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新科学怪機≪ギルソード≫   作者: Tassy
3.〈新都市マリューレイズ〉と武装組織の逆襲 編
66/105

・それは新たなる脅威(2)

 



 __解せない疑問が、キルトの脳裏から離れない。




 それは、あのリリーナが人質に取られること事態、有り得るものだろうか……ということだ。



 しばらく首を捻って、キルトは考察する。





 (……元々病院に居たはずのリリーナが、何故この場に連れてこられているのか……?


 病院で非常事態に見舞われたのは明白だが、あのダマスカスで大軍を圧倒した程の強者が、あんな雑魚2人風情に連れ去られて人質に取られる事態が理解に苦しむ……!


 ヴィクトリアとルフィールだって、護衛についていたしな……!


 確かに出血多量で意識を失った後に、誘拐して連れて来られたなら辻褄が合うかもしれんが……


 いや……本当にリリーナの意識はないのか……?)





 この不可解な疑問点こそ、逆転劇に繋がらないか。そう考えたキルトは、もう一度リリーナの方を見やった。




 次の瞬間__




「…ユ……キ……」




 リリーナの唇が、微かにぴくりと動いた。



 あまりに小さな声で聞き取れなかったが、何かを呟いたようにも思える。



「ユウ……キ……大丈……だ……よ……」




 聞こえないが、やはりリリーナは何かを言っている。


 

 彼女の意識は健在だという、決定的な証拠だ。その瞬時、キルトは勝利を確信する。





「ユウキ、ちょっと待て! リリーナの意識は健在だぞ!」




「………リリー……ナ?」




 ユウキは希望を見出したような瞳で、首筋を切り込む手を止めた。傷は浅いが、《剣》の刃は真っ赤に染まっている。




「あァ? 何をゴチャゴチャ言ってやがんだ!? まだ首を落とす覚悟はつかねぇのか!? これ以上待たせるなら、もうこいつを殺して……!」





 苛立った大柄の男がナイフを振り翳して、リリーナを刺そうとしたが、キルトは怖気づくことなく、大柄の男に堂々と行って聞かせる。





「ほう? これはお気の毒! アンタ達はリリーナの能力、恐ろしさ、何も知らずに人質に取ったんだな。


 もう遅いから教えておくさ。リリーナの《ブレイン=ギルソード》は変幻自在かつ『遠隔操作』が売りでねぇ、敵に回したら本当に危険な相手なんだよ……!


 彼女の意識がある限り、『人質』に取ろうと思うのは自殺行為だ! 即刻彼女を離すといい!!」





「あぁ? この馬鹿は何を言ってやがる……?」





 大柄の男は少々困惑するも、キルトの言葉を脅しの冗談だと思い、嘲笑って聞き流してしまう。





 悪夢は……次の瞬間……





【ブジュッ!!!】



 

 血肉が裂ける音と共に、大量の血液が溢れ出す。




「……………えっ?」




 青ざめた大柄の男は、血が吹き出した部位に視線を落とす。



 __ナイフを握っていた右腕が真っ二つに裂けて、骨と筋繊維が露出している。



 何が起きたのか、まるでグラインダーに腕でも伸ばしてしまったかのような、それは酷く凄惨な姿。




 

「う"……!! う"ぇ"あ"あ"あ"ァ"ァ"!!!」





 断末魔の叫びを轟かせ、男は左腕に抱えたリリーナをも放り出して、男は地獄の激痛と流血に苦しんで暴れ回る。



 

 瞬時に突き放された彼女は、その場で崩れるように、ばったりと倒れ込んだ。





「テ……テメェ! 兄弟に何しやがっt……!」




 傍らにいた痩せ型の男が、怯えて震えながらリリーナに銃を突きつけたが、瞬時に、今度は彼の両腕と左足から、大量の血が吹き出す。





「く"ぅぉわ"あ"あ"……い"て"ぇ"ぇ……!!」





 断末魔が2度も渡り響いた時、エレベーター前の廊下は、すでに間に血の赤一色に染め上げられていた。





「だから言ったでしょう? 《ブレイン=ナノマシン》の遠隔操作で、皮膚を体内から斬り裂かれたんだよ!


