第31章 銃使いキルトの騎士道(1)
◇◇◇◇◇
__〈戴冠の女王軍総本部:地下4階、軍立赤十字病院、地下施設支部の玄関口〉__
軍立赤十字病院には、旧市街の本部をはじめ、国内の数ヶ所に別れた個別の支部が存在する。
その1つが、軍総本部の地下1〜4階に位置する病院〈地下施設支部〉だ。
軍関係の利用だけでなく、地下設備内での負傷事故等の備えとして、何時でも急患を搬送できるよう、総本部の基地同様、地下通路の20ヶ所程が、この入口へ繋がっている。
「……着いたぞリリーナ! 生きているだろうな……! 治療薬や医療設備は目の前だ! ここまで来て絶対に死ぬなよ……!?」
走り続けたキルトは息を切らしながら、抱き抱えた瀕死のリリーナに、必死に声を掛ける。
「……………」
極度に弱まったリリーナの呼吸音は、すでに聞こえない。
患者服も全身の包帯も血の赤1色に染まり、体温も失われ、昏睡状態どころか、心臓が動いているかも疑わしい。
一刻のロスが命取りだ。生命力を失っていく彼女に猶予などない__
◇◇◇
地下4階、〈病院玄関口〉に足を踏み入れ、目の前の自動ドアが開いた瞬間、キルトが真っ先に感じたのは、異様な違和感と胸騒ぎだった。
入口の前は待合室だが、照明の1つさえ点灯していない。
不気味な暗闇が屋内に漂っていて、唯一明かりを感じられるのは、電源が入ったままの薄型コンピューターと、待合室用テレビの仄かな画面の光が、逆効果のように戦慄を煽ってくる。
「妙な静けさだな……!? 無人か? 物音1つもしない……! 得体の知れん何かに襲撃されそうだ……!」
キルトは眉と眉間を寄せたまま、リリーナを抱いて、ゆっくりと院内へ歩を進めていく__
キルトは、常に警戒心が強い。
それ故に、こういった不穏な予測や危険察知は、取り分け敏感だと評されているが、同時に己の臆病さと力不足さに嫌気がさす際もあり、長年悩まされている。
実際、一度悪い予感を感じて疑い出したら、しばらくの間、悪い思考の悪循環に苛まれ、ユウキを苛立たせる事もあった。
しかし、今は例外だ。仲間が死に瀕しているのに、臆して二の足を踏むなど、その醜態は罪に値する__
「おかしいな……! 無人か? いや、病院かつ本部中枢付近の施設だぞ……!
医療従事者が避難を終えてるのは分かるが……!
上層部なら大抵、警備兵を3人程、人員を割いて派遣しているはずだが……! 彼等がいないとは……!? ただの人手不足ならいいがな……!」
暗闇の景観、その全てに疑って慎重に歩き、広い待合室を過ぎようとした、刹那__
何気なく前を過ぎ去った、32インチの待合室用のテレビから、突如、不可解なノイズと、音声を加工した、何者かの聞こえてくる。
『ザッ……よう……こs…ザッ……お前達…ザッ……処刑……ザザッ……生きて……帰さn……時間を……掛けt……ザーザザッ……じっくり……バラバラに……殺s……ザザッ』
奇怪な音声が発したのは、他にない殺害予告。この地帯は、すでに敵組織の《革新の激戦地》に占拠されていた__
「……やっぱり、そういう事か……! やはり俺の悪い予感は……!」
キルトが独り言を呟く最中、離れたロビーのカウンターから、人間の影が現れ、小さく光る口径が向けられる。
次の瞬間__
__その口径は機関銃の銃口、凄まじい銃声と共に火花を散らし、十数発の銃弾を放った。
しかし、その銃弾が放たれ破壊されたのは、天井と壁面の境目。銃口が上を向いていた__
「う"っ……あ"ァ……」
__射撃が収まった直後、その人影は小さな呻き声を上げ、受付カウンターの下へと崩れ落ちた。
左胸は高温度の風穴が空けられ、火口のように煙が立ち上っている。
「……全く! 俺の悪い予感ってのは、何故こうも90%の確率で当たるんだか……!」
__その襲撃者を撃ち抜いたのは、その瞬時に床へ突き付した、キルトだった。
全てはコンマ数秒での出来事__
その場に伏せる際、抱えたリリーナを柔く横たわらせ、同時に右手で、太く長い巨大な《対物ライフル》を召喚し、人影の方向に照準を向けるや否や、いとも容易く命中させた。
若草色の爽やかな《ナノマシン・オーラ》に覆われた、艶やかに光る『バレットM82』に酷似した銃。
それこそが、彼の身体に宿りし分身__
《熱炎吸収の破壊狙撃銃》__
キルトはゆっくり立ち上がると、そのまま《破壊狙撃銃》を両腕で構える。しかし、照準を定めていない。ただ全方向に銃口だけを向けて、こう呟いた。
「もうここが連中の陣地だとは分かったが、この場合……人数が単数または少数なんて事は、戦術上は考えられない……!
