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新科学怪機≪ギルソード≫   作者: Tassy
4.盲目少女と忠犬の絆 編
85/105

・人造の悲劇、運命の糸(2)



 ✳✳✳✳✳✳✳✳✳


 シェリー様からのご返信を頂いた後に、2ヶ月後にお迎え致します。


 良きお返事と、勇敢なるご決断をお待ちしております。


〈新都市国家マリューレイズ〉、軍事治安維持組織〈戴冠の女王軍(マリー・ルイーズ)〉福祉技術責任者、少佐__


 レヴェリー=シュリーマンより__


 ✳✳✳✳✳✳✳✳✳




 ……と、点字で綴られたこの手紙が少女の手に届いてより、早1ヶ月が経過。



 補助の介護士の執筆を通して、シェリーと相手先である〈新都市国家マリューレイズ〉の役人レヴェリーとかいう人物の文通は、未だに続いていた。

 


 また、ある昼下がり__


 昼食を終えたシェリーは、習慣として庭園のベンチに座って、介助犬セイバーと休息を取りながら、再度相手先から返送された手紙の返事を、指で点字を追って解読していた。





 ✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 拝啓、シェリー=へレンズケラー様へ__



 正直、貴女様からは、こんなにも早くにご決断のお返事を頂くとは、思ってもいませんでした。


 さて、シェリー様よりお返事を頂くてより、まもなく1ヶ月が経過致します。旅立ちの荷造りと御心の準備はお済みでしょうか?


 ご出発の日には、私レヴェリー自らと、護衛兵2人の同行にてお迎えします。それまで、この忠犬セイバーの面倒見の程、何卒宜しくお願い致します。


 特殊なる【総合介助犬】として、常に主人の傍にお仕えし、後にこちらでの生活を迎えられるべく、生涯に渡り必要な【存在】となるのですから。



 シェリー様と忠犬セイバーとで、

 一心同体の《ギルソード使い》となって頂くために__

 

 

 ※追伸:この文書内容は、我が国の機密事項であります。貴女様お1人がお読み頂き、他言無用に願います。



 レヴェリー=シュリーマンより__



 ✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳





「《ギルソード使い》……? 私とこの子は、あの地で一体……どんな存在になる……のかな……?」

 


 

 シェリーは若干の不安を覚えながらも、傍でずっと座っている忠犬セイバーの頭をそっと撫でていた。


 他言厳禁の機密事項、《ギルソード》__



 手紙に記された内容によると、それは未だ世界に明かされていない、最新科学技術の結晶体らしいが、本当にその正体が何なのか、さっぱり理解が追いつかない。



 だが相手先も、それを考慮してか、先日に封筒書面として、それを説明する詳細資料を同封してくれていたのだが、


 読んだところで、素人のシェリーには、とても理解できる代物ではない。実物の判明は、現地で確かめるに限るということだろう。




「いい子ねセイバー。ここでじっとしてくれていて……!


 大丈夫、私は自分の選択に後悔なんてしないよ。だって、私の目が治るかもしれないし、それに__


 その間だけかもしれないけど、役に立てるんだよね!


 私以外の、目や耳とか……身体が不自由な人達が、心から安心して生活できる技術を〈新都市国家マリューレイズ〉っていう国は、一生懸命に研究している__!


 私が頑張れば、この身体でデータが取れて、研究が成功して、多くの人が救われる。


 そんなチャンスが巡ってきたと思うと、私はロベルトお義父様の言う通り、今まで生きてきて良かったと思う__!


 それに、セイバーが一緒なら、私は怖くないよ__♪」


 



 __曇りの1つもない表情と声で、シェリーには忠犬セイバーに誓うように言った。




【………クゥン♪】




 忠犬セイバーは、撫でられる心地良さに、目を細めて和やかな声を溢す__



 意図が伝わらなくとも、彼女にはどうでもよかった。


 この選択がどのような結果を生み出そうが、セイバーが傍にいるだけで、その困難にさえ立ち向かえる気がすると、シェリーの胸は、勇気と高揚に満ち溢れていた。


 


 __しばらくすると、付き添いの女性介護士が、黒く大きなスーツケースを片手に、シェリーに声をかける。



「あらシェリー? まだセイバーと中庭にいたのね?