 知識と運が無かったな! 成る程、これはお前の思惑通りだったってワケか? なぁリリーナ……!」





 __キルトがそう言うと、それに反応して、リリーナは重い瞼をゆっくりと開きながら、掠れた声でこう言った。

 



「……ごめん……不安に……させ……て……ユウキに……謝らな……きゃ……」





 __敵の男達は激昂した。



 リリーナの背後で、血まみれの姿で地を這って藻掻いていた彼等だが、その台詞を聞くや否や、大柄の男が激昂してリリーナに怒鳴り散らす。




「お……おい女……!! ふざけんなよテメェ!! コイツ等に会うために……俺等を運び屋に利用したってのかァ……!!


 わざと人質になって……俺達をタダ働きさせやがって……! それで用が済んだら始末って魂胆かよォ……!!」





 じたばたと寝転がって藻掻く男達に、リリーナは口元だけ微笑んで、冷静に答えた。





「……悪い……ね……! どうしても……会わなきゃ……いけなかった……から……! でも……身体……動かなく……て……


 タイミング……が……ちょうど……良かった……ユウキ達……に……会える……から……」





「……クソッ! このクソ女がァ! 人をコケにしやがって!! こうなったら血が流れきって死ぬ前に! テメェの頭撃ち抜いて……!


 ……道………!? ……ず……れ………!?」





 この先を叫ぶ寸前で、男は恐怖に震え出した。


 

 横たわる彼の真上に、1人の人影が伸びて覆い被さる。顔を見上げなくても、想像に難くない。


 

 見下ろす人影の正体。その魔獣の如き戦慄の眼光。そして、赤紫の闇騎士の姿。





「……人をコケにしやがってだァ!? こっちの台詞だ!! もう覚悟はできてるよなァ!? 間違っても助かろうなんざ思ってんじゃねぇぞ!!」





「ひっ……ごめんなさい……! 降伏……します……! 捕虜になって全部話します……だから……命だけは……!」





 男は怯えて涙ぐむ。恐怖で目など合わせられない。




 だが、ユウキは男達を許さない。震える彼の頭上で、左手の《高速射撃の剣(ダーツ・ブレード)》を容赦なく振り翳す。





「何だそのクソ冗談(ジョーク)!? そんなセンスのねぇギャグが通用する程に! この国は反逆者に甘くねぇんだよ!!」




 ユウキが絶叫して僅か2秒後、振り下ろす刃の音が、静粛な地下通路に小さく響き渡った。 




◇◇◇

 



 潜入者(スパイ)の男達は、すでに2人とも死亡していた。



 彼等の息の根を止めたユウキは、《剣》の返り血を振り払うと、即座にリリーナの元へ駆け寄った。


 


「……ごめん……迷惑……かけて……でも……お願い……話を……聞いて……欲しくて………」

 

 


 途切れそうなか細い呼吸を繰り返しながら、血まみれのリリーナは掠れ声で必死に訴えかける。




「ったく馬鹿野郎! 何でそんな傷で動き回ってるんだリリーナ!?


 病院で何があった!? ルフィールとヴィクトリアは!? 何が理由でお前1人がこんな所まで……!?」



 

 事態の急変に混乱し、苛立って矢継ぎ早の質問をリリーナ浴びせるキルトに対して、ユウキは__




「うるせぇぞキルト!! お前少し黙ってろ……!」


 


 ぴしゃりと怒鳴って彼を静止させる。



 その瞬間、キルトも我に返るうに黙り込んだ。自身が冷静さを欠いていたと、己を見つめ返したのだろう。



 ユウキはそのままリリーナの元の傍にしゃがみ込むと、悲しげな目で俯いては、優しく、そっと彼女の身体を抱き上げる。




 

「すまねぇリリーナ……! 大怪我のお前を独り放っておく真似しちまって……


 今のお前がこうなっちまったのは、全部俺の責任だ……!


