第28章 ロエスレル強襲〈下〉
語録紹介(追加分)
・《強襲動兜の無敵強化盾》
……ロエスレルが研究所の廃棄室から強奪した《ギルソード》。両腕には甲虫の形状をした、武装付きの《盾》が装着され、虫の装甲からは強力な《防御膜》を張る能力を有している。
盾は二重構造で、外側の甲虫型の《盾》は着脱可能、さらには巨大化して《AI》の自動操作により敵の単機で奇襲ができる。
◇◇◇◇◇
その頃、同時刻の地上__
軍立〈グランヅェスト学園〉中央エントランス広場にて__
「地下と連絡が取れねぇってのはどういう事だよ!?」
学園周辺の警備を監督していたユウキの同僚、クラウス=ドランセルは、スマートフォンに送られた〈軍総本部〉からの緊急メッセージを開いて、酷く困惑していた。
「落ち着いて調べろクラウス、情報は逐一更新されてるぞ!」
その隣では、同じく同僚のスタイン=アロノードが、ズレ落ちる眼鏡を直しながら、スマートフォンを睨みつけ、密な状況を確かめている。
「地下ネットワーク回線に『通信装置破壊ウイルス』をばら撒かれたらしい……!
敵の詰めが甘いのか知らないが、被害は地下だけで済んでるから、今頃は総本部から増援部隊が送られてるだろうが……!
この先の情報が大問題だな……! クラウス、そっちでも見られるだろ……?」
「ちょっと待てよスタイン……! 俺が見てるポータルサイトを更新させてるから……! って……嘘だろ……!?」
手元の端末を触っていたクラウスは、驚愕のあまり目を見開いた。
「《ギルソード》が奪われたって……!? マジで本部が言ってんのかよ!? 何が起こってんだこの都市でよォ……!?」
「あぁ、俺もさっきその情報は見たよ! 連中への拷問が骨折り損になったな……!」
「いやいや!? なんでそんな冷静で見てられんだよ!? 本部の軍事セキュリティは鉄壁じゃなかったのか!?
事態の展開が予想外過ぎて、思考回路が追いついてねぇぞ!」
「だから落ち着けってクラウス! 潜入者の手が〈総本部〉にまで回っていたんだろ?
この学園周辺だけでも、これだけ大量の手先を捕らえたんだ。何も不思議な話じゃないぞ……!」
溜め息をつくように言ったスタインは、ふと背後の足元に目をやった。
そこには夥しい数の黒スーツを纏った男達が、今現在も山積みにされて倒れている。
彼等は全員、敵組織の手先であり、学園周辺を嗅ぎ回っていたところを、クラウスや生徒達が捕らえたのだ。
「そりゃ……確かに最もな論理だが……! ところで、病院に向かったヴィクトリアとルフィールとは連絡が取れたのか?」
「……それが全く繋がらん。もう連絡が途絶えている……! おかげでリリーナの容態どころか、彼女達の安否すら確認できない。本当に頭が痛いな……!」
「アイツ等……まさか敵の奇襲にやられたか!? いやねぇな……! 2人揃って優秀な実力者だから大丈夫だとは思うが……! クソッ……! 現状は身動きすら取れず終いってことかよ……!」
「どうするんだ? クラウス……! 学園周辺の警備なら、うちの生徒は腕利き揃いだから、何か起きても対処はできるだろう……!
今最も危険な状態なのは、ユウキとキルトだな……! 激戦地の中枢にいるんだ! 援軍が来るとはいえ、せめて俺達も応戦に行くべきじゃないのか!?」
ユウキ達の支援を催促するスタインに、クラウスは……
「いや、ユウキに関しては心配いらねぇだろ!」
「おい待てよ……! そう断定していいのか!? 仮にも今起きているのは前代未聞の異常事態だぞ! 最悪のケースくらいは常に想定して……!」
「最悪のケースなら、凡人の俺達が下手に出向いて、ユウキの足を引っ張る事だぜ?
