第29章 命と共鳴の《ギルソード》
◇◇◇◇◇
〈戴冠の女王軍総本部:地下25階、《ギルソード》総合開発・技術研究所〉__
レジスタンス組織《革新の激戦地》の幹部、フランツ=ロエスレルは、自身の《武装》が放った《メガ粒子砲》の惨状を、脱力した顔で眺めていた。
「オイ嘘だろ……! 俺は息の根を止める方法を間違えっちまったか……!?
焼け焦げた天井の瓦礫ばっか増えちまって、奴が完全に死んだかどうかが分からねぇ……!」
ロエスレルは、思わず舌打ちを1つ溢した。
相手への慈悲かつ、確実に始末を終える方法として、彼は己の所持する《武装》から高出力な《メガ粒子砲》を選択したのだ。
しかし、どうやら威力調整を誤ったようで、周辺は案の定、高熱で焼け爛れたり溶けたりした、瓦礫や配管の残骸の山で埋め尽くされている__
これでは、標的の絶命の確認がし辛く、確実に消し飛んだのか、瓦礫の中に埋められているのかの判別がつかない。
「……まぁいいや! どうせ深手を負ってやがったし、あの傷で今の《メガ粒子砲》を回避できたとは到底思えねぇがな……!
とりあえず、奴は始末したと判断して、俺は残りの仕事に取り掛かるか……!」
ロエスレルが瓦礫を背にして、立ち去ろうとした途端、1通の着信が彼の薄型スマートフォンのバイブを鳴らした。
現在は、地下に大規模な電波障害を発生させて、敵間での通信を不可能としているが、作戦行動の遂行のため、《革新の激戦地》の同士間では、連絡を可能としているよう、予め妨害ウィルスを設定していた。
故に、この発信先は、同組織の一員からと断定できる__
電話の相手が何者かも、ロエスレルは予想がついていた。溜め息をつきながら応答する。
「あぁ、俺だ!」
『ハ〜イ♪ ロエスレル♪ ちゃんと仕事は順調でしょうね〜?
念のため、こっちもアンタのスマホの発信機で監視してるんだけど〜? 同じ立ち位置で何をモタついてんのかな〜と思って電話しちゃった♡』
「チッ! お前かよディズレーリ! この忙しい時に……!」
『で? 順調なの? どうなの!? 少なくともユウキとリリーナってガキ2人の抹殺くらいは終わってるでしょうねぇ!?
後さぁ? 開発研究所の最深部への調査はァ? 潜入班じゃ手が出せなかったから、見てきてって言われてるでしょ〜!?』
「あぁそうだ……! だが、事がスムーズに行かねぇ! 今やっとユウキ=アラストルの始末を終えたところだよ……!」
ロエスレルが現状を渋々報告すると、電話の向こうで、あどけない声の少女ディズレーリはま『はァ……!?』と、低く尖った怒りの声を放つ__
『えっ何……? 長期間使って計画を進めて? いざ実行日に予想以上の時間をかけておいて? 進捗を聞けば、期待の半分の仕事も片付いていないのかしら……!?
何なの? 遊んでたのアンタ!? 頭領が傍でご立腹なんですけどォ!?
アンタの作戦のために相当の人員と時間と! 私の秘蔵の殺し屋女まで貸してやってんだから!! さっさと相応の成果出しなさいよ!! この口だけ達者の優男ォ!!』
「オイ……!? お前も俺の実力を舐めんじゃねぇぞ!? お望み以上の成果をきっちり出してやっから! 帰ったら泣きっ面見せんなよ!? ディズレーリ……!!」
苛立って歯を食いしばりながら、ロエスレルは電話をプツリと切った__
「……チッ! ディズレーリの野郎! ろくに現場の状況も理解してねぇで、よく上から目線で説教を垂れ流したもんだなァ……!
だったら、テメェがこの最前線の矢面に立ちやがれってんだ! クソガキィ……!!」
心の奥底に溜まる不満を抑えられず、ロエスレルは剣幕な顔で独り呟い、スマートフォンを胸元に仕舞う。
「……まぁいい! まずは奥地の隅々まで探索してやるよ。要は探り出して露わにすりゃいいんだろ……?
