・人造の悲劇、運命の糸(3)
◆◆◆◆◆
__【再歴272年「推定西暦2472年」】8月21日。
人工島〈新都市国家マリューレイズ〉地下機密研究室__
「……すごい。一体何なのですか? この力は……?
セイバーの《誘導器具》に触れただけで、この子の全てが、私の脳に流れ込んでくる……!
思考……血脈……鼓動……まるで私達の身体が2つに重なって、お互いに共有し合ってるみたい……!」
少女の言葉を聞いた瞬間__
齢75の女性軍事科学者、レヴェリー=シュリーマン少佐は、久しく感じ得なかった興奮と期待に、胸の高鳴りを覚えていた。
目の前では、実験対象である盲目の少女シェリー=ヘレンズケラーが、彼女の補助犬であるセイバーの、その身に着けられた金属に触れながら、自身の内に現れた変化を、身に沁みて感じ取っている。
少女の全身と、白銀の洋犬セイバーのそれは、
まるでダイヤモンドの光の輝きに包み込まれるような__
色艶やかなる淡藤色の光の膜、《ナノマシン・オーラ》の発光粒子に覆われていた。
「えぇ、実験は見事に成功。祝福しますよ。貴女達は今、新たな能力を手にしたのです。
正確には、貴女達の身体に《ギルソード》を植え付けました。
またの個体名、《深層読解の共鳴体器具》をねぇ__!」
「《キルソード》……? 《深層読解の共鳴体器具》?」
「まず説明は前者の方から、《ギルソード》の誕生は今から400年前の世界大戦時代の最中__
天才軍事科学者『アルスダート=ギルソード』は、
戦争の集結と、人類の新たな革新を望み、新たな【化学物質】と、武器の束縛から人々を開放するための、【人造生成の能力】の開発に成功しました。
その物質は後に【《ナノマシン》粒子】、そして能力は【《ギルソード》】と呼ばれるようになるのです__!」
「それが《ギルソード》? 『アルスダート』って人は、
人を救うために、こんな《力》を創ったのですか?」
「まさか、そんな綺麗な話、この世には存在しませんよ?」
シェリーの反応が呑気に聞こえたのか、レヴェリーは声色を変え、冷徹な口調で解説を始めた。
「彼は軍事科学者。この驚異的な発明は、本人の真の意志はどうあれ、結局は軍事兵器として《ギルソード》は完成されていったのです。
《ギルソード》の最大の強みは、それを生成・構築する《ナノマシン》粒子の1つ1つが人造のN・PC。
従来の武器では実現不可能であった機能・技術・現象が、《ギルソード》の技術で実現される。
故に、1つの拳銃から重火器・核武装まで、あらゆる軍事力も《ギルソード》の前には無力__
ついには、それを体内に宿した1人の人間自体が、都市や国の1つを滅ぼし、ついには世界のあらゆる領土を灰にしてしまった。
話がお分かりですか? シェリー=ヘレンズケラー?」
レヴェリーはそう語りながら、少女の服装の上から、胸元の中央を指で突く。目が見えない分、シェリーの全身に小さな衝撃と、大きな血脈が走り、心臓が震え出す。
「かつて世界を崩壊に追いやった《力》と同じそれが、貴女の身体に今、埋め込まれ、宿っているのです__!
力の使い方次第では、《生体兵器》ですよ? 貴女は!」
「……ぁ……!? ぇ………!?」
息が詰まり、シェリーは全身の血圧が上昇し、動悸に襲われ、身体が硬直していくような感覚を覚え始める。
今まで自分は言いくるめられ、騙されていたのか__
軍事兵器の実験体として、自身は連れ込まれたのか__
その動揺は、手元に握る《共鳴体器具》の能力を通じて、忠犬セイバーにも伝わっていた。
【クゥ……ゥン……ヒィン……】と、小さな鳴き声を立てて、少女を宥めるように、湿った鼻を近づける。
次の瞬間、レヴェリーは柔らかな声で語りを続けた。
その言葉が、シェリーの迷いを誓いに変える__
「心配なさらずとも、貴女にそんな物騒な物を植える理由はありませんよ? 大切な旧友、ロベルトの最愛の娘にね?」
「…………。………はっ!」
一瞬でも、シェリーは自身の誓った選択が間違ったかと疑ったが、レヴェリーのこの一言は彼女の目を覚まさせた。
己が脳を震わせ、亡き義理の父ロベルトの優しい言葉、触れた温もり、そして別れ日の約束を、鮮明に呼び覚ます。
(__そうだ! 私がこの人達に着いていって、ここへ来た理由は、お義父様との約束を果たすため__!
