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新科学怪機≪ギルソード≫   作者: Tassy
4.盲目少女と忠犬の絆 編
88/105

第35章 医療と福祉と《ギルソード》(1)



 ◇◇◇◇◇◇



 武装組織〈革新の激戦地(ヴェオグラード)〉最高幹部、フランツ=ロエスレルによる集団テロ事件から、約1ヶ月半が経過した__



 再歴273年「推定西暦2473年」、8月中旬___



 早朝から起床していたリリーナ=フェルメールは、すでに医療ベットから起き上がり、病室の窓から晴天の大空を見上げていた。



 戦闘直後に負った瀕死の大怪我は、この短期間による高速治癒技術の恩恵により回復__


 先代医療で全治7ヶ月と見込まれていた傷は、今は病院内を自足で往来できる程に治癒されている。


 全身の9割を覆っていた包帯やガーゼは、額と脇腹の一部、両腕と左足を残し、身体の包帯は着実に取れつつあった。





 __部屋の扉から、ノックの音が響く。


 ふと振り向けば、いつしかの女性看護師が、簡易医療具を乗せたトレーを持って入室する。




「おはようございます。リリーナ様! 本日はお早いお目覚めですね。朝の体温計測と、身体検査のお時間です。


 朝食はこの後にお持ちしますので、お食事後は9時より総合リハビリテーション室へお越しに__!」





「ありがとうございます。今日のリハビリテーションですが、本当にすみません。


 私のわがままで、急にプログラムの内容を変更したいなんて、言ってしまって……」




 顔を赤らめて申し訳なさそうに言いながら、リリーナは医療ベットに再び腰掛け、看護師から体温計を受け取る。





「別に私達は構いませんけど、本当に大丈夫なのですか?


 やっと傷が完治する手前のお身体で、かなり無理をされる内容じゃないですか! リハビリでも何でもありませんよ?


 今こそ、お怪我に触る可能性は低いとは思いますが、貴女はご自身の身体に鞭を打ちすぎです!


 また倒れますよ?! 本当に__!」 





 担当の女性看護師は、大きくため息をつきながら、ベッドテーブルに器具を乗せた銀トレーを置くと、リリーナの纏う患者服の胸元を外し、そっと聴診器を当て始める。



「………………」




 極度に薄い胸や腹に聴診器を当てられながら、リリーナはただ黙って、じっと窓辺の景色と、遠くの青空に聳えるビル群を、じっと見つめていた。


 窓の手前には、物置用のテーブルが置かれている。


 そこにずらりと並べられているのは、リリーナの様態を案じる仲間達からの、見舞いの品だった。


 

 果物のバケット、白百合やカーネーションの花束から化粧水まで__


 彩り豊かな品の山と、いくつもの直筆の手紙の束が置かれていたが、その6割は、幼なじみかつ大切な親友、ユウキ=アラストルから渡されたものだった。


 入院間もない頃、集中治療室で2週間程も眠り続けていたらしい。


 当時の心境が手紙で綴られていたが、その時のユウキの顔色は、想像を絶する程に蒼白していたという。



 その事を思い考える度に、無表情で口ずさんてしまうのは、本心から溢れる独り言__





「ずっとそうだけど、何を焦ってるんだろ? 私__

迷惑も心労もかけて、馬鹿なのは分かってるのに……」



「……? 何か言いましたか……?」




 何かを察知したように、女性看護師は聞き返すが__




「ううん、何でもありません♪ やっと日差しを肌で感じられるようになったし、目一杯身体も動かしたいな〜って♪」




 内に秘めた本心を隠した少女リリーナは、瞬時に空の愛嬌を顔面に打ちつけ、覆い隠すように微笑んだ。





「?……そう、それは良きことにございますね__ 」




 人の本音など、踏み込まぬが得策。


 そう思った女性看護師は、ただ黙したまま、少し汗で湿った彼女の腋に体温計を差し込む。




 この作業が終わるまでの間は、生温く冷めた無言の時間が、終始流れるだけだったが__


 その少女は、寂しく、悲しげな瞳で窓辺を眺めていた。






 ♢♢♢♢♢♢♢




 同日朝9時__


 軍立赤十字病院49階、総合リハビリテーション室__


 


 部屋で食事を取り、体調を十分に整えたリリーナは、自ら足を運び、定時通りこの場所へ赴いていた。


 軽く伸びをして、準備体操をしながら、彼女は己の関節機能や手足の動作状況を、1つ1つ、体感で確かめている__





 (うん、感覚や神経は何も問題無さそう! 易しめなリハビリ内容は窮屈だったけど、成果が現れて良かった__!