なぁスタイン! アイツのクラスメイトとして、アイツの本当の恐ろしさ……俺達は間近で感じてきただろ?
特に……『例のスイッチ』が入ったユウキは尚更だ……!」
「スイッチ……? あぁ、それもそうか……!」
クラウスの顔を見るなり、スタインはそれの意味を即座に察知した。
「名付けて、『狂気の闇騎士状態』ってヤツよ!
あの状態は、ユウキが相手を『この世の悪』と断定した時、アイツの中のスイッチが入っちまって、情け容赦どころか、血も涙もない所業を敵に平然とやっちまうんだぜ!
多分アイツがシチリアに行ってた時も、どっかでそのスイッチが働いてたんだろうな……!
多分、今もその状態に切り替わってるぜ!
場合によっては、下手に近づかない方がいいくらいだ!
ユウキがあの思考になったら、相手する敵に同情しちまうよ!
悪い奴と判断された瞬間、凄惨な末路を辿るからな……!」
クラウスはそう言って、ユウキのいる〈軍総本部〉の方角を冷静に眺めていた。
◇◇◇
〈戴冠の女王軍総本部:地下25階、《ギルソード》総合開発・技術研究所〉中央広間__
「ユウキ=アラストル! お前、面白い男だな……! 見応えがある奴は壊し甲斐もある……!」
そう言ったロエスレルは、口元を歪めて1人で微笑していた。
「何を場違いな笑顔浮かべてんだよ……!? 余裕の表れか!? それとも、お前の罪相応の制裁を受ける覚悟はできたって事か……!?」
ユウキの眼光は鋭く、そして冷たい__
その冷徹な刑執行人の如きを変えることなく、ユウキは、ゆっくり、ゆっくりと、ロエスレルに近づいていく。
「ククッ……ッハハハ……! 間近で見ると本当に悍ましい目をしてんなァこのガキ……!
殺す気満々みてぇな顔で迫ってきやがって……!
だが、どんな目で俺をビビらせようが、お前が今置かれた状況は窮地に変わりはないんだぜ……!?
《コーカサス》!!《ヘラクレス》!! 思い知らせてやれ!!」
ロエスレルの命に隷従するように、2体の虫型兵器《甲虫01:コーカサス》《甲虫02:ヘラクレス》は、共鳴するように起動音を唸らせ、再びユウキへ狙いを定める。
次の瞬間、彼を狙う2体の巨大な装甲が【ガバッ!】と展開され、大凡の昆虫に必ず存在する『ある部位』を開放し稼働させた。
それは《鞘翅》、中を飛び交う昆虫の羽。
当然、目の前の《巨大甲虫》は、全長3.5m程と巨大な故、開放された鞘翅も大型のそれ。
「そりゃ甲虫だもんな。羽くらいあるのが普通だろ……!」
冷静沈着な反応をユウキが見せるや否や、2体の《巨大甲虫》は背中の《鞘翅》を高速で羽ばたかせ、風速3m程の強風と塵埃の嵐を周囲一帯に撒き散らしながら、高さ6mへと緩やかに浮上する。
刹那、先に行動を起こしたのは、ユウキだった__
強風を利用して、彼は後転して後方3mへと回避する。
直後に彼が立っていた足場を、《01:コーカサス》の放った《拡散ビーム砲》のうち2発が直撃する__
息つく暇を与えぬが如く、全方2時方向から《02:ヘラクレス》が、頭部と口元に隠しているだろう、5門の《バルカン砲》と中型《メガ粒子砲》を同時射撃を連続炸裂__
だが当然のように見越していたユウキは、真横、斜め前方へと、機敏に、俊敏に、危なげなく、自慢の運動能力で高速回避を繰り返す。
2体の猛追撃が止むことはない__
片方の《01:コーカサス》は高出力な《ビーム砲・メガ粒子砲》の連続射撃、内部に隠した《小型ミサイル》の不規則射撃、もう片方の《02:ヘラクレス》は空中機動力を活かし、《巨大な角》を振るい突進攻撃。
交互にそれ等を繰り出し、徐々にユウキの体力を奪う魂胆だ。
しかし__
「……フン!! やっぱ動きが《AIナノマシン》の典型的なパターンじゃねぇか! 何発が避けてったら動きが読めてきたぜ!」
