・それは新たなる脅威(2)
__解せない疑問が、キルトの脳裏から離れない。
それは、あのリリーナが人質に取られること事態、有り得るものだろうか……ということだ。
しばらく首を捻って、キルトは考察する。
(……元々病院に居たはずのリリーナが、何故この場に連れてこられているのか……?
病院で非常事態に見舞われたのは明白だが、あのダマスカスで大軍を圧倒した程の強者が、あんな雑魚2人風情に連れ去られて人質に取られる事態が理解に苦しむ……!
ヴィクトリアとルフィールだって、護衛についていたしな……!
確かに出血多量で意識を失った後に、誘拐して連れて来られたなら辻褄が合うかもしれんが……
いや……本当にリリーナの意識はないのか……?)
この不可解な疑問点こそ、逆転劇に繋がらないか。そう考えたキルトは、もう一度リリーナの方を見やった。
次の瞬間__
「…ユ……キ……」
リリーナの唇が、微かにぴくりと動いた。
あまりに小さな声で聞き取れなかったが、何かを呟いたようにも思える。
「ユウ……キ……大丈……だ……よ……」
聞こえないが、やはりリリーナは何かを言っている。
彼女の意識は健在だという、決定的な証拠だ。その瞬時、キルトは勝利を確信する。
「ユウキ、ちょっと待て! リリーナの意識は健在だぞ!」
「………リリー……ナ?」
ユウキは希望を見出したような瞳で、首筋を切り込む手を止めた。傷は浅いが、《剣》の刃は真っ赤に染まっている。
「あァ? 何をゴチャゴチャ言ってやがんだ!? まだ首を落とす覚悟はつかねぇのか!? これ以上待たせるなら、もうこいつを殺して……!」
苛立った大柄の男がナイフを振り翳して、リリーナを刺そうとしたが、キルトは怖気づくことなく、大柄の男に堂々と行って聞かせる。
「ほう? これはお気の毒! アンタ達はリリーナの能力、恐ろしさ、何も知らずに人質に取ったんだな。
もう遅いから教えておくさ。リリーナの《ブレイン=ギルソード》は変幻自在かつ『遠隔操作』が売りでねぇ、敵に回したら本当に危険な相手なんだよ……!
彼女の意識がある限り、『人質』に取ろうと思うのは自殺行為だ! 即刻彼女を離すといい!!」
「あぁ? この馬鹿は何を言ってやがる……?」
大柄の男は少々困惑するも、キルトの言葉を脅しの冗談だと思い、嘲笑って聞き流してしまう。
悪夢は……次の瞬間……
【ブジュッ!!!】
血肉が裂ける音と共に、大量の血液が溢れ出す。
「……………えっ?」
青ざめた大柄の男は、血が吹き出した部位に視線を落とす。
__ナイフを握っていた右腕が真っ二つに裂けて、骨と筋繊維が露出している。
何が起きたのか、まるでグラインダーに腕でも伸ばしてしまったかのような、それは酷く凄惨な姿。
「う"……!! う"ぇ"あ"あ"あ"ァ"ァ"!!!」
断末魔の叫びを轟かせ、男は左腕に抱えたリリーナをも放り出して、男は地獄の激痛と流血に苦しんで暴れ回る。
瞬時に突き放された彼女は、その場で崩れるように、ばったりと倒れ込んだ。
「テ……テメェ! 兄弟に何しやがっt……!」
傍らにいた痩せ型の男が、怯えて震えながらリリーナに銃を突きつけたが、瞬時に、今度は彼の両腕と左足から、大量の血が吹き出す。
「く"ぅぉわ"あ"あ"……い"て"ぇ"ぇ……!!」
断末魔が2度も渡り響いた時、エレベーター前の廊下は、すでに間に血の赤一色に染め上げられていた。
「だから言ったでしょう? 《ブレイン=ナノマシン》の遠隔操作で、皮膚を体内から斬り裂かれたんだよ!
知識と運が無かったな! 成る程、これはお前の思惑通りだったってワケか? なぁリリーナ……!」
__キルトがそう言うと、それに反応して、リリーナは重い瞼をゆっくりと開きながら、掠れた声でこう言った。
「……ごめん……不安に……させ……て……ユウキに……謝らな……きゃ……」
__敵の男達は激昂した。
リリーナの背後で、血まみれの姿で地を這って藻掻いていた彼等だが、その台詞を聞くや否や、大柄の男が激昂してリリーナに怒鳴り散らす。
「お……おい女……!! ふざけんなよテメェ!! コイツ等に会うために……俺等を運び屋に利用したってのかァ……!!
