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新科学怪機≪ギルソード≫   作者: Tassy
3.〈新都市マリューレイズ〉と武装組織の逆襲 編
83/103

・戦乱の予兆(4)




◇◇◇◇◇




 同日の深夜__


 場所は変わり、ここは人工島〈新都市国家マリューレイズ〉の海を挟んだ東の向かい岸。



 イベリア半島、旧ポルトガル共和国領地、リスボンにある旧世紀の遺跡『ベレンの塔』にて__




「__珍しいねぇディズレーリ。首領(ボス)から君を通して連絡をくれるとは……!


 内容は? 例のユウキ=アラストルとリリーナ=フェルメールの抹殺命令って事でいいのかい?」





 __と、塔の屋上テラスで夜空を眺めながら、旧式の薄型スマートフォンを片手に会話する1人の青年がいた。


 年齢は推定19歳手前、身長は175cm程度__


 その外見は、限りなくテロ主犯ロエスレルに似せたような、全身を漆黒に塗り表した黒スーツ、黒靴、黒ネクタイを組み合わせた服装。


 闇世界の住人体現とも言えるような、それ__



 中でも際立って、他の者との差異を決定的に色付けていた特色は、彼の髪色と片目の、歪を極めた色彩。


 ストレートなの短髪の大半と、片側左の瞳こそ、東洋や中東に見られる純粋な黒色であるが、


 反対側の右目、そして前髪の中央で垂れ下がる部分だけが、まるで鮮血が塗られたような【朱殷の色】に染められたようで、その暗い輝きは、異様な妖艶さえ解き放っている。




『悲報だけど、そんな結末に行き着いたってのよ!


 何? あのカッコつけたイキリグラサン不良野郎!?


 人に偉そうな説教抜かしておいて、ガキ共相手にぶちのめされて終わりよ?


  ダサすぎて嫌っちゃうわあの男!

  

 そんなイキリ者よりは、真面目で可愛げなアンタ達に頼む方が、余裕で希望に満ちてるわよ!


 カルヴァン=グラックス君〜?♪』




 受話器の向こう側から響かせるのは、武装組織《革新の激戦地(ヴェオグラード)》の若き最高幹部、少女ディズレーリの無邪気かつ可憐な声__


 聞く者次第だが、時に幼気で能天気なそれは、稀に鼓膜をと頭を奥まで響かせ、地味に精神を消耗させる。





「やめなよ。上っ面なお世辞なんて逆効果さ。考えている胸の内が見え透いていけない……!


 まぁ、その辺で許してあげたらどうだい? 性格は問題あれど、彼はよく頑張ってくれた方だよ。


 人格に難はあれど、組織への忠義は厚い__


 そこは『Dr.グナイスト』と同意見なのさ、僕は__!」




 カルヴァン=グラックス____



 そうディズレーリから名を呼ばれた青年は、受話器を片耳に愛想笑いを発しながら、優雅に『ベレンの塔』の屋上テラスを遊歩しつつ、高台から望む市街地の夜景を見渡した。




 

「それにしても最高だねぇ。この地の景観とやらは__!


 あの400年前の世界崩壊で、国土ごと焦土化したなんて、到底思えない眺めだよ__!


 この時代だから、まさか純粋に景観を楽しめる場所が、まだ存在したなんて、思いもよらなかったかなァ?」




『何言ってんのアンタ!? この都市だって最近までは、他地域から流れたギャング、マフィア、下級テロリスト共の巣窟だったじゃない!