ユウキが宣言した刹那、2分程度まで《拡散ビーム砲》を撒いていた片方1体《01:コーカサス》が、ここで巨大な角を構え、三度目の特攻をユウキに仕掛ける__
ニヤリと笑った彼はその場を動かない。そのまま中腰状態で待ち構えていた。
鋭利な角が目前に迫る寸前、見極めたユウキは瞬時にそれの胴体を潜り抜け、その武装を隠した内部装甲を《高速射撃の剣》で見事に斬り裂く__
【………グゥオォォ!!】
爆発音と軋む機械音が響き渡る__
火器を腹部に貯蔵していた《01:コーカサス》は、灰煙と爆炎を漏らし、そのまま地上に墜落していった。
「これで弱点見たりってなァ! 防御膜が張ってあるのは背中や角の甲殻部だけ! コイツ等の《腹部内装》は弱ぇ事が分かった!!」
続け様にユウキは攻撃を緩めず、次は両手の全指に《高速射撃の剣》を挟み、鉤爪状に刃を握った__
刹那、その《剣》にのみ与えられた象徴の機能、鍔部に搭載されし《ジェットエンジン》が即座に点火__
「……《超速の剣射撃》!!」
瞬く一瞬、ユウキの両手にあった8本の《剣》全て、まるで銃弾の如く宙に一閃を描き、うち4つは《02:ヘラクレス》、もう4つはロエスレル本人を目掛け放たれる__
狙い通りだ。巨大な《ヘラクレス》は機能を奪われ、爆炎を咲かせて地に落ちた。
しかし、ロエスレルの方へは__
「今のはヤバかったなァお前! その威力……まともにこの腕の薄い《盾》で防いでたら、ぶっ壊されていたぜ! アイツ等の大事な足場だからよォ……!」
命中に至らず、無傷で平然としている。軽やかに身体を反らし、難なく回避されていた__
恐らくこの男は、ユウキ自身と互角、あるいは凌駕する戦闘能力を持ち合わせている可能性が高い。
不快な冷や汗が、額を伝って流れ落ちた。確実に長期戦が予期される。
「今の動き……アンタ絶対に普通じゃねぇな……!? 相当の腕利きだろ……!」
「こっちの台詞だクソガキ! どうやら、俺はお前を相当舐めていたらしいな……! ユウキ=アラストル……!
自己再生するとはいえ、まさか自動操縦の《甲虫の盾》が2体共に壊されるとは予想外だ!
その上、時間だけ浪費して掠り傷さえ負わせられねぇとは……!
だが遊びは終わりだ……! 俺は仕事が忙しいんだよ! お前1人の抹殺なんざ、複数ある命令の1つに過ぎねぇ……!
手っ取り早く終わらせる手段だ! テメェは俺の手で直々に殺してやる……!」
どこかユウキと同じ、冷徹冷酷な眼光へ変貌したロエスレル__
その直後、彼の両腕に装着された《盾》から、突如として黄土色の《ナノマシン》粒子が大量に発生し、空中へと放出されていく。
目を凝らせば、光り輝くそれ等の粒子は、個々に小さく密集して、何かを形成しているようにも見られれば、何かを呼び起こしているようにも見られた__
「何するか知らねぇけど! そんな妙な動きを黙って放っておくワケがねぇだろうがァ!!」
瞬間的に危機を察知したユウキは、その一手を阻止すべく、《剣》を奮って向かっていく。
だが刹那、駆け抜ける足を急停止させ、ユウキは後方へ飛び上がった。
【バシュウゥ!!】
彼の真上から約25発の《拡散ビーム砲》が放たれる。
大半の弾は周囲の足場し、うち2発は、ユウキが足を止めた位置に直撃、さらに、うち1発は《高速射撃の剣》の刃に直撃し、その剣は折り砕かれてしまった__
「チッ……! もう復活したか巨大害虫!!」
持ち前の反射神経で回避行動を取ったユウキは、壊された《剣》を投げ捨て、即座に自身の頭上を見上げ確認する。
案の定、破壊して間もない2体の《巨大甲虫兵器》が、周囲に飛び散った《ナノマシン》粒子に構築され、その胴体の80%が、瞬く間に修復されていた。
__すると、ユウキはその姿を一目見た瞬間、ある点を酷く不審に思い、それが表情に表れてしまう。
(何だあれ……? どういうワケだ? サイズが縮んでねぇか?)
