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新科学怪機≪ギルソード≫   作者: Tassy
3.〈新都市マリューレイズ〉と武装組織の逆襲 編
62/105

・暗殺少女の特攻(3)



「グロテスクねぇ。別に私は気にならないわ? 生憎、私は趣味が悪いってよく言われるのよ!


 それが顕著に表れる《必殺能力(おくのて)》を、場合によっては発動させるつもりだから……!」



 

 ルフィールはニヤリと笑いながら、ヴィクトリアの意見と思考に同調した。





「ホント情けないわね私……リリーナを守ろうとして飛び出したのに……! 敵の策に翻弄されて、余計に彼女を傷つけて……!」





 怒りの目つきをラインに向けたまま、ヴィクトリアは悔みと屈辱で奥歯を深く噛みしめる。




(ホント、この子のリリーナに対する思い入れは、ユウキ並みに重いんだから……)


 


 ルフィールはそんな彼女を横目に小さなため息を漏らした。





「お願い……気をつけて……あの……攻撃………脚の角度で……ゴポッ……! カフッ……!」




 2人に何かを伝えかけた瞬間、途端にリリーナは大量の血を吐き出した。



 また傷が開いている。その細い身体を包む包帯と病衣が、徐々に赤黒い血に染まっていく。





「やめてリリーナ! もうそれ以上喋らないで! 死んじゃうから! お願い!」





「ヴィクトリアの言うとおりよ! 私達はこの女始末したら、アンタを避難所の病棟に連れて行くから! だからそれまで……!」





 リリーナの危機的な状況に、2人の精神は焦燥に迫られる。




 しかし、そんな彼女達をよそに、暗殺屋ラインは待ってなどくれない。片足を後ろに構え、一文字蹴りの大勢を取る。




「何勝手にゴチャゴチャと話してんのよ! どうせ3人まとめて次の一撃で微塵切りにしてやるわ! 《斬撃破風の(ブレードウィンズ・)脚靴剣(レッグスセイバー)》!!」

 

 


 激昂するラインの《斬撃の嵐》が、まさに炸裂されようとした。



 しかし__




「……させるか! そんなパターン攻撃!《小鳥の(リトルバード)機関銃(・マシンガンズ):銃口換装》!!」





 ヴィクトリアに絶叫と共に、翼で旋回する2丁の《小鳥の(リトルバード)機関銃(・マシンガンズ)》が、盾となるように彼女の前に飛び出した。




 次の瞬間__




 それ等の《銃口》の先から、眩い閃光が突如現れ、強烈な輝きが一面を覆い尽くす。




「ぎゃ……! 目が……! 視界が……!」




 強烈な光に目を塞がれたラインは、脚に威力を溜めた《斬撃の嵐》を、全く方向違いの、斜め上の天井を目掛けて放ってしまう。




【ドゴォ……! ガシャァアア……!】




 壮大な破壊音が鳴り、天井は瞬く間に崩れ落ちて上階との穴が空いた。



 しかし、無駄に瓦礫と砂埃を撒き散らしただけで、肝心なヴィクトリア達に全くダメージはない。




「そんな……まだ目が見えない……!」




 目を眩ませて怯むラインに対し、目を瞑って《閃光》を防いたヴィクトリアは、容赦なく追い打ち攻撃を仕掛けようとする。




「……効いたかしら! 私の《銃口換装:閃光弾》が!


 私の《銃撃連隊の(ブレッドファミリア・)機関銃(マシンガンズ)》は、実は《機関銃(マシンガン)》以外の機能と役割を果たす……!


 その場の状況に応じて《銃弾》の種類や構造、《銃口》の形状まで、融通が効くように《換装》ができるわけ!



 散弾、閃光弾、スモーク弾、大凡10種類くらいかしら!



 リリーナの《創造する(ズィミウルギア・)脳操槍剣(ブレインセイバー)》みたく自由自在じゃないけど、あのデータを元に開発されたから、自動操縦かつ超融通の利く《ギルソード》なの!


