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新科学怪機≪ギルソード≫   作者: Tassy
3.〈新都市マリューレイズ〉と武装組織の逆襲 編
71/105

第30章 反撃、闇髪の黒騎士(1)



◇◇◆◆◆



 __時は30分前、〈マリューレイズ軍立赤十字病院〉45階:ナースステーション前にて__


 



「酷い惨状だ……! 我等軍人が守らねばならなかった赤十字病院が……!」



「患者や半数の医療関係者の避難が終えていたとはいえ、これは最悪の事態ですね……! 民間人にこれ程の被害が及んでしまうとは……!」




 2人の武装兵が嘆きながら、血と火薬の匂いが漂う病棟の廊下を歩いていた__



 彼等の足元には死体、血溜まり、砕けたタイルの破片に覆い尽くされ、壁には大量の血飛沫がそこら中に飛び散っている。





「それで、本当なんだな? ここに暗殺者と思われる女の身柄があるってのは……!」




「はっ! 曹長! 先刻に《ギルソード使い》の学生達から、敵テロ組織のメンバー1人を激闘の末に討伐した__との報告を受けております故……!」




「ソイツが、ここのナースステーションに転がっている。という訳か……!」





 先頭を進み続ける曹長がため息を吐くや否や、すでにナースステーションは目前にあった__



 どうやら停電したようで、事務室の中は妙に薄暗い。敵の潜伏に関しては、油断ならない環境だ。


 

 用心を重ねて拳銃を構え、曹長は恐る恐る内部へと足を踏み入れる__





「曹長! 背後には敵影無し! ……どうですか? 例のテロ主犯格と思わしき少女の姿は……?」



「……………」




「………曹長?」




 後方の新兵が問いかけるも、曹長は返答しない。



 何か不足の事態でもあったのだろうか__


 

 不審に思った新兵は、周囲の警戒を解いて、ひとまず上官の元へと寄り添った。



 次の瞬間__




【ズルッ……】




 __大量に流れ出る液体と共に、柔らかく、生温かい物体が足元に落下した。





「ぁ……えぇ……!?」




 

 新兵は言葉を失った。不可思議な死を遂げた上官の遺体を前に、彼は混乱し恐怖に駆られる__



 

 落下物の正体など、確認するまでもない。上官の身体は、首から上が無く、平らな断面から赤い血を吹き出していた。


 

 さらには、首だけが切断されたのではない__



 その頭部が地に落ちてすぐに、今度は両腕、両足の四肢、そして胴体の中心までもが、溢れるように崩れ落ち、地の海を広げて四方八方に散乱した。




「うぅゔ……うぉぉああ"……! だ……誰だあァァ……!」





 慄き錯乱した新兵は、嗚咽したまま部屋の奥へと突き進んでしまう__




 

「うぅ"……! ……クソォ……出て来いィ……! 俺が仇を取って……やる"ぅ……!?」




 勇んだ言葉で戦慄を紛らわす新兵だが、震えた両手で握る機関銃を前方に向けるも、敵影どころか、人の気配すら感じ取れない。


 生唾を飲み込み、息を殺して右方を警戒、その後左方へ振り返って確認しようとした瞬時__





【ザシュッ……!!】



 

「あ"ぁ………! ぞごに"……居だ……の"……か………」




 血肉の裂かれる音が暗い部屋に谺し、新兵の意識と命は、この場で途絶えた。



 枯れ果てた呻き声を上げるや否や、その場で彼の頭部と両腕が、バラバラに地面に落下し、血飛沫の海を広げて胴体が横たわった__




 彼等が死に、このフロアの生存者の気配が消えた直後、2人の兵を葬った者の姿が、薄暗い事務室の奥から、ゆっくりと千鳥足で現れる__


 



「……ぁ"……ぇほっ………」




 その正体は黒服の、それでいて血だらけの儚い少女だった__


 