今、旅の支度がやっと整ったところよ。


 必要な荷物は、ちゃんとこのケースに纏めておいたから、安心してね。それにしても……寂しくなるわ。

 

 もうお別れなんて……でも貴女が決めた道なのよね!」




 女性介護士の目には、少々の涙が浮かんで、今にも零れそうだった。その心境は、ここで務めていた施設の関係者達も、皆が同じそれであった。




「ありがとうございます。本当にお世話になりました。

  

 この子が来てくれたおかげで、私は自分の人生を、やっと歩き出せる。そんな勇気をくれたんです。


 私はこれから、争いや災害で今日を生きられなかった人々の、せめてもの希望になって生きるんだって__


 私、お義父様との約束、ようやく果たせそう__!」




 忠犬セイバーの額を撫でながら話すシェリーの言葉には、すでに覚悟が込められていた。


 嘘偽りなど何もなく__


 その上、少女のその新たな決意は、誰も止められるものではないと、すでに周囲の誰もが確信していた。





 ◆◆◆◆



 

 __僅かな月日は流れるように過ぎ去り、約束された旅立ちの日は、早くも訪れる。



 【再歴272年「推定西暦2472年」】8月下旬__



 手紙に記された約束の通り、例の相手先である〈新都市国家マリューレイズ〉からの迎えの使者が3名、自ら足を運び、シェリーの待つこの施設へと姿を見せた。




 しかし、到着するや否や__


 彼等を視界に入れた施設の職員達が示した反応は、その異様さから表れる戦慄と警戒心であった。

 




「オイ……何だよあの婆さんの姿!? どこぞの国の技術か!? 完全に手足が機械のそれじゃねぇか!?」




「それに……あの後ろの2人は護衛兵かしら……!? 異常に図体が大きくて恐ろしいわ……?


 雰囲気も普通の人のそれじゃない……!


 見るからに危なそうよ!? とにかく! 他の入居者や子供達を室内の安全な場所へ……!!」




 恐れ戸惑う留める施設スタッフ達の視点の先には、シェリーを迎えに来たであろう使者が道をゆく。


 見るからに軍人であろう、3人全員緑と黒に色を染めた軍将校服を纏っている。


 そのうち2人は身長190cm前後の大柄な肉体の男達。


 もう1人は75歳程の老婆だが、周囲の者達を不安に陥れていたのは、彼女だけが放つ、最も異様な様相であった。



 年齢につり合わない170cm程の高身長、癖毛の強い白髪に高く尖った鼻__


 そして視線の的は、軍服の上に羽織る白衣から覗く両手、下半身の裾と革靴の隙間から見える両足。


 肌ではない。黒く硬質な素材、明らかに機械のそれ__


 義肢の両手両足、その内部の大型機材が大型が、この老婆の高身長に影響しているのだろう。





「おやおや? 何を恐れているのだろうねぇ? ここの施設の大人達は? まぁ無理もないかい?


 ここがいくら市街からの離れとはいえ、この戦乱に満ちた世の中じゃあ__


 こんな軍隊の雰囲気纏った人間が往来したとあっちゃ、心安らぐ地なんて存在しないだろうねぇ?」




「そりゃ無理もないでしょうなァ! レヴェリー少佐!


 郊外の田園地帯は、市街地の領土や民族紛争から疎開した避難者の集落でさァ!


 都会で血と地獄を見てきた分、俺等みたいな軍人や戦争屋からの防衛本能は、並の倍以上に優れてんでしょうや!」




「あぁ成る程ねぇ? 納得できる話じゃないか……!」




 戦慄を覚える群衆をよそに、その老婆と兵士達は平然としてその反応を嘲り、邪魔者を散らせようと声を張る。




「さて、ギャラリーの見物は満足したかい? 野次馬さん方や! 何も臆病な大人達に用事なんてありゃしないよ!