わざと人質になって……俺達をタダ働きさせやがって……! それで用が済んだら始末って魂胆かよォ……!!」
じたばたと寝転がって藻掻く男達に、リリーナは口元だけ微笑んで、冷静に答えた。
「……悪い……ね……! どうしても……会わなきゃ……いけなかった……から……! でも……身体……動かなく……て……
タイミング……が……ちょうど……良かった……ユウキ達……に……会える……から……」
「……クソッ! このクソ女がァ! 人をコケにしやがって!! こうなったら血が流れきって死ぬ前に! テメェの頭撃ち抜いて……!
……道………!? ……ず……れ………!?」
この先を叫ぶ寸前で、男は恐怖に震え出した。
横たわる彼の真上に、1人の人影が伸びて覆い被さる。顔を見上げなくても、想像に難くない。
見下ろす人影の正体。その魔獣の如き戦慄の眼光。そして、赤紫の闇騎士の姿。
「……人をコケにしやがってだァ!? こっちの台詞だ!! もう覚悟はできてるよなァ!? 間違っても助かろうなんざ思ってんじゃねぇぞ!!」
「ひっ……ごめんなさい……! 降伏……します……! 捕虜になって全部話します……だから……命だけは……!」
男は怯えて涙ぐむ。恐怖で目など合わせられない。
だが、ユウキは男達を許さない。震える彼の頭上で、左手の《高速射撃の剣》を容赦なく振り翳す。
「何だそのクソ冗談!? そんなセンスのねぇギャグが通用する程に! この国は反逆者に甘くねぇんだよ!!」
ユウキが絶叫して僅か2秒後、振り下ろす刃の音が、静粛な地下通路に小さく響き渡った。
◇◇◇
潜入者の男達は、すでに2人とも死亡していた。
彼等の息の根を止めたユウキは、《剣》の返り血を振り払うと、即座にリリーナの元へ駆け寄った。
「……ごめん……迷惑……かけて……でも……お願い……話を……聞いて……欲しくて………」
途切れそうなか細い呼吸を繰り返しながら、血まみれのリリーナは掠れ声で必死に訴えかける。
「ったく馬鹿野郎! 何でそんな傷で動き回ってるんだリリーナ!?
病院で何があった!? ルフィールとヴィクトリアは!? 何が理由でお前1人がこんな所まで……!?」
事態の急変に混乱し、苛立って矢継ぎ早の質問をリリーナ浴びせるキルトに対して、ユウキは__
「うるせぇぞキルト!! お前少し黙ってろ……!」
ぴしゃりと怒鳴って彼を静止させる。
その瞬間、キルトも我に返るうに黙り込んだ。自身が冷静さを欠いていたと、己を見つめ返したのだろう。
ユウキはそのままリリーナの元の傍にしゃがみ込むと、悲しげな目で俯いては、優しく、そっと彼女の身体を抱き上げる。
「すまねぇリリーナ……! 大怪我のお前を独り放っておく真似しちまって……
今のお前がこうなっちまったのは、全部俺の責任だ……!
病院で一大事が起きたのは明白だし、お前自身が怪我をおしてここへ来たのは、そうでもしないとヤバい理由があるんだろ……?
気に病む事なんか何もねぇ……! あったら全部俺が片付けてやる……! だから頼む……!
お前の《覚醒瞳》で見た真実を……そこに映された最悪の戯曲を……全部俺に教えてくれ……!!」
「……ユウ……キ………」
歪み眩む視界の中、リリーナは必死に目を凝らして、ユウキの瞳の奥を見ようとする。
__相変わらず彼らしい、人相の悪くどこか冷徹な表情、しかしその奥には、偽りも曇りもない。1人の男の覚悟がそこに表れていた。
素の感情を他人にそうそう見せないユウキだが、その顔だけは、リリーナが最もよく知る、かつ今生において信じ続けてきた、彼という男の、真の表情。
__この命を削ってでも、ユウキという希望を信じて、ここへ辿り着けてよかった。リリーナの目から涙が滲み出る。
「……ありが……とう……もう……ユウキに……しか……頼め……ないの……!
……お願い……止めて……あの……巨大な……《怪物》を……!」
「巨大な……《怪物》?」
リリーナの言葉に、ユウキとキルトが連想したものは、まず《死の要塞の大巨人》だった。
今まで相見えた《ギルソード》の中で、あれ程に巨体で圧倒的な破壊力を持った兵器は存在しなかった。
そのはずだが……
「ちょっと待てリリーナ……! お前が言っているのは《大巨人》の事か?
