・人造の悲劇、運命の糸(2)
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シェリー様からのご返信を頂いた後に、2ヶ月後にお迎え致します。
良きお返事と、勇敢なるご決断をお待ちしております。
〈新都市国家マリューレイズ〉、軍事治安維持組織〈戴冠の女王軍〉福祉技術責任者、少佐__
レヴェリー=シュリーマンより__
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……と、点字で綴られたこの手紙が少女の手に届いてより、早1ヶ月が経過。
補助の介護士の執筆を通して、シェリーと相手先である〈新都市国家マリューレイズ〉の役人レヴェリーとかいう人物の文通は、未だに続いていた。
また、ある昼下がり__
昼食を終えたシェリーは、習慣として庭園のベンチに座って、介助犬セイバーと休息を取りながら、再度相手先から返送された手紙の返事を、指で点字を追って解読していた。
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拝啓、シェリー=へレンズケラー様へ__
正直、貴女様からは、こんなにも早くにご決断のお返事を頂くとは、思ってもいませんでした。
さて、シェリー様よりお返事を頂くてより、まもなく1ヶ月が経過致します。旅立ちの荷造りと御心の準備はお済みでしょうか?
ご出発の日には、私レヴェリー自らと、護衛兵2人の同行にてお迎えします。それまで、この忠犬セイバーの面倒見の程、何卒宜しくお願い致します。
特殊なる【総合介助犬】として、常に主人の傍にお仕えし、後にこちらでの生活を迎えられるべく、生涯に渡り必要な【存在】となるのですから。
シェリー様と忠犬セイバーとで、
一心同体の《ギルソード使い》となって頂くために__
※追伸:この文書内容は、我が国の機密事項であります。貴女様お1人がお読み頂き、他言無用に願います。
レヴェリー=シュリーマンより__
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「《ギルソード使い》……? 私とこの子は、あの地で一体……どんな存在になる……のかな……?」
シェリーは若干の不安を覚えながらも、傍でずっと座っている忠犬セイバーの頭をそっと撫でていた。
他言厳禁の機密事項、《ギルソード》__
手紙に記された内容によると、それは未だ世界に明かされていない、最新科学技術の結晶体らしいが、本当にその正体が何なのか、さっぱり理解が追いつかない。
だが相手先も、それを考慮してか、先日に封筒書面として、それを説明する詳細資料を同封してくれていたのだが、
読んだところで、素人のシェリーには、とても理解できる代物ではない。実物の判明は、現地で確かめるに限るということだろう。
「いい子ねセイバー。ここでじっとしてくれていて……!
大丈夫、私は自分の選択に後悔なんてしないよ。だって、私の目が治るかもしれないし、それに__
その間だけかもしれないけど、役に立てるんだよね!
私以外の、目や耳とか……身体が不自由な人達が、心から安心して生活できる技術を〈新都市国家マリューレイズ〉っていう国は、一生懸命に研究している__!
私が頑張れば、この身体でデータが取れて、研究が成功して、多くの人が救われる。
そんなチャンスが巡ってきたと思うと、私はロベルトお義父様の言う通り、今まで生きてきて良かったと思う__!
それに、セイバーが一緒なら、私は怖くないよ__♪」
__曇りの1つもない表情と声で、シェリーには忠犬セイバーに誓うように言った。
【………クゥン♪】
忠犬セイバーは、撫でられる心地良さに、目を細めて和やかな声を溢す__
意図が伝わらなくとも、彼女にはどうでもよかった。
この選択がどのような結果を生み出そうが、セイバーが傍にいるだけで、その困難にさえ立ち向かえる気がすると、シェリーの胸は、勇気と高揚に満ち溢れていた。
__しばらくすると、付き添いの女性介護士が、黒く大きなスーツケースを片手に、シェリーに声をかける。
「あらシェリー? まだセイバーと中庭にいたのね?