 朝食も美味しく食べれたし、穴だらけだった内臓も回復しているって、実感ができてる!


 これは、今確認する事項ではないけど__


 病院を出ようとする今、現時点での私の運動能力がどうなっているのか、気になって仕方がない__!)





 そんなことを頭で考えながら、首関節を曲げてパキパキと音を鳴らすと、背後から2人の男性の声が聞こえる。





「お待たせをして申し訳ないな! 【リリーナ姫】よ!」



「貴女様の希望なさる「特別メニュー」のご用意には、こちらも念入りな心構えと準備が必要だった故でしてな!」




 __声帯の太い猛者のような声に対し、リリーナは待っていたとばかりに微笑した。


 礼儀正しく、淑女らしい挨拶を供え、そちらへ振り向く。


 



「とんでもありません。私の我儘で、貴殿方をお呼び立てしているのですから__


 寧ろお忙しいのに時間を頂き、ありがとうございます!」




 礼を伝えた目線の先では__



 〈軍〉の中でも優れた〈特殊機動部隊〉の重装備を纏った大男が2人、揃ってリハビリ室へ足を踏み入れている。


 190cm程の身長、迷彩柄の軍服を覆うは硬い防弾ベスト、レギンズ、黒のヘルメット。


 彼等の両手には、1人は剣の如く長い漆黒の警棒。もう1人は、両手にPM5機関銃(マシンガン)2丁を立派に装備し、その銃口を、まだ患者服と包帯姿のリリーナへ向けている。




 その様相と絵面は、室外の外から硝子越しに見ていた療法師やリハビリテーション科のスタッフ達を震撼させた。

 

 少なくとも、これはリハビリテーション準備前の景観とは全くかけ離れた、戦場の光景__




 何よりも、外野を震えさせた事実は、最も輝かしく微笑んでいたのは、少女リリーナであったことだ。




「リリーナ殿! 覚悟はできてますな!? では参る!!」




「__どうぞ!」と、リリーナが声を上げる間もなく、大男が襲いかかってきた。




 図体に合わず、躊躇の欠片もない俊敏な動きで__


 少女の頭を潰さんと、大剣の如き巨大警棒を振り下ろす。



「__よし!」



 ほんの一瞬、リリーナがそう呟いたかと思えば__



 振り下ろした警棒は、リバビリ室の床を叩き割られる。だが彼女の姿は、すでに数十cm左前へとズレていた。



 __大男との距離は、僅か数cmの間合いにある。


 どの攻撃を繰り出そうと、何も躊躇など要しない。




「速……!? い……!?」



 僅かな間だが、大男が呆気に取られていた、刹那__



「____♪」



 微笑したリリーナの拳が、防弾ベストの腹に炸裂する。


 ただ一撃ではない。両腕から3発、右脚からの蹴りを2発__



 それを喰らわせたかと思えば……


 次の瞬間には、もう少女の身体は空中に飛び上がり、浮遊時に反転させていた。




 美しく、艶やかに、それでいて瞬く間に__


 その細脚が繰り出す空中回転蹴り(サマーソルト)が、武装メットで覆う男の顎を、見事に直撃させる__




「ぐぉわ………!? おォ………!!?」



 先手を打った手前の大男は、その場に倒れた。



 だが、息をつく間もなく__


 奥に控えていたもう1人の男が、少女を目掛けて銃口をかまえる。




「隙あり………!!」



 間髪入れず__


 凄まじい銃声を立てて、男の銃は弾を乱射させる。


 

 無論、あくまで戦いの訓練だ。実弾を放ったわけではない。正体は赤色の小型カラーボール弾である。




「…………っと!」




 咄嗟にリリーナは、倒れた大男の手元から太く槍のような警棒を取り上げ、刹那__



 弾の起動を直視し、振り上げ、翳し、回転させ__



 自身の身体には決して触れさせないよう、警棒を振り回して銃の乱射を防御する。




「クッ!? 流石は過去のクーデターの生き残り!?」




 不意に男が声を漏らしたが刹那、目の前の少女は、防御で終わらせはしなかった。


 弾を弾き飛ばし、身のこなしで避け、急接近したかと思えば、気がつくと正面に存在しない。



 瞬時に警棒を突っ立てると、棒高跳びの如く、真上に高く飛び跳ねると、再び空中を可憐に舞う__




 すでに着地点が目に映る。

 銃を構えた男、その頭上だ__




「何っ!? まだ弾は……!!」


「遅いです! 《創造する(ズィミウルギア・)脳操槍剣(ブレインセイバー)》__!!」




 大男の図体に着地する寸前__


 リリーナの右手にからは刃渡り80cm程の、長く、細い紅色の《剣》が出現する。



 これは彼女の大脳連動能力兵器(ブレイン=ギルソード)、《創造する(ズィミウルギア・)脳操槍剣(ブレインセイバー)》の変形機構のうちが1つ、《細剣形態(サーベル):サンセベリア》__