この国家が意地張って隠したがる……『暗黒史』ってヤツをよォ……! クククッ………!」
そう言うと、ロエスレルは寡黙に、暗闇の覆う開発研究所の奥へと歩き出していった__
◇◇◇◇◇
【……ゥキ……ユウキ……! しっかりして……ユウキ……!】
「その声………リリーナ……か……?」
自身の名を叫ぶその声に、ユウキは眩んだ視界と瞼を強引に開いて、その意識を取り戻した。
確かに聞こえたのだ。その耳元で囁いたようやそれは、甘く優しく、聞く者に安らぎを与えるような、彼の最も愛する者のそれ。
しかし、目覚めた瞬間、自身が生存している事に違いはないが、ついに幻聴まで聞こえたのか……と、ユウキは一瞬、己が意識を疑った。
リリーナの声だと思ったそれは、今この時は絶対に聞こえるはずがない。
彼女は瀕死の重傷を負っていて、キルトが救命に勤しんでいるはずなのだから__
「ぐぁ……!? 痛ぇ……! クソッ……!」
横向きに倒れていたユウキは、目覚めるなり、右脇腹の激痛に悶えてそれを押さえつけた。
まだ、出血は完全に治まっていないようだ__
押さえつけた両手から、生温かい液体が溢れてくる感触が、痛覚と共にひしひしと伝わる。
「……クソッ……! 身体が動かねぇな……この俺ともあろう者が……なんて情けねぇ……!」
ユウキは、力の及ばない己の不甲斐なさに酷く苛立った。
だが、いても立ってもいられず、彼は額に汗を滲ませ、重く痺れる身体に鞭を打って、ゆっくりと上体を起こしたが……
【動いちゃ駄目だよユウキ……! 凄く深い傷を負ってる……! まだ応急処置さえできないよ……!】
「嘘だろ……? その声………やっぱリリーナか……!?」
間違いなく聞き取れた。聞き間違えでも幻聴でもない。
不意に焦ったユウキは、その上体を無理矢理起こすなり、その声が聞こえた、己の頭上に目をやった。
見上げた刹那、己の息が逆流しかける程に、ユウキは混乱した__
目線の先には、1本の《槍》が空中で浮遊し漂っている__
銀色の光沢を放つ2m程の長い柄、紅色に煌く刃は〘ツツジの花〙を象った、まさに《紅花の長槍》__
その正体など、ユウキが知らないはずがなかった。
「《創造する脳操槍剣》……? 嘘だろ……?」
ユウキは震えた声で、その《槍》の名を呟いた。
目の前のそれは、リリーナが脳で意識的に遠隔操作ができる特殊な能力武器《ブレイン=ギルソード》__
【良かった……私の事……やっと気づいてくれた……】
浮遊する《槍》から、再び彼女の声が聞こえた。
間違いなく、リリーナはこの《槍》を通して、ユウキに話しかけている。
それが原型を保ち、機能していると言うことは、まだ彼女が生きていて、どこかでそれを制御しているのは確実だ。
しかし、解せないのは__
「何で……? 何でリリーナがそれを動かしてんだよ……!? だって……お前は瀕死の怪我を負ってるんだぞ……?
