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新科学怪機≪ギルソード≫   作者: Tassy
4.盲目少女と忠犬の絆 編
86/105

・人造の悲劇、運命の糸(3)



 ◆◆◆◆◆



 __【再歴272年「推定西暦2472年」】8月21日。


 人工島〈新都市国家マリューレイズ〉地下機密研究室__




「……すごい。一体何なのですか? この力は……?


 セイバーの《誘導器具(ハーネス)》に触れただけで、この子の全てが、私の脳に流れ込んでくる……! 


 思考……血脈……鼓動……まるで私達の身体が2つに重なって、お互いに共有し合ってるみたい……!」




 少女の言葉を聞いた瞬間__


 (よわい)75の女性軍事科学者、レヴェリー=シュリーマン少佐は、久しく感じ得なかった興奮と期待に、胸の高鳴りを覚えていた。

  

 目の前では、実験対象である盲目の少女シェリー=ヘレンズケラーが、彼女の補助犬であるセイバーの、その身に着けられた金属に触れながら、自身の内に現れた変化を、身に沁みて感じ取っている。


 少女の全身と、白銀の洋犬セイバーのそれは、


 まるでダイヤモンドの光の輝きに包み込まれるような__



 色艶やかなる淡藤色(ライラック)の光の膜、《ナノマシン・オーラ》の発光粒子に覆われていた。




「えぇ、実験は見事に成功。祝福しますよ。貴女達は今、新たな能力を手にしたのです。


 正確には、貴女達の身体に《ギルソード》を植え付けました。

 またの個体名、《深層読解の(サイコメトリア・)共鳴体器具(ライフハーネス)》をねぇ__!」




「《キルソード》……? 《深層読解の(サイコメトリア・)共鳴体器具(ライフハーネス)》?」




「まず説明は前者の方から、《ギルソード》の誕生は今から400年前の世界大戦時代の最中__


 天才軍事科学者『アルスダート=ギルソード』は、


 戦争の集結と、人類の新たな革新を望み、新たな【化学物質】と、武器の束縛から人々を開放するための、【人造生成の能力】の開発に成功しました。


 その物質は後に【《ナノマシン》粒子】、そして能力は【《ギルソード》】と呼ばれるようになるのです__!」




「それが《ギルソード》? 『アルスダート』って人は、

 人を救うために、こんな《力》を創ったのですか?」




「まさか、そんな綺麗な話、この世には存在しませんよ?」




 シェリーの反応が呑気に聞こえたのか、レヴェリーは声色を変え、冷徹な口調で解説を始めた。




「彼は軍事科学者。この驚異的な発明は、本人の真の意志はどうあれ、結局は軍事兵器として《ギルソード》は完成されていったのです。


 《ギルソード》の最大の強みは、それを生成・構築する《ナノマシン》粒子の1つ1つが人造のN・PC(ナノ・コンピューター)


 従来の武器では実現不可能であった機能・技術・現象が、《ギルソード》の技術で実現される。

 故に、1つの拳銃から重火器・核武装まで、あらゆる軍事力も《ギルソード》の前には無力__


 ついには、それを体内に宿した1人の人間自体が、都市や国の1つを滅ぼし、ついには世界のあらゆる領土を灰にしてしまった。


 話がお分かりですか? シェリー=ヘレンズケラー?」




 レヴェリーはそう語りながら、少女の服装の上から、胸元の中央を指で突く。目が見えない分、シェリーの全身に小さな衝撃と、大きな血脈が走り、心臓が震え出す。




「かつて世界を崩壊に追いやった《力》と同じそれが、貴女の身体に今、埋め込まれ、宿っているのです__!


 力の使い方次第では、《生体兵器》ですよ? 貴女は!」




「……ぁ……!? ぇ………!?」



 

 息が詰まり、シェリーは全身の血圧が上昇し、動悸に襲われ、身体が硬直していくような感覚を覚え始める。


 今まで自分は言いくるめられ、騙されていたのか__

 軍事兵器の実験体として、自身は連れ込まれたのか__


 その動揺は、手元に握る《共鳴体器具(ライフハーネス)》の能力を通じて、忠犬セイバーにも伝わっていた。


 【クゥ……ゥン……ヒィン……】と、小さな鳴き声を立てて、少女を宥めるように、湿った鼻を近づける。



 次の瞬間、レヴェリーは柔らかな声で語りを続けた。


 その言葉が、シェリーの迷いを誓いに変える__




「心配なさらずとも、貴女にそんな物騒な物を植える理由はありませんよ? 大切な旧友、ロベルトの最愛の娘にね?」




「…………。………はっ!」




 一瞬でも、シェリーは自身の誓った選択が間違ったかと疑ったが、レヴェリーのこの一言は彼女の目を覚まさせた。


 己が脳を震わせ、亡き義理の父ロベルトの優しい言葉、触れた温もり、そして別れ日の約束を、鮮明に呼び覚ます。





(__そうだ! 私がこの人達に着いていって、ここへ来た理由は、お義父様との約束を果たすため__!