〈新都市マリューレイズ〉の開発技術を舐めんじゃないわよ!」




「くっ……! あぁ……目が……!」





「見えていないから隙だらけ! 《小鳥の(リトルバード)機関銃(・マシンガンズ)》!!」





 パチリ……! とヴィクトリアが指を鳴らした刹那、浮遊する8丁の《機関銃(マシンガンズ)》が、即座に標的ラインへと襲いかかる。





「一気に取り囲め!! 畳み掛けて蜂の巣決定!!」




「……っ!? まずい!!」





 悍ましい殺気と次なる危機的な展開を察知したラインは、瞬足の脚つきで地面を蹴り、一目散に後方へと駆け出した。




 《機関銃(マシンガンズ)》の集団は情け容赦なく、正面から、真上から、斜め後ろから、あらゆる方向を取り囲み、銃声を奏でで乱射する。




「がっ……!! あぐっ……!!」




 彼等の《銃弾》は、ラインの脹脛、右肩、左腕と各箇所に撃ち抜いた。血飛沫が飛び散る。



 だが、致命傷は負っていない。



 彼女は精鋭な暗殺者として訓練されているので、敵のあらゆる方向からの銃弾は、目を瞑っても避ける技術と感覚があった。



 しかし、《閃光弾》を受けて視界は戻らず、8丁の《機関銃》が小刻みに動き回るので、彼女の実力を以ても、この状況は対処に苦しめられる。 

 




 (まずい……! この翼が生えて飛び回る《銃》……! こんな狭い場所を彷徨いてたら、速攻で蜂の巣にされる……!


広い空間……! 十分に動き回れる場所までこの《銃》を誘き出して、破壊してやる!!)





 長く複雑な廊下を高速で駆け抜だしながら、ラインは試行錯誤していた。その内に視界が徐々に回復していく。




 気がつくと、すぐ目の前には硝子の窓が待ち構えていた。




「……フフッ!」




 それを見るや否や、ラインの表情は、ニヤリと薄ら笑みを浮かべていた。


 



◇◇◇





 一方、先程の廊下では__




「……さぁ逃げなさいよ殺し屋女! じっくりと痛めつけてやるから泣き喚きなさい!」




 

 残酷な笑顔を浮かべたヴィクトリアが、余裕な姿勢で勝利宣言していると、背後から、ある同僚の怒声が耳を打って、さらに拳で殴られた。





「……こんの乱射中毒女ァ!!」





「痛ぁい!! ちょっと何すんのよルフィール……?」







 げんこつを食らったヴィクトリアが、涙目で後ろを振り返ると、恐ろしさが倍増した眼光のルフィールが、静かに彼女を見下ろしている。





「……何すんのよってこっちの台詞よ! 唐突に《閃光弾》なんか使いやがって! おかげでこっちまで視界が眩んだじゃない!!」




「えっ? ホントに? それはごめんなさい……!」




「ったく! アンタねぇ……! 周り見てないにも程があるわ……!」





 ヴィクトリアの滅茶苦茶なやり方に、ルフィールは呆れて溜め息をついた。





「そ……そうだ! それよりもリリーナは!? あの子は……大丈……夫よねぇ!?


 大丈……………う……そ……!?」





 ルフィールに尋ねるや否や、彼女の立ち姿の奥から、リリーナの様子が見えた。



 恐れていた地獄の光景に、ヴィクトリアの血の気は引いた。




「大丈夫なわけ……ないでしょ……!」




 ルフィールは冷徹な瞳で答えた__




 奥の廊下で、リリーナは倒れて蹲っていた。開いた傷口からの流血が、その酷さを増している。



 当然の事だ。彼女の傷は、元より塞がっていない。



 それが毒で犯され悪化した上に、暗殺少女ラインとの戦闘によって、心身共に余計な衝撃、ダメージ、負担を強いられた。

 


 弱った身体が、それに耐えられるはずがない__




「……うっ………けぽっ…………」

 



 ひゅうひゅうと弱々しい過呼吸を繰り返し、流れ出る血液は、包帯や病衣は勿論のこと、周囲の床にまで染み渡っていた。



 最早、命の危機に差し迫っている。




「いや……いやァ! リリーナァァ!!」




 ヴィクトリアの思考は乱れ、パニックに陥った。



 目の前のルフィールを思わず押し退けて、彼女は速攻で重傷のリリーナへと駆け寄った。




「リリーナ……お願いだから死なないで……! すぐに血を止めるから……まだ残ってるわよね……血……! だれか呼ばなきゃ……! まだ生きてる医師や看護師はいないの……!?」




「落ち着きなさいよヴィクトリア! アンタが慌てふためいても事態は悪化するだけよ!」





 混乱するヴィクトリアを、ルフィールは粛清するようにぴしゃりと叱ったが、すでにヴィクトリアは、それを聞き入れる余裕などない。




「……何言ってんのアンタ!? 逆にどうしてそんなに冷静なの!? 大切な仲間が苦しんで死にかけてるのに……!!」




「だからこそよ! 馬鹿ねぇ!」




 ルフィールは怒鳴りつけたい怒りを溜め息で沈めて、蹲るリリーナへ静かに駆け寄り、血塗れの身体をそっと抱き上げる。


 

 意識もはっきりしていない。小さく弱い過呼吸も、下手をすれば今にも止まってしまいそうだ。




「……いい? ヴィクトリア? ここは病院よ! 確かにこの階の医師や看護師は殺されてるけど、ナースステーションに行けば、薬や医療用具は探せばあるでしょ?