物陰にいるな……! 《狙撃銃》の火力は、近接戦用に弱めてある……!
貴重な治療薬と医療設備が惜しくて仕方ない……が、背に腹は代えられまい……! ならば……!!」
キルトが決意した、次の瞬間__
両腕で構える《熱炎吸収の破壊狙撃銃》で、強力な《ビーム砲》を大量乱射__
爆炎、劫火、轟音、そして灰埃が一面を覆い尽くし、受付カウンターから業務員室の扉、廊下の診察室、待合室の天井まで、視界上のあらゆる設備を余さず破壊する__
「「「ぐぉあァ……!!」」」
「「ヴォァァ………!!」」
やはり、敵の武装兵は至る物陰に隠れていた。
容赦のないキルトの大破壊によって、敵の兵達が爆炎と灰煙にの中から断末魔を響かせる。
さらには__
【ドスッ……! ドチャ……!!】
上階にまで、敵は潜伏していたようだ。
攻撃に巻き込まれた者達が、降りしきる天井の瓦礫に混じって落下しては、足元で大量に転がって朽ち果てている__
暗くてよく見えないが、彼等は迷彩柄の武装服を纏っていた。
今は黒く焼け焦げ、赤い血溜まりが広がった無惨な姿だが__
「やれやれ……! 思いの外、連中が多く片付いて助かったな……!
当院の医療従事者には悪いが、この一掃方法が手っ取り早かった……! 後は2つ上の階から薬が手に入れば……リリーナは……!」
足元に散らばる者達に目もくれず、キルトは《破壊狙撃銃》を肩に担いで、リリーナの元へ駆け寄ろうとした。
刹那__
敵兵の所持品か、灰埃まみれの「旧型無線トランシーバー」が、耳を痛める奇声で叫び散らす__
『ザザッ……な〜んて事しやがんだ!! このクソゴミ野郎がァ!! ここは俺様の秘密基地で、作戦本部だってのによォ!!』
「なっ!? 何だコイツはいきなり……!!」
__キルトは、即座に振り返るや、きょとんとした。
響いたのは、音声再生も正常で加工もされていない。若い男性の素の声帯__
だが、キルトは知る由もないが、その声は、ユウキがあのシチリアの路地裏で聞いた、あの男の声と酷似していた。
『ここは俺達の占領下……そしてお前達2人の公開処刑場だァ!!
勝手に生き延びて、この場を荒らすのは許さねぇよ!?
時間を掛けて殺すっつったら! 俺はァ作戦が終わってもお前達を引き裂くって決めてんだよォ!!
オラ! モタモタしてねぇで来いよ! 一兵卒共__!!』
「オ……オイ……! まさか……!?」
またしても、危機的な予感がキルトを襲う__
全身の鳥肌が逆立つと共に、耳奥へと迫るのは大量の足音__
どうやら、この地下病院は、この階のさらに4つ上の地下1階までフロアが存在するらしく、そこにまで数多の敵兵が潜伏し、尚も健在だったようだ。
だが、それをキルトが知った時には、一斉に駆け下りた漆黒の武装服集団に取り囲まれ、無数の銃口にその身を晒されていた。
「クソがよォ……! 実力自慢の同士達が、こうも大量に果てるとはァ……!」
「全くだぜ……! 大怪我人を始末するだけの、簡単な汚れ仕事だと思ってたのを……!」
黒いゴーグルとフェイスガードに覆われた顔の奥から、本心剥き出しのぼやきが囁かれる。
慈悲の欠片も無い闇の色、血みどろの役目がお似合いと思える程に、闇一色に塗り潰されたような、漆黒の特殊武装__
そして、耳障りなノイズと雑音と共に、そのトランシーバーは再び不愉快な奇声を発する__
『キヒヒェ……! お前、名前はキルトと言ったかァ!? お前の命運は終わっちまったよなァ〜!?
