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新科学怪機≪ギルソード≫   作者: Tassy
3.〈新都市マリューレイズ〉と武装組織の逆襲 編
67/105

第27章 ロエスレル強襲〈上〉(1)



◇◇◇◇◇




 地下30階、〈戴冠の女王軍(マリー・ルイーズ)総本部〉への連絡通路にて__





「……クソッ! 《ギルソード》の開発研究所が襲撃なんてよォ!


 ……エヴァンズ先生は無事なんだろうなァ!? さっさと避難してくれていたら嬉しいんだが……!」





 脳裏に浮かぶ最悪の予知に冷や汗を流しつつ、ユウキ=アラストルは〈開発研究所〉が目前に迫る廊下を全力疾走していた。



 キルトもそうだったが、予想を遥かに上回る非常事態の連続に、ユウキ自身も混乱と動揺に駆られて、平然としてはいられなかった。


 

 リリーナの容態、危険地帯に残る身内の安否、祖国に迫る危機__



 考え出すだけで、頭が破裂しそうだ。



 何しろ、彼はまだ16歳の少年なのだから__



 戦闘技術や頭の回転にも確固たる自信はあれど、内側に隠す焦燥と不安は、自身が強かろうと弱かろうと、簡単に拭えたり消したりはできない。




 そして、不安と焦燥が膨大であるという事は、それだけ大切なもの、守るべきもの、背負うものがある。



 冷酷な行動も起こすユウキだが、そんな彼にも、誰かを案じ、痛みを知る強さと優しさを、心の奥底で忘れずに抱いていた。




◇◇◇




 〈戴冠の女王軍(マリー・ルイーズ)総本部:地下25階、《ギルソード》総合開発・技術研究所〉出入り口付近__





 ようやくこの場に辿り着いた所で、自分を呼び止める男性の声が聞こえる。




「……そこの貴方はユウキ=アラストル殿ですなァ! 国内屈指の精鋭(エリート)に、こんな所でお目にかかるとは……!」




「ハァ……ハァ……アンタ達は……!?」




 疾走して息切れを起こすユウキの前に現れたのは、周域の防衛を任される1人の上級士官と、彼が従える数十人の武装兵達の姿だった。

 


 先刻に水道施設で殺された部隊長とは打って変わり、この者達はどこか面構えや姿勢には、肝の座った冷静さと、歴戦の戦士のような貫禄さえ感じられる。




「……ってことは、そちらは〈総本部〉からの救援部隊っすか?」




「えぇ! 残念ながら、まだ少数の手配ですがな! 何しろ、地上でもテロによる民衆の混乱が拡大してるもんでねぇ。


 そっちに人員を割いているんで、しばらくは増援は期待できませんなァ……!」




「いえ、むしろ〈総本部〉の手を焼かせてるのは、不甲斐ないって思いますよ……! 事態を軽く考えすぎてましたね……!


 その責任として、こっからは俺1人で全部カタを付けて……!」




「それは違いまさぁ! 今回は予測不能な事態が起こり過ぎている……! それも過去最悪の惨事と言っていい程に!


 いくら精鋭(エース)とはいえ、もう事態は悪化し続けています! 1人2人の《ギルソード使い》が手に負える状況ではありますまい!



 ……現にユウキ殿、この時点で何かおかしいとは思われませぬか?」




 突如目の色を変えて、上級士官はユウキに問いかけるが、実はユウキも、丁度同じ事を彼に問おうとしていた。




「そりゃ当然、変に静かすぎる……でしょ? ロエスレルという奴はこの場所にいるって分かっているんだから、もう地下施設の守備隊が(こぞ)って突入してるはず……!


 正直もう考えたくないんだけど……本当に前代未聞の災害なんスね……!