 未来の福祉に身を捧げるようとする勇敢な少女、

 シェリー=ヘレンズケラーと、その忠犬セイバー!


 私達は少女の英断を称え、彼女等を迎えに来たのですよ。

 我々が誇る、軍の《最新技術》を携えてねぇ__!」




「「………? ………!?」」




 老婆の堂々とした声明に、周囲の施設フタッフ達は未だ3人を信じられず、困惑して互いの顔を向かい見やっていた。




 あの者達と共に行くと決断したのは、他でもなくシェリー本人ではあるが、いざ現れれば、風貌も恐ろしい連中に差し出すなど、彼女の将来に恐ろしい不安を過ぎらせる。



 そう施設の職員達が悩んでいた矢先、場の流れを即座に一変させたのは、当人の少女の一声であった__




「すみません、レヴェリー=シュリーマン少佐……で間違いありませんか? 私です、シェリー=ヘレンズケラーです!


 手紙を頂いてから、ずっと貴女様を待っていました!」



 

「__えぇ、そうですよ? 貴女が例の勇敢な娘様かい?」




 老婆達の前に現れたのは、全ての旅支度を整えて正面玄関まで赴いた、シェリーという長髪小柄な盲目の少女。


 身長は155cm程度、長靴に隠れる細足、赤茶色の長い髪は背中を覆い、白いワンピースと襟袖付きジャケットに包まれた身体は、一層彼女の華奢なそれを際立たせる。

 

 光を映さず、不自然にゆらめく暗い瞳は、よく見れば、ルビーの宝石の赤色の輝きを帯びて美しい。


 少女の様相は、どこか弱々しくもあるそれ__


 しかし、その立ち姿は想像よりもずっと凛々しく、胸に秘めた覚悟を、その強ばる表情から感じさせた。

 


 彼女の左手はハーネスを握る。その傍らは、それを装着された大型の洋犬、雪原の如く純白なホワイトスイスシェパードが、足並みを揃え、静かに付き従う。



【……………!】



 総合介助犬として訓練され、少女の元へ送られたが、その風格は騎士のそれ__

 

 忠義を示すように、少女の傍を微動だにせず、身を盾にするが如く、ずっと前方に立ち塞がっては、周囲を見張り続けて隙を与えない。




 それ見やった軍服義肢の老兵将校、レヴェリー=シュリーマンは、高揚に満ちた眼差しで微笑んだ。


 胸の奥で歓喜すら感じられる。


 【初見の印象】こそ、実に期待通りであったと__





「おぉなんと! ずっと会いたかったですよ? 


シェリー=ヘレンズケラーさん! 貴女様のこれまでの経緯は、旧友のロベルトから全て伺っております。


 此度の勇敢なるご決断、物怖じしない立派な立ち姿、義父の生前の魂と信念が、貴女に受け継がれているようですわ」




「ほ……本当に!? お義父様を知っているのですか!?」





「えぇ、よく知ってますよ。40年も前ですが__!


 亡き父ロベルト=ヘレンズケラーを私は共に医療技術者として、世界の都市や紛争地を飛び回っておりました。


 頑固だけど我を顧みないお人好しな性格は、あの頃から何も変わっていなかったわ。


 

