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新科学怪機≪ギルソード≫   作者: Tassy
1. 少年ユウキと闇社会の楽園 編
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第4章 暗躍と≪ギルソード≫ <上>(1)




 __路地裏の騒動が落着してから、約2時間が経過した。



 あれほど静粛としていたパレルモ市街の活力は、この短時間の内で見事に再生されていた。



 大通りでは通行人の他、露店の商人や大道芸人などが集まって賑わい、さらにはどこで身を隠していたのか、道端に踞る物乞いやコピー商品を扱う闇売人までもが、元の場所にその姿を現している。




「やっぱ……! この島の住民は大した度胸だよ!


 普通なら銃撃があった場所の近辺なんて、誰も寄りつかなねぇだろ……?」




 謎の男に狙われていたマフィアの令嬢ロザリアと共に、大通りに赴いたユウキは、思わず目の前の光景を疑っていた。




「はァ? 寝ぼけたこと言ってんじゃないわよ。


 マフィアの王国なのよここは!


 この街の人間は3人に1人は銃持ってるし、機関銃の乱射音くらい慣れてないと……!


 部屋に引きこもった挙げ句、ストレスで死ぬわ♪」




 ユウキを従えるように、彼の前を歩いていたロザリアは、繁華街で購入したジェラードを片手に食べながら、悠々と言って見せる。



 彼女もまた、つい先刻までは、命を取られる寸前まで追い詰められていたというのに、かなり平然として余裕を伺わせるので、それにも驚かざるを得ない。




「……ていうかお前、手足の怪我は大丈夫なのか? 一応さっき医者に見せたとはいえ、車椅子にでも乗って、安静にするべきじゃねぇのかァ?」




 ユウキが目線をロザリアの右足にやると、スーツに合わせる黒い靴下を脱いで、用心深く包帯が巻かれている。



 その上、彼女は痛々しくも若干それを引きずって歩いている。普通ならギプスぐらいは嵌めていてもいいはずだが……と、ユウキは思ったりもした。




「あぁこれ? こんなの痛み止めと抗生物質さえ飲んどけば、後は勝手に治るわよ。


 外科のジジイはギプス嵌めさせたり、左手も固定させようとしたけど、それだと生活が不便になるから、脅して断ったわ〜」




「成る程な……! もう色んな意味で、この島では世の常識が全く通用しねぇのがよく分かった……」





 ユウキは、呆れて溜め息をついた。



 その台詞に対する疑問点は山ほどあるが、一先ずは彼女はパワフルで体育会系な活発少女だろう、そう思うしかない。


 考えたら負けだ。と、ユウキは胸の内に思っておくことにした。





「……それより、また奴等に後ろから尾行されていないか、ちゃんと見ておきなさいよ! そのためにアンタを連れ歩いてるんだからね!」




「安心しろよ。俺も回りには気をつけているけど、尾行らしき人影は居なさそうだ!」



「よろしい! その調子で仕事してよね~♪」





 緊張感があるのかないのかは知らないが、彼女の人を使いっ走りとして見るような態度に、ユウキは腹が立った反面、どこか彼女の思考に納得していた。



 何しろマフィアの娘なのだから、図太い神経と相応の腹黒さ、そして度胸を持ち合わせてでもいないと、道端で死体が転がっているような闇社会など、とても渡ってはいけないのだろう。




「……ところでロザリアお嬢様? そろそろ俺のほうから質問をさせて頂きたいのだが?」



 

 ユウキは先手を打って口火を切ろうとした。




 何しろ、彼女のようなマフィアの関係者に付き従っている理由は他でもない。その裏に目的があるからだ。



 だが、闇社会に足を踏み入れるのだから、下手をすれば自身が道端に転がる死体になりかねない。



 そこに到達するには、まず手順を追う必要がある。第一の目標(ターゲット)は、彼女からの信頼といったところだろう。




「アンタの命を狙ってるその連中、あれ何なんだ?マフィアなんだから『何とかファミリー』とか名前があるんだろう?」




「何? マフィアの事情とか知ってんの?


 そうね、奴等は〈ヴェルニーニ=ファミリー〉というファミリーの一味で、このマフィア王国シチリア諸島で、NO.2(ナンバーツー)のファミリーよ!


 その上、連中は飛び抜けて気性が荒いの!」




 ロザリアは、再び辺りを見渡して警戒しながらそう言った。




「NO.2(ナンバーツー)? マフィアの中でも相当の権力と武力を持ってそうだよな〜! 弱い奴が目をつけられたらあの世行きってワケなの?」




「えぇ、まさしく大正解! まっ、でもNO.1(ナンバーワン)のファミリーは、私ん家の〈ヴィットーリオ=ファミリー〉なんだけどねっ!」




「マジ? 思いの他アンタもすげぇ家の血族なんだなオイ。で? 何でその連中がお前の命狙ってんだ?」



「えぇ……っと……確か私が襲撃された時に、奴等はこう言ってたわ。自分達の経営する客船が武装襲撃を受けて沈没したって……」




 ロザリアは、首をかしげて考えながら言った。


 それを聞いたユウキは、後ろめたさのあまり寒気を感じる。




「……あ、これやっちまったか……? ……いや待てよ? ……でもな〜んか事実と違っ……てねぇか? ん?」




「は? 事実? 何ブツブツと独り言を言ってんの?

 キモいわよアンタ……!」




「いや……? その襲ったマフィアの言った事が事実とは違うんじゃないかって……そうだろ?」




 襲撃はともかく、客船が沈没したことには心当たりがあったため、ユウキはつい思うことを口に出してしまったが、寸のところで誤魔化した。

 


するとロザリアは、何やら不安と焦りに駆られるように、その表情を曇らせる。




「でもね……別に何も不思議じゃないの……! 私が狙われてる、この事態すら……!」




「……どういう意味だよ? あんな騒ぎが日常茶飯事だって言いたいのかァ?」




「昔はね、もう大人の血生臭い権力争いで、無駄に殺し合いばっかりしてたのよ。


 それも、私が幼い頃までの話……!