 俺が先陣切って突入しますよ……! そちらの装備は……普通の武器ですか?」




 ユウキは、ふと彼等の手にある武器に目を止めた。



 すると、武器はランチャー、バズーカから、長槍(ロングランス)、アイアンハンマー等といった、集団戦闘を考慮する上では、武装のバラつきも著しく、汎用性の高い武器が備わっていない。



 あくまで、それ等が無能力の鉄製武器である場合の話だが……



 

「まさか……! 我々は〈総本部〉の部隊ですよ? 彼等の装備をよく見てください!


 そうだろ!? 『《ギルソード使い》隊』!!」

 



 そう言って、士官が右手の指をパチリと弾く合図する。



 すると、艶やかな《ナノマシン》の光粒子が、兵士達の武器から湧き出すように発生し、《ナノマシン・オーラ》と化して彼等の身体ごと包み込む。



 それは、彼等の武器が《ギルソード》であると共に、その全員が《ギルソード使い》であるという、何よりの証明だ。

 

 


 《ギルソード》自体は、外見ではごく普通の武装兵器と何ら変わりはない。


 決定的な違いと言えば、その物体が特殊粒子の《ナノマシン》で構成されていること、『破壊力』が天と地のように比ではない事だ。


 そして、最後に《ギルソード》の各個別に備えられた《特殊能力》__

 


 それによって、時には空を飛行し、時には変形して別の兵器に姿を変え、時には鉄製の兵器には実現できない、異次元の姿や性能を見せつけることだってある。

 

 実体化した際の、初期の形状だけでは、各個体の性能を計ることは叶わない。それが《ギルソード》__



 


「少しは信用してもらえましたかな? ユウキ殿?」




「……おかげで安心ができましたよ。では、俺が先に行きます!」




「総員突入!! 中では常に警戒を怠るなァ! いつでも攻撃できるように身構えておけ!!」




 士官が号令を上げた瞬時、ユウキを先頭に数十の武装兵達は、〈研究所〉の内部へと一斉に乗り込んでいった。





◇◇◇




 この都市の地下施設は、地下中を張り巡らせる地下通路によって、ライフライン施設、鉄道設備、その他フロアが全て接続され、最終的な管理や運営は〈軍〉の手中にある。



 規模や面積は用途様々だが、取り分け〈水道処理施設〉、〈産業廃棄物処理施設〉は、国内3大巨大施設と呼ばれ、その中に、地下最大級かつ〈施設〉の規模を通り越した〈地下都市〉とも言われている巨大機関が存在する。



 それが、〈戴冠の女王軍(マリー・ルイーズ)総本部:《ギルソード》総合開発・技術研究所〉である。




 地上600mの巨大な塔、〈戴冠の女王軍(マリー・ルイーズ)総本部〉の真下に位置し、軍の本部と直結するこの場所は、世界中から集まった研究者をはじめ、軍の士官から、大佐・少将級の軍上層部の者まで行き来する、〈軍の五臓六腑〉と呼ばれる最重要機関の1つだ。


 

 本来ならば、研究所のエントランスホールから、関係者達の往来が激しく、施設内は灯りに包まれて、賑わいは都市のように盛況である。



 しかし__




「恐ろしく静かですな……! 得体の知れん恐怖さえ感じる程に……! 部隊各員! 私の背後について慎重に奥へ進め……!」



 

 

 ホール入口に突入するや否や、士官はその不穏な雰囲気から、その先への潜入に二の足を踏んでいた。

 



 すでに研究員をはじめ、研究所内の従業員はすでに指定のシェルターへ避難を終えているはずなので、所内の状況は閑散としていて当然である。



 だが問題は、先刻に潜入した別働隊からの連絡はおろか、音沙汰の1つの無いのが異常だという事だ。

 