 __もう20年近く疎遠だったけど、彼の突然の死を聞いたときは気が触れかかってしまったの。


 その時は在住先の国も、クーデターで内政が混乱していたから葬儀すら出られなかった。寂しくて辛かったわ。


 死後に彼の遺言状が見つかって、書いてあったのよ。


 愛娘のシェリーを宜しく頼む。とね__ 」





「お義父様……! 知らなかった……! あの人は私の生涯の恩人なのに……私はあの人の事を……何も知らないまま……!」




 動揺したシェリーは瞼から涙を伝わせ、右手で己が胸の襟元を握ったまま、しばらく掴んで離さなかった。



 そんな少女の心情を察した老婆レヴェリーは、ゆっくりと彼女の元へ歩み寄り、「少々顔に触れますよ」と一言告げて、涙に濡れる少女の頬をそっと撫でる。




「彼の言う通り、本当に純真で素直な良い子なのですね。


 自身を攻める必要はありませんよ。


 自分の心境を晒すのが苦手な人でしたから。でも私からは、これだけは伝えさせて下さい__



 貴女と出会った3年間、彼は人生を懸けて、貴女の目を完治させる医療開発・研究に没頭していました。


 その道は、至極苦難であったでしょう__


 しかし、戦前の旧暦時代で実在した技術録が焼失した今、並の設備や研究環境では、最早その実現は不可能です。


 __ですから、貴女の義父ロベルトは、僅かな希望を私共に託したのです。


 貴女の幸せを願って、ね___ 」




 少女の頬に触れるレヴェリーの義手は、止め処なく溢れるシェリーの涙で濡れていった。


 そんな主人を気遣う仕草か__


 傍にいた忠犬セイバーが、泣いている彼女を慰める仕草か、『クゥン』と鳴き声を1つ小さく響かせる。




「さて、私達がこうしてあなたを迎えに上がったのは、ロベルトの最後の望みのためです。


 必要なのは、シェリー、貴女の歩み出す勇気ですよ。


 先行きは長いですが、私達は貴女の目の治療に尽力を注ぐと約束します。


 その代償となりましょうが、貴女は今苦しむ子供達の未来のために、その身体を捧げる覚悟はおありですか?」




 老婆の問いに対し、シェリーの答えに揺るぎはなかった。


 涙を拭うのを忘れ、少女は誓うように本心を告げる。




「行きます! 私は旅立ちます__!!


 お義父様と約束したんです! 出会った時、私はパパもママも、大切な友達も、この目の景色も失いました!!


 絶望して、喉を搔き斬って死のうとした時に__!


 お義父様は命を救ってくれました。そして__


 約束したんです!!


 【戦争で死んでしまった。明日を奪われ生きられなかった人々の、希望になって生きてくれ】と……!


 その約束を……私は果たさなきゃいけないんです!!」




 __それは迷いのない、渾身の叫びであった。



 つい数分前までレヴェリー達一行を恐れていた周囲の者達は、その愚直な思考を悔いてか、シェリーの勇敢なる決断に胸を打たれてか、次々に己が涙を抜くっていく__



 

「なんと立派な決意。ロベルトも誇りに思うでしょう__ 」




 レヴェリーはそう呟くと、義手の掌を少女の頬から、少女の右腰にある、忠犬セイバーの白い額にそっと添える。





「お前を、この娘に預けて本当に良かったわセイバー。


 シェリーはお前が仕える主、彼女を宜しく頼みますよ!」




【………♪】




 レヴェリーの思いを受け止めたのか、彼女に優しく撫で下ろされたセイバーは、目を細めて心地良い微笑みを見せた。



 __出発の時が訪れる。


 やっと涙を拭いたシェリーは、右手のハーネスを固く握り締め、共に過ごし、自身を見守ってくれた施設のスタッフ達に、経顔を浮かべ別れを告げた。




「皆さん、本当に長年の間、お世話になりました。


 ここから私は、私の選ぶ道を歩み出します。1人じゃないですし、ずっとセイバーが一緒です!