 病院で一大事が起きたのは明白だし、お前自身が怪我をおしてここへ来たのは、そうでもしないとヤバい理由があるんだろ……?


 気に病む事なんか何もねぇ……! あったら全部俺が片付けてやる……! だから頼む……!


 お前の《覚醒瞳(ひとみ)》で見た真実(もの)を……そこに映された最悪の戯曲(シナリオ)を……全部俺に教えてくれ……!!」




「……ユウ……キ………」






 歪み眩む視界の中、リリーナは必死に目を凝らして、ユウキの瞳の奥を見ようとする。





 __相変わらず彼らしい、人相の悪くどこか冷徹な表情、しかしその奥には、偽りも曇りもない。1人の男の覚悟がそこに表れていた。



 素の感情を他人にそうそう見せないユウキだが、その顔だけは、リリーナが最もよく知る、かつ今生において信じ続けてきた、彼という男の、真の表情。

 




 __この命を削ってでも、ユウキという希望を信じて、ここへ辿り着けてよかった。リリーナの目から涙が滲み出る。

 




「……ありが……とう……もう……ユウキに……しか……頼め……ないの……!


 ……お願い……止めて……あの……巨大な……《怪物》を……!」





「巨大な……《怪物》?」





 リリーナの言葉に、ユウキとキルトが連想したものは、まず《死の要塞の(デスフォート・)大巨人(ジャイアント)》だった。




 今まで相見えた《ギルソード》の中で、あれ程に巨体で圧倒的な破壊力を持った兵器は存在しなかった。



 そのはずだが……




「ちょっと待てリリーナ……! お前が言っているのは《大巨人(ジャイアント)》の事か?


 ならお前もその《覚醒瞳(アイズ)》で見ていたと思うが、ソイツはユウキが完全に破壊して《消滅》させただろ?


 別にお前が心配することは何も………!」




 

「違っ……!! ……がはっ……ごぽっ……


 ……違うよ……違うよぉ……!!」





 口から大量の血を吐きながら、リリーナは微かな声を必死に張り上げる。



 命を懸けてまで訴える彼女の姿に、瞬時にキルトは自身の発言に違和感を覚え、それを撤回したいという欲求に駆られた。




 ふと脳裏によぎったのは、得体の知れない暗黒の予測__




 我々の把握に至らない暗黒の事実と状況が、すでに知られざる背後に蠢いているのだろう……




 恐ろしい予感に思考を支配される刹那、彼女を抱き抱えるユウキは、そっと口を開く。






「……キルト、お前がそれを言いたいのは分かるぜ。


 いやそれは、強いて言えば、そんな状況であって欲しいという、俺達の願望に過ぎねぇだろうな……!


 俺も今、お前と同じ事を思ってたし、そうであって欲しいと願ってたよ……!


 もし、ソイツが《大巨人(ジャイアント)》じゃない何かだったら、奴等が及ぼす被害は増え続けるだろうし、事態を軽んじていた俺の失態も追求されそうだ……!



 だが、もう断定できるぜ。リリーナが言っているのは《大巨人(ジャイアント)》じゃねぇ全く別の《ギルソード》だ……!


 だってリリーナの目を見てみろ……! 通常の状態じゃねえ……紅色の《覚醒瞳(アイズ)》発動状態の目だ……!



 その《怪物》ってのが……! 今も現在進行形でその目に映ってんだよ!


 リリーナ、お前の目から見て、その《怪物》ってのはどこを彷徨いてる……?