 __すると、しびれを切らしたユウキは、スマートフォンのライト機能を使って明かりを灯すと、先んじて所内の奥へと躊躇なく突き進んでいく。





「なっ……!? ユウキ殿!! 奥へはまだ……!!」




「……後から慎重に入って来ればいい! ただ先に言っておきますよ!? こっから先は恐らく……いや絶対にヤバい状況だっ………て………!?」





 入口の奥地へ15歩踏み込んだ瞬間、明かりのない暗闇の先を照らしたユウキは、その衝撃的な光景に血の気が引いた。




 視界に入るのは、夥しい数の、血に塗れた軍人達の死屍累々__





「これは……!? 我々より先に突入した先方の部隊……! 一体何が起きた!?」




「……何故やられてやがる!? コイツ等は施設を警備してる一般兵じゃない! 本部からの支援として駆けつけた《ギルソード使い》の部隊だぞ……!?」




 

 かつて経験のない異常事態に、士官と後続の兵士達は焦りと戦慄に駆られる。




「狼狽えるな……! 総員2人1組の体制を取れ……! 片方は各々周囲を厳重に警戒! もう片方は死体の状態を確認しろ! 『《ナノマシン》反応検知器』での検査も忘れるなよ!?」



 士官が指示を出すや否や、先んじて知恵が回ったユウキは、我先にと血まみれの屍へ歩み寄り、躊躇なく身体を起こして傷口を確かめた。

 



 __胴体には4発の銃弾が撃ち込まれ、太い首筋を鋭利な刃物で斬り裂かれている。



 脈も呼吸もなく、息絶えた状態だ。





(何だこれ!? 敵の《ギルソード》は《怪物》とか《人食い虫》とか聞いていたが……!


 遺体には銃創と刃物の傷しか見当たらねぇぞ……?


 不謹慎だが……妙に綺麗だよな? リリーナの話通りなら……遺体の損傷はもっと酷いはずだろ……!?)




 そう疑問を感じたユウキは、傍で叫び散らす上級士官に声をかける。





「すいませんけど、その『《ナノマシン》検知器』とやら、俺にも貸してくれませんか?


 俺の嫌な予感……外れて欲しいんですけどねぇ……!」 




「………っ?」




 その言動に、士官は少々不審に首を傾げたが、頼み通りに胸元から『タッチペン』のような、細く短いプラスチック素材の棒を1本取り出した。



 これは、《ナノマシン》の反応を検知するための特殊機械であり、《ギルソード》を用いた危険犯罪の捜査に重宝される。


 棒の先端には《ナノマシン》から微量に発生する放射線物質を検知する装置が搭載され、感知時に警報音が鳴り響くよう設計されている。



 その際、一部分に《ナノマシン》が付着していると判明した瞬時、その特性の解析から《ギルソード》の識別名称まで特定し、所有者である犯人を突き止めることが可能だ。



 士官からそれを受け取ったユウキは、その場で迷わず、横たわる屍の銃創に装置の棒先をピタリと密着させたが……




 __次の瞬間、予想外の検査結果を前に、ユウキは目を見開いて唖然とする。





「……!? 嘘だろ……!? 反応がねぇ……!?」




 利き手であるユウキの左手は震えていた。



 この男性兵士が《ギルソード使い》によって殺されたのならば、本来その傷口から《ナノマシン》が検出され、必ず警報音が作動する。



 作動しなくてはならない。そんな不自然など、あってはならない……



 それなのに__




「……ユウキ殿、それはおかしいですな……? 私の渡した機械が故障していたのでしょう……!


 でなければ考えられませんよ!? 討たれた彼は本部の優秀な《ギルソード使い》の兵士だ。他の一般兵達とは戦闘能力は桁違いです!


 本当に敵の《ナノマシン》の反応が無いのですか? それはおかしい……!