お前のその武器は何だオイ!? それ遠距離狙撃用の狙撃銃だろ!? そうだろォ!!
周りを見てみろよオイ!?
こんな至近距離で囲まれっちまってよォ!! しかも装備は全員が機関銃だぜェ!?
蜂の巣にされるしかねぇんだよなァ!!
オイどうした!? 覚悟は決めたのか!? 遺言があんなら聞いてやるからよォ……! 殺される前に遠慮なく言ってみなオイ!?
キヒェァアハハハハハハハァァァ__!!』
雑音混じりに聞こえる、その下衆さも極まりない笑い声は、キルトの身体に虫唾を走らせ、苛立ちの頂点に立たせた。
己の脳の血管がプッツンと切れる感覚を覚え、ついに皺の寄りに寄った眉間を見せつけたキルトは、《破壊狙撃銃》を片手に、怒りの一言を静かに放つ__
「何をガタガタ騒いでる……! 撃つなら撃てよ腰抜け共……!」
『ハハ……ハッ……! ア"ァ………!!?』
気品の欠片もない笑い声は、突如として怒りの震え声へと変貌する。
「聞こえなかったのか……!? 銃を構えるだけ構えて、ギャンギャン吠えるだけの、臆病な野犬の真似は止めろと言ったんだ!
その立ち位置で罵って楽しいのか!? 不利な弱者を嘲笑うのは快感か!? 俺を絶望させたいからか!?
それとも、前代未聞の勝算が俺にあると警戒して、遠くから様子でも伺っているのか!?
どっちにしろ、無意味で下らない無駄な時間だ!!
俺は仲間の命を救わなきゃいけない! 先を急いでいるんだ!
さっさと終わらせるぞ。撃つなら撃って来い!!」
キルトの猛々しい挑発により、ついにトランシーバーの声は憤慨し、その怒声と奇声を猛獣のように撒き散らす__
『こんのスカタン野郎がァァ!! 偉大なる騎士団〈革新の激戦地〉を舐め腐りやがってェ!!
全身蜂の巣にして惨たらしく殺してやる!! オイ何突っ立ってんだ!! 使えねぇ雑兵共ォ!!
一斉射撃だァ! ガキ共の骨1本残すんじゃねぇぞォ!!』
「「「了解!!」」」
トランシーバーからの暴虐じみた命令に慌てるが如く、ついに黒服の武装兵達は、その指を機関銃の引き金に掛ける__
横たわるリリーナから、身を盾にして立つキルトは、冷静に、かつ冷徹な眼差しを向けて言い放った__
「無知な連中がっ! 《ギルソード使い》との格差を教えてやる__!
__《熱炎吸収の破壊狙撃銃》!!」
キルトの絶叫と闘争本能に反応し、右手に握られたその名の《銃》は、強力な粒子の光 《ナノマシン=オーラ》を解き放つ__
「掃射!!!」
中央に立つ指揮官の号令と共に、一斉射撃の銃声と銃弾がキルトの前面を覆い尽くす。
数多の弾丸が、その身に浴びせられる寸前の刹那__
真正面に照準を向けられた《熱炎吸収の破壊狙撃銃》の先端部から、青色に煌めいた、幻想的かつ艶やかな《防御膜》が出現する。
「銃弾を弾け!! 敵の火力は奪い尽くせ__!!
__《吸収・高熱粒子の盾》!!」
キルトの操る、この巨大な『蝙蝠傘』に似た姿の正体は、硝子窯同然の熱を帯びた専用技術の結晶、《高熱粒子の盾》__
容赦なく打ち付ける弾丸の嵐は、光熱の《盾》弾かれると同時に融解し、高熱を帯びた鉄の液体となって、キルトや兵達の足元に飛び散っていく__
「ど……! 同士指揮官!? ありゃ見えますかい!? 奴さん今……! 盾のような『何か』で弾丸を防いでやがる……!!」
「何だあれは……!? 《ナノマシン製の盾》か……!? だが総員……! 構う事なく撃ち続けろォ……!!
単なる《機関銃》とは違うだろうが、ありったけの火力で炙ってやればいいだけの事__!!