 正直……この様子だと『ナイチンゲール(※最新の救命医薬品)』を服用させても効果は期待できない……!



 でも血を止めたり、最低限の処置はできるはずよ!



 リリーナは私に任せなさい……! アンタには『やるべき事』があるわ!」





「私の……やるべき事……?」




 

 ヴィクトリアは、一度冷静さを取り戻して考えた。



 刹那、この通路の奥、暗殺者ラインが駆け出した先の場所から、壮大な爆発音が一帯を轟かせる。





「えっ? 何よ今の音!? まさかあの女……まだ生きてるの!?」




「様子を見に行く必要はありそうね……! いい? ヴィクトリア……! アンタの役目は、アイツからリリーナを守ることよ!


まぁアンタの《能力》があれば、アイツを仕留めるのは時間の問題かしらね……!


 だから一刻も早く、確実に片付けて戻ってきなさい! 2人でリリーナを救うの!! いいわね!?」




「……分かったわ。どうせ私の《小鳥の(リトルバード)機関銃(・マシンガンズ)》は自動追尾だから、絶対に逃さない!


 リリーナの命を脅かした罪、その身に刻んでやる__!!」




 誓いと決意を固めたヴィクトリアは、再び闘志の眼差しを取り戻して、瓦礫を蹴って通路の奥へと駆け出した。




 ヴィクトリアの姿は、もう眩んでしまった。



 ルフィールはそれを確認すると、リリーナをナースステーションまで連れて行こうと、傷に障らないよう注意しつつ、即座に駆け出した。




「……うっ……けほっ………かふっ……」




「しっかりしてリリーナ……! 血をすぐに止めるから、もう少しだけ頑張って……!」




 ルフィールは唇を噛み締めながら、腕の中で苦しんでいるリリーナを必死に励まそうとする。





「……ダメ………独りに………しな……いで………」




「リリーナ落ち着いて……! 貴女を独りになんてしないし、死なせもしない……!」




 心身共に相当衰弱しているのだろう、そのか細い声は誰かの温もりを求めている。


 ルフィールはそう感じた。


 だからこそ、今は彼女を救うべく、刻一刻を争っている。




「リリーナ、私はここよ! 大丈夫! 貴女を絶対に見殺しにはしないし、ヴィクトリアも貴女を守るために戦っているから……! だから貴女も……!」





「……違ぅ…………ヴィクトリアを………独りに……しないで………独りじゃ……絶対……殺される………!」


 



「……えっ?」





 一瞬、ルフィールは自身の耳を疑った。




 予想外の言葉に動揺し、不覚にも、急ぐべきナースステーションの目前で、彼女はその足を止めてしまう。





「今……何て言った……? ヴィクトリアが……殺される……?」





◇◇◇◇◇





 一方、ヴィクトリアは2つの《機関銃》を両手に、通路に漂う砂埃を突き抜けて、暗殺者ラインを追っていた。




「……血痕が少ない? 冗談でしょ……!? まだ生きているどころか、致命傷さえ負っていないっての……!?」





 先へ先へと歩を進めるにつれて、不気味な違和感と悪い未来予測が、ヴィクトリアの胸を締め付けて苦しめる。




「……しかも、おかしいな……! 私の《小鳥の(リトルバード)機関銃(・マシンガンズ)》からの通信も返って来ない……!


 あの《()》達は高性能な《知能(AI)ナノマシン》を持ってるから、まだ敵を始末してなくても、主人の私には必ず連絡信号を送って判断を仰ぐはず……! いや、まさかとは思うけど……!




