・反撃、闇髪の黒騎士(2)
◇◇◇◇◇
〈戴冠の女王軍総本部:地下28階、中央研究室・中枢部〉__
「貴様……! 何者……だ……テロリスト……風情が……これ程の……力……など……ゴプァ……!」
悲痛の呻き声を上げた兵士が、ロエスレルの前に倒れ、力尽きた。防護服から血溜まりが広がる__
「笑わせやがって! 増援が徐々に増えたかと思えば、テメェ等の実力はその程度か!?
ユウキ=アラストルさえ始末しちまえば、後は雑魚野郎しか残らねぇとは、この国の軍事戦力はゴミカス級に墜ちたと知れる!
__とはいえ、そこは感謝でもしねぇとなァ! おかげで俺は……ようやく最奥の地まで辿り着いちまったからよォ!!」
そう言って、胸を高揚で満たしたロエスレルの視界にあるのは、ある「人体用カプセル」を象った特殊な機械が大量に並べられた光景だった__
それは、科学破壊兵器、《ギルソード》を人の身体へと移植する狂気の装置、《超兵器の聖母体》__
天井10m、広さ300㎡の広大な大広間に、1500台をも超えるそれ等は数を連ね、さらに広間の奥には、無数の配管やケーブルと共に、壁から天井を覆う巨大な「製造機器」と「ガラスケース」が、広間の壁を巣食うように覆い尽くしている。
この光景を例えれば、まさに〔広大なる大量人体実験場〕という言葉が相応しいだろう__
「へぇ? ここが〈 戴冠の女王軍総本部:《ギルソード》開発研究所、中枢技術製造室 〉ってヤツか……!
実物の光景を見るまで、随分な時間と労力を使ったもんだぜ!
実に面白え眺めだ……! だが同時に……胸糞悪くて仕方ね景色でもあるな……!
そう思わねぇか? お前達__!」
ロエスレルの問いかけと同時に、背後の空中からは、まるで2tトラックに匹敵する巨体を持つ、2体の《巨大な甲虫型兵器》が姿を表す__
《強襲動兜の無敵強化盾》__
別称は《甲虫の盾》であり、この2体の正体こそ、ロエスレルが軍から奪取した《ギルソード》の姿__
最早、彼に付き従う分身とも言えよう__
「我が首領、グラッザ様の命令とはいえ、めんどくせぇ仕事だぜ!
新型の《ギルソード》を奪うだけでなく、本部中枢の状況や実態、国家機密を暴いて記録して来いなんてよォ!
……そういや、この《甲虫の盾》には、攻撃だけじゃなく、こんな機能も搭載しているらしいなァ!
せっかくだ、試してみるか……!
《コーカサス》! センサーカメラ起動! この映像を首領に届ける! 記録しな!」
ロエスレルが命令すると、『コーカサスオオカブト』の姿をした漆黒の巨大兵器01号、《コーカサス》は、彼の前に飛び出すや否や、眼球に搭載する《センサー機能》をフル起動させて、異様な機械音を唸らせる__
《コーカサス》が映像を「録画」し、同じく『ヘラクレスオオカブト』似の巨大兵器02号、《ヘラクレス》が浮遊して周回する中、ロエスレルは、目の前にある大量の《超兵器の聖母体》を恨むように睨みつけ、最も手前のそれを強く蹴りつけた__
「胸糞悪いぜ……!! 何だこの国は! 古典的な独裁軍事国家の再現ジオラマか!? あァ!?
しばらく潜伏してみれば……! 軍の独裁政治! 軍事戦力の過大増長! 思想統制、体制維持の徹底! ご苦労な事だが、やっている事は、旧世紀から何1つ変りゃしねぇ……!!
古代アッシリアの悪政、18世紀のフランス革命、第二次大戦のナチス・ドイツ、過去に独裁政治を築いて破滅を招いた国家や権力者と何が違う!?
何も学んじゃいねぇな! この世の人間は!!
どうせ平和だの、治安統制だの、国力増強の一貫だの、建前だけ良い事言ってんだろうが、いずれ権力者は内に秘めた奢り傲慢さを露呈させて、抗争、虐殺、大粛清、血みどろの歴史を繰り返すんだよ!
結果なんざ目に見えてんだ!! だから《ギルソード》ってのは、贖罪を以って、人類を【選別】するために使うもんだろ!!
シチリアのマフィア共は対象外だった! 《ギルソード》を与えたら、権力争って自分達で殺し合って終わったからな!
〈新都市マリューレイズ〉の人間も同類だ! こんな古典的な使用法しか《ギルソード》を活かせねぇ連中なんざ、俺様が【選別】から弾いてやる……!