前方の部隊は距離を取れ!! 後方部隊!! バズーカ砲と手榴弾を用意!! あの盾を撃ち破れぇェェ!!」
狭い地下屋内にも関わらず、その指揮官の男は、躊躇なく後方の支援隊に重火器使用の命令を下す。
機関銃を撃ち続ける者が4歩5歩と後退ると同時に、大量の手榴弾とバズーカ砲弾の暴雨が、後方の布陣からキルトの真正面に迫り来る__
「チッ……! 大胆な真似を……! 少しの衝撃やダメージが、今のリリーナには命取りだってのに……!!
《吸収・高熱粒子の盾》!! 最大出力__!!」
焦る顔で舌打ちを溢したキルトが、銃先を前方斜め上に傾け、淡く光る《盾》の面積は2倍以上に設定・拡張させると、迫る全ての攻撃が集中し、爆炎の炎、暴風、灰煙が、彼等の姿を覆い尽くす__
「………フッ! 愚か者共めがっ!! 我等は天に選ばれし戦士よ! 栄光を齎す任務のためなら手段など選ばん! ……どうだ!?
仕留めたんじゃないのか!? まだ奴等の姿……いや残骸は見当たらんが……!
キヒヒッ! 俺達を甘く見るからこうなる……!!」
指揮官の男は高揚に満ちて、笑っていた。
視界は爆炎の煙が充満して、まともに見えはしないが、あれだけの火力を浴びせたのだから、仕留めたであろう__
だが、それは彼が思っていた……というよりは、願望であった。
願望でしかなかったのである。
視界が灰煙から晴れ出した、次の瞬間__
「__で!? 誰を仕留めたんだ!? まさか今ので、この俺キルト=グランヅェストを討ったとでも__!?」
「なっ……何!!?」
突如キルトの姿が、指揮官からの僅かな至近距離に現れた。
それは一寸先の間隔__
灰煙で覆われた視界など関係なく、寧ろそれを利用して、懐に急接近していたのだ。
「間抜けめ……! 狙撃手風情が、敵の懐で何ができる……!!」
覆面の下から声色を変えた男が、即座に左手で『ダガーナイフ』を取り出し、キルトの頭上に大きく振るい上げた。次の瞬間__
【ガシャアァ__!!】
__と、何かが砕け散る音が響き渡って、細かな血飛沫が空中を舞った。
男の懐を捉えたキルトが、大胆にも《破壊狙撃銃》の銃先を金属バットのように握り締め、艶やかに振り被って、指揮官の覆面を顔ごと粉砕したのである__
顔面のくしゃけた指揮官は無抵抗のまま、可憐な放物線を描いて吹き飛ばされては、全身をねじ曲げた姿勢で、後方の兵達を前に墜落した。
「馬鹿な……!? 同士指揮官が……やられた……!」
「こうなったら手段を選ぶな……! 残弾の限り撃ち尽くせ……!」
「駄目だ……! もう弾など残っちゃいるかよ……! それに……! 奴の《盾》は弾丸を溶かす高熱源体……! 手榴弾でも壊せやしねぇ……!」
後方で恐れ怯む兵士達の数は、最早たかが知れている。
成す術もなく立ち尽くす彼等を前に、キルトは静かな怒りを胸に、誰かに似た冷徹な眼差しに変えて、ゆっくりと近づいていく__
「攻撃して来ないが、もう万策尽きたのか? 意外だったな!
長い期間潜伏して計画を整えていた割には、俺達《ギルソード使い》への対策意識が、こうも甘々だったとは!
俺はユウキと違って冷血じゃない故に、大量殺生なんて行為には、抵抗しか覚えないんだが……!
もう手段は選べないないな! 瀕死の友に対する非道な仕打ち__!
その礼は返させて貰うぞ!!」
銃を構え直したキルトは、哀れみを殺した目の色に変えて、容赦なく残りの者達へと《熱炎吸収の破壊狙撃銃》の銃口を向ける。
「クソッ……! 総員退避! 総員退避ィ〜!!」
戦意を削がれ、兵達は逃げ惑って背を向けていく__
だが、その少年が差し向ける怒りからは、決して逃れる事はできない。
逃げ惑う者達の背中を、その照準は決して外しはしない__
「逃げたな……! 屋内だから、高出力の《メガ粒子砲》が使えないのは仕方がないが__!