 あのチンピラ男が持ち込んだ《ギルソード》なのか? でもアイツは雰囲気からして《ギルソード使い》には見えなかったぞ……?」

 





 ユウキはあくまでリリーナの身体に障らないよう、優しく抱いて、頭を撫で抑えながらリリーナに問いかける。


 

 熱を奪われて寒気に震えるリリーナ。そんな彼女が次に放った一言によって……今度はユウキの手が突如震え出した。






「ユウ……キ……実は……あの……《ギルソード》……自軍(うち)で造られた……ものなの……


 ……()()()()……んだよ………つい……さっき………」





「……今なんて言った……? 《ギルソード》が……? 奪われただと……!?」





 ユウキの顔が、一瞬にして青ざめた。



 予想だにしない、衝撃かつ最悪な告知に、その思考回路は真っ白になって停止してしまう。



 後ろにいたキルトの反応も、ユウキとそう大差はない。頭を掻き毟りながら、キルトは目を見開いて叫び散らす。




 

「クソ……! なんて絶望的な状況だ……! もしものことがあってはと身構えてはいたが……!


 絶対に外れて欲しかったぞ……! この予想だけは……!



 ……だが待てよ!? その奪われた《怪物》とやらは、我が軍の開発した《ギルソード》なんだろ!?


 ……聞いてないぞ!? そんなものが軍の研究所で造られたなんて情報など!!」





 思わずキルトが言い放ったその言葉、それはユウキも同じく、先程からずっと抱いていた疑問だった。

 

 



「そこがおかしい話だよな……? そういう情報って、キルトの手元に必ず届くモンなんだろ!?」





「あぁそうだ! 俺は軍創立の《ギルソード使い》精鋭育成学園の1つ〈グランヅェスト学園〉の生徒会長兼理事長。


 言わば、『学園の生徒ではあるが、同時に総合責任者でもある』って立場だ。


先代頭首の親父が早く他界した関係で、その後を引き継いだんだがな……!


 だから、軍の総合運営に関わる機密情報は、上層部の情報共有として、俺の元にも何かしらの連絡は必ず上層部から送られる!



 『《ギルソード》の開発情報』もその1つだ!



 情報公開されるのは完成後だが、正式にロールアウトが決定された《ギルソード》は、必ず開発研究所から上層部を通して、各管理職級の人間に通達される規律がある……!



 だが、その《怪物》ってのは知らないぞ!?



発表されたロールアウト品は、全て《剣型》や《銃型》タイプのだったはず……!」




 

 混乱のあまり取り乱し、焦りと苛立ちを募らせるキルトに、リリーナは掠れ声で未だ話を続ける。





「違う……あれは……()()された……《ギルソード》…………


 研究所の……処分……倉庫に……あった……もの……


 だって……廃品……なんて……機密情報……に……含まれ……ない……でしょ……?」





「……廃棄した《ギルソード》だと!? あの凶悪テロ集団がそんな粗悪品を奪いに来たとは思えないがな……!?」





「いや……本当……だよ………むしろ……裏を……かかれた……かも……


 私の……《覚醒瞳(アイズ)》は……《ギルソード》の……構造……特質……存在位置……全部……見えて……分かる……から……


 ……なる程……ね……あんな……禍々して……恐ろしい……《ギルソード》……捨てられるに……決まって……る……」






 リリーナは重く沈んだ表情で、暗闇のコンクリート壁を呆然と見つめていた。




 その煌びやかな《覚醒瞳(アイズ)》に映し出された、脅威の《怪物》とは一体__




 キルトは、その核心をリリーナに迫ろうとしたが__



 刹那、ユウキとキルト2人の、すっかり故障したと思っていたスマートフォンの着信音が、突如として地下シェルターの暗闇に響き出す。



 キルトのはクラシックの艶やかな音色が、ユウキのは激しいエレキギターの音色が、不協和音のように混ざり合って奏でられる。




【【♪♫¶……!! ♫……! ♪♪!!】】





「キルト……! 俺達の携帯は調子悪いんじゃなかったか?」




「おかしいぞ……? さっきは完備された地下の無線電波さえ拾わなかったというのに……!」




 不審に思いながら、2人は各々のスマートフォンをポケットから取り出して、各々のディスプレイを確かめる。




[ ℃™©§†π∆⁇√‡¤µ$^$%@…… ]




