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荘厳の絡繰人形  作者: 橘 春宵
第一章 都宮司と噂の幽霊少女
4/11




菜緒の村案内から一日経過した今日。


早くも司は、あの雑木林に行こうとしていた。



「菜緒さんには……気付かれていないよね」


菜緒は放課後になったにも関わらず爆睡中で、女の子の友人に叩き起こされそうになっている。

今のうちに教室を出れば勝てると、司は菜緒との謎のバトルでの勝利を確信した。


そうして、いそいそと司は教室を後にした。





「…確か、こっちだったよな」



先日の記憶を手繰り寄せ、なんとか不気味な噂の絶えない雑木林に辿り着いた。


「ううん…やっぱり、何か語りかけるような………」



『美しい女性の幽霊が——』




はっ、と菜緒の言葉がフラッシュバックする。


もし、もし本当にいたら?万が一、無事に戻って来れなかったら?

そんな不吉な考えが脳裏を横切る。




「……でも、僕は」



どうしてだか、そんな悪い奴じゃ、ないと思うんだ。



自らの口から発されたものに、司は心底驚いた。

しかし、怖くはなかった。



「はは……。誰か居ること、前提かぁ」


司は、雑木林へと踏み出した。




当たり前だが、雑木林の中には道などない。しかし司は迷うことなく、感じるままにすいすいと進んでいった。

空が見えない程に生い茂った多種多様な木々達は、誰かに手入れされるはずもなく、独りでに育ち続けている。


しかしある地点から、誰かが手入れしたかのような木が少なからず見られた。



確かに誰かが居る。でもそれは幽霊じゃない。


「やっぱり、普通の生きた人間なんだ………っ!」


司の身体の彼方此方に、痛々しい傷が増えていく。木の枝を掻き分けてどんどん進み続ける司の頬には、うっすらと汗が浮かび流れて、呼吸には乱れが出ていた。


しかし、肉体的な限界が近づく中でも、司の足が止まることはなかった。




やがて、舗装されたかのように歩きやすい、綺麗な道に出た。既に、司の予想は確信に変わっていた。あとはその女性が誰なのか、何故このような場所にいるのか、それを確かめたかった。


流れる汗が制服を濡らし、重くする。傷に染みて、通常よりも激しい痛みが司を襲う。


それでも司は諦めなかった。その行動力は、もはや狂気じみてすらいるようだった。




空が見える。

雑木林に入る前のような青空ではない、夕空だった。


最後と思われる木を越えたところで、足がもつれて転倒した。意識も徐々に遠のいていく。体が必死に酸素を取り込もうと焦り、呼吸がどんどん速くなる。



ごろん、と仰向けになった。


空が赤いなぁ、なんて当たり前の事を考えていた。


結局、僕は何をしていたんだろう?

急に冷静になって、重い瞼を下ろす。



同時に、どこからか襖を開けるような音が聞こえた。


相当疲れているんだな、僕。そんな音、聞こえるはず、ない、のに…………





そこで意識は途切れた。



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