そう、ユウキが第一に訝ったのは、再生成された《巨大甲虫兵器》が、異様に形状が小型化されていた事だった。
全長7m、高さ3.2mと、4tトラック1台分程の巨大さで圧倒されていたというのに__
それが現状態では、角を合わせて全長2.0m、高さ0.7mと縮小し、レーシングカート並の図体しか持たない。
急な再生のため、《ナノマシン》の供給が追いついていない。不完全な高速修復で弱体化してしまった。
ともなれば、それで十分な説明はつくだろうが、見る限りそのような事情がある様子ではなさそうだ。
それが理由であれば、少なからず不安げな様子や必死さが、ロエスレルの顔から読み取れるはずだろう。
__だが、平然としたロエスレルの次の一言によって、疑問が解決されると共に、ユウキはその《ギルソード》の全貌を知ることになる。
「《コーカサス》……!《ヘラクレス》……! 主の両腕になれ! ここへ戻って来い__!」
その言葉が響いた瞬時、小型化した2体の《巨大甲虫兵器》は、周囲に突風を起こして中を駆け抜け、ロエスレルの元へ肉薄するように飛び戻る。
__次の瞬間、駆け戻った2体は、思わぬ姿へと変貌を遂げる。
主の腕に装着された長く平たい《盾》へ最接近するや否や、頭の角を逆さの下側に向け、6本の昆虫足を器用に引っ掛けて、宿木に止まるように、その《機体》を固定させた。
右腕の盾に《コーカサス》の、左腕の盾に《ヘラクレス》の姿。それ等は主人の《盾》となるように、静かに動作を停止する__
いや、例えるまでもない。その腕と一体化した《甲虫》を目の当たりにしたユウキは、ようやくこの男が得た《能力》の理解に至った__
「……成る程ねぇ、意外にも単純な答えだったな……!
まさか《人食い巨大甲虫》の正体が《盾》その物だったとは……!
まぁ、いざ判明しちまえば、自然に納得しちまう話だが……!」
「謎が判明して本望かオイ? これが俺の本来の力《通称:甲虫の盾》ってなァ!!
正式名称は《強襲動兜の無敵強化盾》らしいが__!
どうやらコイツは、名前負けした欠陥品だな!
本来なら名称通り、《甲虫達》の《防御膜発生装置》は、装甲だけでなく《腹部内装》にも搭載されて無敵なはずだが、どうやら機能していねぇらしい……!
《自動操縦機能》も不完全だし、道理でコイツが破棄の対象になった訳だ……!
その情報を得られたのは、お前のおかげだから感謝しねぇとなァ!
だが、今はどうだ!? 《甲虫の盾》はこの通り再生してるぜ!? 弱点である《腹部》も俺の腕に覆い隠れて手が出せねぇ!
頭のキレるお前なら、どういう状況か分かるだろ……!?