意識なんて……とっくに失っていて……この《槍》を制御する力なんて……もう残ってねぇだろうに……!」
ユウキは酷く混乱し、動揺しながら、頭上で浮遊する《創造する脳操槍剣》を見つめて叫んでいた。
目の前の現象を、ユウキは受け入れられないでいた__
だが、よく観察すれば、その《槍》は片時もユウキの元を離れる気配がない__
まるで《槍》自体に意思が宿っているかの如く、その場を動かず彼に寄り添っている。
彼女の強い意思が、共鳴体となっているかのように__
【ごめんユウキ……今まで見せた事なかったよね……こんな姿……
私の《ブレイン=ギルソード》は、本来この国では開発も取扱いも禁止されてるから、この《能力》も国家機密に指定されてる……
だから、自分の力はずっと公には見せないで、隠し続けてきた……ずっと傍にいるユウキに対してさえも……
そうだよ……もう私は意識なんて失ってる……身体も……心臓を動かすのがやっとなくらい……
だから……今の私は……身体から意識を遮断して……ただ何も感じずに眠ってるだけ……
その代わりに……私の視覚や聴覚……独自行動に不可欠な身体感覚は全部……《ブレイン=ナノマシン》を通じて別の場所に《転移》させたの……
今……ユウキの頭上で浮いてる……《創造する脳操槍剣》にね……】
「……!? どういうことだ……!? お前の意識と感覚が……全部……《槍》……に……!?」
耳を疑いながら、ユウキは傷を押さえていた右手を放し、恐る恐る頭上の《創造する脳操槍剣》へ手を伸ばした__
すると、空中で揺れるリリーナの《槍》は、ゆっくりと降下し、ユウキの手の届く位置まで高度を下げていく。
しかし、信じられないものだ__
どれだけ目を凝らしても、その《槍》を手で触れず、耳でも聞かない限り、浮遊こそはするものの、それはただの無機質な《槍》にしか見えない。
何しろ、この現象の原因、定義づける絡繰りが全く理解できていないのだ。
そのため、互いの命を守り合うための、より良い方法の立案すらままならない__
ユウキとリリーナ__
2人は出会ってより10年近くの間、暗闇や困難を越えて、硬い絆で結び合ってきた仲だ__
自身が把握していたとばかり思っていた、彼女に対する知識や常識が崩されたと思うと、ユウキはこの上ない悔しさと、己の浅はかさを噛み締めざるを得ない。
いや、彼女自身も、その《能力》と『国家機密』だのと称して隠蔽する事を強要され、長い時の中、必死にそれを内に秘め続ける事に苦しんできたのだから__
そんなリリーナを、せめて自身だけでも受け止められなくて、一体どうするとういのか__
リリーナの意識が宿る《槍》に右手を触れながら、ユウキはそう考えるしかなかった。
「すまねぇリリーナ……! せめて教えてくれないか……? 今のお前の姿が、そうなった理由と仕組みだけでもさぁ……!
少なくとも、これは誰よりも知ってるよ……!
《ブレイン=ギルソード》の遠隔操作だけは、高度な集中力が必要で、体力も精神力も削り取られるんだろ……!?
元々、この国に帰って来た時、もうお前は傷だらけだった……!
それどころか、悪化して……傷も開いて大量に血を流して……!
そんな状態なのに、お前は尚も命をすり減らしてる……俺達を助けてる……!
もう今のお前を見て、大凡の筋書きは分かったよ……!
俺はリリーナに救われた……!
アイツの《メガ粒子砲》が放たれた時、無抵抗のまま《高熱源体》に呑み込まれるのを、お前の《槍》が速攻で飛んできて、俺を掬い上げたんだ……!
そうだろ……!? リリーナ……!」
そう言いながら、ユウキはリリーナの頭を優しく撫でるように、彼女の意思を宿す《創造する脳操槍剣》の、〘ツツジの花〙を象る刃を、そっと優しく触れていた。
ふと、彼が前方5m先にある瓦礫の陰に目をやれば、何やら医療器具や薬品があるらしき救急箱が隠されている。
この付近に、治療室や応急処置の可能な設備がない事など、地図を見なくてもユウキは知っていた__
「マジかよ……お前……傷の応急処置に十分な医療道具を、徹底的に探し出してくれたんだな……!
もう信じられねぇぜ……! 自分自身が生死を彷徨ってるというのに。そうまでして……俺や……この国の事を守るために……!」
【ユウキ……そんな……やめてよ……! ……そんな大それた事をやったみたいに……言わないでよ……だって……今だって私……今は何もできてなくて……それに……あの箱の中身は……駄目で……!】
弱々しく、その《槍》からは、リリーナの啜り泣く小さな声が聞こえてくる。
ユウキが知らないはずがない。本当は身も心も痛くて仕方がなくて、大粒の涙を流さずにいられないのに__
この上ない苦痛を押し殺し、命を削ってでも己が姿を変えて、今はユウキの傍で、自分を守ろうとしている。
今、死に瀕している彼女の本体が、もしも目から涙を溢しているのなら、真っ先に飛んでいって、それを優しく拭ってやれれば、どれ程互いの心が救われるだろうか__
「リリーナ、もう何も背負い込まなくていいよ……! 後は俺が引き受けるからさ……!」
【ありがとう……ユウキ……じゃあ……私がこうなった理由から……話すね……?