今、旅の支度がやっと整ったところよ。
必要な荷物は、ちゃんとこのケースに纏めておいたから、安心してね。それにしても……寂しくなるわ。
もうお別れなんて……でも貴女が決めた道なのよね!」
女性介護士の目には、少々の涙が浮かんで、今にも零れそうだった。その心境は、ここで務めていた施設の関係者達も、皆が同じそれであった。
「ありがとうございます。本当にお世話になりました。
この子が来てくれたおかげで、私は自分の人生を、やっと歩き出せる。そんな勇気をくれたんです。
私はこれから、争いや災害で今日を生きられなかった人々の、せめてもの希望になって生きるんだって__
私、お義父様との約束、ようやく果たせそう__!」
忠犬セイバーの額を撫でながら話すシェリーの言葉には、すでに覚悟が込められていた。
嘘偽りなど何もなく__
その上、少女のその新たな決意は、誰も止められるものではないと、すでに周囲の誰もが確信していた。
◆◆◆◆
__僅かな月日は流れるように過ぎ去り、約束された旅立ちの日は、早くも訪れる。
【再歴272年「推定西暦2472年」】8月下旬__
手紙に記された約束の通り、例の相手先である〈新都市国家マリューレイズ〉からの迎えの使者が3名、自ら足を運び、シェリーの待つこの施設へと姿を見せた。
しかし、到着するや否や__
彼等を視界に入れた施設の職員達が示した反応は、その異様さから表れる戦慄と警戒心であった。
「オイ……何だよあの婆さんの姿!? どこぞの国の技術か!? 完全に手足が機械のそれじゃねぇか!?」
「それに……あの後ろの2人は護衛兵かしら……!? 異常に図体が大きくて恐ろしいわ……?
雰囲気も普通の人のそれじゃない……!
見るからに危なそうよ!? とにかく! 他の入居者や子供達を室内の安全な場所へ……!!」
恐れ戸惑う留める施設スタッフ達の視点の先には、シェリーを迎えに来たであろう使者が道をゆく。
見るからに軍人であろう、3人全員緑と黒に色を染めた軍将校服を纏っている。
そのうち2人は身長190cm前後の大柄な肉体の男達。
もう1人は75歳程の老婆だが、周囲の者達を不安に陥れていたのは、彼女だけが放つ、最も異様な様相であった。
年齢につり合わない170cm程の高身長、癖毛の強い白髪に高く尖った鼻__
そして視線の的は、軍服の上に羽織る白衣から覗く両手、下半身の裾と革靴の隙間から見える両足。
肌ではない。黒く硬質な素材、明らかに機械のそれ__
義肢の両手両足、その内部の大型機材が大型が、この老婆の高身長に影響しているのだろう。
「おやおや? 何を恐れているのだろうねぇ? ここの施設の大人達は? まぁ無理もないかい?
ここがいくら市街からの離れとはいえ、この戦乱に満ちた世の中じゃあ__
こんな軍隊の雰囲気纏った人間が往来したとあっちゃ、心安らぐ地なんて存在しないだろうねぇ?」
「そりゃ無理もないでしょうなァ! レヴェリー少佐!
郊外の田園地帯は、市街地の領土や民族紛争から疎開した避難者の集落でさァ!
都会で血と地獄を見てきた分、俺等みたいな軍人や戦争屋からの防衛本能は、並の倍以上に優れてんでしょうや!」
「あぁ成る程ねぇ? 納得できる話じゃないか……!」
戦慄を覚える群衆をよそに、その老婆と兵士達は平然としてその反応を嘲り、邪魔者を散らせようと声を張る。
「さて、ギャラリーの見物は満足したかい? 野次馬さん方や! 何も臆病な大人達に用事なんてありゃしないよ!
未来の福祉に身を捧げるようとする勇敢な少女、
シェリー=ヘレンズケラーと、その忠犬セイバー!
私達は少女の英断を称え、彼女等を迎えに来たのですよ。
我々が誇る、軍の《最新技術》を携えてねぇ__!」
「「………? ………!?」」
老婆の堂々とした声明に、周囲の施設フタッフ達は未だ3人を信じられず、困惑して互いの顔を向かい見やっていた。
あの者達と共に行くと決断したのは、他でもなくシェリー本人ではあるが、いざ現れれば、風貌も恐ろしい連中に差し出すなど、彼女の将来に恐ろしい不安を過ぎらせる。
そう施設の職員達が悩んでいた矢先、場の流れを即座に一変させたのは、当人の少女の一声であった__
「すみません、レヴェリー=シュリーマン少佐……で間違いありませんか? 私です、シェリー=ヘレンズケラーです!