 ……っ!? 何よこれぇ!?」


 


 

 考察にふけっていたヴィクトリアの視界に現れたのは、破壊された、硝子張りのビル連絡通路だった。



 隣の病棟があるビルに続く渡り廊下だったが、何かしらの爆発によるものか、焼け焦げ、真っ二つに裂かれて、硝子はひび割れて砕け散ったものは70m下の地面に散らばっていた。

 



 廊下の崩落を恐れながら、ヴィクトリアは慎重にその廊下へと近づいていく。






「……こんな破壊、私の《ギルソード》じゃ絶対できないのに……! ……っ!? あれは!?」






 ふと、ヴィクトリアは、渡り廊下の裂け目の先端に落下していた、ある『光輝いた物体』に目を止めた。




 遠目で見れば鉄製の機械部品の一部のようだが、その物体が放つ輝きこそ、《ナノマシン》のそれと酷似している。





 嫌な予感が脳をよぎったが、案の定、それの至近距離まで近づいた直後、ヴィクトリアは唖然とした。


   



「ば……馬鹿な……!? 私の……《ギルソード》が……!?」


 

 

 破壊されている__


  

 彼女の足元に転がっていたのは、無残にバラバラにされた《小鳥の(リトルバード)機関銃(・マシンガンズ)》だった。



 機関銃『H&K MP5』に酷似したその形状は、爆発によるのか、細切れにされたのか、ただの鉄屑や破片と化して原型を保っていなかったが、その炎色の《ナノマシン》の輝きと、微かに残った《翼部分の破片》で、すぐに判別ができた。



 発見後、その残骸は即座に《粒子化》して、蒸発するように消えてく。





「今まで破壊されたことなかったのに……!? ってこはアイツは……相当の実力を……!」




「……その潰れた《小鳥》がどうかしたの!?」




 突如その耳に、あの女暗殺者、ラインフェルト=フェリーベルの声が響いた。



 

 声のした方向に違和感を覚える。まさかとは思ったが、その方向、『左斜め上』へと目を向けた瞬間、ヴィクトリアは愕然とした。



「なっ……!? えっ……!? 空……飛んでっ!?」




 暗殺者ラインは、宙に浮いている。




 抽象表現などではなく、言葉通りの光景だ。


 

 悠然とした表情で、何の違和感も感じぬかのように、翼があるわけでもなく、まるで透明な床でもそこにあるかのように、空中で直立して、そして笑っている。

 




「いい表情ねぇ。予想していなかったでしょ? どうせ最期だから教えてあげるわ?


 私の《斬撃破風の(ブレードウィンズ・)脚靴剣(レッグスセイバー)》は、この靴底から発生する《空気抵抗(エアレジスト)ナノマシン》によって、周囲の空気抵抗を自動で調整できるのよ!


 だから風圧の《斬撃》を起こせるし、空中を浮遊できるし、時には巨大な風圧で人体を潰す事だってできるわ!!

 


 意外なの? お前達程度に手の内なんて、全部明かすわけないでしょ!


 後さぁ、アンタが仕向けた《小鳥みたいな機関銃》は、私が全部破壊しちゃった!


 安っぽい単調なAIの動きだから、壊すのは容易だったわ!


 どう? 形勢逆転よ! 絶望して死になさい!!」





 見下して罵るラインに対して、身の危険に迫られたヴィクトリアは、腹を括って唾を飲むも、勇ましく両手の《機関銃》をラインに向ける。




「フンッ……! 舐めんじゃないわよ! 私は軍立の士官学園の生徒……! この程度でたじろぐワケはないっての!!


 それに知ってるでしょ!? 《ギルソード》は既存兵器と違って、時間差は個体別だけど、破壊されても《再生》されるってさぁ!! 


 アンタの周囲、もう一度よく見てみなさい!!」





「周囲? ……………っ!!?」





 ラインは目を見開いた。



 周囲を見渡せば、破壊した8丁の《翼の機関銃》が復活・再生成されて、すでに彼女を取り囲んでいる。


 

 それ等8丁の《銃口》、加えて、ヴィクトリアが構える両手の《機関銃》、合計10丁の《銃口》がラインを狙う。





「教えてあげるわよ! 《ギルソード》ってのは考えて使えば、無限に可能性は生まれるってねぇ!


食らいなさい!! 《銃撃連隊(ブレッドファミリア)の機関銃(・マシンガンズ)》一斉放火ァ!!」


 




 絶叫を合図に、10丁の《機関銃》は火花を吹いて乱射する。




 炸裂される無数の《銃弾》、その全弾は瞬時、ラインの身体を直撃するものと思われた。



 その瞬間__




「馬鹿ねぇ。無駄な足掻きを……!」




 ラインは微笑した。




 刹那、放たれた無数の《銃弾》の先から、彼女の姿が消える__




 「……へ!?」




 ヴィクトリアは唖然とする。



 

 直後、すでにラインの声と姿は、彼女の頭上かつさらに高度な位置にあった。




 瞬間移動でもしたのだろうか、移動速度が尋常ではない。





「……残念だったわね! あの狭い廊下じゃ《弾》を避けるのに精一杯だったけど、動きが広範囲な分、私が圧倒的に有利なのよ!