明日を生きられなかった人達と、私と同じ境遇の子供達の、希望になること__!)
シェリーは唇を噛みしめ、そしてレヴェリーに己の本心を打ち明ける。
「レヴェリー先生! どうか教えてください! 私達のこの《能力》は、《深層読解の共鳴体器具》は__!
今を苦しむ人達を笑顔にできますか!?
彼等の心を救えますか!?
希望になれますか!?
それが叶うなら、私はどんな努力だってします! だからこの《力》の事、もっと知りたいんです!!」
刹那、レヴェリーは唐突なシェリーの叫びに呆気にとられたが、再び口元を緩め、思わず笑い声を上げた。
「フッ! アハハッ__! なんだか生前のロベルトを見た気分ですわね。
その熱血さは父親譲りなのかしら__!
当然ですよ。貴女に与えた《ギルソード》は、軍の兵器としての開発されたものではありませんからね。
新たに『医療・看護・福祉貢献』、それ等のさらなる発展を目的に製造されたのです。
鉄や銀・銅は、刃物や武器だけの素材ではない。
食器や医療器具、それ等が人の暮らしを支えたり、命を救ったりもするでしょう?
それと同じ事です。ですが__!
その具体的な使い道は、それを手にした当の本人が、その答えを定めるべきかと、私は思うのですよ__!」
レヴェリーはそう言うと、徐ろに少女の足元に伏せる白い忠犬、セイバーの頭に手を置いた。
陽気に振り回す尻尾に同調して、そっと撫で始める。
「貴女達の《能力》は、触れた者の心や精神・健康状態を把握、そしてセイバーと共有するもの__!
基礎情報なら、貴女の頭に擦りこまれているはず。
シェリーさん? 貴女は私の身体に対して、どこか違和感を感じたりしませんかな?」
(__違和感。 あぁ、そういうことか__!)
レヴェリーの問いに対する答え、その身体に関する全て、シェリーもセイバーも共々、言われずとも熟知していた。
寧ろ問われる前から、疑問を切り出すか否かと躊躇していたが、その問いの返答として、やっと切り出せる機会を得る。
「はい、レヴェリー先生、お聞きしようと思っていました。
今もセイバーの頭を撫でられているので、この子の心や思考を通じて分かります。
先生の両腕両足、肌が硬質で血脈さえ感じません。やはりその四肢は機械なのですか?」
シェリーはそう答えては、真相を確かめるべく、その右手をレヴェリーの座る方であろう前方に手を伸ばした。
その腕を差し出されたレヴェリーは、セイバーの額を撫でるのを止めて、シェリーの細く小さな手を握ってやる。
(………!? やっぱりだ……すごく硬い……!)
シェリーが老婆レヴェリーの身体に直接触れたのは、これが初めてである。
その体温の無い手に触れた少女は、悪い感情だと理解しつつも、この老婆に対する若干の恐怖感と、例え難き不気味さを、つい本能で感じてしまった。
「__えぇ、御名答よ。素晴らしい成果だわ。
この《GS能力》の使い方は完璧に、貴女達の脳内へ転移入力されています。
私も元は軍人でしたからね。前の激戦地で、この四肢は任務遂行の為に捧げたようなものです。
私は、今の貴女の心は読めないけど、どうです?
この身体に触れるのは、少し怖いかしらね?」
「あっ……いえ……! 別にそんな……!」
自身の心を見抜かれたようで、シェリーはつい心情の後ろめたさに否定し、本心を誤魔化した。
だがレヴェリーは、何ら気に止める様子もなく、少女等に思想を語り続ける。
「さて、シェリー=ヘレンズケラー! そしてセイバー!