手紙を頂いてから、ずっと貴女様を待っていました!」
「__えぇ、そうですよ? 貴女が例の勇敢な娘様かい?」
老婆達の前に現れたのは、全ての旅支度を整えて正面玄関まで赴いた、シェリーという長髪小柄な盲目の少女。
身長は155cm程度、長靴に隠れる細足、赤茶色の長い髪は背中を覆い、白いワンピースと襟袖付きジャケットに包まれた身体は、一層彼女の華奢なそれを際立たせる。
光を映さず、不自然にゆらめく暗い瞳は、よく見れば、ルビーの宝石の赤色の輝きを帯びて美しい。
少女の様相は、どこか弱々しくもあるそれ__
しかし、その立ち姿は想像よりもずっと凛々しく、胸に秘めた覚悟を、その強ばる表情から感じさせた。
彼女の左手はハーネスを握る。その傍らは、それを装着された大型の洋犬、雪原の如く純白なホワイトスイスシェパードが、足並みを揃え、静かに付き従う。
【……………!】
総合介助犬として訓練され、少女の元へ送られたが、その風格は騎士のそれ__
忠義を示すように、少女の傍を微動だにせず、身を盾にするが如く、ずっと前方に立ち塞がっては、周囲を見張り続けて隙を与えない。
それ見やった軍服義肢の老兵将校、レヴェリー=シュリーマンは、高揚に満ちた眼差しで微笑んだ。
胸の奥で歓喜すら感じられる。
【初見の印象】こそ、実に期待通りであったと__
「おぉなんと! ずっと会いたかったですよ?
シェリー=ヘレンズケラーさん! 貴女様のこれまでの経緯は、旧友のロベルトから全て伺っております。
此度の勇敢なるご決断、物怖じしない立派な立ち姿、義父の生前の魂と信念が、貴女に受け継がれているようですわ」
「ほ……本当に!? お義父様を知っているのですか!?」
「えぇ、よく知ってますよ。40年も前ですが__!
亡き父ロベルト=ヘレンズケラーを私は共に医療技術者として、世界の都市や紛争地を飛び回っておりました。
頑固だけど我を顧みないお人好しな性格は、あの頃から何も変わっていなかったわ。
__もう20年近く疎遠だったけど、彼の突然の死を聞いたときは気が触れかかってしまったの。
その時は在住先の国も、クーデターで内政が混乱していたから葬儀すら出られなかった。寂しくて辛かったわ。
死後に彼の遺言状が見つかって、書いてあったのよ。
愛娘のシェリーを宜しく頼む。とね__ 」
「お義父様……! 知らなかった……! あの人は私の生涯の恩人なのに……私はあの人の事を……何も知らないまま……!」
動揺したシェリーは瞼から涙を伝わせ、右手で己が胸の襟元を握ったまま、しばらく掴んで離さなかった。
そんな少女の心情を察した老婆レヴェリーは、ゆっくりと彼女の元へ歩み寄り、「少々顔に触れますよ」と一言告げて、涙に濡れる少女の頬をそっと撫でる。
「彼の言う通り、本当に純真で素直な良い子なのですね。
自身を攻める必要はありませんよ。
自分の心境を晒すのが苦手な人でしたから。でも私からは、これだけは伝えさせて下さい__
貴女と出会った3年間、彼は人生を懸けて、貴女の目を完治させる医療開発・研究に没頭していました。
その道は、至極苦難であったでしょう__
しかし、戦前の旧暦時代で実在した技術録が焼失した今、並の設備や研究環境では、最早その実現は不可能です。
__ですから、貴女の義父ロベルトは、僅かな希望を私共に託したのです。
貴女の幸せを願って、ね___ 」
少女の頬に触れるレヴェリーの義手は、止め処なく溢れるシェリーの涙で濡れていった。
そんな主人を気遣う仕草か__
傍にいた忠犬セイバーが、泣いている彼女を慰める仕草か、『クゥン』と鳴き声を1つ小さく響かせる。
「さて、私達がこうしてあなたを迎えに上がったのは、ロベルトの最後の望みのためです。
必要なのは、シェリー、貴女の歩み出す勇気ですよ。
先行きは長いですが、私達は貴女の目の治療に尽力を注ぐと約束します。
その代償となりましょうが、貴女は今苦しむ子供達の未来のために、その身体を捧げる覚悟はおありですか?」
老婆の問いに対し、シェリーの答えに揺るぎはなかった。
涙を拭うのを忘れ、少女は誓うように本心を告げる。
「行きます! 私は旅立ちます__!!
お義父様と約束したんです! 出会った時、私はパパもママも、大切な友達も、この目の景色も失いました!!