 でなければ、まさか敵は……ただの『機関銃』や『ナイフ』なんて貧弱な既存武器で……


 『人体兵器』と恐れられる我々《ギルソード使い》を殺したと言うのですか……!?」



 


 背後で動揺した本部の上級士官が、もう一度解析し直すようユウキに説勧める。



 

 当然の事だ。前例のない非現実的な異常事態がこうも立て続けに発生しては、まともは判断で指揮も取れないどころか、現実さえ受け入れられない。




 だが非情にも、恐るべき方向へばかり事態は展開される。


 



「た……隊長ォ……! これは……異常です……! 《ナノマシン》検知器で身体を調べた結果……全く反応がありません!!」




「こちらも反応なし……! 感知されていないどころか……! これは……一体!?」




「続いてこちらも反応なし……! というより……《ギルソード》で殺された形跡が全くありません……!」




 次々に上げられる兵達の報告は、悪い結果へと満場一致する。


   


「……どういう事だ!? ならば優秀な同士達は、ただの一般人に……ただの鉄製の銃やナイフだけで殺されたというのか!?


 通常武器の何百倍の破壊力を誇る《ギルソード》の使い手だというだぞ……!!


 情けなし……! こんな現状……受け入れられようものか……!!」




 取り乱した士官が、やり場のない怒号を吐き散らす中、ユウキは「ちょっと借りますね」と小声で伝えると、壮絶な現場の奥地を我先にと足を運んで行ってしまう。




「……お待ちなさいユウキ殿!? 対策もなしに無謀では……!?」




「もう俺には構わないで……! もう気が気でならない事柄が山ほどあるんでね……!


 突入するタイミングは何時(いつ)でもいい……! この場の指揮はお願いしますよ……!!」



 そう言って、士官の止めも聞かず、ユウキの姿は彼の視界から暗闇へと消えてしまった。




◇◇◇




 __電気設備の機能を失った研究所は、まるで暗闇の地下迷宮である。



 スマートフォンのライトという微かな明かりを照らし、突き進むユウキの前にあるのは、先行部隊兵の凄惨な死屍累々であった。


 夥しい血の海が床を覆い、その匂いが鼻を刺すが、やはり見れば見るほど、倒れた彼等の傷は、入口で討たれた者達と全く同じ銃創とナイフで裂かれた傷。



 先程、士官から借りた『《ナノマシン》検知器』で、ユウキは彼等も調べようと試みたが、この傷を見ただけで、その作業は時間のロスだと確信した。




【ここは史上稀に見る巨大軍事国家〈新都市マリューレイズ〉だぞ!?


 そんな場所に長期間潜伏して、部下まで総動員で隠密行動させていた手腕の男が! 速攻で討たれるとは到底思えねぇ!


 仕込んだカラクリに、自信と勝算があるんじゃねぇのか!?】





 先刻にキルトが自身に警告したあの言葉が、まるで判断が甘かったと自責を促すように、その声が繰り返し脳内で再生される。





「チッ……! さっき俺は精鋭(エリート)だって持て囃されてたのに、こうして思うと自分の馬鹿さ加減に苛立って仕方ねぇ……!


 相手を舐めてるからこうなったんだろうな……! オーライだキルト、俺が間違ってたよ……!」




 早足の歩みを止めることなく、ユウキは右手で頭を抱えながら、己の誤った考えや姿勢を後悔し自省する。




 

 __しばらくして、そのままユウキが辿り着いたのは、巨大な螺旋エスカレーターが目立つ〈研究所〉の中央広間だった。

 


 地下25階から50階まで吹き抜けとなった、都心の大型商業施設のようなこの場所は、〈《ギルソード》開発研究所〉の中心地点であり、研究所最大の交流の場としても役割も果たしている。




 普段なら大人数の研究者達が往来、応接、また交流や情報共有を目的として、この場を行き来しているのだが、今に至っては、閑散どころか暗闇に包まれ、転がる死体の数も入口と変わりはしない。



 何より、血肉と鉄錆の酷い臭いが館内に漂っている。



 