 全身の肌と黒いスーツから覗くワイシャツは、赤黒い血の色に染まり果て、茶色だったツインテール髪は、片側が解けて、灰埃と煤、血の赤で汚れきっている__



 彼女の胴体と手足は銃創で覆われていた__



 止まらない血を常に床に滴らせながら、少女は息絶え絶えにゆらゆらと歩いていく__



「……殺……なきゃ……リリ……ナ……フェ……ルメー…ル……」



 掠れた、消えそうな声で、彼女は呟いている。





 その正体は暗殺者少女、ラインフェルト=フェリーベル__



 テロ事件の主犯、フランツ=ロエスレルから、リリーナの抹殺を命じられた、病院の襲撃犯である。




 実行の際、傷の開いたリリーナに深手を負わせる事は成功したが、暗殺は女子生徒ルフィール達に阻止され、激闘の末にヴィクトリアの異能武器(ギルソード)銃撃連隊の(ブレッドファミリア)機関銃(マシンガンズ)》に破れ、身体中に銃創を負ってしまった__



 直に息は絶えるだろうと、彼女達の判断で、ナースステーションに放置されていたが、彼女はまだ生きている。



 一体どういう訳か、今にも崩れ落ちそうなものの、全身から血を流したまま、千鳥足で歩き続けている__


 

「殺さ……なきゃ……殺さ……なきゃ……私が……死ぬ……こんな……所……で……」



 ラインは、そのまま苦しげに呟きながら、ゆっくりと歩き続けた。



 すると、彼女の懐から、1つの小さな薬品用のボトルが、血濡れた床のタイルに転がり落ちる__




 インクが掠れて見えない物だが、落とした容器のラベルには、ある警告文が、確かに記載されていた__





『WARNING! 指定外薬品:人体強化覚醒剤「Hexe(へクセ)


 ※重体患者への使用厳禁、覚醒作用の反動により死に至る危険性有り__』





◆◆◆◇◇




 時は現在に戻り__



戴冠の女王軍(マリー・ルイーズ)総本部:地下25階、研究所付近の通路〉にて__




「人体強化覚醒剤「Hexe(へクセ)」とはねぇ……! 学園の授業で名前だけは聞いたことあるが、うちの軍がこんなモン取り扱ってるなんてのは、思いもしたくなかったなァ……!」




 手にした容器のラベルを睨みながら、ユウキは呆れるように言った。




 __その薬の名は『Hexe(へクセ)』、ドイツ語の直訳で「魔女」の意味を指す。



 即効薬『ナイチンゲール』、猛毒薬『ジル・ド・レェ』と同じく、旧西暦時代の世界大戦終期に製造された医薬品類であるが、その使用法は、他の2つとは掛け離れる程に非人道的であった。


 実際に当時の使用記録が残されており、戦地で命の危機に瀕した傷病兵に強化剤は投与されていた__


 まともに傷の止血や治療も施さないまま、この薬品の作用で感覚器官や神経系列を麻痺させ奪われた彼等は、命の捨て石とされ、最前線で力尽きるまで戦わされたという__


 

 そんな危険薬品が平然と流通する程に、当時の人類、国家、戦地、そして民衆は疲弊し追い詰められた挙げ句、そして他の命を犠牲にしてでも、人々は己が命を繋いできたのだ。



 その成れの果てに、人類の過半数は死に、世界情勢と経済は崩壊の道を辿った__

 


 もし今尚、この薬が何処からかでまわっているのは、それはきっと、先時代で無残に殺され、犠牲として蹴り落とされた者達の怨念が継がれていると言ってよいだろう__





【ごめんなさい……ごめんなさい……! こんな薬……ユウキに使わせたら駄目なのに……! 私……なんて事を……!】




 慌てて混乱するリリーナの声が、地下の回廊に響き渡る。



 リリーナの声は聞こえれど、実際には彼女の姿はそこにない。



 重傷で動けない彼女は、自らの《能力》で身体から意識を切り離し、遠隔操作を特徴とする《創造する(ズィミウルギア・)脳操槍剣(ブレインセイバー)》に自身の感覚を移し替えたことで、場所の離れたユウキを助けているのだ。





【ユウキお願い……今すぐその薬を捨てて……! 私……すぐにまた探しに行くから……少しでも早く……ユウキの傷を癒せる薬を……!】





 リリーナの声がそう告げるや否や、《創造する(ズィミウルギア・)脳操槍剣(ブレインセイバー)》は頭部(センサー)の方向を転換させ、来た道を引き返すべく、ゆらゆらと動き出した。