 何が起きようと、私達は共に乗り越えますから__!」




 その言葉を最後に、少女シェリーと忠犬セイバーは、老兵レヴェリーや護衛兵達と共に、施設の門を背に歩み始める。




 世話役の女性2人は送迎に付き従ったが、彼女の言葉と、その後ろ姿に、誰一人として引き止める者などいなかった。




「シェリー! 元気でやるんだぞぉぉ!」


「ご飯、ちゃんと食べるんだよ〜!」





 大人達は彼女の門出を祝い、別れを惜しみながらも、その小さな背中に敬意を評し、声援を上げて見送った__




 

 ◆◆◆◆◆




 新たな人生を歩み出した旅の道中__




 今までのそれとは大きく違った緊張と、これまで感じ得なかった胸の高まりが、シェリーの心を突き動かしていた。



 施設を離れた彼女等は、レヴェリーの手配した車で、都心郊外から1時間程移動した後。


 リスボン港から大型客船に搭乗し、宿泊設備の整った船内で、2泊3日を海上で過ごしつつ、大西洋のほぼ中央に位置する人工島、《新都市国家マリューレイズ》を目指していた。




 開いた車窓から流れ込んだ田園地帯の緑の香り__


 船のデッキから吹き抜ける海風__




 視覚で味わえない代わりに、それ等を肌で感じながら__


 遠くへ離れ、未知の世界を旅している感覚を、少女は全身の肌で感じ取っていた。



 しかし、いくら覚悟を決めていたとしても、己が身に降りかかるであろう、未知なる未来に対する強い不安心労は、どう努力しても、拭い切れはしなかった。



 科学技術の被験体となって、身を捧げる__


 この迫り来る前代未聞の事象が、脳裏に浮かんで消えては、呼吸が乱れ苦しくなり、胸の動悸を抑えられなかった。



 そんな彼女にとって、この上ない心の支えこそ__

 


 その傍らから決して離れない、忠犬セイバーである。


 彼女が不安な様子を見せる度、まるで激励の言葉を掛けるかのように、小さな鳴き声を上げた。

 


 【クゥ……ヒンッ……!】



「……セイバー? 励ましてくれているの? ありがとう。


 ごめんね……? 情けない姿を見せちゃって……!


 自分が選んた道なのに、なんで心のどこかで、私はこんなにも不安がっているのかな……?


 でも……もう大丈夫だよ!


じゃないと天国のお義父様に、きっと叱られちゃうし。君と一緒だから、私は勇気を出せたんだよきっと__ 」



 【…………!】



 シェリーとセイバーが触れ合う様相、それはレヴェリーをはじめ、旅路の道中に付き添う者達に、癒やしと安らぎを与えていた。




 __客船内で3日目を迎えた早朝。


 展望デッキで佇んでいたレヴェリーとその部下達は、海の遠くから、微かに聳えたビルの大群を目に眺めていた。




 人工島《新都市国家マリューレイズ》の姿が、ようやく目の前まで迫り来る__




「ようやく帰ってきたわね。我々の本拠地に__!」




 この旅の疲れが出ていたか、思わず老婆は呟いた。船が進むにつれて、500m級と高い高層ビルの景観は、段々と本来の巨大な姿に変わっていく。



 世界大戦により国家機能が静止した〘西暦の終焉〙より400年が経過した時代、旧アメリカ大陸や東アジアでは、この都市景観は当たり前のように存在していた。


 その全ては戦火で焼かれ去った今__


 まるで、この人工島の都市こそは、過去の繁栄を写した事実をここに再現された、現代に託されし遺産のようである。

 