 生活できた環境じゃなかったクセに! 誰が掃除してあげたと思ってるのかしら? ここの市民はさァ?』




「ちょっと待ってくれよ。一斉掃除をしたのは、現地に留まっていた僕達の手柄だと言ってくれないか?」




 冷静沈着な態度と口調で、軽やかに笑うカルヴァンは、徐に石灰岩のフェンスから顔を乗り出し、真下に位置する浜辺に目をやった。




 __街灯など無く、一面暗闇に覆われて見えなかったが、



 そこには、市街地で悪事を働いた不届き者達の腐乱死体、彼等の使用した拳銃等の武器、自動車の残骸、それ等が大量に積み上げられ、小高い丘が形成されている。



 無論、周囲は常に悪臭を漂わせ、おまけに烏や野犬が昼夜問わず群がり、市民は誰も近寄らない。



 

 だが、その死屍累々の丘の頂上に、1人の亡骸の背中を刺し貫いて、旧共和国の旗が堂々と掲げられていた。



【__この者達へ対する憎悪を募り続けたこの地は、彼等の無惨な末路を称賛し、喝采と祝福に乱舞する__】

 


 そんな意味合いを込めて、この街の市民が彼等の死体に突き立てたのだと、状況から容易に察しがつく。



 傍から見れば不道徳極まる、狂気のそれ__



『……ていうか、私興味無いのよね〜! そういう慈善活動じみた無償労働なんてさ。


 そこって、アンタがただ〈新都市マリューレイズ〉の動向を監視するために、少しの期間だけ滞在してた、ただの出張先に過ぎないんでしょ〜?


 それを、「街の汚れた不穏分子を駆逐しろ」とか、首領(ボス)でもないDr.グナイストが、なんの権限で司令なんて下してたのよ!? 馬鹿なの!?』





 ディズレーリの止まらない誰かの悪口に、青年カルヴァンは、ただ愛想笑いで彼女の機嫌を取っては、気苦労を誤魔化すようにため息を履いた。




「いや、大掃除の成果はあったさ♪ 彼の計算通りだよ。


 街を荒らすゴミ人間共を殲滅したお陰で、このリスボンは我等《革新の激戦地(ヴェオグラード)》に高い忠誠心を抱いてくれた。


 軍資金から兵の調達、我等の組織活動のためなら、惜しみない援助が約束されている。


 都合の良い従僕共が、こうも容易く完成されるとは__!


 おまけに標的の国が目と鼻の先。


 ここは我が組織の軍事力を強化するには、絶好の環境じゃないか? ディズレーリ__?♪」





『……意外〜! あの腐れ外道が役に立ってたし……!』




 電話の向こう側から、少女の不満げな溜め息が受話器越しに鳴り渡る。


 少し清々したように、カルヴァンはくすりと微笑した。




 また、ちらりと様子を伺うように、彼が再び塔の真下に様子を伺えば__


 市民が誰も寄り付かないはずの浜辺に、軍隊の防護服を纏った十数人の集団が輪の陣形で互いを囲っている。



 その中央には、丸裸の男達が手足と目を麻で縛られ、膝を屈め動けない。




 装備を纏った彼等の正体は、武力行使組織《革新の激戦地(ヴェオグラード)》に忠誠を誓い、治安強化を武力で訴え続ける〈都市自治国リスボン〉の自警集団である__



 その者達から捕らえた反社会組織また被疑者を連行し、深夜頻繁に、テージョ川の畔で大量処刑を行うようになった。



 年齢性別など一切問わず__


 都市の秩序を乱した者、またその被疑者や人々に害が及ぶ者と都市の自治体に判断されたが最期__


 その者達の行き着く末は、決まってこの死体が積み上げられた血の砂浜である。



 中には、路上の生活困窮者らしき老人の姿も見られる。


 生き地獄の成れの果てか、無力にも涙だけを流し、執行の時を静かに迎える。



 __いつかの旧世紀に見られた、恐怖政治の光景。



 しかし、それを目の前にしたカルヴァンは、一切の感情の動きなど見せず、平然と目を逸らしては、何食わぬ顔で端末での電話連絡を淡々と続ける。





「ディズレーリ、また君には定期的に連絡するよ。


 同胞のロエスレルを救助したいところだが、僕達は相手側の戦力を甘く見すぎた。


 現時点で、あの国内でやれる事は潜入調査がやっとだ。しかも今からでは、リスクの方が大きすぎる__!


 1ヶ月程だけど、人員と戦力を回復させておくよ。


 準備が終わったら、君を存分に楽しませてあげよう♪ 期待してくれて良い。だからそれまでは__!