 文字化けしているのか、電話の発信先が示されるはずの画面には、不規則かつ不可解な記号が大量に表示されている。 

 




「何だこれは……? 気味悪い現象だな……!」




「俺達のスマホに何があったよ……? 通話に応じて大丈夫だろうな……!?」





 得体の知れない不気味さを感じつつも、彼等は互いに会話内容と情報を共有できるよう、スピーカー機能をONに設定して、着信に画面に応答する__





『よォー!! 平和ボケした〈戴冠の女王軍(マリー・ルイーズ)〉のマヌケ共め! 聞こえてるかァ!?」

 




「……!? この男の声は……!?」




「あのグラサン野郎ォ……! 本当に生きてやがった……!」





 キルトは気が動転したのか、スマートフォンを握った手が微かに震えてしまい、一方ユウキは、即座に血相を変えて、苛立ちの舌打ちを1つかます。





『まず名乗っておくか! 俺は国際武力革命組織〈革新の激戦地(ヴェオグラード)〉最高幹部、フランツ=ロエスレル!!



 先に言っておくぜ? これは俺が地下の回線をジャックして、地下の連中全体に電話繋げてっから、お前等個人の声なんざ聞こえねぇぞ!?



 さて、今お前等、地下施設での電波障害で苦しんでるだろ!?



 そりゃ当然だ! 俺の部下が地下ネットワーク回線に『通信装置破壊ウイルス』をブチ込んじまったからよォ!


 これは別に大した代物じゃねぇ!


 第三次対戦で実際に使われていた『サイバー兵器』をウチの組織でほんの少し改造しただけのことだ! 先人の発明品って偉大だなオイ!!

 


 ……それをたった今やった訳じゃねぇぞ!



 ここまで実行するのに、数ヶ月前からこっちは多くの血と汗と犠牲を俺達は払ったんだよ!! 代償には高すぎる程になァ!!



 怖ぇ話をしてやろうか……? どうせ聞いてんなら……お前に直接警告してやるよ! ()()()()()()()()!!




 廃棄所に……新型の《ギルソード》があったよなァ!?



 ……俺が奪っちまったよ……!!』





 妙な言動だった。まるでこの男は、軍全体ではなく、あくまでユウキ個人に宣戦布告するかのように名指しする。




 すると、この台詞の直後、キルトの傍から【ガシャリッ!】と、ガラス製品の壊れる音が小さく響く。




 __一寸の未来予知は、もはや容易だ。



 

 キルトがその方向を見やれば__




「何だコイツ……?《ギルソード》という力を手にした瞬間、名指しで俺に喧嘩売ってきやがったぞ……!?


 調子乗ってるだけじゃねぇよなァ? それなりの覚悟ができて言ってるよなァ? あァ……!?」

 



 __予知通り、ユウキの様相は、凶暴な闇騎士(ダークナイト)へと変貌していた。




 横たえるリリーナの身体を右腕で抱き抱えていたが、反対の左手に握っていた薄型スマートフォンが、完全に握力で破砕している。





「ユウキ……待って……私……まだ……大事な事……ユウキ……に……伝え……終わっ……て……ない……」




 震える右手を上げて、リリーナがユウキを静止する。





「いや、もう十分だリリーナ……! 状況からして、時は一刻一秒を争う。それに、これ以上お前の身体に障ったらマズい……! 後は全部俺に任せて、もうお前は休んでろ!」




「で……も……」





 リリーナに目を合わせず、ユウキはその凶暴な目つきを変えることなく、血まみれの彼女の頬を撫でだ。



 だが即座に、その傍らからキルトが口を挟む__




「リリーナ、無理させてすまない! 最後に敵の《ギルソード》の大まかな特徴だけを教えてくれ!」




「おいキルト……! お前余計な事を……!」





 瞬時にユウキは、キルトを責めるように睨んでしまうが、対して彼は、冷静な態度と眼差しでユウキを諭す。





「落ち着けユウキ! もう一度言っておくが、相手はこの強固な軍事国家に長期間潜伏して、ここまで甚大な被害を与える計画を実行した人間だ!