 __その者の巨体に掴み、乗り掛かって倒した時には、鉄屑の落下音はしたが、2丁の強力な機関銃(マシンガン)は、もう手元には存在しない。



 リリーナの右手の《剣》で__

 目で追えるか否かの俊敏なる剣撃で__


 2丁のそれは、バラバラの、鉄製の破片となった姿で、その周囲に散らばっていた。





「恐れ入った……! 完敗ですなぁ。いくら《ギルソード使い》とはいえ、常日頃から鍛錬を重ねる我等〈特別機動部隊〉を瞬殺なさるご実力とは……!」




 床で大の字に横たえながら、清々しく語った大男の目に映るは、自らの巨体に馬乗りになり、


 顔面に紅色の細剣《細剣形態(サーベル):サンセベリア》を突きつけて、誇らしく微笑むリリーナの姿だった。



「いえ、そちらこそ見事なお手前と連携技! 私も学ばせて頂きました__!」




「しかし、綺麗な目をしておられる……! 貴女様が《能力》を振るわれる際に変化するという、戦乙女の《瞳》……!


 一度は拝見したいと、思うておりましたわ__!」




「えっ……? あぁ! 今の私の目、《紅色》に光ってますよね……! 人前に晒すのは慣れないです……この顔……!」




 少し顔を赤らめるリリーナをよそに、そのまま大男達はまじまじと、少女の変わり果てた《瞳》を眺め続ける。



 その眼球をよく覗けば、普段の愛らしい緋色の瞳ではない。人間の持つ自然体とは程遠く、機械的外観__


 艶やかに、妖しく彩る紅色の眼光。

 電子回路の掘られた自動人形の如き虹彩と、純白の瞳孔。

 

 リリーナが《ブレイン=ギルソード》を発動させる際、大脳に埋められた《ナノマシン操作・制御装置》と視覚神経の細胞が〘ミクロ配線〙で連動されて変化する《瞳》。



 それが《粒子器発動の覚醒瞳(ブレイン=アイズ)》__


 彼女の《ブレイン=ギルソード》発動と同時に変化するその《瞳》は、相手の所有する《ギルソード》の情報や、


 一般人には目に見えない、普段の透明状の《ナノマシン》を目視で捉えたりできる。


 極めて特殊な《覚醒瞳(アイズ)》__



 その目は今も、軍組織内の者達からは時に親しまれては、時に軽蔑され、時には恐れられていた。



 

(__正直、この力が私に宿ってから、ずっと辛くて苦しい記憶しか残っていない。


 人間離れした機械人形の目つき、自身で制御さえできなかった殺傷能力__


 こんな《能力(ギルソード)》を植えつけて、脳や身体を無理矢理に改造した貴方が、本当に憎くて怨めしいよ__


 ねぇ、私達を捨てて、貴方は一体何をしているの__?


 Dr.(ドクター)グナイスト__!)





 どこか空想に耽り、放心状態となったリリーナは、そのままの姿勢で、しばらくは架空の景色を見続けていた。



「あの……リリーナ様? どうかなされたか?」



 少女に押し倒されたままの大男は、不安げに声を掛けた。

 彼女の様子を伺うなり、悩み込んでいると察したのだ。


 この時のリリーナの放心した様相は、死んだ目つきで動作はしない。見る者からすれば、精神状態を疑われるだろう。

 



 そんな彼女の自我を元に戻したのは、背後からの、少女にとって実に馴染み深い、ある男性の声。





「__何を思い悩んだ顔してるのかな? まずは、その男の人が困っているから、一度そこから退いた方がいいよ♪」




「……へ? うわぁあ!? エ……エヴァンズ先生!?」




 声を聞くなり、少女は驚き慌てて大男の巨体から飛び上がって、声のする後方を即座に振り向いた__



 真後ろの至近距離には、長身で白衣と茶髪と身体中の火傷痕が目立つ30代前半の優男、


 あの、地下の《ギルソード》開発研究所所長にして、軍立病院の医師をにも務める〈軍〉上層部少佐、


 エヴァンズ=ヴァスティーユの姿が目前にある。



 彼女が気がつかないうちに気配を消して、真後ろの至近距離にまで迫っていたのだ。




「別に無理に気を張ることはないよ? もう ここは戦場じゃないし、数週間前なんて、君は集中治療室で意識すらなかったんだから__!