ユウキ=アラストル……!!」
再び余裕の笑みを見せるロエスレルに対し、今度はユウキは強張った表情を見せてしまう。
確かにその通りだ。
腹部の弱点が隠れたのもそうだが、2体の《甲虫の盾》の装甲を守る《防御膜》は未だ健在である。
その上、脅威だった2体の武装も、今やあの男の手中にあるようなものだ。3対1の状況を脱せた分、ロエスレルへの守りが鉄壁となってしまった。
崩す事は容易ではない。
「……まっ状況の察しは容易につくぜ、だが結果を断定するのは……先の話だろうが!!」
意を決したユウキは、凄まじい《ナノマシン・オーラ》を身体に纏うと、再びその両手に《高速射撃の剣》を計8本をも生成し、鉤爪状に刃を構え出す__
そして、真正面から狙いをロエスレルに定めるや否や、鍔部にある《ジェットエンジン》を速攻で点火させ、轟音と共に閃光が迸る__
「《死神の剣射撃》!!」
炸裂された《剣の閃光》が男の顔面へと到達するのは、瞬きの瞬間__
その刹那、攻撃を予測したロエスレルは、それの炸裂と同時、
左腕に固定された《ヘラクレス》の装甲を瞬時に、迫る《閃光》の正面へと向けて防御する。
【ガガガッ……!!! ガッガガ……!!!】
耳を潰すような衝撃音と、眩い稲妻が一帯の光景を奪った__
次の瞬間……
【ガギァアァン__!!】
何かが破砕される轟音と共に、爆炎と火花と硝煙がそこに返り咲く__
「ぐぉあ……!!」
凄まじい爆風と衝撃が、ユウキの身体を軽々と吹き飛ばした。
__幸いにも、辛うじて外傷は免れる。
飛ばされ宙を舞ったまま、ユウキは空中で優にバランスを立て直し、9m後方の足場へと見事に着地を成功させた。
だが、即座に前方を再確認した瞬間__
「……何を破壊したよ!? 無駄な事やって施設を壊すもんじゃねぇぞ!!」
視界を覆う灰埃の隙間から、ユウキを嘲笑うロエスレルが姿を現した。
ユウキは悔しさ腹立たしさに、男を睨んで舌打ちをかます。
予想の範疇ではあったが、いざ目の当たりにすれば、それは最悪の光景と結果だった。
ユウキが放った8本の《高速射撃の剣》は、その全てが破壊され消滅した上、ロエスレルの身体はおろか、攻撃を防いだ盾の《ヘラクレス》にさえ、傷痕1つも見られない__
何も起こらなかったような顔で、男は悠々と、自身を見下している__
「チッ……! やっぱ駄目だったか……! 何が「名前負けした欠陥品」だよこの野郎!
相応の使い方すれば、名称通りの《無敵強化盾》じゃねぇか……!」
「そうかい! コイツは失礼。使用法を熟知したワケじゃねぇんだよ! またお前には、礼をしなくちゃなァ!
だから特別だ! この《甲虫の盾》の能力を最大に発揮して、お前を殺してやる!」
歪った笑みを浮かべたロエスレルは、両腕に装着した2体の《甲虫の盾》の頭部をユウキに向けた瞬時、双方の巨大な火器《メガ粒子砲》及び《大型拡散ビーム砲》の《エネルギー》を容赦なく充填させる__
「オイ? また同じ攻撃………いや……嘘だろ……!?」
瞬時に違和感を感じたユウキは、呆れ顔から瞬く間に焦りと緊迫のそれに変わり果てた__
その理由は、《甲虫》の腹の内に隠した《大型拡散ビーム砲》の砲門がまだ隠されていたようで、その口径の数がこの時に増加していた事だった。
どうやら、それの1門から射出される弾数は25発のようで、つい先刻までの砲撃は、その1門しか使われなかったらしい。
しかし今、充填された《ビーム・エネルギー》の光粒子を目視確認すると、片方に3門、計6門の《拡散ビーム砲》が起動されている。
__放たれる《ビーム砲》は計150発、その上、地下という屋内の中、自由に見動きは取れない。
避けきれず、被弾する覚悟は必須である。
「駄目だこの数……無傷で避け切れるレベルじゃねぇぞ……!?」
「気づくのが遅かったなァ! もう《自動操作》の無能な攻撃なんざ当てにするかよ!!