 明日を生きられなかった人達と、私と同じ境遇の子供達の、希望になること__!)




 シェリーは唇を噛みしめ、そしてレヴェリーに己の本心を打ち明ける。


 


「レヴェリー先生! どうか教えてください! 私達のこの《能力》は、《深層読解の(サイコメトリア・)共鳴体器具(ライフハーネス)》は__!


 今を苦しむ人達を笑顔にできますか!?


 彼等の心を救えますか!?


 希望になれますか!?


 それが叶うなら、私はどんな努力だってします! だからこの《力》の事、もっと知りたいんです!!」




 刹那、レヴェリーは唐突なシェリーの叫びに呆気にとられたが、再び口元を緩め、思わず笑い声を上げた。




「フッ! アハハッ__! なんだか生前のロベルトを見た気分ですわね。


 その熱血さは父親譲りなのかしら__!


 当然ですよ。貴女に与えた《ギルソード》は、軍の兵器としての開発されたものではありませんからね。


 新たに『医療・看護・福祉貢献』、それ等のさらなる発展を目的に製造されたのです。



 鉄や銀・銅は、刃物や武器だけの素材ではない。

 


 食器や医療器具、それ等が人の暮らしを支えたり、命を救ったりもするでしょう?


 それと同じ事です。ですが__!


 その具体的な使い道は、それを手にした当の本人が、その答えを定めるべきかと、私は思うのですよ__!」




 レヴェリーはそう言うと、徐ろに少女の足元に伏せる白い忠犬、セイバーの頭に手を置いた。


 陽気に振り回す尻尾に同調して、そっと撫で始める。





「貴女達の《能力》は、触れた者の心や精神・健康状態を把握、そしてセイバーと共有するもの__!


 基礎情報なら、貴女の頭に擦りこまれているはず。


 シェリーさん? 貴女は私の身体に対して、どこか違和感を感じたりしませんかな?」




 

 (__違和感。 あぁ、そういうことか__!)




 レヴェリーの問いに対する答え、その身体に関する全て、シェリーもセイバーも共々、言われずとも熟知していた。


 (むし)ろ問われる前から、疑問を切り出すか否かと躊躇(ちゅうちょ)していたが、その問いの返答として、やっと切り出せる機会を得る。





「はい、レヴェリー先生、お聞きしようと思っていました。


 今もセイバーの頭を撫でられているので、この子の心や思考を通じて分かります。


 先生の両腕両足、肌が硬質で血脈さえ感じません。やはりその四肢は機械なのですか?」




 シェリーはそう答えては、真相を確かめるべく、その右手をレヴェリーの座る方であろう前方に手を伸ばした。


 その腕を差し出されたレヴェリーは、セイバーの額を撫でるのを止めて、シェリーの細く小さな手を握ってやる。




 (………!? やっぱりだ……すごく硬い……!)




 シェリーが老婆レヴェリーの身体に直接触れたのは、これが初めてである。


 その体温の無い手に触れた少女は、悪い感情だと理解しつつも、この老婆に対する若干の恐怖感と、例え難き不気味さを、つい本能で感じてしまった。




「__えぇ、御名答よ。素晴らしい成果だわ。


 この《GS(ギルソード)能力》の使い方は完璧に、貴女達の脳内へ転移入力(インプット)されています。


 私も元は軍人でしたからね。前の激戦地で、この四肢は任務遂行の為に捧げたようなものです。


 私は、今の貴女の心は読めないけど、どうです?


 この身体に触れるのは、少し怖いかしらね?」




「あっ……いえ……! 別にそんな……!」




 自身の心を見抜かれたようで、シェリーはつい心情の後ろめたさに否定し、本心を誤魔化した。


 だがレヴェリーは、何ら気に止める様子もなく、少女等に思想を語り続ける。




「さて、シェリー=ヘレンズケラー! そしてセイバー!