ならお前もその《覚醒瞳》で見ていたと思うが、ソイツはユウキが完全に破壊して《消滅》させただろ?
別にお前が心配することは何も………!」
「違っ……!! ……がはっ……ごぽっ……
……違うよ……違うよぉ……!!」
口から大量の血を吐きながら、リリーナは微かな声を必死に張り上げる。
命を懸けてまで訴える彼女の姿に、瞬時にキルトは自身の発言に違和感を覚え、それを撤回したいという欲求に駆られた。
ふと脳裏によぎったのは、得体の知れない暗黒の予測__
我々の把握に至らない暗黒の事実と状況が、すでに知られざる背後に蠢いているのだろう……
恐ろしい予感に思考を支配される刹那、彼女を抱き抱えるユウキは、そっと口を開く。
「……キルト、お前がそれを言いたいのは分かるぜ。
いやそれは、強いて言えば、そんな状況であって欲しいという、俺達の願望に過ぎねぇだろうな……!
俺も今、お前と同じ事を思ってたし、そうであって欲しいと願ってたよ……!
もし、ソイツが《大巨人》じゃない何かだったら、奴等が及ぼす被害は増え続けるだろうし、事態を軽んじていた俺の失態も追求されそうだ……!
だが、もう断定できるぜ。リリーナが言っているのは《大巨人》じゃねぇ全く別の《ギルソード》だ……!
だってリリーナの目を見てみろ……! 通常の状態じゃねえ……紅色の《覚醒瞳》発動状態の目だ……!
その《怪物》ってのが……! 今も現在進行形でその目に映ってんだよ!
リリーナ、お前の目から見て、その《怪物》ってのはどこを彷徨いてる……?
あのチンピラ男が持ち込んだ《ギルソード》なのか? でもアイツは雰囲気からして《ギルソード使い》には見えなかったぞ……?」
ユウキはあくまでリリーナの身体に障らないよう、優しく抱いて、頭を撫で抑えながらリリーナに問いかける。
熱を奪われて寒気に震えるリリーナ。そんな彼女が次に放った一言によって……今度はユウキの手が突如震え出した。
「ユウ……キ……実は……あの……《ギルソード》……自軍で造られた……ものなの……
……奪われた……んだよ………つい……さっき………」
「……今なんて言った……? 《ギルソード》が……? 奪われただと……!?」
ユウキの顔が、一瞬にして青ざめた。
予想だにしない、衝撃かつ最悪な告知に、その思考回路は真っ白になって停止してしまう。
後ろにいたキルトの反応も、ユウキとそう大差はない。頭を掻き毟りながら、キルトは目を見開いて叫び散らす。
「クソ……! なんて絶望的な状況だ……! もしものことがあってはと身構えてはいたが……!
絶対に外れて欲しかったぞ……! この予想だけは……!
……だが待てよ!? その奪われた《怪物》とやらは、我が軍の開発した《ギルソード》なんだろ!?
……聞いてないぞ!? そんなものが軍の研究所で造られたなんて情報など!!」
思わずキルトが言い放ったその言葉、それはユウキも同じく、先程からずっと抱いていた疑問だった。
「そこがおかしい話だよな……? そういう情報って、キルトの手元に必ず届くモンなんだろ!?」
「あぁそうだ! 俺は軍創立の《ギルソード使い》精鋭育成学園の1つ〈グランヅェスト学園〉の生徒会長兼理事長。
言わば、『学園の生徒ではあるが、同時に総合責任者でもある』って立場だ。
先代頭首の親父が早く他界した関係で、その後を引き継いだんだがな……!
だから、軍の総合運営に関わる機密情報は、上層部の情報共有として、俺の元にも何かしらの連絡は必ず上層部から送られる!
『《ギルソード》の開発情報』もその1つだ!
情報公開されるのは完成後だが、正式にロールアウトが決定された《ギルソード》は、必ず開発研究所から上層部を通して、各管理職級の人間に通達される規律がある……!
だが、その《怪物》ってのは知らないぞ!?