 刹那__




「待てよリリーナ……!!」




 ユウキが言うや否や、瞬時に《槍》の柄を右手で鷲掴みにして、その動きを、彼女の行動を静止させる__





【ちょ……! ユウ……キ……!? 放し……て……!!】




 彼女の意志が反するように、紅の《槍》は、薄暗い廊下の奥へと引っ張られるような力強い抵抗を見せるが、ユウキの握力はぴくりとも緩まない__



 重傷を負った身体とは思えない力__



 リリーナが抗って、無気にユウキの手を振り解こうとする程、彼は右手に神経と精力を集中させ、圧着工具のように圧を掛け、徐々に締め上げ続けていく__

 



「いいから動くな……!! 死にかけのお前が、これ以上無理して動き回ったりする事は、この俺が絶対に許さねぇ……!!」




【……………っ!?】

 




 ユウキの放った警告の声に、リリーナの意志が一気に揺らいだ__



 それは低く、凍てついて、鋭く尖った声。

 


 

 これを発した彼の表情を、思考回路を、リリーナはよく知っていた__



 冷静冷淡に惑いと選択肢を殺し、その結果に対し揺るがぬ覚悟を決めた瞬間、ユウキは別人格が働いたかのような、威圧の声に変貌を遂げる。



 目を合わせなくとも、暗黒の戦士の如く凍てついたその表情など、容易に想像ができてしまう__



 時に相手の精神や行動をも操作し掌握しかねない様相の彼に、誰かの説得を聞き入れる事は、まず叶わない__




 それが、彼女の知るユウキ=アラストルだった。



 

 すると、次の瞬間__




〔キュポ……!〕




 __っと、ボトルの蓋が外れた音が聞こえた。



 


【………ぇ? ちょっ……!】




 

 一瞬、聞き間違えかとリリーナは思ったが、その直後にボトルの中の液体がちゃぷちゃぷと動く音が聞こえる。



 目で見なくとも、容易に確信ができてしまう。背後のユウキが選んだ、最悪の選択肢が__





【やめて……何してるの……? そのボトルに触らないで……そう言ったじゃない……!】





「あん? 何って飲むんだよ……! 『内用剤』らしいからな……!


 ゲテモノ薬だろうが何だろうが、飲んだら動ける気力は手に入るんだろ!?


 お前が命を懸けて、探し出したアイテムだぞ! だったら使わねぇ手なんざ、有り得ねぇだろうが……!


 他の薬はいらねぇ……! コイツ1本だけ飲んで、俺はロエスレルを倒す!」





【何言ってるの!? 知ってるでしょ!? それは毒薬同然の薬なんだよ!?


 危険な物なんだよ……!?


 身体は動けたとしても、感覚と神経を麻痺させるだけで、止血さえもできない……!


 その傷を悪化させたまま……!! ユウキは戦う事になるんだよ!!?】





 《槍》を通して発されるリリーナの叫び声は、長い廊下の暗闇まで響き渡る__



 ユウキの説得は困難だと分かってはいても、目の前で毒同然の薬物を飲むと断言されてしまえば、激情が込み上がり、静止させずにいられようものか__





【嫌だ……嫌だよ…… だって……それのせいで……昔の戦争の時……多くの人が……命を落としたんだよ……!


 やめて……! 薬ならまた私が探しに行くから……!


嫌……嫌だよ……ユウキが……目の前で死んだら……私………私………】




 

「__俺だって気持ちは同じだ!!


 お前に生きて欲しくて仕方ねぇんだよ!!」




 

 __ぴしゃりと放ったユウキの一言で、リリーナは即座に我に返り、電流が走ったように目を見開いた。



 彼の秘めた必死な思いを、彼女に()()()()()()__





「何でお前は、いつだって1人で命懸けようとしてんだよ……!


 自分が危ねえ状態だって分かってるだろ……!


 自分を顧みねぇで……!


 だって今お前……たった1人……死にそうになってんだぞ……!」





 奥歯を噛み締めながら叫ぶユウキの目から、1滴の雫がこぼれ落ちた。


 彼女からは見えないよう、瞳を隠すように、ユウキは俯いて言葉を発していたが、その雫は止まらず頬を伝って地に流れ落ちる__





「お前がいなくなったら、俺はどうなるんだよ……!



 キルトは……! お前の友達の……ルフィールや……ヴィクトリアは……!

 


 どんな顔して生きていくんだよ……!



 死んでいった〈孤児院〉の仲間達に……なんて顔すりゃいいんだよ……!!



 俺達が未来を歩む事を望んで、皆はあの世へ行ったんだぞ……!!