 じゃあこっちの番!!《斬撃の死神嵐ブレードウィンズ・デスオラージュ》!!」





 冷徹な眼差しから殺意のそれに変わったラインが、再びサマーソルトキックの回転蹴りをその位置からお披露目した瞬間、再び発生した《斬撃の嵐》がヴィクトリアを襲う。


 


 その威力は先刻のそれと比ではない。




 その3〜4倍にまで強化された《嵐》は、ヴィクトリアの周囲だけでなく、瞬く間に連絡通路から上下の階まで壊し、まるで高層ビルの脇腹を抉るかのように、その階一帯の景観を破壊した。






 __しばらくして、瓦礫と砂埃が雲を形成する中、微かな人影がよろめく気配があった。




 ラインは苛立って奥歯を噛む。





「くっ……! まだ生きているのね! しぶとい……!」




「……ぐっ……! あぅ……………!」




 立ち込める砂埃の中、攻撃を受けて傷を負ったヴィクトリアが、今にも崩れ落ちそうな連絡通路の鉄骨を握り、片腕で必死にぶら下がっていた。




 《斬撃の猛嵐》によって足場は全て失われ、その攻撃によって、彼女自身も顔、脇腹、手と脚に傷を負って流血している。




 彼女ぶら下がる位置から真下の地面は約70m。無論、彼女は空中浮遊などできはしない。手放せば落ちるだけ。






「……その怪我で、よくそんな体力と根性があるわね!」





「……ハァ……ハァ……! 駄目……だ……リリーナを……守らなきゃ……」





 ヴィクトリアは半ば希望を失っていた。



 先の攻撃によって、彼女の《小鳥の(リトルバード)機関銃(・マシンガンズ)》は全滅し、両手の《機関銃》をも破壊されている。



 時間が経てば再生されるが、それを待つ猶予などない。


 万策は尽きている。




「もういいわ! そのぶら下がっている右腕を切断して、終わりにする! 独りで私に向かった事、後悔して死ね!」





「ごめん……ルフィール……! 私はもういいから……リリーナだけは助けて……!」






 死を覚悟したヴィクトリアは、その一言を残して、静かに目を瞑った。






 __しかし次の瞬間、いるはずのない空中の方向から、聞き覚えのある仲間の声が聞こえた。






「ったく! 心配になって駆けつければ……! 情けない格好してんじゃないっての!」





「……えっ? この声……?」





 まさかとは思いつつ、恐る恐る背後わ振り返ると、一瞬その光景に目を疑った。




 

 ラインの背後、そのさらに高度の位置に、ルフィールの姿がある。




 彼女もまた、ヴィクトリアと同じく浮遊能力など有していない。 



 一体何事かと思い、ふとその足元に目をやった__




 すると、そこには、リリーナが遠隔操作で造成し、駆動させている花型の紅槍《創造する(ズィミウルギア・)脳操槍剣(ブレインセイバー)》が浮遊している。



 それがルフィールの足場となっていた。





「……何よトンファー女! お仲間大事にノコノコ殺されに来たのかしらぁ!?」





 彼女の姿に気づいたラインは、即座に脚の《刃》を振り翳そうとする。が……





「……警戒が甘いわね。自分の身体をよく見てご覧なさい!?」




「何をォ………!?」





 ルフィールの忠告を聞き捨てるや否や、ラインは瞬時に、またもや身体を茨で締め付けられたような痛覚を覚えた。




 自身の身体中を見渡せば、案の定、病棟廊下で襲った蔦《捕縛の縄:薔薇の蔦芽(ローズ・ジェルム)》が、再びその《槍》から分岐して、身体を巻き付けている。




「くっ……!?」




 今度は胴体だけではない。両腕、両脚、全身隈なく縛り上げ、彼女の動作は完全に封じられていた__

 

 




「ちょ……!? ルフィール! 一体どういう事なの!? 何でアンタがここに!? それに……その槍!? リリーナの能力じゃない!? まだあの子に無茶をさせているの!? ルフィール!?」





「ヴィクトリア……簡潔に話すわ! 貴女を助けた理由は……リリーナがそうしろと言ったからよ……!」





「……噓!? リリーナが……? な……何で!?」



 

 衝撃的な言葉に、ヴィクトリアは唖然とて言葉を失う。 




「……あの子の《瞳》のこと知ってるでしょう? 《粒子器発動の覚醒瞳(ブレイン・アイズ)》……!