発表されたロールアウト品は、全て《剣型》や《銃型》タイプのだったはず……!」
混乱のあまり取り乱し、焦りと苛立ちを募らせるキルトに、リリーナは掠れ声で未だ話を続ける。
「違う……あれは……廃棄された……《ギルソード》…………
研究所の……処分……倉庫に……あった……もの……
だって……廃品……なんて……機密情報……に……含まれ……ない……でしょ……?」
「……廃棄した《ギルソード》だと!? あの凶悪テロ集団がそんな粗悪品を奪いに来たとは思えないがな……!?」
「いや……本当……だよ………むしろ……裏を……かかれた……かも……
私の……《覚醒瞳》は……《ギルソード》の……構造……特質……存在位置……全部……見えて……分かる……から……
……なる程……ね……あんな……禍々して……恐ろしい……《ギルソード》……捨てられるに……決まって……る……」
リリーナは重く沈んだ表情で、暗闇のコンクリート壁を呆然と見つめていた。
その煌びやかな《覚醒瞳》に映し出された、脅威の《怪物》とは一体__
キルトは、その核心をリリーナに迫ろうとしたが__
刹那、ユウキとキルト2人の、すっかり故障したと思っていたスマートフォンの着信音が、突如として地下シェルターの暗闇に響き出す。
キルトのはクラシックの艶やかな音色が、ユウキのは激しいエレキギターの音色が、不協和音のように混ざり合って奏でられる。
【【♪♫¶……!! ♫……! ♪♪!!】】
「キルト……! 俺達の携帯は調子悪いんじゃなかったか?」
「おかしいぞ……? さっきは完備された地下の無線電波さえ拾わなかったというのに……!」
不審に思いながら、2人は各々のスマートフォンをポケットから取り出して、各々のディスプレイを確かめる。
[ ℃™©§†π∆⁇√‡¤µ$^$%@…… ]
文字化けしているのか、電話の発信先が示されるはずの画面には、不規則かつ不可解な記号が大量に表示されている。
「何だこれは……? 気味悪い現象だな……!」
「俺達のスマホに何があったよ……? 通話に応じて大丈夫だろうな……!?」
得体の知れない不気味さを感じつつも、彼等は互いに会話内容と情報を共有できるよう、スピーカー機能をONに設定して、着信に画面に応答する__
『よォー!! 平和ボケした〈戴冠の女王軍〉のマヌケ共め! 聞こえてるかァ!?」
「……!? この男の声は……!?」
「あのグラサン野郎ォ……! 本当に生きてやがった……!」
キルトは気が動転したのか、スマートフォンを握った手が微かに震えてしまい、一方ユウキは、即座に血相を変えて、苛立ちの舌打ちを1つかます。
『まず名乗っておくか! 俺は国際武力革命組織〈革新の激戦地〉最高幹部、フランツ=ロエスレル!!
先に言っておくぜ? これは俺が地下の回線をジャックして、地下の連中全体に電話繋げてっから、お前等個人の声なんざ聞こえねぇぞ!?
さて、今お前等、地下施設での電波障害で苦しんでるだろ!?
そりゃ当然だ! 俺の部下が地下ネットワーク回線に『通信装置破壊ウイルス』をブチ込んじまったからよォ!
これは別に大した代物じゃねぇ!
第三次対戦で実際に使われていた『サイバー兵器』をウチの組織でほんの少し改造しただけのことだ! 先人の発明品って偉大だなオイ!!
……それをたった今やった訳じゃねぇぞ!
ここまで実行するのに、数ヶ月前からこっちは多くの血と汗と犠牲を俺達は払ったんだよ!! 代償には高すぎる程になァ!!
怖ぇ話をしてやろうか……? どうせ聞いてんなら……お前に直接警告してやるよ! ユウキ=アラストル!!
廃棄所に……新型の《ギルソード》があったよなァ!?
……俺が奪っちまったよ……!!』
妙な言動だった。まるでこの男は、軍全体ではなく、あくまでユウキ個人に宣戦布告するかのように名指しする。
すると、この台詞の直後、キルトの傍から【ガシャリッ!】と、ガラス製品の壊れる音が小さく響く。
__一寸の未来予知は、もはや容易だ。
キルトがその方向を見やれば__
「何だコイツ……?《ギルソード》という力を手にした瞬間、名指しで俺に喧嘩売ってきやがったぞ……!?