 顔向けなんて……できるわけ……ねぇだろ……!」






 それは、ユウキが滅多に声に出さなかった、寂しさと恐怖に苛まれた悲痛の叫び__



 それはリリーナの意識の奥底に突き刺さり、同じ感情が分け与えられるように、悲しさと過去の後悔、そして心の涙を誘った__

 


 


【……ごめんなさい……ユウキ……私……勝手だった……本当に……ごめんなさい……】



 

 感情の大波が引かれ流されるように、リリーナの意識は我に返り、冷静さを取り戻した。 



 彼女の声は静かなそれで、これまで己の行動を悔いるように、ユウキへの謝罪を繰り返す__



 


 するとユウキは、嗚咽をこらえた呻き声を上げながら、血の足りない身体に鞭を打ち、まともに機能しない足でゆっくりと立ち上がった。



 そして、ずっと片手で握っていた《槍》の柄を放せば、その手は怯える少女を宥めるように、優しく、そっと触れる__




「__謝るのは俺の方だよ。ごめんな……リリーナ……!



 本当は、ここまでの無理なんざ、お前にさせなくなかったから、俺は強くなるって誓ったのにな……!



 結局こんな状況で命を救われて……俺もとんだ未熟者って事だ……!



 でも俺は、リリーナのそんな優しさが、大好きだ__



 出会ったときからそうだったよ。



 自分の先のことなんて後回しで__



 誰かが苦しんだり危険な目に遭ったら、自分を盾にしてでも、絶対に救おうとする__



 そんなお前を、何より俺が尊敬してる。



 何故なら昔、俺がそうやって、リリーナに救われたからさ__



 だからこそ、こっから先は、俺が命を懸ける番だ__!」





 ユウキの表情は、優しく微笑んでいた。



 優しい笑顔のまま、その表情1つ変えることなく、『強化剤「Hexe(へクセ)」』の入ったボトルを盃の如く、誇らしげに己の口元へと近づける__




【ユウ……キ……本当に……それ……を……?】




「__言っただろ! もう何も抱え込まなくていい。今のお前を蝕む苦痛や不安は、この俺が全部拭い払ってやる……!!」



 


 __その誓いを発した直後、ユウキはその薬を躊躇なく喉の奥へと流し込む。



 ゴクリッ……ゴクリッ……と、豪快な喉音を鳴らして、魔の薬を1滴も残さず彼は飲み干し、容器を瓦礫山に投げ捨てた。

 



「甘酸っぱくて悪くねぇじゃん。これが魔女の薬なんて、嘘だと思える程にな……!」





【違うよ……本当に最悪な薬なの……麻薬と似ていて……幻覚作用や依存性だって持ってるから……


 でも……私は信じてるからね……ユウキは強いから……危険な薬や……凶悪な敵なんかに……絶対負けないって……】




 

 呟くように反論したリリーナの声は、どこか静かで落ち着いていた。


 ユウキの覚悟と選択を受け入れ、その結果を見届ける決意を固めたのだ__



 そんな彼女の声は、いつだって諭したように、優しく、物静かで、どこか微笑んでいる。


 それをユウキは、彼女と出会った頃から知っていた__




【ユウキ……その薬を飲んで……今のところ……身体に影響は感じない……?】


 


 彼女の声が問いかけると、ユウキはそれの確認と応急処置も兼ねて、確かめるべく、傷口の流血を押さえながら、手側1.5m先に散乱したガーゼと包帯を掴み取り、脇腹へ乱雑に巻きつけていく。



 見れば、制服の色は血で変色し、流血さえ治まっていない。



 しかし、効力の現れは怖ろしい程に早かった__



 ユウキは強引な力で、脇腹の銃創を包帯で圧迫させてしまっている。血が余計に滲み出てしまい、本来その激痛も尋常ではないはずだ。


 だが当の本人は、そんな苦痛など感じないかのように、ただ平然として、自然に立ち上がってしまう。




 神経の麻痺化は、すでに進行している__




 放っておけば、傷は悪化の一途を辿るばかり。さらにその上、痛覚や感覚神経を薬の麻痺させるのだから、いよいよ彼の命が危うくなる__




(頭と足は多少ふらつくが、痛みは全く感じねぇ……! しかし短期決戦は絶対条件って訳か……!