「……あ、レヴェリーさん? おはようございます。海風が強いですね、ずっとデッキにいらっしゃったのですか?」



「あらシェリーさん? 今日も朝早いのですねぇ♪」




 挨拶に答えて振り向くと、身支度を整えたシェリーと、彼女をハーネスで誘導する忠犬セイバーの姿があった。


 レヴェリー達を探して、デッキまで上がってきたのだ。




「丁度良かったわ。後2時間程で、目的地に到着します。


 港に到着してから、軍の研究所にまでは、それ程時間は掛かりません。寧ろあっという間ですよ。


 それまでには、心の準備をも、全て終えてくださいね?」




「………レ……レヴェリー……さん?」




 レヴェリーの柔らかな声、それとは真逆に語られた言葉は、シェリーの心臓をは、ほんの少々締め付けられた。




 ◇◇◇◇◇



 __自身の時間感覚よりも早く、客船は《新都市マリューレイズ》の代表玄関口、〈エルシオ港〉に到着した。


 波音に交じる船、ボート、車のエンジン音、雑多に響く人々の会話の声ばかりが、不快にシェリーの耳を掻き毟る。




 桟橋に足をつけた直後、案内された先は、すでに軍が手配していた、黒塗りの送迎用乗用車であった。



「さ、こちらへ!」



 と、言われるがままに乗せられ、地下にあるらしい軍特別実験施設に連れられるまで、時間も、頭を整理する余裕すらも、シェリーには与えられなかった。


 送迎車が停車したのは、すでに地下施設の特別車両用搬入口に到着していたらしい。



 故に、車を降りた瞬間、独特なコンクリートと冷えた空気に晒され、思わず身体が震え出した。


 さらには、廊下内を歩いていた際だろう、薬品と消毒液の匂いに鼻を覆われ、噎せによる咳で苦しめられる__



 やっと案内されたそこは、物音1つすらしない。


 暗く、狭く、小さな研究所の一室……のようだ。


  


「あの……レヴェリーさん……ここは……?」




「何って? 私の古いラボですよ? 怖い所じゃありません。

それと、セイバー? お前はこちらですよ!」




 レヴェリーはそう言うと、唐突にシェリーの左手からハーネスを取り上げ、忠犬セイバーを彼女から引き離した。




「まっ……待って下さい! レヴェリーさん!」



「心配はいりませんよ。身体を落ち着かせて、この上に寝転がって下さいな__ 」



 少女の手を引っ張りながら、軽い口調で言い放ったレヴェリーの傍には__


 旧時代の医療器具『酸素カプセル』か__


 実現には程遠い冬眠装置『コールドスリープ』か__


 形状は上記に酷似した、容易に人体を収容可能な大型カプセル装置が2台、目の前に揃って並べられていた。




 それこそが、人体兵器を世に生成する鋼殻の子宮__


 名を《超兵器の聖母体(ギルソードマザー)》と呼ぶ__



 

 レヴェリーその片方に、シェリーの身体をほんの少し、ぬったりと抱きかかえ、頭から爪先までを装置内へ収まるように、その小さな身体を横たわらせる。


 もう片方には、助手の男達によってハーネスを外されたセイバーが、『待て』と強く指示を受け、そのまま台の上で伏せられていた。

 



「あの……? これから……何が始まるのですか……?」


 

 言われるがまま、されるがままに装置台に横たえるシェリーだが、胸の内は、得体の知れない恐怖心が勝っていた。


 不安げに問いかけるシェリーに対し、レヴェリーは微笑む顔を崩さずに、和からかな声でこう答える。





「ご安心なさい。未来福祉技術の進化を成就させるべく、貴女は新たな肉体が授けられ、生まれ変わるのです。


 この《超兵器の聖母体(ギルソードマザー)》は、《ギルソード使い》という新たな人類を誕生させる〘子宮〙__


 この中で、『未知なる力を宿す生体』としての再誕を迎えた貴女は、この相棒であるセイバーと共に、未知なる力を手に、第二の人生を迎えのです__


 目が完治するまでの繋ぎの処置になりましょうが、この力は貴女達の生涯に、大いなる変革を齎すでしょう__ 」




 レヴェリーがそう告げた直後__


 2台のカプセル装置《超兵器の聖母体(ギルソードマザー)》のドアガラスが閉ざされ、装置の作動音と共に、双方の機体全体が電飾の光を帯びる__




(新たな……人類? 生まれ……変わ……る……?)




 理解が追いつかず、脳が混乱するシェリーだが、長旅の疲れが急に現れたようで、


 少女の意識は遠のき、眠りについてしまった__




 ◆◆◆◆◆




「……さん? シェリーさん? 終わりましたよ。良い夢は見れましたか?」




 (うぅ……あれ……? 終わり……?)