 連絡手段を替えようか?


 僕から君宛に連絡をしておこう。だから旧西暦の末期に普及していた、こんな(いにしえ)の短命端末は__


 即刻廃棄が手っ取り早い___!」





『面白そうじゃない! 期待しているわカルヴァン♪


 そうそう、私の超可愛い実験体(モルモット)ちゃんに〜

 伝言をお願いできるかしら〜?


 今度会った時には、私の愛情をアンタに全部………!』




 

 また台詞の途中だったが、彼女の陽気な雑談をいい加減鬱陶しく感じたカルヴァンは、スマートフォンの通話回線をブツリと切断した。



 __すると、彼の通話を傍で聞いていたのか、少し幼さを残した乙女の美声が、彼の背後から小さく囁く。




「ねぇカルヴァン、〈マリューレイズ〉……だっけ? あの海の向こうの国、行くんだよね……?


 あのリリーナ=フェルメールって女、生きてるの?」




 カルヴァンが振り向くと、そこにはもう1人の同行者、推定15歳程の、無表情で佇む少女の姿がそこにあった。



 __身長は155cm程度、肌艶の綺麗で美しくも、少々幼さが残る顔立ち。中でも少女の際立った特色は、綺羅びやかに(なび)くマゼンダ色のロングヘアーと、妖しく輝く同色の瞳。


 彼女が身に着けるは、漆黒色のゴシック形式のシフォンワンピースであるが、材質は軍服並みに硬質で形状は独特__

 

 肩部は少女の骨ばったそれと淡い白肌が露出しているが、そこから伸びる袖のフリルは、手首まで覆われている。


 そして何より、カルヴァンと同様に、闇を強調させる漆黒の服装を纏う彼女の様相は、外見に不気味かつ微かな戦慄さえ印象づける、異質極まるそれ__




「そう焦るんじゃないよ、ゼフィーネ__! まだ今の僕達には十分な戦力、準備、戦略が整っていない。


 確かにロエスレルが、敵軍の中核施設に打撃を与えたとはいえ、あの国は本気の戦力を隠し持っているよ。


 たかが人口500万弱程度の人工島の国がの軍事力、我々の勢力で制圧は可能だったかと思えば、結果は失敗どころか、学生相手にうちの兵達は壊滅状態しゃないか__!


 思い知ったよ。もう迂闊に行動を早めるのは危険すぎる。

せめて勢力や人員の頭数だけは揃えて、できれば同士の救出計画も慎重に………!」




「あぁ〜あぁ!! あァ!! うっさいわ馬鹿!! 誰が長ったらしい能書きなんざ聞かせろって言ったよ!!?」




 唐突に目の色を変えて、最高幹部の少女ゼフィーネ=クライシスは癇癪を起こす__




「私は! リリーナ=フェルメールが生きてるのか死んでるのか!それだけを聞いてんのよ!!


 知らないっての! ロエスレルが何をされようが! 敵の戦力かどうとか!! どうせ連中を殺す手段なんて、私は幾らでもあるんだから関係ない!!

 

 どうよ!! リリーナって奴の生死は!? 私が刻み殺したい獲物は、ソイツ1人だけだ・か・ら!!」




 __牙をむき出しに豹変する少女ゼフィーネに対し、カルヴァンは冷静に、宥めるような態度で、彼女に言ってやる。





「さぁね。まだ生きてるんじゃない? 組織の立場からすれば、大怪我が治らず死んでくれたら好都合だけど__!」


 



「まだ生きてるってこと?………ヒャハ♡

 

 そうよね……? まだ生きてる………♪ つーか生きてなきゃ駄目よ? 勝手な死は許さない……♪ 


 フヒッ……ヒヒヒッ……ヒッ……ヒヒッ………!」





 黒服の少女ゼフィーネの頬と唇は真横に広がって、禍々しい薄ら笑いをカルヴァンに見せつける。


 目と眉だけは据わって笑わない。そのバランスに欠けた彼女のそれは、悪魔が人体に憑依した、戦慄の様相__





「何だい? 随分とあの標的にご執心じゃないか。そんなに興味深いのかい?