 間違いなく強敵だぞ……!


 実際に、厳重な警戒態勢が敷かれている軍の施設で、奴は未だに討たれず生き延びている……!


 せめてお前の身のためにも、最低限の事前情報と対策は用意するべきだろ!」




 

 キルトの坦々とした説得に、ユウキは不服ながらも従わざるを得なかった。

 


 そして、ユウキから聞き直すまでもなく、リリーナは持てる体力を振り絞って、ユウキに最後の情報を伝えようとする。





「気を……つけて………ユウ……キ………あの……《怪物》……


 そう……言葉で……表す……なら……


 巨大な……《()()()()》……


 アイツは……大きくて……凶暴で……武装が……いっぱい……あって……


 もう……何人も……やられ……てる……


 だから……お願い……絶対……死な……な……い……で……」




 

 巨大な《人食い虫》__



 この歪なキーワードを残した直後、リリーナは眠るように意識を失った。




 ユウキは、その言葉に困惑することなく、ただ「すまねぇリリーナ……本当に……」と呟いて、優しくリリーナを抱き寄せた。





 すると、傍にいたキルトが決心して、ユウキ達の元へ駆け寄った。





「ユウキ! リリーナの事は俺に任せろ! 地下施設の経路は把握してるから、裏ルートを突っ走って緊急病棟へ連れて行く!


 確かにリリーナは言ったな……! 巨大な《人食い虫》か……!


 正式採用されなかった型式なら、情報など回っては来ないが……

 どうも聞き覚えがあるな……! よく思い出せねぇが……!


とにかく! リリーナを病棟に預け次第、俺も援護に……!」





「いいよキルト! もうなんとなく想像はついた! お前は何も気にしなくていい! とにかくリリーナを助けてくれ……!


 ……いつだって俺は、お前を男と見込んで任せてんだ……! 絶対に死なせるんじゃねぇ……! 頼んだぞ……!」





 声を張り上げたユウキの言葉に、キルトは「当然だろ! 誰に向かって言ってんだか……!」と言い返し、ユウキに代わってリリーナの身体を姫のように抱き上げた。





 __まだ、通話機能が生きているキルトの携帯から、敵の男はさらに怒声を飛ばす。





『ユウキ=アラストル!! 聞こえてんだろ!? オメェは第一の抹殺対象と同時に、俺が直接息の根止めてやりてぇ憎悪の対象だ!!


 今から俺は地下の軍事研究所を徹底的に破壊する予定だが、並行してお前も探し出して殺してやる!!


 俺の可愛がっていた部下やクローン兵を散々()りやがって!! 落とし前つけてやるから、俺を阻止したければ〈《ギルソード》開発研究所〉まで上がって来い!!』

 




 この台詞を聞いた直後、ユウキは冷静な様相で立ち上がった。

 

 


 キルトはリリーナを連れて行く前に、こんな事を言い残す__





「地下の〈《ギルソード》研究所〉は、来た道を逆走した方が最も早く着ける!


 気をつけろよ! 連絡手段を絶たれた今、お前はしばらく孤立無援だ……! 苦しいだろうな……!


 できるなら、早急に上層部へ()()の派遣を要請したいところだが……!」




 

「いや、いらねぇよ! 俺が()()1()()だってこと知ってんだろ!


 短時間で終わらせてやる! 無論その時間内で……俺達の国に喧嘩売った事をじっくり後悔させてやるよ……!!」





 ユウキはそう言って、『高速エレベーター』を背に駆け出していった。


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