絶望して、喉を搔き斬って死のうとした時に__!
お義父様は命を救ってくれました。そして__
約束したんです!!
【戦争で死んでしまった。明日を奪われ生きられなかった人々の、希望になって生きてくれ】と……!
その約束を……私は果たさなきゃいけないんです!!」
__それは迷いのない、渾身の叫びであった。
つい数分前までレヴェリー達一行を恐れていた周囲の者達は、その愚直な思考を悔いてか、シェリーの勇敢なる決断に胸を打たれてか、次々に己が涙を抜くっていく__
「なんと立派な決意。ロベルトも誇りに思うでしょう__ 」
レヴェリーはそう呟くと、義手の掌を少女の頬から、少女の右腰にある、忠犬セイバーの白い額にそっと添える。
「お前を、この娘に預けて本当に良かったわセイバー。
シェリーはお前が仕える主、彼女を宜しく頼みますよ!」
【………♪】
レヴェリーの思いを受け止めたのか、彼女に優しく撫で下ろされたセイバーは、目を細めて心地良い微笑みを見せた。
__出発の時が訪れる。
やっと涙を拭いたシェリーは、右手のハーネスを固く握り締め、共に過ごし、自身を見守ってくれた施設のスタッフ達に、経顔を浮かべ別れを告げた。
「皆さん、本当に長年の間、お世話になりました。
ここから私は、私の選ぶ道を歩み出します。1人じゃないですし、ずっとセイバーが一緒です!
何が起きようと、私達は共に乗り越えますから__!」
その言葉を最後に、少女シェリーと忠犬セイバーは、老兵レヴェリーや護衛兵達と共に、施設の門を背に歩み始める。
世話役の女性2人は送迎に付き従ったが、彼女の言葉と、その後ろ姿に、誰一人として引き止める者などいなかった。
「シェリー! 元気でやるんだぞぉぉ!」
「ご飯、ちゃんと食べるんだよ〜!」
大人達は彼女の門出を祝い、別れを惜しみながらも、その小さな背中に敬意を評し、声援を上げて見送った__
◆◆◆◆◆
新たな人生を歩み出した旅の道中__
今までのそれとは大きく違った緊張と、これまで感じ得なかった胸の高まりが、シェリーの心を突き動かしていた。
施設を離れた彼女等は、レヴェリーの手配した車で、都心郊外から1時間程移動した後。
リスボン港から大型客船に搭乗し、宿泊設備の整った船内で、2泊3日を海上で過ごしつつ、大西洋のほぼ中央に位置する人工島、《新都市国家マリューレイズ》を目指していた。
開いた車窓から流れ込んだ田園地帯の緑の香り__
船のデッキから吹き抜ける海風__
視覚で味わえない代わりに、それ等を肌で感じながら__
遠くへ離れ、未知の世界を旅している感覚を、少女は全身の肌で感じ取っていた。
しかし、いくら覚悟を決めていたとしても、己が身に降りかかるであろう、未知なる未来に対する強い不安心労は、どう努力しても、拭い切れはしなかった。
科学技術の被験体となって、身を捧げる__
この迫り来る前代未聞の事象が、脳裏に浮かんで消えては、呼吸が乱れ苦しくなり、胸の動悸を抑えられなかった。
そんな彼女にとって、この上ない心の支えこそ__
その傍らから決して離れない、忠犬セイバーである。
彼女が不安な様子を見せる度、まるで激励の言葉を掛けるかのように、小さな鳴き声を上げた。
【クゥ……ヒンッ……!】
「……セイバー? 励ましてくれているの? ありがとう。
ごめんね……? 情けない姿を見せちゃって……!
自分が選んた道なのに、なんで心のどこかで、私はこんなにも不安がっているのかな……?
でも……もう大丈夫だよ!