必殺の切り札は隠して使うもんだろ! 喰らえ!!
《虫達の死弾幕》!!」
絶叫を皮切りに、充填された《ビーム砲の嵐》が一斉に放たれてユウキを襲う__
撃ちつけるような弾幕の嵐、それでもユウキは、持てる限りの反射神経と運動能力を駆使して、高熱源体の雨を避けていく。
それでも__
「お"あ"ァ………!!」
血液の飛沫が宙を舞い、ユウキから苦痛の声が溢れた。
数多の《ビーム砲》に晒され、うち1発のそれが、ユウキの右脇腹を貫いた__
さらに、立て続けに襲った3発が、彼の左肩と《高速射撃の剣》の刃に直撃、剣は無残に折り砕かれてしまった。
「ガハッ……ぐっ……畜生……!」
《ビーム砲撃の弾幕》は治まったものの、ユウキは受けてはならない深手を負ってしまった。
貫通した右脇腹から溢れるような血が溢れ、ユウキはバランスを失って足元をふらつかせる。
「クソッ……! ふざ……けんな……テメェ風情に……!」
流血で視界が霞む中、それでもユウキは、悔しさと屈辱に歯を食いしばり、折れた《剣》を握り締めてロエスレルに向かおうとする。
だが……
「舐めんじゃねぇぞガキが……!!」
苛立ちを募らせていたロエスレルが、先にユウキとの距離を奪って肉薄する。
先程の余裕の笑みは、すっかり消えて見られない。
激昂していたロエスレルは、左腕の盾である《ヘラクレス》を即座にユウキへの方へ向けると、武装である《角》の口を開くや否や、少年の身体を腕ごと挟み掴み上げ、軽々と持ち上げてしまう__
「ぐっ……! がァ……!」
「見くびるなよ!? 国際革命組織《革新の激戦地》の最高幹部、フランツ=ロエスレル様をよォ!
大戦終結から400年……
俺達の組織は、その頃から《ギルソード》の秘めた力と可能性、それがもたらす人類の革新と未知の栄光を見出すべく、長い年月の間、研究し、追求し、苦悩し、戦ってきた……!
そのために払った代償も、犠牲も、必要悪も、安いもんじゃなかったぜ!
テメェ等とは根本的に違うんだよ……!
半端な統率者が、上っ面だけの統治国家なんざ創って! 子供の夢みてぇな平和ごっこを演じやがる! 操り人形共の独裁国家とはなァ!!」
「がっ……! ぁぐ……!」
ユウキは激痛に悶ながらも、血に汚れた両手で、自身の身体を挟む《ヘラクレス》の《角》に手をやった。
重く動かない身体に鞭を打ち、力づくで《角》を引き剥がそうと、持てる限りの腕力を振り絞る__
「……ぐっ……! ったく……! 笑えねぇ冗談だなそりゃ……!?
長年の間、探求して苦悩した結果が……? あのシチリアや中東地方でやった卑劣な所業だってのか!?
行き着いた進化の先が、平然と大量殺戮をやる凶悪組織ってのは救いがねぇなァ……!!
何が根本的に違うだよ!! 一緒にすんな犯罪者共がァ!!」
怒りに震え、咆哮のように絶叫したユウキは、振り絞った力で《ヘラクレス》の角を振り解いた。
その瞬時、身体から湧き起こした《ナノマシン》から、再び《高速射撃の剣》を発動、再生成させると、しゃがみ込んで男の足元から肉薄し、その刃を一気に胴部へと走らせようとする__
しかし、その刹那__
「甘ぇよ」
ロエスレルは呟いた。
その時、すでに斬りつけようとした《剣》の柄は、それを握るユウキの拳ごと、ロエスレルの右手に押さえつけられ、1ミリも動かせない__
「な……!? 何……!?」
「よく甲虫の角を振り解いたなァ……! でも次のお前の一手を予測できていないと思ったか?