「……いねぇ! あの肝心なロエスレルはどこへ行った!? エヴァンズ先生も心配だが、まずはあの元凶を始末しねぇと………!」




 ユウキは、精神が徐々に焦っていくのを実感しつつ、念入りに周囲をライトで確認し、今一度前へ足を踏み出そうとした。




 刹那__




「………っ!?」




 命の危機をを予感したユウキが、唐突に地を蹴って飛び上がり、前方へ緊急回避する。




 __瞬時、機関銃の銃声が轟く。



 前へ回避行動した直後、秒速で元の足場は弾丸の雨が叩き込まれ、砂埃とコンクリートの破片が傍に飛び散った。





「遅ぇんだよガキンチョ!! 何処を歩いてやがったんだァ!? もう待つの限界だから、俺から出向いてやったぜオイ!!」





 真上から囁く男の声、即座に6.7m頭上の天井へと目をやれば……



 狂気の目と顔で、その男はこちらを覗いていた。





 テロ主犯にして国際武装組織《革新の激戦地(ヴェオグラード)》幹部フランツ=ロエスレルの顔面が、外した換気口のグレーチングから、弾丸を放った銃口を突きつけて笑っている。

 



「……成る程!? 俺を狩る気満々で待ち伏せしてたワケだ! 血眼になって探す手間が省けたぜ!!」




 すぐに戦闘態勢を整えたユウキは、紫の《ナノマシン・オーラ》を身体に纏い、左手で発動させた《高速射撃の剣(ダーツ・ブレード)》を奮って、刃先をロエスレルへと突きつける。



 すると__




「……ユウキ殿! 遅くなって申し訳ない!!」



 

 絶妙なタイミングだ。先程の大声が大隊を連れて、所内入口の方向から、数十の兵隊達と共に姿を現した。




「さっきの士官さん……!? 追いついたのか!?」




「あぁ無論! そして奴が主犯だな!! 『《ギルソード使い》隊』!! 一斉攻撃ィ!!」



 

 士官の猛々しい命令と共に、ランチャー、ライフル、その他銃型の《ギルソード》を操る兵士達は最前列で構え、その照準をロエスレルへと一斉に合わせる。

  

 


「……はぁん? やって見ろよ!__


  俺が今の時間まで生き延びてる理由くらい……誰も想像つかねぇのか!?」




 無防備に天井から覗くロエスレルから、歪な笑みが溢れる。


 だが兵達は、その違和感に誰1人気づくことはない……




「遺骸の跡形も残さん!! 一斉射撃(ファイヤァ)!!」





 次の瞬間、地下室の彼方まで響き渡ったのは、銃撃音、砲撃音、破砕音、爆発音、まさに兵器から奏でられる大戦争の演奏会(コンサート)__



 6.7m上の天井からは、破砕された破片の豪雨、舞い散る砂埃、凄まじい火花と爆炎が降り注いで視界を覆い、主犯ロエスレルどころか、人影さえ目視できない。

 



「構わん撃ち続けろォ!! 同胞の報復と国家の威厳だ!! 奴には反撃どころか、呼吸する間もない程の苦痛を与えろォ!!」




 破壊の奏楽はしばらく鳴り止まない。やがて天井が貫通し細かな瓦礫が崩落しようとも、兵達はそれを避けつつ、それでも弾幕を絶やすことはなかった。



 __やがて、徐々に彼らの中から『エネルギー切れ』や『オーバーヒート』を起こす者が現れる。


 

 それによって4.5人が《銃口》を下ろした時点で、士官の手振りと共に、全員は射撃の手を止めた。




「随分と……派手にやったッスねぇ士官殿……」




 あまりの衝撃と豪快さに、ユウキはしばらく口を開けて呆然としてしまう。




「どうだ!? やったか……!?」




「まだ砂埃で確認できませんが……! 敵は見動きの取れる体勢ではありませんでした! 奴はこの一斉射撃で、無抵抗のまま木端微塵になったかと……!」




「頼むからもうくたばっていてくれ……! これ以上の被害拡大はゴメンだ……! 化け物め……!」




 士官は奥歯を食いしばって目を凝らし、しばらく砂埃が薄れるのを待った。




 __だが、視界の晴れる前に、その希望と祈りは崩れ去った。



 絶命を願った男の声が、背後から突き刺すように耳を打つ。




「……誰がくたばっていてくれだって!? お前等は一体誰を殺した気でいるんだ!?」




「なっ……馬鹿な!? あれだけの射撃から何故生きて……!?」




 旋律に震えた士官が振り向くのに、コンマ数秒出遅れた__


 



 刹那、彼の喉元には、ロエスレルの握る『ダガーナイフ』がグサリと突き刺さる。





「あ"……お"ぁ"……!」





「お前等、忘れてると思うから1つ教えてやるよ……!