 君と()()()()()()()()()()というのが__!」

 




「興味深い__? 私の執着がそんな程度のレベルだと?


 馬鹿ねぇ〜『実験解体』したいに決まってんでしょ!!


 初めてよ!? こんな感覚! まさか私と同じ能力を持った女が、この世に存在してたなんて__!!


 じっくり斬り刻んで解剖したいのよ〜! ソイツの脳味噌どうなってんのかしら?


 やっぱり私みたいに………小型装置とか配線とかコネクターで埋め尽くされてるのかなぁ………!


 瞳の色は? 形は…………?


私と同じ……・こ〜んな機械じみた『人形の目』のように、特殊な光りで輝くのかなぁ〜〜!!?」




 歪な狂気の微笑みに満ちたゼフィーネの瞳………


 いつしかそれは、色彩も、瞳孔も、それ等の形状すら変わり果て、ある少女の特殊なそれに酷似した、色濃い特色の瞳が姿を表す。





 まるで「機械の眼球」か__


 制御基板が埋められたような白い瞳孔、まるで人工的に着色された《紅色》の虹彩、その形状は自動人形のそれ。




 

「君の《粒子器発動の覚醒瞳(ブレイン=アイズ)》、調子良さそうだねぇ♪


 正直、ロエスレルが返り討ちに遭った以上、闇髪のユウキ相手なら僕が引き受けるが__!


 やはり、リリーナ=フェルメールの操る《ブレイン=ギルソード》への対抗戦力は、君に任せるのが手っ取り早い。


 ほらゼフィーネ? 壊してくれ__!」



 

 そう言って、ニヤリと企みの笑顔を見せたカルヴァンは、彼女に向かって、不要となったスマートフォン端末を翳した直後、ふわりと空中に放り投げる。


 下手に通信記録という足跡を消し去るべく、ゼフィーネに破壊処理を依頼したのだ。






 __刹那、まるで異空間から現れたのか。



 美しい輝きを放った《紅色の鎖》が、少女の頭上に突如現れ、獲物を射抜くように、通信端末を真っ二つに砕き割る。


 その《鎖》が、それを象り生成する構成体が__


 あたかも彼女の身体の一部と化して、変幻自在に使役されるかのように__





「私、連中相手に勝つ自信しかないんだけど__?」





 途端に顔を無表情のそれに変えて、ゼフィーネは息を吐くようにささめいた。 


 【紅色】に煌めく、機械仕掛けの如き異形の《瞳》で、細い身体と漆黒のドレスを覆い尽くす《ナノマシン・オーラ》を滾らせながら__ 



 覚醒した己が力を、少女は全身で顕示し続ける。





「見事だ♪ 流石だよゼフィーネ。これほぼ準備は整った。


 後は〈新都市国家マリューレイズ〉で十分に作戦行動し得るだけの兵力を備蓄すれば良いだけのこと__!


 焦る必要はないさ__!


 対抗戦力にしろ、戦略にしろ、実力にしろ、我々のカードの手札は幾らでも揃っている……!」




 

 __ベレンの塔の屋上にて、床に砕け散った携帯端末を眺めながら、カルヴァンは優雅に、静かに、笑っていた。






《登場人物紹介(追加分)》



・カルヴァン=グラックス(19歳)

 国際武力行使組織(レジスタンス扇動・傭兵組織)

《革新の激戦地 (ヴェオグラード)》の最高幹部。


 同僚のロエスレル救出も兼ねて、〈新都市国家マリューレイズ〉の侵攻を企てている。



・ゼフィーネ=クライシス(?歳)


 国際武力行使組織(レジスタンス扇動・傭兵組織)

《革新の激戦地 (ヴェオグラード)》の最高幹部。


 年齢不詳だが、外見は14〜15歳前後。


 リリーナと同じく、《ギルソード使い》の中で世にも希少な《ブレイン=ギルソード》の使い手であるようだが__?


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