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新科学怪機≪ギルソード≫   作者: Tassy
4.盲目少女と忠犬の絆 編
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・医療と福祉と《ギルソード》(4)




『〜東欧の戦地にて、我は救世主の使者として、医療による人命救済に徹することに、この生涯を捧げんと__


 敬愛する我が師レヴェリー=シュリーマンに誓おう__


 再歴689年、7月2日、ロベルト=へレンズケラーより〜』




 このメッセージと写真を目にした途端、リリーナの意識、視線と、その純粋な感性を一瞬にしてそれ等に奪われた。



 彼女のその反応を願っていたと思わんばかりに、医師の老婆のレヴェリーは、己が心傷を赤裸々に語りだす。




「もう、これは今から35年も前の写真です。


 この男性ロベルト=へレンズケラーは、後にシェリー=へレンズケラーの育ての親になりますが……


 その昔は、私と共に〈国際戦地派遣医師団〉の一員として各地を飛び回り、災害や紛争で傷ついた人々や子供達を治療し、助ける活動をしていました。


 ロベルトと出会ったのは、私の活動開始から18年目の事。


 彼は私の弟子であり、親友であり、私の最愛のパートナーでもありました__ 」




 レヴェリーは、その写真立てに移された過去を目に、物寂しげにそう語った。



 改めて、周辺の資材を見渡せば、戸棚以外にも、奥に眠る古びた机や床には、様々な機材が山積みにされていた。



 『人工眼球』の研究だけでない。独自に作成された『義手義足の設計図面』、それに関連した新型の《ギルソード》設計資料までが大量に存在する__


 

 この診察室が、一体どんな役割を果たしているのか、リリーナはようやく理解ができた。




「この一室は、私の担当する患者の診察室と共に、『医療福祉』の技術開発を発展させる重要機関__


 そして、亡き親友との誓いを果たす足掛かりの、大切な場所でもあるのです__!


 正義感と人情が人一倍強かった彼は、医療を通して全世界中のどこかで傷ついた人々、親や身体を奪われた子供達__



 彼等の心の深き痛みを、最新の医療で癒やし、奪われた健康や身体機能を取り戻すと、そう言い続けていました。


 恐らくは、彼が50歳近くの頃、大怪我で両目を失明した少女シェリーと出会ってから、その信念はより強固なものに変わっていったのでしょう……!


 そして、各地の医療活動と平行させて__


 ここが資料で溢れてるように、様々な地で、過去と現在、そして未来に繋げる医療テクノロジーを研究し、採掘し__


 後にこれらの『新型義肢』『新型ミクロ臓器』、そして《福祉型ギルソード》の開発成功に大いなる貢献、それを実績としてここに遺したのです……!」





「えっ!? 採掘って言いましたよね? それって……


 あの400年前の最終大戦や『西暦の終焉』以前に記録されていた医学技術までも……


 資料や痕跡を洗い出されていた……ってことですか!?」


 

 


「えぇ、その通りです。この時代に研究されている工学や医学の中には__


 事実上の世界崩壊、400年前の『西暦の終焉』__


 それ以前の時代では、すでに完成されていたり、現在よりも優れた技術も存在したという研究報告はありますが……


 資料の消失、偉大なる研究者の死亡を理由に、その立証すらままならない未知の技術も、数多に封じられていると仮説されています。


 ここで研究中の『人工眼球』もその1つです……!


 大戦前期には、この技術の完成形が存在していたそうですが、世界の崩壊以降は、その資料や記録はどこにも残されておりません。


 しかし、その関連技術を多方向から分析、応用に応用を重ね、この眼球の形状まで創り上げたのは、他ならない__


 生前のロベルトの功績に相違ないのです。


 あの日、シェリーを助けてから自爆テロで亡くなるまでの、最期の3年間__


 彼は、いつしか少女のその目に、陽の光が戻ることだけを願い続けて、この資材とデータ資料を仕上げ続け、そして命日直前で私に託しました。


 この診察室兼研究室は、私の思いだけではありません。


 亡き友ロベルトと、今尚も世界のどこかで、争いの傷に苦しむ人々や子供達の願いと祈りを紡ぎ続ける希望の種。


 『医療福祉』と《ギルソード》の開発技術を紡ぎ発展させる、その足掛かりの心臓機関にして見せると__


 私は日々考えているのです。


 その実現の為ならば、私は自らの生身の四肢も、身体の一部さえも、必要あらば喜んで差し出しましょう……!


 急にごめんなさいね? リリーナさん……!


 どうか貴女ならば、シェリーや私の患者達の大切な友となり、希望となってくださるだろうと__!