 でも今は、シチリアの強豪ファミリー達が、これ以上の不利益な抗争はしないように__


 お互いの力をシチリアの繁栄と栄光のために注ぐことを約束に、平和と近郊を保つ目的で、ある戒律を創ったの。


 昔の風習に因んだ名の『血の掟』、単純でしょ?


私のお父さん、フランコ=ヴィットーリオの発案によってね……」




「はぇ? じゃあ何でアンタは今、あのゴミ共に狙われるハメになってんだ!?


 掟は? 『血の掟』はどこにいったよ!?」




「えぇ……それよ……」




ロザリアは、しばらくジェラードを口にするのを忘れていた。



 いつしか見せていた余裕はすでに伺えず、まるで悪い予感に感情を支配されるように、その顔を無表情で塗り固めて語っている。



 握っていたジェラードは、彼女の手の上で溶け始めている。




「一昔前のマフィアは知らないけど、今この時代のシチリアマフィアは、自分に有利な立場に着くなら手段を選ばないわ!


 結局のところ、お父さんの『血の掟』なんて上っ面だけ! 最初から誰も律儀に守る気なんて、微塵もなかったの!」




「オイちょっと待てお嬢様。そりゃ……!」




「それどころか、その『血の掟』さえも、皆を欺いて陥れるために創った、偽りの戒律かもしれない!!


 もし、今回の事件でお父さんが裏で糸を引いている事だってあり得る……!


 もう肉親でも仲間でも……闇社会の人間なんて……誰も信用できな……!」





 ついに、心の奥底に圧迫する思いを吐き出そうとした刹那、ユウキの冷たく尖ったような声が、ピシャリと彼女の耳を打った。




「……憶測ばっか言うもんじゃねぇよ! 確証のない妄想で肉親すら敵に回すのか? えぇ!?」




 彼の放ったその一言によって、ロザリアはふと我に返る。




たった今、自分は一体何を考えて言葉を発していたのか、それらを一つ一つ思い出すと、浅はかな自分の思考と行いに対して、酷い羞恥を覚えた。




「………そうよね……明確な状況さえ把握してないのに……私……何を口走ってたんだろう……」





 彼女はそう言うと、何とか自己の精神を安定させようと、その場で深呼吸をした。



 その様子を傍で見守っていたユウキは、冷静な態度で彼女に提案する。




「そういやアンタ、路地裏で襲われる前は、どこにいた?」



「……もういい加減ロザリアでいいわよ。


 ええっと……そうね!


 今マフィアの頭領達が、重要な会談のために、市街中心部の旧大聖堂カッテドラーレに集結してるの。お父さんもそこに居るわ……!」




「じゃあロザリア、一先ずはその旧大聖堂カッテドラーレに行こうじゃねぇか! アンタの予感や疑問が解決するだろうよ」




 ユウキのアドバイスによって、冷静さと安堵を取り戻したロザリアは、今の自分の目的と解決するべき問題を今一度再認識し、彼の提案に同意した。




「そうよね、何か……アンタを連れて良かった気がする……!」




 ロザリアはそう言って、ユウキの叱責に感謝の意を見せると、その提案に従い、彼と共に旧大聖堂カッテドラーレへ向かおうとした。



 しかし、ロザリアは直ぐにその足を止めた。



 こちらから投げかけるべき『肝心な質問』が、まだ残っていたのを思い出したからだ。



 あの路地裏で襲われてから、そしてユウキと知り合うまでの長い時間、それはずっと解消したくてたまらなかった、最大の疑問点__




「ねぇユウキ……? そういえば私、アンタに会ってからずーっと聞きたかったことがあるんだけど……!」




 ロザリアが口を開いた途端、ユウキは唾を飲んだように顔が引きつった。




「……まぁ聞いてみなよ。答えられる範囲でな?」




 彼の気前の良くない台詞を聞いて、ロザリアは『それ』を聞くのを辞めた。




「うん……! やっぱいいわ! ちょっとね……アンタの探してる《(モノ)》 について、聞いてみようと思っちゃっただけよ!」




「……!? まさかとは思うが……どこまで察しをつけてんだ……?」




 ユウキの心境が変化したのを、ロザリアは直ぐに察知できた。



 冷静なボディーガードとして振る舞っていた彼であったが、唐突に人の腹を探るような言葉を発してきたのだ。



 この時点で、この《(もの)》の件に関しては、人に知られてはならない重要機密だと、容易に想像ができる。




「……何言ってんの! それこそ(まさか)よ!


 さっきも言ったけど、私はマフィア共のやる事なんて、興味の欠片もないの!


 さっさと行くわよ! 旧大聖堂カッテドラーレに……!」




 ロザリアはうやむやに言い逃れると、痛みを忘れて、怪我をしている足をずかずかと前へ進めた。




 自分の内なる目的と野望の整理を、彼女はつい先程、改めて再確認したのだ。




 父親達シチリアマフィアが密輸入を試みる『兵器』の正体とその所有目的__



 あの東洋人の男が所有していた《寄生粒子体(きせいりゅうしたい)》とも言えるような異形の武器との関連性__


 少年ユウキを利用し、それを徹底的に調べ上げ、あわよくば島に訪れるべき真の平和のためにそれらを妨害する。




 __無論、絶対に他者から感づかれてはならない。




 この男の存在を駆使し、その野望を達成してやろう__




 ロザリアはそれを、胸の奥底で誓っていた。




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