表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新科学怪機≪ギルソード≫   作者: Tassy
1. 少年ユウキと闇社会の楽園 編
7/103

・人体兵器の乱闘(2)



◇◇◇◇◇




『ディムール=サマルカンド君~? お前ェ〜あのガキ〜まだ始末できていないのォ~?』




「申し訳ございません……! わが主アクバル様……!! 少々思わぬ邪魔が入ったようでして……でも大した問題では……!」




 姿の見えない相手と連絡を取っていたのは、ユウキだけではない。



 彼の居る建物の真下、すなわち路地裏には東洋人種のマフィア、ディムールと呼ばれている男が、同じく超薄型のスマートフォンを左肩と顎で挟み、冷汗を流していた。



右手には《増殖の(インクリーズ)小型拳銃(・ハンドガン)》を構え、左手には、そこらから拾った鉄製の狙撃銃ライフルを、マグナムで潰された左足の杖替わりに突いている。




『いいか!! このクソ猿野郎!! 何のためにその貴重な宝物を預けたと思ってる!?


 ただの人体実験とはワケが違ぇんだよ!! そんな使命なら、お前じゃなくても、その辺にいるホームレス連中で事足るってんだ!!


 与えられた仕事は迅速に片付けろ!


 お前の役目は、我々の計画の邪魔になろう重要権力者の子息を1人ずつ殺害する事だ! 隠密になァ!


 神聖なる兵器を、お前みてぇな三下に与えたことを後悔させんなよ!?』





 激痛に耐えながら上司から浴びせられる暴言は、傷の痛みを忘れるほどに、心の奥底に突き刺さるものを感じざるを得ない。




 ディムールは電話相手の上司に数回謝罪した後、殺気だって薄型スマートフォンをその場で投げ捨てた。




 上司の散々な暴言に耐え兼ねた上に、左脚からの大量出血による貧血が合い重なって、彼の頭は冷静な思考が欠けつつある。





「畜生ォ……! あのクソガキ共が……! 恥をかかせやがってぇ……!!


 やっぱり蜂の巣だけじゃ生温いな……!


 とりあえず動けない程度まで穴を開けて、息絶える寸前までゆっくりと弾丸で肉塊にしてやる!!」





 ディムールの顔は、まるで野獣のような形相に変貌した。




 マグナムで片足を負傷した幼い少女と、その始末に横槍を入れた奇妙な少年、二人に対する膨大な殺意に、胸の内を支配されるのを、彼は密かに噛み締めた。


 

 __その瞬間、その片方と思わしきその声が、背後から囁く。




「成る程ね~! 今の会話全部聞いちまったぜ♪」




「はァ……!?」




 ディムールが衝動的に振り返ると、少年ユウキ=アラストル が、何故かニタリと悪態をつくような表情で仁王立ちしていた__



 屋上で篭城戦でも企てていると思いきや、何を考えてか、自身の切り札ともいえる《(かべ)銃口(じゅうこう)》の餌食となるような、建物裏の暗く窮屈な路地道に姿を晒している。



 __ディムールは混乱の上、少年に対する憎悪が表情に表れるところだったが、あくまで冷静でいる素振りを演じた。




「ほほォ!? 俺の《ギルソード》が怖くなって建物から動かないと思ってたぜ、こりゃ殺してぇくらい見上げた度胸だ!」




「うるせぇ無能な猿野郎。俺はただ、返すモンを返してもらいに来ただけだ!


 つっても、どの道()()()()()では……!


 回収できないだろうけどなァ……!」



 

 ユウキは狩人の如く鋭い眼差しで、ディムールに言った。




「返すゥ? フヘヘッ……駄目だ!! 一度手に入れたこの《神秘的兵器》は嫌でも人に譲ることはできねぇよ!! お前が一番良く知ってるんじゃねぇのかァ!?」




 ディムールの憤りを通り越して愉悦に満ちたような絶叫と共に、ユウキ達を薄暗く囲う外壁から、再び《壁の銃口》が、銀に輝く《光の粒子》を纏って姿を現した。



 外壁を覆いつくすように、実体と化された《銃口》は、どれも一寸の狂い無く、ユウキの身体に標準を定めている__




「へぇ〜? 念のために警戒はしていたが……! 


 アンタが習得したのは、精々《ギルソード》の『使用方法』だけってトコだな!