 いや、焦る事はねぇ!


 ロエスレルの武装(ギルソード)なら、大凡の特徴は掴めてる。

 

 後は奴の同じ攻撃や戦略に嵌められなけりゃいい話だ! 上等だよ! あのクソ野郎……!)


 


 

 密かなる覚悟と対策を胸に秘めたユウキは、立ち上がった足で歩を進め、リリーナの意志が宿る《創造する(ズィミウルギア・)脳操槍剣(ブレインセイバー)》に寄り添い、撫でるように触れてやる。




【…………】




「もう心配すんなって、早く終わらせるし、俺のお得意な悪知恵で、上手に乗り切ってやるさ……!


 だからお前は……ゆっくり休んで……絶対に怪我を治してくれよ……リリーナ……」




 そう告げたユウキは、彼女から手を離し、研究所へと通ずる暗闇の通路へと歩き出そうとした。



 刹那__

 




【__待ってよ! ユウキ!!】





(………っ!!?)






 __怒声のように響き渡ったリリーナのそれが、ユウキの足を止めた。



 まるで声色と態度が、嘘のように豹変している__




 彼は一瞬だけ、何事かと往生してしまうが、彼女の様子からとてつもない重要性を感じた故に、耳を傾けるべきと判断した。





「どうしたリリーナ? いきなり声を荒げちまって……! 悪いが俺は先を急ぐ身だ。大事な話があんなら手短にしてくれよ……!」




【うん……ごめんユウキ……! でも……絶対に伝えなきゃいけない事ができたの……!


 最初はね……怪我してるユウキじゃなくて……本部からの増援部隊の人に伝えようと思ってたけど……!

 

 ユウキが戦う覚悟を決めて向かうなら……私もその覚悟に従ってユウキに伝える……!



 ロエスレルの……《ギルソード》の弱点を……!】




「アイツの弱点だと……!?」





 ユウキは、思わず首を傾げた。



 その〘弱点〙とは、具体的に何を意味しているものだろうか。



 ユウキは気絶前の先刻の戦いで、襲い掛かる2体の《巨大甲虫(ペゾウロ)》を一度破壊している__




 故に、大凡の弱点ならユウキは脳に記憶している。ひょっとすると、それと同じ事をリリーナは自分に伝えようとしているのだろうか__?




「弱点ってアレか? あの2体のクソデカ甲虫(カブト)腹部(ハラ)の事か?


 それなら、ついさっき俺があの虫と戦ってた時、瞬時に奴等の懐に潜り込んで、2体同時に破壊したから知ってるぜ?

 

 何らかの不良で、腹部を守るはずの《防御膜(バリアー)》が作動してねぇらしいが……!


 今は、あの虫共2体は、ロエスレルの腕に留まってやがるから、その弱点が隠れちまってる……!

 

 もう奴だって、絶対に対策は立ててやがるし……!


 別の手を講じるしかねぇぞあれは……!」





 ユウキはそう言って、首をひねって悩み出したその時__



 リリーナの声は、ある重要な言葉を発した。予想だにできなかったその一言は、ユウキをこの上なく驚かせる__






【ユウキ……! そんな難しい事考えなくていいよ……! あの防御はね……!


 脆いから……正面からでも余裕で崩す方法があるの……!



 だって……不良の原因は《ギルソード》の機能不全でもシステムの欠陥でもない……!



 欠陥があるのは……!



防御膜(バリアー)》を構築する《ナノマシン》だから……!】






「はァ………!?《ナノマシン》が、ぶっ壊れてる……!?」





 反応はリリーナの予想通りだったであろう、ユウキは衝撃のあまり目を丸め、しばらく唖然としていた。



 だが、彼自身も気づかぬうちに、その口元は無意識のうちに緩んでいく__





 そして、リリーナの意識が宿る《創造する(ズィミウルギア・)脳操槍剣(ブレインセイバー)》は、自身が暴いた全ての情報をユウキに語り、与え、託し、最後に、ゆっくりと彼の耳元に近づいて、彼女は静かに囁いた__






【大丈夫だよユウキ……! その事実を知っていれば……ユウキは絶対に負けない……!  


 私が負けさせないから……!



 だからお願い……私の我儘だけど……あと少しだけ……私も一緒に付き合わせて……!



 ユウキのパートナーとして……貴方の戦いを……私に見届けさせて……!】

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