じゃないと天国のお義父様に、きっと叱られちゃうし。君と一緒だから、私は勇気を出せたんだよきっと__ 」
【…………!】
シェリーとセイバーが触れ合う様相、それはレヴェリーをはじめ、旅路の道中に付き添う者達に、癒やしと安らぎを与えていた。
__客船内で3日目を迎えた早朝。
展望デッキで佇んでいたレヴェリーとその部下達は、海の遠くから、微かに聳えたビルの大群を目に眺めていた。
人工島《新都市国家マリューレイズ》の姿が、ようやく目の前まで迫り来る__
「ようやく帰ってきたわね。我々の本拠地に__!」
この旅の疲れが出ていたか、思わず老婆は呟いた。船が進むにつれて、500m級と高い高層ビルの景観は、段々と本来の巨大な姿に変わっていく。
世界大戦により国家機能が静止した〘西暦の終焉〙より400年が経過した時代、旧アメリカ大陸や東アジアでは、この都市景観は当たり前のように存在していた。
その全ては戦火で焼かれ去った今__
まるで、この人工島の都市こそは、過去の繁栄を写した事実をここに再現された、現代に託されし遺産のようである。
「……あ、レヴェリーさん? おはようございます。海風が強いですね、ずっとデッキにいらっしゃったのですか?」
「あらシェリーさん? 今日も朝早いのですねぇ♪」
挨拶に答えて振り向くと、身支度を整えたシェリーと、彼女をハーネスで誘導する忠犬セイバーの姿があった。
レヴェリー達を探して、デッキまで上がってきたのだ。
「丁度良かったわ。後2時間程で、目的地に到着します。
港に到着してから、軍の研究所にまでは、それ程時間は掛かりません。寧ろあっという間ですよ。
それまでには、心の準備をも、全て終えてくださいね?」
「………レ……レヴェリー……さん?」
レヴェリーの柔らかな声、それとは真逆に語られた言葉は、シェリーの心臓をは、ほんの少々締め付けられた。
◇◇◇◇◇
__自身の時間感覚よりも早く、客船は《新都市マリューレイズ》の代表玄関口、〈エルシオ港〉に到着した。
波音に交じる船、ボート、車のエンジン音、雑多に響く人々の会話の声ばかりが、不快にシェリーの耳を掻き毟る。
桟橋に足をつけた直後、案内された先は、すでに軍が手配していた、黒塗りの送迎用乗用車であった。
「さ、こちらへ!」
と、言われるがままに乗せられ、地下にあるらしい軍特別実験施設に連れられるまで、時間も、頭を整理する余裕すらも、シェリーには与えられなかった。
送迎車が停車したのは、すでに地下施設の特別車両用搬入口に到着していたらしい。
故に、車を降りた瞬間、独特なコンクリートと冷えた空気に晒され、思わず身体が震え出した。
さらには、廊下内を歩いていた際だろう、薬品と消毒液の匂いに鼻を覆われ、噎せによる咳で苦しめられる__
やっと案内されたそこは、物音1つすらしない。
暗く、狭く、小さな研究所の一室……のようだ。
「あの……レヴェリーさん……ここは……?」
「何って? 私の古いラボですよ? 怖い所じゃありません。
それと、セイバー? お前はこちらですよ!」
レヴェリーはそう言うと、唐突にシェリーの左手からハーネスを取り上げ、忠犬セイバーを彼女から引き離した。
「まっ……待って下さい! レヴェリーさん!」
「心配はいりませんよ。身体を落ち着かせて、この上に寝転がって下さいな__ 」
少女の手を引っ張りながら、軽い口調で言い放ったレヴェリーの傍には__
旧時代の医療器具『酸素カプセル』か__
実現には程遠い冬眠装置『コールドスリープ』か__
形状は上記に酷似した、容易に人体を収容可能な大型カプセル装置が2台、目の前に揃って並べられていた。
それこそが、人体兵器を世に生成する鋼殻の子宮__
名を《超兵器の聖母体》と呼ぶ__
レヴェリーその片方に、シェリーの身体をほんの少し、ぬったりと抱きかかえ、頭から爪先までを装置内へ収まるように、その小さな身体を横たわらせる。
もう片方には、助手の男達によってハーネスを外されたセイバーが、『待て』と強く指示を受け、そのまま台の上で伏せられていた。
「あの……? これから……何が始まるのですか……?」
言われるがまま、されるがままに装置台に横たえるシェリーだが、胸の内は、得体の知れない恐怖心が勝っていた。
不安げに問いかけるシェリーに対し、レヴェリーは微笑む顔を崩さずに、和からかな声でこう答える。
「ご安心なさい。未来福祉技術の進化を成就させるべく、貴女は新たな肉体が授けられ、生まれ変わるのです。
この《超兵器の聖母体》は、《ギルソード使い》という新たな人類を誕生させる〘子宮〙__
この中で、『未知なる力を宿す生体』としての再誕を迎えた貴女は、この相棒であるセイバーと共に、未知なる力を手に、第二の人生を迎えのです__
目が完治するまでの繋ぎの処置になりましょうが、この力は貴女達の生涯に、大いなる変革を齎すでしょう__ 」
レヴェリーがそう告げた直後__
2台のカプセル装置《超兵器の聖母体》のドアガラスが閉ざされ、装置の作動音と共に、双方の機体全体が電飾の光を帯びる__
(新たな……人類? 生まれ……変わ……る……?)