 この《深層読解の(サイコメトリア・)共鳴体器具(ライフハーネス)》の能力により、貴女達は、触れた者の心情を読み取るという、特異稀なる《力》を得られたのです。


 使用目的は本人次第ですが、その能力は恐らく、外科医療から精神医療、メンタルケア、医学や福祉分野において、未知数の可能性を切り開くでしょう__


 無数の人々の人生と運命が、その手で変えられるのです。


 目の治療研究が整う間ですが、シェリーさんには、よりそれを実現させるための訓練を受けて頂き、その力を役立てて欲しいのです。


 多くの人々の未来が託されています。お願いできますね?」





 __新たなレヴェリーの問いに対し、シェリーは答えを迷う必要などなかった。




「はい! お願いします! レヴェリー先生! そして、私に是非やらせて下さい! セイバーと一緒なら私は!!」



【…………………!!】




 

 己が道に迷いのない盲目少女と、主の傍に仕えし忠犬。




 その勇敢かつ大きな意志を表した返答と姿勢に、レヴェリーの胸は感化さえ覚えていた。



 ようやく装置台の上から立ち上がったシェリーは、この感情と永遠に忘れないと、心に誓ったのだ__

 



 ◆◆◆◆◆




 〈新都市国家マリューレイズ〉軍立福祉支援施設__



 この場を生活の拠点とし、新たな人生を設計する最初の1年、シェリーにとっては、それがまるで足らない程に、瞬く間の如く過ぎ去っていく__




 軍立の大病院が傍に建つこの場所で、セイバーと共に、今後の暮らしに適合した部屋を用意され彼女は、


 平日日中は軍設立の特別支援学校に通いながら、年相応の中学級学習に加え、深層心理学から初級医学の自主学習も重ねて、一層の努力と情熱を勉学に注いでいた。



 ならば、週末や夜の時間は、流石に休息を取るのかと思えば、彼女はそうではない。



 隣の軍立大病院へセイバーと共に赴いては、様々な患者と触れ合い、面談に立ち会い、彼女達の《能力》で身体の容態や精神状態を《共有》しては、彼等の心に希望を灯す__



 そんなシェリーの活動努力は、医療現場に大きく貢献し、医師や看護師、カウンセラー達から称賛されていた。




 その功績は当然、少女の主治医であるレヴェリーの耳に、真っ先に伝えられる。



 2人が面会する時間は頻繁であり、週1回の目の診察と、少女の希望で実施される、時間の合間にレヴェリー自らが教授する、3日に一度の特別授業の時である。


 今や師匠として尊敬するレヴェリーに会うその時間が、シェリーにとっての、最も至福な一時(ひととき)であった。



 そんなとある日の、特別授業の終わり際でのこと__





「シェリー、貴女の自主的な病院での活動報告は、様々な医療スタッフから聞いていますよ。


 私もなんと嬉しいことでしょう。まるで自慢の孫娘を称えられているようですわ__!」

 




 __夜の就寝時間が近づく中、授業の最後にレヴェリーが告げたのは、少女の努力に対する賛美の言葉だった。



 今や先生と呼び、心から敬い慕う彼女からのその言葉は、シェリーの心に一層の栄養を齎し、活動への熱意がふつふつと込み上がっていく。





「そんな……! 私にはもったいないお言葉ですよ。


 ただ私はセイバーと一緒に、病気や怪我で辛い思いをしている人達を、少しでも楽になって欲しいから……


 この授かった《ギルソード》の力を、私なりの使い方で、どうしても役立てたかったのです。


 《能力》の使い道によっては、自分が殺戮兵器になる。なら私は、この力を人の心を癒やすために使いたい。


 故郷のパパやママや友達、今の私を導いてくれたロベルトお義父様、天国の皆と私との『約束』ですから……!」




「……本当に心優しい子。やはり貴女を《ギルソード使い》に選んだ判断は、正しかったのだわ……!


 ならば私も……貴女と、亡き友人ロベルトとの約束を果たさないといけませんね……!


 貴女に対して、少々情に背く行為だとしても……!」




「レヴェリー先生……?」




 シェリーは少々困惑する。


 レヴェリーの声が、何かを覚悟したように険しく、不穏な程に低いそれだったからだ。


 

 少女が心で感じる不安は、《深層読解の(サイコメトリア・)共鳴体器具(ライフハーネス)》を通して、足元に伏せる忠犬セイバーにまで、感覚が共有されて伝わっていく。




「ごめんなさい、シェリー。少し貴女の瞼に触りますね?」

 

 

「あの……先生? ……痛ァ!」




 断りを告げるものの、その行動は目の見えぬ少女の立場からは、一方的かつ、無理矢理だと言えるものだった。


 困惑し、身構えるシェリーに構わず、レヴェリーは彼女の左瞼を機械の指でこじ開ける__




「やはり……駄目ですか。回復は見込めませんね……!