 リリーナには全部見えていたのよ! あの瞳は《ナノマシン》のあらゆる位置や特徴を全て《解析》できるから、この状況を全て予測できていたの……!


 この殺し屋女が遠距離から《斬撃》を放てた事も空を飛べた事も……!


 アンタが不利になって絶体絶命に陥る事態も……! 


 だから彼女は私にこう言ったの……!


『ヴィクトリアを独りにしないで! 殺される……! 私の事はいい! 大切な仲間が追い詰められるのを見ているのは耐えられない……!』


ってさ……!」





「……何でなの……? あんな状態になって……どうして人の心配ばっかりするのよ……! リリーナのばか……!」





 己の不甲斐なさに、唇を噛んで血を滴らせるヴィクトリア。




 それをよそに、未動きを奪われたラインは激怒して藻掻き続けるも、独りでに悪意ある笑みを浮かべている。





「くっ……! 本当に鬱陶しいわこの《蔦》……! あのリリーナの《能力》でしょう!? 私が二度も隙をつかれるなんて……!


 ……でも、どうせ放っておいたら力尽きるでしょう……?


 しばらく藻掻いて時間を稼いで、アイツが弱って死ぬのを待とうかしらぁ?


 それか、残りの小型爆弾をあの病棟にばら撒いて、動けないアイツを爆殺しようかしらぁ?


 こんな状況など、簡単に切り抜けられ……!」





「……残念だけど叶わないわ! 貴女は今度こそ終わりだから……!」





「はぁ? 何言って……? ………っ!!?」





 ラインはふてぶてしく眉をひそめたが、即座に周囲の異変に気がついた。




 

 再び黒紫の《霧》が発生している。先刻と同様、彼女の視界に広がるは、天の空と景観を覆い尽くす無数のそれ__




 ルフィールの能力《暗黒魔術(ダークマジシャン・)の粒子(ナノマシン)》__





「なっ!? またあの《霧》……!?」




「馬鹿ね、2回も同じ轍を踏むわけないでしょ? これはさっきのとは別物。色が違うわよ……?」





 冷徹なルフィールの台詞に、ラインは冷静になって周囲の《霧》を見渡した。



 よく見ると、黒紫の《霧》に混じって、まるで鮮血のような《赤黒の粒子》が、無数に紛れている。





「悪いけど、もうボロボロのリリーナに負荷なんてあってはならない……!


 使わせてもらうわ……! 《必殺能力(おくのて)》を……!



 正直、悪趣味極まりないって散々忌み嫌われた《技》だけど……!



 あぁ、異変が見られるのはその脚の《ギルソード》なんかじゃないわ!


アンタ()()よ……!!」




 


 ルフィールが発した最後の忠告、それをラインに言い聞かせる必要はなかった。




 もうすでに、その変調がライン本人に見られていたから__

 





「……あ……え……? 何……これ……? やめ……」





 顔色は悪くなり、徐々にその瞳は生気を奪われる。




 先程の威勢と覇気はどこへやってしまったか、まるで怯える子供のように、その華奢な身体がガタガタと震えだした。






「やめ……嫌……だ……変なのが見え……いやぁ……! やめて……下さい……! ごめんなさいごめんなさい……!」






 一体、少女ラインに何が起きたのか、ボロボロと泣き崩れ、ついには何かに謝って許しをこう行為まで見られる。



 まるで彼女の思考が壊されていくように__





 そんなラインの姿を前に、ルフィールは冷徹冷酷な眼差しで彼女を見下ろすだけだった。



 すると、ルフィールの身体の周囲には、赤黒と黒紫の混じる《ナノマシン・オーラ》が出現し、それは逆に、徐々に強力なエネルギーを膨大させ、拡大されていく。





 艶やかな声で、彼女は暗殺少女に言う。





「私の必殺能力(おくのて)暗黒魔術(ダークマジシャン・)の粒子(ナノマシン):惨劇の呪い》……!


 さっきのとは別物よ。壊すのは《ギルソード》じゃない……


 

 貴女の脳味噌……! 徐々に自律神経から精神が蝕まれて、幻覚と妄想を引き起こすわ……



 最悪な手段だけど、この街と仲間を脅威から守るためよ。


 悪く思わないでね……?」

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