理解が追いつかず、脳が混乱するシェリーだが、長旅の疲れが急に現れたようで、
少女の意識は遠のき、眠りについてしまった__
◆◆◆◆◆
「……さん? シェリーさん? 終わりましたよ。良い夢は見れましたか?」
(うぅ……あれ……? 終わり……?)
レヴェリーの声で、シェリーは意識を呼び覚ました。装置の中で眠ってしまったようだ。
この時点では、特段にに身体が変化した自覚はない。
__慌てて彼女は上体を起こし、視覚の代わりに右手を横に降って、周囲の状況を確認する。
「心配しなくても、セイバーならここにいますよ。
ほら、セイバー? こっちにおいで__!」
レヴェリーの呼びかけに応じるや否や、純白の忠犬セイバーは真っ先に装置の台から飛び降り、少女の手へ歩み寄る。
この時、セイバーの胴体には、取り外されたばかりの『固定ハーネス具』が、何故だか現時点で装着されていて__
尚且つ、色が全く別物で、異様な輝きを帯びていた。
__その《ハーネス》の光は、まるでダイヤモンドのように美しく、艶やかな淡藤色の光沢を延々と放ち続ける。
「あっセイバー、ありがとう♪ 来てくれ……て……? え?」
左手でそのハーネスを握った刹那__
シェリーは初めて、自身の身体に現れた変化を自覚する。
(何……? この感じ……! まるで何か私のじゃない……誰かの感覚が……が私の頭に流れ込んでくる……?)
《その器具》を手にした瞬時、その手の感覚から肌と感覚器官を伝わせ、少女の脳内に流れ込んでくる。
そして、それは論理的にではない。
本能が、身体が、それを叩き込まれたように、その脳に送られる情報の正体も、自身に何が与えられたのか__
シェリーは全ての理解、知識を網羅していた。
(そうだ。鼓動__ 血脈__ 臓器音__そして感情__
私は分かっている。この感覚は、セイバーのそれだ!
セイバーの全てが、私に伝わっていく__!!)
盲目の少女シェリーは今、生まれて初めて__
自身の人生が変わったのだと、大きな力が授けられたのだと、その変革と高揚を噛み締めている。
「私の目からは見えますよ? 貴女達の身体に起きた。とてつもなく大きな変革がねぇ♪」
本人に自覚は無かったが__
この時、少女シェリーと忠犬セイバーは互いに、眩しく、麗しく、色鮮やかな《ナノマシン・オーラ》の光の渦に、身体を包み込まれていた。
新たなる能力を宿した人類、《ギルソード使い》として覚醒した者のみに現れる、力の象徴の輝きによって__
「おめでとうございます。シェリー? セイバー?
貴女達の身体は、新たな能力を授けられ、ここに再誕を向かえました!
その力は、互いに触れるだけで、その鼓動、血脈、思考、相手の状態全てを把握・共有し__
かつ双方が、それぞれ触れた者のそれ等も、互いに読み取り合って、かつ得た情報をも同じく共有する。
それが貴女達の異能武器、《深層読解の共鳴体器具》__
新たな社会福祉の技術進化に、それが大きな貢献をもたらしてくれると、私は信じていますよ__!」
老婆レヴェリーが微笑むのをよそに__
少女シェリーはただ、これまで誰もが味わったことのないでろう体感に対し、戸惑いわずにはいられなかった。
《おまけのキャラ会話コーナー》
軍立病院の一室にて__
ユウキ「またあれか……? 主人公サイドがキャラ薄い展開になってんのかコレ……?」
キルト「大人しくしてろ怪我人。仕方ないだろ、二人共入院してるんだ。しばらく出番は休息ってことだろ?
そうだろ? 作者よ__!」
正座してる作者「いや……その……プロットの構成とか……練に練らんとあかんのよねぇ……(汗」
キルト「………は? それ執筆の基礎中の基……(以下略」
リリーナ「…………zzz(別室で眠り中)」