私の持つ《ブレイン=ナノマシン》は……所有者の大脳に取り付けられた中枢制御装置から発する《信号》によって……意のままに自在な操作ができるのは……
ユウキも……知っている……よね……?】
「あぁ知ってるよ。それさえ軍の極秘情報らしいがな……! でも、俺とリリーナは10年近くも一緒にいるだろ……? その《能力》の事は、俺もずっと傍で見てきてるつもりだ……!」
【私も……こう思ってたんだ……この《ブレイン=ギルソード》の特性は……自分自身だけが知り尽くしてるんだ……って……!
でも……後から知った……私の《能力》は……ユウキ達のそれとは根本的に違う……もっと特殊で異質なものだったって……!
基本性能も……操作概念も……感覚も……基礎構造も……全てが別物だって……!
例えば……ほら……
ユウキが所有する《高速射撃の剣》だって……他の《ギルソード》と同じで……
その身体に纏ってる数億の《Gナノマシン》って、その1粒1粒が体内の神経細胞と連動している……でしょ……?】
「あぁそうだな……! 故に《ギルソード使い》は、自身が《武器》の使用意思を持った瞬間、各関節の筋肉に微弱な力を込めるように__
あらかじめ《超兵器の聖母体》から《初期操作知識》として脳に《読込暗示》されている__
そうして戦闘時に、身体の『運動神経系』に伝達される刺激に自動反応して《ナノマシン》は起動し、その伝達と同時に《集団大結合》を開始、各々の『必殺武器』が《ギルソード》として完成する__
って、教科書にも書いてあるな。俺やキルト、ヴィクトリアにルフィール、この国の《ギルソード使い》全員が、そうやって《能力》を発動させてる……!
けど、お前の《ブレイン=ギルソード》の場合は……!」
【そう……全く違う……そもそも私の《ブレイン=ギルソード》に……連動という概念なんてない……
それを構成する《ブレイン=ナノマシン》はね……言わば私の分身であり……共鳴体……
そして……もう1つの脳でもあり……身体なの……】
「へ……!? もう1つの……脳!? 身体!? ちょっと待てよ!?
お前の《ブレイン=ナノマシン》は、大手術で脳に取り付けた《中枢制御装置》からの《信号》で遠隔操作するんだろ……!?
《分身》……って言われれば納得はできるが、もう1つの脳や身体って……どういう意味だよ!?
お前の《能力》に対する俺の解釈って、何か間違っていたのか!?」
言葉の理解が追いつかず、ついにユウキは頭を抱えだした。その悔しさも表情に表れている。
【別に……これは間違っているとか……いないとかじゃないよ……
この《能力》を所有する本人にしか……分からない感覚だから……
それだけ《ブレイン=ナノマシン》が異様な構造って事だね……
事実……私は通常の戦闘状態の時……
通常通り……脳味噌の中枢装置から《信号》を送って……《ブレイン=ナノマシン》を操って戦ってたから……
でも実はね……それを自在に操る《信号》は……脳の《中枢制御装置》からの一方通行じゃない……
遠方で遠隔操作してる《ブレイン=ナノマシン》からも……現在の位置情報……機能の状態……あらゆる情報が逆発信で提供される……
そうやって……私の『脳味噌』と《ブレイン=ナノマシン》は……独自の巨大な《ネットワーク》を築いているの……
脳から一方的に命令するだけじゃなく……私達は常に『情報』や『思考』……時には『視覚』や『聴覚』を同期させて……互いが次の行動に備え合っている……
だから《ブレイン=ナノマシン》は……私の共鳴体……脳であり……身体なんだよ……】
一連の説明をリリーナから聞いたユウキは、ようやく彼女の力、《ブレイン=ギルソード》の全貌を理解する事ができた。