この《深層読解の共鳴体器具》の能力により、貴女達は、触れた者の心情を読み取るという、特異稀なる《力》を得られたのです。
使用目的は本人次第ですが、その能力は恐らく、外科医療から精神医療、メンタルケア、医学や福祉分野において、未知数の可能性を切り開くでしょう__
無数の人々の人生と運命が、その手で変えられるのです。
目の治療研究が整う間ですが、シェリーさんには、よりそれを実現させるための訓練を受けて頂き、その力を役立てて欲しいのです。
多くの人々の未来が託されています。お願いできますね?」
__新たなレヴェリーの問いに対し、シェリーは答えを迷う必要などなかった。
「はい! お願いします! レヴェリー先生! そして、私に是非やらせて下さい! セイバーと一緒なら私は!!」
【…………………!!】
己が道に迷いのない盲目少女と、主の傍に仕えし忠犬。
その勇敢かつ大きな意志を表した返答と姿勢に、レヴェリーの胸は感化さえ覚えていた。
ようやく装置台の上から立ち上がったシェリーは、この感情と永遠に忘れないと、心に誓ったのだ__
◆◆◆◆◆
〈新都市国家マリューレイズ〉軍立福祉支援施設__
この場を生活の拠点とし、新たな人生を設計する最初の1年、シェリーにとっては、それがまるで足らない程に、瞬く間の如く過ぎ去っていく__
軍立の大病院が傍に建つこの場所で、セイバーと共に、今後の暮らしに適合した部屋を用意され彼女は、
平日日中は軍設立の特別支援学校に通いながら、年相応の中学級学習に加え、深層心理学から初級医学の自主学習も重ねて、一層の努力と情熱を勉学に注いでいた。
ならば、週末や夜の時間は、流石に休息を取るのかと思えば、彼女はそうではない。
隣の軍立大病院へセイバーと共に赴いては、様々な患者と触れ合い、面談に立ち会い、彼女達の《能力》で身体の容態や精神状態を《共有》しては、彼等の心に希望を灯す__
そんなシェリーの活動努力は、医療現場に大きく貢献し、医師や看護師、カウンセラー達から称賛されていた。
その功績は当然、少女の主治医であるレヴェリーの耳に、真っ先に伝えられる。
2人が面会する時間は頻繁であり、週1回の目の診察と、少女の希望で実施される、時間の合間にレヴェリー自らが教授する、3日に一度の特別授業の時である。
今や師匠として尊敬するレヴェリーに会うその時間が、シェリーにとっての、最も至福な一時であった。
そんなとある日の、特別授業の終わり際でのこと__
「シェリー、貴女の自主的な病院での活動報告は、様々な医療スタッフから聞いていますよ。
私もなんと嬉しいことでしょう。まるで自慢の孫娘を称えられているようですわ__!」
__夜の就寝時間が近づく中、授業の最後にレヴェリーが告げたのは、少女の努力に対する賛美の言葉だった。
今や先生と呼び、心から敬い慕う彼女からのその言葉は、シェリーの心に一層の栄養を齎し、活動への熱意がふつふつと込み上がっていく。
「そんな……! 私にはもったいないお言葉ですよ。
ただ私はセイバーと一緒に、病気や怪我で辛い思いをしている人達を、少しでも楽になって欲しいから……
この授かった《ギルソード》の力を、私なりの使い方で、どうしても役立てたかったのです。
《能力》の使い道によっては、自分が殺戮兵器になる。なら私は、この力を人の心を癒やすために使いたい。
故郷のパパやママや友達、今の私を導いてくれたロベルトお義父様、天国の皆と私との『約束』ですから……!」
「……本当に心優しい子。やはり貴女を《ギルソード使い》に選んだ判断は、正しかったのだわ……!
ならば私も……貴女と、亡き友人ロベルトとの約束を果たさないといけませんね……!
貴女に対して、少々情に背く行為だとしても……!」
「レヴェリー先生……?」
シェリーは少々困惑する。
レヴェリーの声が、何かを覚悟したように険しく、不穏な程に低いそれだったからだ。
少女が心で感じる不安は、《深層読解の共鳴体器具》を通して、足元に伏せる忠犬セイバーにまで、感覚が共有されて伝わっていく。
「ごめんなさい、シェリー。少し貴女の瞼に触りますね?」
「あの……先生? ……痛ァ!」
断りを告げるものの、その行動は目の見えぬ少女の立場からは、一方的かつ、無理矢理だと言えるものだった。
困惑し、身構えるシェリーに構わず、レヴェリーは彼女の左瞼を機械の指でこじ開ける__
「やはり……駄目ですか。回復は見込めませんね……!
