何を背負っているのか?娘であろう百枷は、何故雑木林の中の小さな屋敷に隔離されているのか?


司には知る由もなかった。



「でも、小学校や中学校は義務教育だろう?それも行けないっていうのは……」

「良いのだ」


百枷は茶菓子に手を伸ばす。


「私に義務は関係ないのだ」


どら焼きの封を開けて、ぱくりと小さな口で一口齧る。そんな百枷の様子を伺いながら、司は先程の言葉の意味を考えていた。


「関係ないって………」

「関係ないのだ」


断固として言い張る百枷。

司は折れる事にして、目前の緑茶を手に取る。



「……ん?」


ふと、司は疑問を感じた。



この緑茶や茶菓子は、一体どのように仕入れているのか。

百枷は昨日、自分のことを知っているのは片手分の人数しかいないと言っていた。その中の一人なのだろうか?司はそれがだんだん気になってきたので、百枷に尋ねてみることにした。すると、


「ああ、私の身の周りの世話は全て兄がやってくれているよ」


と、意外な答えが返ってきた。



「…今日はよく驚かされる日だなぁ。百枷と一つ違いで、しかもお兄さんがいたなんて。

………いや、よく考えると僕、この村に来てからいろいろ驚かされっぱなしな気がする…」

「私は別に、好きで驚かしている訳ではないんだがな」

「ねえ、百枷のお兄さんってどんな人なの?」


聞いていい事なのかは分からなかったが、司は好奇心に勝てず百枷に聞いた。しかし意外にも百枷は、比較的穏やかな表情で、懐かしむように教えてくれた。



「兄は昔から大真面目な奴だった。外に出て駆け回るような少年ではなく、全て父親の言う通りに物事をこなし続ける、面白味に欠けるような少年だったよ。父親の方もきっと、自分の操るままに動く兄が可愛かったのだろう。とても甘やかしていたことを覚えている。


しかし、同年代からすれば気味が悪い生物みたいで、友人らしき人間と一緒にいるところは見たことがなかったな。


いつも仏頂面で本を読んだり勉強したり…とにかく子供らしくない子供だったよ。

そのおかげか、今は一流大学にも受かり、女に言い寄られる日々を送っているみたいだ」


思い出の世界から帰ってきた百枷は静かに目を開き、横で話を聞いていた司に目を向ける。



「……なんだ司?そんな神妙な顔をして」

「………だって、百枷……」



百枷は小学校に入る前から、こんな誰もいない寂しい所に閉じ込められているというのに、その兄は今一流大学で、当たり前かそれ以上の生活を送っているなんて。




「…神妙な顔にならない訳、ないじゃないか………」




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