つーか言い忘れてた。俺は幼い頃から、紛争地域で雇われの少年兵やってきてよォ! 地獄の環境を生き延びてっから経験が違うんだよ……!
お前との年の差が、戦い抜いた歴戦の差だってワケだ……!!」
__ロエスレルの叫びと同時に、気配を殺した素速い「右膝蹴り」がユウキの腹部を襲う。
「ぁがっ……げはァ……!」
「だから言っただろ! 俺を見くびるなってよォ!!」
ユウキは嗚咽し、口血と吐瀉物を溢して動きが止まる。それを容赦なく、即座にロエスレルは右腕の盾、《コーカサス》の巨大な《角》を横一文字に振り翳し__
【ザシュ……!!】
鋭利な刃で、少年の胸を斬りつけた__
傷は深くはないが、血肉が広く抉れて、目の前には大きな血飛沫が宙を舞う。
「………ぁァ……」
ユウキの意識は、すでに遠のいていた。
ただ足元はもつれて、血を失いかけていた身体は、今にも崩れ落ち倒れる他に選択肢はない__
それを目の前に、ロエスレルは己の勝利を見出した。
その足を2歩3歩と後退させると、両腕の盾《強襲動兜の無敵強化盾》に搭載された《メガ粒子砲》をユウキの真正面へと照準を定め、眩い《高熱源エネルギー》を最大出力まで蓄積させていく__
「なぶり殺して復讐しようとも思ったが、一瞬で楽に死なせてやるよ。ただし骨も跡形も残さねぇ……!
お前の制服にある金色の肩章、この国の最優等生がどれ程の実力かと身構えたが、俺達からすりゃ……大した脅威じゃなかったな……!」
「ハァ……ハァ……! この……クソ……野郎がァ……!?」
眩む視界の中、屈辱を噛み締めて睨むユウキを、無慈悲にもその命を焼き払わんと、死の光《メガ粒子砲》はその姿を目掛け発射される__
壮大な音と眩い光に、ユウキは思わずその目を細めた。
間もなく《それ》は自身を飲み込み、この身体が消滅する。
この受け入れ難い現実を覚悟した。その刹那__
(……!? あれは……!?)
一瞬の事だ。一閃の光が、ユウキの前を横切るのを見た__
あまりにも光眩しく、瞬時の光景なので、認識が難しかったが、確かにユウキが目撃した閃光のそれは__
紅色に彩り輝く、彼女のように、美しい煌き__
【グゥオァアアァア___!!!】
絶大なる破壊の唸りが響き渡り、この新都市を覆い喰らうように地響きが襲った__
◇◇◇◇◇
地下14階、〈戴冠の女王軍総本部:緊急連絡通路〉__
「ぐっ……!? うぉあァ……!?」
突如襲った地震のような振動により、キルト=グランヅェストは不意に足元がよろめいた。
即座にバランスを取り戻すも、失態を犯したと、1人唇を噛み締める。
瀕死の傷を負ったリリーナが、その腕に抱えられているというのに__
(今の振動は何だ……!? 研究所で一体何が起こってる……!?
クソッ……! だが俺にはリリーナの命を救う、果たすべきお前との約束と使命がある……!
お前の元へは駆けつけられない……!
だから……頼むから堪えてくれよ!? ユウキ……!!)
心の底で必死に祈りながらも、キルトは通路の前だけを見て走り続けた。
__その時、無我夢中のキルトは気が付かなかったが……
微かに、虚ろな目を開いていたリリーナの瞳は、まるで機械人形のように、紅色と白の瞳孔が光り輝いていた__
それは、彼女が自身の《ブレイン=ギルソード》を発動、また遠隔操作を行う際に見せる特殊な状態の瞳、《粒子器発動の覚醒瞳》発動時のそれ__
「ユ……キ………生き……て………」
キルトには聞き取れなかった、か細く消えそうな声で、リリーナは祈るように、そう口を動かした。