 お伝えさせて頂きたかったのでございます……!」




 

 レヴェリーは、自身の胸の内に秘める思いの全てを、リリーナに曝け出し、語り尽くした。



 こうして、長いようで短い時間であった。医師レヴェリーによる定期診察は、終了を迎えたのであった。

 



 ◇◇◇◇◇




 __時刻は午後15時手前。


 レヴェリーによる診察時間は、医療研究の話も含めて40分程は時間を要していた。



 相手方も時間は調整していたようで、それ程時間は経過していないが、あの老婆と話した40分という短い時は、リリーナにとっては、半日のように長く感じられた。


 診察を終えて、病棟の休憩所まで足を運ぶ間まで、リリーナの脳内からは、少女シェリーとロベルトの過去、そしてレヴェリーに見せられた資料の数々__


 彼女等の思い、少女の心の傷__

 

 あの短時間で聞かされた声と、見せられたあの光景が、彼女の脳の全てを支配しては、頭から離れなれなかった。

 


 休憩所へと歩き続けながら__


 彼女はただ俯かず、しかし表情に生気は見えず、暗く、光を閉ざしたような顔で、機械のように足を動かしていた。




(シェリーの希望になるだろうと……か。勿論そう、私は目の前で苦しんでる人は、自分がどうなろうと助けたい……


 そう思ってやまないし、これからもそうする。でも……


 あの話を聞いた後に改めて考えると、一層のプレッシャーと重圧が降り掛かるように感じる……


 本当に私は、あの子の希望に足る人間なのかな……


情けないよね……? 今さらこんな迷い……中東であんなに格好つけておいて……!)



 

 そんなことを、頭の奥でずっと考えているうちに__





「リリーナ先輩!? リリーナ先輩ですよねぇ!? キャハ〜♪ 良かったお会いできたっス〜!♪


 2ヶ月前の〈新都市マリューレイズ〉の救世主様に〜♪」




 垢抜けない幼気な少女の声がしたと思えば、目の前に現れた患者服の少女に左腕で抱きつかれる。




「ぅわっ!? あぁ……えっ? うん、そうです……私リリーナですけどぉ……」



 唐突な衝撃に、恐ろしく戸惑いながらも、冷静に前を見て自己紹介すると、目の前に立っていたのは、


 1つ歳下だろうか、身長160cm程の小柄で茶髪、赤色の瞳をした明るく爛漫な患者服の少女だった。



 距離が近く、目と鼻の先にいたので、顔だけで全体像がよく見えない。




「リリーナさん、お待ちしてました。無事に診察が終わってよかったです♪ お時間があれば、私達とお話しませんか?

 

 セイバーも、貴女に会いたがってたみたいです♪」



 奥のテーブル席から、そう活き活きと声をかけてくれたのは、あの盲目の少女、シェリーだった。


 彼女の足元で伏せていた、純白の盲導犬セイバーも、尻尾を左右に揺らしながら、こちらを眺めてくれている。




「あぁシェリーちゃん、待たせちゃってごめんね。退院前の定期診察だから、時間がかからないはずだったけど……」




 リリーナがシェリーに話しかけるや否や、目の前の爛漫少女が話を止めず、割り込んでリリーナの前に覆い被さる。




「いやぁ〜このお方がリリーナ先輩ですか〜♪


 前にシェリーから話も聞いてたんで、この私ラフィアスは会ってみたかったっスよ〜!


 まさか()()()()()()()()()()()に会えるなんて素敵〜♪」





「そうなの……ありがとう。あぁでも……! ここは病院だから静か……に……?? ねぇ……??」




 相手の距離感の近さに肝を抜かれつつ、2歩ほど下がって、少女に挨拶に答えようとした。


 その刹那__



 天真爛漫な少女の、見えなかった全体姿に、リリーナは唖然とし、血の気が引いてしまった。



 茶髪でお下げの長い少女は、その華奢で奇麗な左腕こそ、目を輝かせた顔の傍で、可愛げにバタつかせていたが……


 

 右腕がどこにも見当たらない__



 いや、肩から先が存在しない。纏っていた患者服の右の袖は、団子状に硬く結ばれている。



 過去に何が起きたのか、事故に見舞われたのか__


 

 強い疑問がリリーナの脳裏に走ったが、その姿を前に不躾にも驚愕が上回ってしまう。


 平常心を装い、辛うじて表情には出さなかったが、衝撃のあまりその場で硬直し、しばらく立ち尽くしていた。




 __そして、彼女の脳裏には、つい先刻に聞いたレヴェリーの言葉が再び浮かび上がる。




【どうか貴女ならば、シェリーや私の患者達の大切な友となり、希望となってくださるだろうと__!


 お伝えさせて頂きたかったのでございます……!】





 それは本当に、医学者レヴェリーがリリーナ自身に求めている願いなのだろうか__?




 しかし、少女の重圧や戸惑いなどに対し、現実はそれを知る由も、一切の配慮も無い。


 運命・因果は、ただ容赦なく時の歯車を動かす__




 この新たな出会いが、それを開始させる合図なのだと、リリーナには知る手段など、何1つ無かったのだ。


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