 でも良かった。回復おめでとうリリーナ! もう脳で《ブレイン=ナノマシン》を精巧に、問題なく操れるまで__!


 体力も気力も、今や十分に取り戻した訳だ♪」




 エヴァンズはにっこりと微笑んみながら、傷のないリリーナの左頬と、《剣》を携える彼女の細い右腕に、それぞれ自分の両手で触れた。


 


 そして、少女の紅色と白い眼孔が輝く《粒子器発動の覚醒瞳(ブレイン=アイズ)》の眼を__


 リリーナが所有する能力、《創造する(ズィミウルギア・)脳操槍剣(ブレインセイバー)》の機能状態を、爽やかな眼光でまじまじと観察する。




「あぁ……はい。ありがとうございます! 先生方の懸命な治療のお陰で、動けるようになりました……!」




 __と、リリーナは少々恥ずかしげに礼を伝えたが、気配の察知が不覚にも遅れたと、内心では悔しがっていた。



 だが彼もまた、そういった特殊な暗躍技術を習得し、稀に軍の特殊機動隊等の鍛錬に携わっているのは、関係者の誰もが知っていたのだ。



 かつて地下の孤児院〈雛鳥の宿〉にて、引き取った子供達に過酷な暗殺訓練を強いていた、共犯者の1人だったという経歴さえも__


 


「__成る程? うんうん、ありがとう! 問題ない!


 この《ブレイン=ナノマシン》も、脳の《MN(ナノマシン)演算制御装置》も、正常に連動できているよ! 何より君の精神も安定している。


 でも、身体の方が、まだ心配だ!


 ただでさえ過酷なリハビリだったのに、加えて君も少し無理に身体を動かしていただろう?


 長く接してるから、リリーナの性格は知ってるよ! だから、その負担が不安要素でね!


 元気そうだけど、念の為にあと2日は精密検査と経過観察を行おう。そこで異常がなければ退院だ! いいかな?」




「はい、ありがとうございます! もう少しだけ、お世話になります。エヴァンズ先生!」




 純粋で爽やかな笑顔を取り戻したリリーナは、右手の《細剣形態(サーベル):サンセベリア》を《粒子ナノマシン解除》して解き放ち、その手から剣を手放した。

 


 そして同時に、彼女の紅色に発光した機械人形の瞳、《粒子器発動の覚醒瞳(ブレイン=アイズ)》は、元のそれ__


 髪と同じ緋色で、無垢であどけない、人間の少女の(まなこ)に元通りになっていた。




 

「あぁそれと、午後の診察なんだが、僕は軍の上層部から大事な召集を命じられてねぇ__!


 カルテと紹介状は渡しておいたから、今日は代理のレヴェリー=シュリーマン大先生に、君の診察をお願いしたよ。


 医師でもあるが、主に医療福祉の技術開発に長けた専門家でねぇ、僕もよくお世話になっている。


 義肢や時の駆動実験では、()()()()()()()()()をやるって噂だが、別に悪い人じゃない。

 

 安心して診てもらうといい。宜しく頼むよ〜♪」





 エヴァンズは微笑みながら言うと、メモ書きのようなプリントをリリーナに手渡すと、鼻歌を奏でながらリハビリテーション室を去っていった。





 (レヴェリー大先生……? 初めて聞いたお名前だけど、そんな先生がいらっしゃったんだ? でも医学界では有名な人なのかな……?


 ていうか……あの……えっ……狂気じみた??


 今の言葉……すごく恐怖を感じる発言だけど……??)





 膨大な戸惑い緊張で発汗作用さえ感じながらも、リリーナは右手のプリントを確認する__



 それは彼の直筆による、診察室までの案内地図だ。雑な線で正直見辛いが、記号が多い分、まだ理解は容易だろう。

 


 残る不安要素は、診察医の人物像くらいなものだ__ 



 彼女はしばらくの間、その場で棒立ちになったまま、この拙い手書き地図を睨み続けていた。

 





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