 《ギルソード使い》と、そうでない人間の唯一の共通点って知ってるか?


 所詮は同じ『生身の人間』だ……!


 既存の銃や刃物を玩具(オモチャ)だの何だの言ってるが! 結局は心臓ブチ抜かたり動脈ぶっ刺されたら、弾やナイフの1つで、あっけなく人は終わんだぜぇ!?」


 



 血を流し、息絶える士官に向かって、ロエスレルは罵るように言うと、一気にナイフの刃を引き抜き、血飛沫の噴水を上げて士官は倒れ込んだ。




「おのれ!! よくも指揮官をォ!!」



「……距離を取って撃ち尽くせぇ!! 何としてもあの化け物を消し炭にしろォ!!」




 兵士達は臆せず、勇敢に士気を上げて再び一斉にロエスレルへと《銃口》を向け、銃撃音の演奏を開始する。


 だが__



「遅えぞ、カメ共………!」




 1言放ったロエスレルの姿が、瞬時にその位置から消えた。

 



「またいない……!? どこに……!?」




 一同が困惑した中、その位置から最も手前に立つ兵士が、ふと真下の足元に目をやった。


 

 彼は、青ざめて驚愕した。



 姿を消したロエスレルが、そこで仰向けに寝そべって機関銃を構え、悠長に笑っている。



 《銃弾》や《ビーム》が放たれた瞬間、男は凄まじい運動神経で、地を滑って足元の死角に潜り込み、弾を回避して接近していたのだ__




 

「なんて速さだ……!? 一瞬で……!!」



「甘いぜぇ!? もっと鍛え直して転生しなァ!!」




 悪魔は高らかに絶叫し、即座に響く掃射音と数十の弾丸が兵達の命を喰らった。




 __この男が反撃を開始してから、まだ1分と経過していない。




 僅か時間の中、すでに本部の『《ギルソード使い》部隊』は9人、10人と倒れ、我が戦力と戦意だけが一方的に削がていった。




「はっ! ガキの頃から傭兵やって育った俺からすりゃ、テメェ等は戦闘技術が温すぎるぜ!


 全員を殺るのに《ギルソード》は必要ねぇ! 今のを見てよ〜く分かったろ!! 腹は括ったかァ!?」



 ロエスレルは立ち上がって体勢を直すと、残りの兵士達を狩ろうとゆらりと近づいていく。




「クソッ……本部増援の我等が……なんと不甲斐ない……!」




 まだ《大剣》や《槍》状のタイプを保有した兵隊が、数名生き残っているが、勝算を失って、迂闊に手も足も出ない。



 死を覚悟した彼等が、玉砕前提で挑もうとした瞬時__




「調子に乗んじゃねぇ!! 俺がいる事忘れてんのかァ!?」




「あァ……!?」



 

 異変を察知したロエスレルが振り返れば、《高速射撃の剣(ダーツ・ブレード)》を振り翳したユウキが、ゼロ距離の眼前まで迫っていた。

 

 