《コーカサス》!! もう映像は十分に撮れただろ! さっさと薄汚ぇクソ設備を破壊しろォ!!」
苛立ちを募らせたロエスレルが、怒声を上げて命じると、主に忠実な《コーカサス》は、直ちに25門の《拡散ビーム砲》を再起動させる__
《熱粒子エネルギー》を存分に充填し、辺り一帯を火の海に変えようとした__
刹那__
「__面白ぇ寝言を言うなアンタ! 寝かしつけるから好きなだけ言えよ! 永久にな__!!」
「あァ!? この声……!?」
つい数十分前に聞いていた、ある少年の轟が大広間に響く__
ロエスレルは振り返るや否や、攻撃大勢に入っていた《01:コーカサス》から放電の稲妻と火花が飛び出し、業火の爆炎を咲かせて爆散した__
爆炎と灰煙が一帯を包む中、1本の《剣》が降り落ちて、彼の足元に突き刺さる。
紫の鮮やかな柄、鍔に搭載された筒状の《熱粒子ターボエンジン》、これに間違いはない。
ユウキの操る《高速射撃の剣》__
「……この《剣》が機動してるって事は……! まだ生きてやがるのか!? ユウキ=アラストル!!」
「生きてて悪かったな……! おかげでお前に対する怒りと復讐欲が数倍だぜ……! なぁリリーナ……!」
周囲の漂う灰煙が晴れた瞬時、ロエスレルをギロリと睨み、その方角へゆっくり歩み寄るユウキ=アラストルと、真横で浮遊する紅色の槍、《創造する脳操槍剣》が、その姿を表した__
__少年の制服は煤けて一部が破れ、中でも損傷が酷い右脇腹は、巻かれた包帯が露出している。そこは《拡散ビーム砲》が貫いた箇所__
重度の手負いにも関わらず、まるで平然としたその様相は、闘争本能を失っていない__
隈に覆われた目は窶れて、顔色は重い患者のそれだというのに__
「……お前は強え奴だなユウキ=アラストル! 今まで出会った中で、心底ウゼェと腹を立てたのは、お前が初めてだ! 苛立ちも通り越して敬意すら払ってやる……!」
「……そりゃどうも! 目の前のクソクズ野郎をぶった斬る、投獄する、地獄に落とす、どれかしないと気が済まないんでねぇ……!」
ユウキは睨む目つきを変えず、歪に口元だけ微笑んで見せた。
同じく、怒りと憎悪に顔を歪めたロエスレルを、ユウキは冷静に煽る。男の冷静さと判断力を削り、心理を伺うように__
「ククッ……そうかよ……! やってみろ……!! その身体で何ができるか知らねぇけどよ!!
行け!《ヘラクレス》!! あのクソガキを今度こそ粉砕してやれ!!」
激怒したロエスレルの右手を上げる合図に、黄金色の巨大兵器、《ヘラクレス》は瞬時に飛び出し、真正面から突進してユウキに襲い掛かる__
【来たよユウキ……! 落ち着いて……! さっき言ったように……ね……!】
リリーナの意識が宿った《創造する脳操槍剣》が、彼女の声を発して耳元に囁く。
「任せな! 対処法さえ分かれば、こっちのモンだ……!!
《高速射撃の剣》__!!」
悠長に構えるユウキは、両手全ての指に8本の《高速射撃の剣》を発動・召喚し、再び鉤爪の形態で握り締める__
「ハッ!! 何かと思えば今更……! 剣を何本増やそうが! 正面きって突っ込む《ヘラクレス》の《硬化粒子防御膜》に敵う訳ねぇだろうが!!」
「だから『ド素人』なんだよお前は__! 今から《ギルソード》の正しい使い方って奴を、イロハの基礎から教えてやる!!
《高速射撃の剣》! 全ての剣を『最大出力強化』!!」
そう叫んだ刹那、ユウキの握る8つ《剣》の刃に変異が起きた。
強力な波動とエネルギーを帯びた《ナノマシン・オーラ》が突如発生し、8本の《剣》全体から彼の両腕へと、瞬く間に覆い包む__
これは斧、剣、槍といった《刃物型のギルソード》に内蔵された設定で、『固有機能』と呼ばれるものだ。
《熱光学エネルギー》を帯びた破壊用の蓄積によって、その威力、破壊力を増大させ、巨大物体をはじめ、並の威力での破壊が困難と判断した対象を一撃で撫で斬るために、この機能は備わっている__
__そうして、『斬撃』の破壊力を最大強化したユウキは、何故かその場を微動だにしない。
《ヘラクレス》が突進する寸前を見計らっていた。
《エネルギー》の蓄積を継続させ、衝突する0.5秒前の瞬時、威力を放出__
両手の剣8本の《鉤爪》で、豪快に薙ぎ払う__
〘ギャイィイン___!!〙
真正面で衝突する、ユウキの《高速射撃の剣》とロエスレルの《強襲動兜の無敵強化盾》__
それ等の波動が、互いに巨大な衝撃波を生み出し、辺り一帯に爆風が吹き暴れた。
次の瞬間__
〘ザシュッ__!!!〙
__と、凄まじい爆音と機械の斬撃音が、巨大の隅々に響き渡った。
《ヘラクレス》が、あっけなく斬り刻まれた。
ユウキと衝突したかと思えた刹那、瞬く間に胴体が分散、8方向に飛び散り、壮大な火花を炊き上げて爆炎と化する__
すでに、少年の姿はその位置にいない__
破壊した《ヘラクレス》の位置から遥か真後ろに高速移動し、怪物を裂いた両手8本の《剣》を血払いに振り下ろす__
「嘘……だろ……!? 《強襲動兜の無敵強化盾》が……!?」
ロエスレルは唖然とした__
一帯を覆った硝煙と、その灰色の雲を背に立つユウキの姿に、ロエスレルは愕然とし、男は初めて危機感に襲われる__
「何で《防御膜》が効かなかったのか……? なんて思ってるだろ……!?
アンタを守る《甲虫兵器》が破壊された理由は、全く検討がつかねぇはずだせ……!
所詮は盗品! 奪った物で悪業やってるから、報いが返ってきたな!
結局その《能力武器》は、未完成に終わった不完全な廃棄品だ! アンタがそれを理解していなかった!
でも本当……言う通りに切り抜けられたよ……! 助かったぜ、リリーナ……!」
そう言ったユウキの背後で、リリーナの意思が宿る紅色の槍、《創造する脳操槍剣》が、静かに浮遊している。
死に瀕した命をも懸けて、ユウキの戦いを見守るべく__
◇◇◆◆◆◆
また、同時刻に起きている事態の説明も挟むので、ユウキの活躍、決着はもう少し後になります。。
話の時系列が不規則っぽいのは承知です。申し訳ないです。。
でも何卒、お付き合い頂けると幸いです♨
(↑平謝り得意)