 これまで貴女には、採血による汚染細胞の研究から、幾通りの抗ウィルス剤を投入してきたのですが……!」



 そう悲しげな顔で呟いたレヴェリーの目には__


 赤黒い血液と、そして灰色の禍々しいに侵食された、かつては水色に輝いていたであろう、シェリーの死した眼球が映し出されている。


 8年前に負傷し、人口の細菌兵器に侵されて以来、その眼は光を少女に齎しはしない__




「やはり、シェリーさんの視力を蘇生させるには最早、その眼球を()()()()ことは、諦めるべきかもしれません__


 その『眼球』其の物を、再び生み出すか、()()()()()()他はないでしょう。


 まだ、可能性の範囲内に過ぎませんが__?」




「あの、何の話ですか……? 痛いのでもう……」




 段々と耐え兼ねる苦痛に、シェリーは口元を歪めて静止を求める。



 すると、瞼をこじ開け続けていたレヴェリーは、無言に「ごめんなさい」と冷淡に告げると、その左目から指を乱暴に突き放した__


 そして即座に、少女に背を向けて顔を見せないまま、次にレヴェリーは、残酷な欲求をシェリーに浴びせる。




「シェリーさん? 医師と患者との間には、治療に当たって、医師が必要性を明確にし、互いに理解了承を得るという、


imformed (インフォームド)content(コンセント)』と、過去伝統の誓約がありますが__


 貴女の瞳の完全治療は、我が亡き友への誓いなのです。


 そのためならば、誓約無視し、傲慢かつ非情、医師失格とも言える手段で、私は治療を強行するでしょう__ 」




「……それは……お義父様との誓いですか?」




「はい、故に……単刀直入に申します。明後日の診察治療、


 軍立病院の手術室にて、貴女の眼球を摘出します。片目、あるいは両目とも__


 場合によっては治癒を諦めて、新たな義眼技術の開発に切り替えることにもなりましょう。


 シェリーさん、果たさせてください。私の……死に別れし友との、最後の【約束】を__!」




 

 レヴェリーはそう確認を取ったが、元よりシェリーに拒否権を与えるつもりなどなかった。


 故人との誓約は、場合によっては束縛にもなる__



 義理の親であり、命の恩人であるロベルトの名を語ることによって、彼女の同意を合理的に得ようとした。


 心優しく純粋なこの少女が、拒否しないなど承知済みだ。





「……分かりました。見えないとはいえ、自分の身体の一部が失われるのは、この上なく怖いです……


 でも私は、天国のお義父様を信じています。


 そして、セイバーを託して下さった。レヴェリー先生を信じています。


 だから……この目を……私は………」




「__素直でいい子ね。ロベルトが羨ましいわよ」




 答えを出したシェリーの震えた声は、レヴェリーの期待通りであった。


 その老婆は、再度シェリーにゆったりと近づき、今度は優しく頭を撫でてやる。



【………ウゥルルル………! グルルル……!】



 少女の隠している恐怖心を、どこかで《共有》され、感じているのだろう。


 少女を思い、その足元で威嚇ふる忠犬セイバーをよそに、老婆レヴェリーは、まるで善意を刷り込むように、しばらくシェリーに触れ続けた。




 __眼球の摘出手術は、この2日後に施行された。


 




 ◆◆◆◇◇



 ___数奇な運命を負わされた盲目の少女シェリーは、

 

 《ギルソード》という未知なる願望機と可能性に触れ、新たな物語を繰り広げる__


 その経緯を綴った過去の語りは、ここで終わりを告げる。



 一度は光を奪われた彼女は、新たな地で、未知なる人生をその手で形成しようとする。



 だが、真の過酷な運命は、未来に訪れようしていた。



 時間は流れるように過ぎ去り、物語の時系列は、再び現代へと移り変わる__




 ◆◆◇◇◇◇




 そして時は、過去から現在へ__


 再歴273年「推定西暦2473年」、7月下旬___





(作者の一言←という名の言い訳)


お読み頂きまして、本当にありがとうございます。


えー、、多忙につき執筆が間に合わず。。


。。致し方なく区切って投稿しました♨


いい加減さっさと本編また書き始めますんで、、付き合って頂ける肩は、ほんのすこし。。まっててくせませんか?テヘペロッ(←☓ねよ☓ソ作者)

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