これまで貴女には、採血による汚染細胞の研究から、幾通りの抗ウィルス剤を投入してきたのですが……!」
そう悲しげな顔で呟いたレヴェリーの目には__
赤黒い血液と、そして灰色の禍々しいに侵食された、かつては水色に輝いていたであろう、シェリーの死した眼球が映し出されている。
8年前に負傷し、人口の細菌兵器に侵されて以来、その眼は光を少女に齎しはしない__
「やはり、シェリーさんの視力を蘇生させるには最早、その眼球を治癒することは、諦めるべきかもしれません__
その『眼球』其の物を、再び生み出すか、生き返らせる他はないでしょう。
まだ、可能性の範囲内に過ぎませんが__?」
「あの、何の話ですか……? 痛いのでもう……」
段々と耐え兼ねる苦痛に、シェリーは口元を歪めて静止を求める。
すると、瞼をこじ開け続けていたレヴェリーは、無言に「ごめんなさい」と冷淡に告げると、その左目から指を乱暴に突き放した__
そして即座に、少女に背を向けて顔を見せないまま、次にレヴェリーは、残酷な欲求をシェリーに浴びせる。
「シェリーさん? 医師と患者との間には、治療に当たって、医師が必要性を明確にし、互いに理解了承を得るという、
『imformed content』と、過去伝統の誓約がありますが__
貴女の瞳の完全治療は、我が亡き友への誓いなのです。
そのためならば、誓約無視し、傲慢かつ非情、医師失格とも言える手段で、私は治療を強行するでしょう__ 」
「……それは……お義父様との誓いですか?」
「はい、故に……単刀直入に申します。明後日の診察治療、
軍立病院の手術室にて、貴女の眼球を摘出します。片目、あるいは両目とも__
場合によっては治癒を諦めて、新たな義眼技術の開発に切り替えることにもなりましょう。
シェリーさん、果たさせてください。私の……死に別れし友との、最後の【約束】を__!」
レヴェリーはそう確認を取ったが、元よりシェリーに拒否権を与えるつもりなどなかった。
故人との誓約は、場合によっては束縛にもなる__
義理の親であり、命の恩人であるロベルトの名を語ることによって、彼女の同意を合理的に得ようとした。
心優しく純粋なこの少女が、拒否しないなど承知済みだ。
「……分かりました。見えないとはいえ、自分の身体の一部が失われるのは、この上なく怖いです……
でも私は、天国のお義父様を信じています。
そして、セイバーを託して下さった。レヴェリー先生を信じています。
だから……この目を……私は………」
「__素直でいい子ね。ロベルトが羨ましいわよ」
答えを出したシェリーの震えた声は、レヴェリーの期待通りであった。
その老婆は、再度シェリーにゆったりと近づき、今度は優しく頭を撫でてやる。
【………ウゥルルル………! グルルル……!】
少女の隠している恐怖心を、どこかで《共有》され、感じているのだろう。
少女を思い、その足元で威嚇ふる忠犬セイバーをよそに、老婆レヴェリーは、まるで善意を刷り込むように、しばらくシェリーに触れ続けた。
__眼球の摘出手術は、この2日後に施行された。
◆◆◆◇◇
___数奇な運命を負わされた盲目の少女シェリーは、
《ギルソード》という未知なる願望機と可能性に触れ、新たな物語を繰り広げる__
その経緯を綴った過去の語りは、ここで終わりを告げる。
一度は光を奪われた彼女は、新たな地で、未知なる人生をその手で形成しようとする。
だが、真の過酷な運命は、未来に訪れようしていた。
時間は流れるように過ぎ去り、物語の時系列は、再び現代へと移り変わる__
◆◆◇◇◇◇
そして時は、過去から現在へ__
再歴273年「推定西暦2473年」、7月下旬___
(作者の一言←という名の言い訳)
お読み頂きまして、本当にありがとうございます。
えー、、多忙につき執筆が間に合わず。。
。。致し方なく区切って投稿しました♨
いい加減さっさと本編また書き始めますんで、、付き合って頂ける肩は、ほんのすこし。。まっててくせませんか?テヘペロッ(←☓ねよ☓ソ作者)