俺の《銃》の使い方は、1つや2つ程度ではない__
状況に応じて、機能を変化させ使い分ける事ができる!!
この狙撃手から遠ざかって距離を離したのは、愚行中の愚行だったな!
《熱炎吸収の破壊狙撃銃》! 内部の射出口を必殺・連続射撃使用に《換装》しろ!
全てを一瞬で撃ち尽くす__!
___《最多照準・狙撃射手の機関弾》!!!」
__次の瞬間、キルトの《破壊狙撃銃》は激しく火花を吹いて、無数の《ビーム弾》を豪雨のように撒き散らす。
「「お"ォあ"ア"ァァア"ァア"ァ!!」」
「がァ!! ぐォあ"ァア!? 馬鹿なア"ァ……!!」
逃げる敵兵は、哀れに撃たれ倒れていく__
命中を損ねた弾など存在しない。
嵐の如く襲い掛かる《高熱源体の銃弾》に晒され、ただ身体を撃ち抜かれては、続々と倒れ落ちる__
彼等が哀れなのは、我が身に何が降りかかったのかを理解できていない事だ。何故、背後から《ビームの銃弾》が襲い掛かり、その弾幕に身を晒されているのかを__
理由は単純だ。少年キルトの装備する武器が、ただの狙撃銃を象っていたが故であろう。
その《銃》の形状は『バレットM82』、本来は遠距離狙撃用の対物ライフルであるのだから、それが機関銃のような、尚かつ高熱粒子の《ビーム弾》が大量に放たれるなど、誰が想定できたものか__
「あ"ァ………ディムー……ル……様………」
この施設に潜入していた全ての敵兵は、1階の崩れたロビーの前に倒れ果て、瓦礫に混じって伏していた。
だがキルトは、そのまま攻撃の手を緩めはしない__
その冷徹な瞳を変える事なく、次なる標的を定めるが如く、彼は汚れて変形したトランシーバーを睨みつける。
『オ……オイ! 雑用共! 聞こえねぇのか!? 状況は……!? 何が起きてやがるんだクソッ……!?
だが駄目だ……! 俺はこの場所からは……絶対に離れられねぇ……! 離れたら敵の本陣に攻め込まれる……!!』
「……離れられない? ……本陣に攻め込まれる?
____成る程! お前はそこに居るのか!?」
言葉の何かに確信を抱くや否や、キルトは手元の《破壊狙撃銃》を一旦肩に担いでは、急いで受付カウンターの傍まで駆け寄った。
その目当ては、右横の壁に記された地下病院の階別案内図__
キルトは、大まかに地図の全体を見通すと、ある箇所に目を留めて人差し指をぴたりと当てる。
____〔地下2階(当院3階):緊急通信連絡室〕
(奴の居場所はここで決まりだな! このロビーから階段を2階分上がった所とは……近くて好都合だ!
このトランシーバーの声の主が、ここの連中の指導者で、具体的な方法までは知らないが……!
恐らくはこの都市の地下施設を襲う『通信電波ジャック』も、あの焦った口ぶりからして、十中八九コイツが主犯だ!
後は直接俺が赴いて、やつの首でも討ち取ればいい……!
まだリリーナは生きている……! 生きてくれている……!
ひとまずは、くたばった連中から形態治療薬を奪い取り、リリーナに使うか……! そして一刻も早く、彼女の正式な治療手術を施す……!
これが最重要任務だ……!!)
キルトは案内を触っていた手を、固く、血が出るほど握り締め、そして急ぎリリーナの元へと駆け戻った。
しかし__
◇◇◇◇◇
〈戴冠の女王軍総本部:地下4階、軍立赤十字病院、地下施設支部の入口付近〉__
「……殺……さ……な……きゃ……リリ……ナ……フェ……ルメ……ル……
ゴポッ……げほっ……! あ"っ………ぁ……」
大量の血を流したまま、フラフラと、酷い千鳥足で、黒服の暗殺者少女が迫っていた。
見えているのかさえ怪しい、虚ろな目で__
銃創に覆われた、全身が血と傷だらけの身体で__
ゆらりゆらりと、キルトが辿った道を、そこに滴っていたリリーナの血痕を追いながら、暗殺少女ラインフェルト=フェリーベルは歩いていく。
地下病院の入り口へ、キルトとリリーナの元へ、確実に、そして徐々に、その距離を縮めていくのであった__