それに通ずる話も、本人から幾つか聞いている。
中東の戦地で〔自由軍〕に捕らえられた際、リリーナは秘密裏にキルトと連絡を取るべく、《ブレイン=ナノマシン》に通信命令の《信号》を発信させ、脳の思考から彼の携帯と直接会話する手段を取っていたという。
そして、彼女が《ギルソード》使用時に発動する紅色の瞳、通称《粒子器発動の覚醒瞳》__
その仕組みは、彼女の眼球の内部、視神経、角膜、虹彩に《ブレイン=ナノマシン》が付着しているという。
それ等は《ギルソード》の発動と共に、自動で脳から《信号》を受信して起動される。
だからリリーナは、遠方または死角での《ギルソード》を、自身の視覚で検知できるそうだ。
彼女の脳と、各数億の《ブレイン=ナノマシン》及び《ブレイン=ギルソード》から創生させる、巨大なネットワークシステム__
それ等全てが同期し、共鳴し、あらゆる行動思考を独自の通信システム《信号》で共有、命令し合ってしまえば、確かに《ブレイン=ナノマシン》は、所有者のもう1つの脳であり、身体であると言えよう__
現に、リリーナの身体は仮死状態にも関わらず、彼女は身体から意識を自ら切り離し、《創造する脳操槍剣》に思考や視覚をリンクさせて、ユウキとの会話を実現している__
その《ブレイン=ナノマシン》が、完全に機能を停止する時は、リリーナの命が尽きる時だ__
彼女が死ぬまで、それ等は所有者の分身となり、身体となって、彼女の体力と精神力を動力に機能し続ける__
ならば__
「そっか……ありがとうな。リリーナ……! 本当にすげぇよお前……! その話が聞けて良かった……! 知る事ができた……!
なァ……せめてもう1つ、俺のお願いを聞いてくれないか……?
……そこの瓦礫の奥に隠した偽物の救急箱、こっちに寄越してくれよ!」
【ユウキ……!? それは駄目……!!】
リリーナの声が止めに入ったが、その言葉に、ユウキは一切耳を傾けない。
何かの衝動に駆られたかの如く、流血する腹の傷を押さえたまま立ち上がったユウキは、重くふらつく身体で無理矢理に歩を進め、ついに5m先の瓦礫の陰に隠れた『救急箱』を片手に掴み取った__
すると、半開きだった箱が宙吊り状態で持ち上げられたので、包帯やガーゼと共に、収納された注射器や医薬品のボトルケースが溢れ落ちてしまった。
__次の瞬間、散乱したボトルケースの1つを拾い上げ、ふとその薬品のラベルに目を向けたユウキは__
凍りついたように、ユウキは無表情のまま硬直した__
【ユウキ……ごめんな……さい……違うの……これは……】
リリーナの声は震え出し、激しい動揺が表れる__
しかし、ユウキは何も言葉を発しない。
ただ黙ったまま、その左手にあるボトルケースの、ある一点の文章だけをひたすら眺め続けていた__
『WARNING! 指定外薬品:人体強化覚醒剤「Hexe」
※重体患者への使用厳禁、覚醒作用の反動により死に至る危険性有り__』
【ごめん……なさい………私……こんな薬……ユウキに……使わせるため……に……持ってきた……訳……じゃ……】
まるで裁きを受ける罪人のような、怯えきった声色で、リリーナのそれはユウキに辿々しい謝罪を唱え続けていた__
しかしユウキは、表情こそ変わらないものの、動揺や失望の素振りさえ全く見せようとしない。
__そして、ふと足元に転がっていた細い注射器を拾い上げ、ようやく口を開いた。
「……何を怖がった声で謝ってんだよリリーナ! 落ち着けよ。
悪いが、どの道俺は分かってたよ……!
その辺に落ちてた『救急箱』の中身なんてのは、こういう危ねえ物しか入っていないって事は、予想はできていたぜ__!!」
次回、反撃の時は迫る!!