調子乗ってるだけじゃねぇよなァ? それなりの覚悟ができて言ってるよなァ? あァ……!?」
__予知通り、ユウキの様相は、凶暴な闇騎士へと変貌していた。
横たえるリリーナの身体を右腕で抱き抱えていたが、反対の左手に握っていた薄型スマートフォンが、完全に握力で破砕している。
「ユウキ……待って……私……まだ……大事な事……ユウキ……に……伝え……終わっ……て……ない……」
震える右手を上げて、リリーナがユウキを静止する。
「いや、もう十分だリリーナ……! 状況からして、時は一刻一秒を争う。それに、これ以上お前の身体に障ったらマズい……! 後は全部俺に任せて、もうお前は休んでろ!」
「で……も……」
リリーナに目を合わせず、ユウキはその凶暴な目つきを変えることなく、血まみれの彼女の頬を撫でだ。
だが即座に、その傍らからキルトが口を挟む__
「リリーナ、無理させてすまない! 最後に敵の《ギルソード》の大まかな特徴だけを教えてくれ!」
「おいキルト……! お前余計な事を……!」
瞬時にユウキは、キルトを責めるように睨んでしまうが、対して彼は、冷静な態度と眼差しでユウキを諭す。
「落ち着けユウキ! もう一度言っておくが、相手はこの強固な軍事国家に長期間潜伏して、ここまで甚大な被害を与える計画を実行した人間だ!
間違いなく強敵だぞ……!
実際に、厳重な警戒態勢が敷かれている軍の施設で、奴は未だに討たれず生き延びている……!
せめてお前の身のためにも、最低限の事前情報と対策は用意するべきだろ!」
キルトの坦々とした説得に、ユウキは不服ながらも従わざるを得なかった。
そして、ユウキから聞き直すまでもなく、リリーナは持てる体力を振り絞って、ユウキに最後の情報を伝えようとする。
「気を……つけて………ユウ……キ………あの……《怪物》……
そう……言葉で……表す……なら……
巨大な……《人食い虫》……
アイツは……大きくて……凶暴で……武装が……いっぱい……あって……
もう……何人も……やられ……てる……
だから……お願い……絶対……死な……な……い……で……」
巨大な《人食い虫》__
この歪なキーワードを残した直後、リリーナは眠るように意識を失った。
ユウキは、その言葉に困惑することなく、ただ「すまねぇリリーナ……本当に……」と呟いて、優しくリリーナを抱き寄せた。
すると、傍にいたキルトが決心して、ユウキ達の元へ駆け寄った。
「ユウキ! リリーナの事は俺に任せろ! 地下施設の経路は把握してるから、裏ルートを突っ走って緊急病棟へ連れて行く!
確かにリリーナは言ったな……! 巨大な《人食い虫》か……!
正式採用されなかった型式なら、情報など回っては来ないが……
どうも聞き覚えがあるな……! よく思い出せねぇが……!
とにかく! リリーナを病棟に預け次第、俺も援護に……!」
「いいよキルト! もうなんとなく想像はついた! お前は何も気にしなくていい! とにかくリリーナを助けてくれ……!
……いつだって俺は、お前を男と見込んで任せてんだ……! 絶対に死なせるんじゃねぇ……! 頼んだぞ……!」
声を張り上げたユウキの言葉に、キルトは「当然だろ! 誰に向かって言ってんだか……!」と言い返し、ユウキに代わってリリーナの身体を姫のように抱き上げた。
__まだ、通話機能が生きているキルトの携帯から、敵の男はさらに怒声を飛ばす。
『ユウキ=アラストル!! 聞こえてんだろ!? オメェは第一の抹殺対象と同時に、俺が直接息の根止めてやりてぇ憎悪の対象だ!!
今から俺は地下の軍事研究所を徹底的に破壊する予定だが、並行してお前も探し出して殺してやる!!
俺の可愛がっていた部下やクローン兵を散々殺りやがって!! 落とし前つけてやるから、俺を阻止したければ〈《ギルソード》開発研究所〉まで上がって来い!!』
この台詞を聞いた直後、ユウキは冷静な様相で立ち上がった。
キルトはリリーナを連れて行く前に、こんな事を言い残す__
「地下の〈《ギルソード》研究所〉は、来た道を逆走した方が最も早く着ける!
気をつけろよ! 連絡手段を絶たれた今、お前はしばらく孤立無援だ……! 苦しいだろうな……!
できるなら、早急に上層部へ精鋭の派遣を要請したいところだが……!」
「いや、いらねぇよ! 俺がその1人だってこと知ってんだろ!
短時間で終わらせてやる! 無論その時間内で……俺達の国に喧嘩売った事をじっくり後悔させてやるよ……!!」
ユウキはそう言って、『高速エレベーター』を背に駆け出していった。