 暗闇に舞う狩人の悍ましい眼光__


 他の兵士とは異次元の素早さと運動神経__


 強力かつ驚異的に放つ《ナノマシン・オーラ》__



 持てる気迫の全てを全開にして、ユウキは秒速の太刀筋で男を斬りつける。




 __次の瞬間、【ガンッ……!】と、鉄の削れ裂ける音と共に、ユウキは硬直な物体を両断したような感触を覚えた。



 確実に、ロエスレルの身体を斬りつけたそれではない。



 証拠に足元を見やれば、ガシャリと地に落ちていたのは、バラバラに散ったダガーナイフとUZI(ウージー)型機関銃の破片、それ以外に何もなかった。





「お前は忘れるワケねぇだろ! ユウキ=アラストル!!」



「チッ……! すばしっこい野郎がっ!」




 気がつけば、ロエスレルとその声は、すでにユウキの位置から右前方10m先へと回避していた。



 ユウキの無音俊敏な太刀筋を交わしたが、それと引き換えに、手持ち武器を全て破壊され、傍から見れば丸腰の状態と化した。



 しかし、すでに男の身体は__





「焦るんじゃねぇよ! お前は銃やナイフなんざ粗末な武器では絶対に殺さねぇ!


 殺ろうとしても、通用しねぇって分かってるし、そんな方法で楽に死なせようとも思わねぇんだ!


 可愛がってた部下を散々殺りやがって! お前は最後にゆっくり時間を掛けて料理すると決めてんだよ!!

 


 __だから使ってやるぜ!!


 

 そこの廃棄施設で頂いたお前等の粗大ゴミ……!


 

 いや、俺の身体に宿った《ギルソード》をなァ!!」



 


 怒りと殺意の眼光を向けるロエスレルの身体から、摩訶不思議な黄土色の《ナノマシン・オーラ》が大量に放出されていく。



 次の瞬間__




 【ビキッ……! ミシッ……!】




 ユウキの足元から、硬いコンクリートの床がひび割れる音がする。



 ふと足元に目を止めるや否や、即座に危機感を感じたユウキは、俊敏に3m後方に跳躍して引き下がった。



 

 予感は的中した__




 床亀裂は瞬く間に6〜9㎡へ広がったかと思えば、地割れや火山噴火の如く、何かが盛り上がって破壊され、灰煙と砂埃が周辺の景観を覆い被せる。



 

「なっ……! 何だ……!? 地面から何かが……!」




「遠隔攻撃のタイプか……!? だが奴はその手に《ギルソード》を持っていなかったようだが……!?」





 兵士達が遠い背後で立ち止まる中、ユウキは砂埃を手で掻き分け、薄く濁った視界をじっと凝らす。



 すぐに視界は晴れた。何かが床を突き破って顔を出したようで、その姿ははっきりと目視できた。




「嘘だろ……!? 何だコイツ……!?」

 



 その正体を前に、ユウキは唖然として硬直した。





 彼の前に立ち塞がったのは、他にどう言い表そうものか、正しく巨大な《怪物昆虫》の姿だった。



 

 その形状は、まさに漆黒色の『コーカサスオオカブト』__


 

 だが図体は怪物級で、全長7m、高さ3.2mと、4tトラック1台分に匹敵し、人間の大人3人は難無く踏み潰せるだろう。



 怪物の武装に着目すれば、巨大な甲虫(かぶとむし)の角は勿論のこと、目や口元の細部には《大型ビーム砲》や《小型ガトリング砲》が仕込まれている。


 ユウキはこれを、外見から一目で見破った。




「……へぇ!? これがリリーナの言ってた巨大な《人食い虫》ねぇ……!? 「人食い」というより《殺人昆虫》だよな……!


 ったく! 最悪の展開だろ……! あんな気色悪い殺人兵器なんざ開発しておいて……挙げ句の果てに奪われるなんてなァ……!」




 危機的状況を前に、ユウキは溜め息をついて肩を落とす。



 

「へぇ〜! 中々に愛嬌のある奴じゃねぇか!!


  ゴミとして捨てたお前等に代わって、俺がしっかり面倒を見てやるよ……!


 どうやら生まれて早々、腹が空いてるらしい。愛しの《相棒》だ……満たしてやってくれよ!


 何を食うかって……? テメェ等全員の身体だ馬鹿がァ!!」





 ロエスレルの絶叫を皮切りに、《巨大甲虫》は従うように暴れ出し、長い角を振り回してユウキ達へと突進していった__



 

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