 正直、拍子抜けしたぜ__!」



「何が言いてぇんだ!? このクソガキィ!!《増殖の(インクリーズ)小型拳銃(・ハンドガン)》! 一斉射撃だァ!!」




 ディムールは己が右手でそのトリガーを引くと、≪壁の銃口≫が一斉にユウキを目掛け、銃弾の嵐を炸裂させる。




「フッ……! 素人風情が__!」



 ユウキは笑って呟いた。

 


 弾丸がその身体を貫く寸前、ユウキは瞬時に《増殖の(インクリーズ)小型拳銃(・ハンドガン)》を構えたディムールに突進すると、目にも止まらぬ速さで男の脇腹をすり抜け、見事に背後を捕える__



 

「バカな!《壁の銃口(コイツら)》の一斉射撃から逃れただと!?」




「どうしたよ!? これが《ギルソード使い》の戦い方ってヤツだぜ!? 三流兄さんよォ!!」




 ユウキがそう言った瞬間、《壁の銃口(それら)》から湧き出したものと同じ《光の粒子》が、彼の身体に纏わりついてゆく。




「テメェ……! そいつはァ……!?」



 僅かな時間の中、ディムールは、ただ衝動的に後ろを振り返るしかなかった。



 だが、その視界に飛び込んだのは、振り上げられたユウキ左腕から、鮮やかな輝きを帯びた『赤紫色』の光が、彼の左手集っていく。神秘的かつ絶望的な光景。



 まるで紫鉱石パープライトの如く幻想的に煌めくそれは、彼の左手の元に集い『一種の武器』が形成されるようだ。




 __だが姿を現したのは、数ある『武器・兵器』の中で、あまりにも在り来たりで、見馴れていた装備品。




(あれは……!? まさか……!? ……つるぎ……!?)




ディムールは、目に映った《その姿》を、即座にを理解することができた。



 刹那__




 【ザクリッ……】と、斬りつけられた感触が身体を襲う。




 焼かれるような激痛と目眩に苛まれ、立ち眩みを起こした彼は、崩れるように全身のバランスを失った。




「……ガッ……クソッ……! ……てめぇ……殺す……ぞ……!」




 背中から血の雫を滴らせ、苦痛と貧血で顔を歪ませたディムールは、《増殖の(インクリーズ)小型拳銃(・ハンドガン)》は愚か、自身の身体の制御さえできないまま、ただ倒れまいとひたすらに、片足で機関銃の杖を突き、前へ前へと身体を突っ込ませていく__




「あっ……! さっきの発言撤回するわ。やっぱ《ギルソード》の使い方……習得マスターまでは無理だったな……!」

 



 ユウキは冷めた顔で、ディムールの向かう先を眺めながら一言呟いた。



瞬時にユウキが思い浮かべた予知は、見事に的中した__



 男が闇雲に歩を進めたその先は、ついさっきまでユウキが立っていた、《(かべ)銃口(じゅうこう)》たちが発砲を続ける『照準地点』__



 ユウキを狙って以来、《それ等》は『射撃の停止操作』を、ディムールによって成されなかったまま、一斉射撃を止める事なく、永遠と石畳や側壁、弾丸同士を破砕し続けている。




「………………!!」


 


 成す術なく、彼は《弾丸の雨》へ身を投げ出し、断末魔と共に噴水の如く舞い上がった血飛沫(ちしぶき)は、砂埃をも赤色に湿めらせて瞬く間に染めていった__



 ようやく一斉射撃が収まる頃、そこに残されたのは、無数の銃弾を浴びて瓦礫と化した煉瓦壁と、血の海を広げて散らばったディムールの肉塊だけだった。




「残念だったな……!《壁の銃口》という《能力》を使い馴れていたはいいが、全部俺に標準を定めたら一斉射撃の意味がねぇ。


 避けることなんて造作もなかったぜ。おまけに冷静さを失って、《ギルソード》の操作ミスによる自滅と来たか……!


 結局、わざわざ俺の《ギルソード》を晒す程の相手ではなかったみたいだな__!」




ユウキは気の抜けたように、両手を頭の後ろに組んでため息をついた。



 左手に宿っていた、『つるぎ』を形成した《光の粒子》は、すでに跡形もなく消えている。




「かなりやべぇ状況になってきた! 俺1人の力じゃあ、どうにもなりゃしねぇかなぁ?」




 ユウキは、路地道に挟まれた狭い空を不意に見上げた。




「とりあえず、あのキザ野郎に一報入れとくか! もうこうなった以上、嫌でもマフィア共と喧嘩するしかねぇだろうからな……!」




 これから起こり得るであろう現実を察知しながら、屋上で眠らせたロザリアの元へ向かおうと、彼は階段を登った__



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