 レヴェリーの声で、シェリーは意識を呼び覚ました。装置の中で眠ってしまったようだ。


 この時点では、特段にに身体が変化した自覚はない。


 __慌てて彼女は上体を起こし、視覚の代わりに右手を横に降って、周囲の状況を確認する。

 



「心配しなくても、セイバーならここにいますよ。

ほら、セイバー? こっちにおいで__!」



 レヴェリーの呼びかけに応じるや否や、純白の忠犬セイバーは真っ先に装置の台から飛び降り、少女の手へ歩み寄る。



 この時、セイバーの胴体には、取り外されたばかりの『固定ハーネス具』が、何故だか現時点で装着されていて__



 尚且つ、色が全く別物で、異様な輝きを帯びていた。


 __その《ハーネス》の光は、まるでダイヤモンドのように美しく、艶やかな淡藤色(ライラック)の光沢を延々と放ち続ける。




「あっセイバー、ありがとう♪ 来てくれ……て……? え?」




 左手でそのハーネスを握った刹那__


 シェリーは初めて、自身の身体に現れた変化を自覚する。




(何……? この感じ……! まるで何か私のじゃない……誰かの感覚が……が私の頭に流れ込んでくる……?)



 《その器具》を手にした瞬時、その手の感覚から肌と感覚器官を伝わせ、少女の脳内に流れ込んでくる。


 そして、それは論理的にではない。


 本能が、身体が、それを叩き込まれたように、その脳に送られる情報の正体も、自身に何が与えられたのか__


 シェリーは全ての理解、知識を網羅していた。




 (そうだ。鼓動__ 血脈__ 臓器音__そして感情__

 

 私は分かっている。この感覚は、セイバーのそれだ!


 セイバーの全てが、私に伝わっていく__!!)




 盲目の少女シェリーは今、生まれて初めて__


 自身の人生が変わったのだと、大きな力が授けられたのだと、その変革と高揚を噛み締めている。


 


「私の目からは見えますよ? 貴女達の身体に起きた。とてつもなく大きな変革がねぇ♪」




 本人に自覚は無かったが__


 この時、少女シェリーと忠犬セイバーは互いに、眩しく、麗しく、色鮮やかな《ナノマシン・オーラ》の光の渦に、身体を包み込まれていた。



 新たなる能力を宿した人類、《ギルソード使い》として覚醒した者のみに現れる、力の象徴の輝きによって__





「おめでとうございます。シェリー? セイバー?


 貴女達の身体は、新たな能力を授けられ、ここに再誕を向かえました!


 その力は、互いに触れるだけで、その鼓動、血脈、思考、相手の状態全てを把握・共有し__


 かつ双方が、それぞれ触れた者のそれ等も、互いに読み取り合って、かつ得た情報をも同じく共有する。


 それが貴女達の異能武器(ギルソード)、《深層読解の(サイコメトリア・)共鳴体器具(ライフハーネス)》__


 新たな社会福祉の技術進化に、それが大きな貢献をもたらしてくれると、私は信じていますよ__!」





 老婆レヴェリーが微笑むのをよそに__


 少女シェリーはただ、これまで誰もが味わったことのないでろう体感に対し、戸惑いわずにはいられなかった。





《おまけのキャラ会話コーナー》


 軍立病院の一室にて__



 ユウキ「またあれか……? 主人公サイドがキャラ薄い展開になってんのかコレ……?」


 キルト「大人しくしてろ怪我人。仕方ないだろ、二人共入院してるんだ。しばらく出番は休息ってことだろ?


 そうだろ? 作者よ__!」



 正座してる作者「いや……その……プロットの構成とか……練に練らんとあかんのよねぇ……(汗」



 キルト「………は? それ執筆の基礎中の基……(以下略」



 リリーナ「…………zzz(別室で眠り中)」

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