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新科学怪機≪ギルソード≫   作者: Tassy
3.〈新都市マリューレイズ〉と武装組織の逆襲 編
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第24章 暗殺少女の特攻(1)

語録紹介(追加分)



・《暗黒魔術の(ダークマジシャン・)砲撃拳棒(ガンストンファー)》……女子生徒ルフィール=フロンティアに宿る《ギルソード》。設計モデルは東洋の武術武器トンファーだが、彼女のはそれに新技術を加えたG(ガンス)・トンファーである。

 

射撃は主に《ビーム砲》であり、その他、様々な機能を有している。その詳細と武器の《特殊能力》はまだ明かされていない。




◇◇◇◇◇



 

 〈マリューレイズ軍立赤十字病院〉リリーナの病室__





「リリーナが? 殺し屋に命を狙われてる……!?」





 ルフィールはスマートフォンを片耳に、ヴィクトリアから聞かされた意外過ぎる告知に、困惑し真偽を疑った。



 


『そう……この男が言ってたの……! ごめんなさいルフィール……! 私が後先考えないで飛び出したばっかりに……! あぁ……リリーナが……リリーナがぁ……!』

 




「落ち着きなさい……! 事が片付いたら、たっぷり責任を追及してあげるわよ……!


まだ傍には私がいるじゃない。ついでに、その男はまだ意識はあるの……?


あるなら尋問して、殺し屋の外見と正体、また位置や侵入経路を聞き出して欲しいのだけれど……!」




『えっ!? コイツの意識!? あぁ私蹴り飛ば……じゃなくて……!気絶してんのよ! ……過剰出血で……!』




「……え? 蹴り飛ば……? とにかく意識を奪っちゃったのね! 頭悪すぎるわよ!? この学術試験赤点女王!


 そういう事態なら、すぐに戻って私達と合流して!


 リリーナを安全地帯まで避難させるまでは、最大限の警戒体勢を維持するわよ!」




『……えぇ! すぐ行くから! ……っえ? 何でルフィールが……私の今月のテスト結果を知……?』




 ヴィクトリアの台詞が終わるや否や、ルフィールは無言で電話を切ってしまう。



 そして、同室に残っていた2人の護衛兵士が、即座に椅子から腰を上げて、ベッドの手すりに手を置いた。




「……では時間がない! 彼女をここから運び出す!


 我々は彼女のすぐ傍で盾になる! 周囲の警戒は《ギルソード使い》である君が頼りだ!


 ルフィール君! ここは慎重に歩を進めるぞ……!」




「はい、お願いします! 彼女は私達の学友にして大切な仲間ですから、護衛全般は私にお任せを……!」





 大柄な兵士の指示に対し、ルフィールは顔を引き締めて返事をすると、自ら先頭に立って、病室の扉を慎重に開く__




 

(……リリーナはちゃんと眠っているわね……! それでいいわ!


 貴女が休んでいる間に、脅威はこっちで全部片付けるから、ゆっくり体力を回復していなさい……!)




 運ばれながら、深く眠っているリリーナを見つめながら、ルフィールは、決意を秘めるように奥歯を噛み締めた。




◇◇◇





「オイ……! 何だ……!? これは……!?」





 部屋を出るや否やルフィールと兵士達は、病棟廊下やナースセンターに広がる惨状に我が目を疑った。



 廊下は血飛沫と血溜まりで塗りたくられ、所々に医師や看護師達の死体、またはその身体の部位が転がって、散りばめられている__



 患者や大多数の医師の避難は完了しているが、まだ各フロアに若干名の人員が、残された患者の有無の最終確認のため、避難せず残っていたのだ。



 そして、暗殺者が潜入しているなど知らず、犠牲となった__





「……なんと惨たらしい! 誰か……誰か生存者はいないのかァ! 生きている者はァ! 」




「……あってはならん! 民間人に被害が及ぶなど……! クソッ!


 外の連中は一体何をやっていた! 愚か者め! 敵の潜入くらい気づきはしなかったのか……!?」



 

 予想だにもしなかった最悪の異常事態__



 傍にいた兵士2人は、双方すでに冷静な判断力を失ってしまい、我が使命を忘れてリリーナの元から離れていってしまう。




 だが、ルフィールはただ彼等を遠目に、自分は彼女の元を1歩たりとも離れまいと、息を呑んで周囲を見渡していた。



 一度落ち着いて、冷静に思い返しても、外部の護衛兵も、武装集団に気を取られて飛び出したヴィクトリアも、ルフィールには双方を責める気にはなれなかった。





(……察することができなかったんでしょうね…… あの武装集団の装備といいあの陣形といい……!


 念入りな前準備をされていたように思えたけど……! まさか目的が1人の女の暗殺だったとは……



 ……とはいえ、考えれば考えるほど理解不能だわ……! 連中はたかが暗殺程度で、何故こんな回りくどい作戦なんて実行したのかしら……?


 人員も手間も戦力も犠牲にするような行為……! 玉砕覚悟というよりは……まるでわざと私達の注意を惹きつけているようだわ……?


 暗殺は第2の目的で……! 何か他の目的を悟られないため……とか……?)



 

 ルフィールはその場で硬直して、そんな事をしばらく考え込んでしまう。



 すると__

 




「………ん ………… うぅ……… うぅん………… ルフィール……」




 眠っていたリリーナが、苦悶の声を上げて寝返りを打つ。



 気分が悪いようだ。廊下に漂う血の臭いが鼻について、苦しくなっているのだろう。




 

「……ごめんなさい、リリーナ。ろくに眠れないわよね……?

 でも、もう少し辛抱して……!」





 と、ルフィールは彼女の身体を労って、なるべく安心させて寝かしつけようと試みたが、それは叶わず、リリーナは目を覚ましてしまった。



 その瞬間__


 横たえた視界に映る血飛沫の地獄絵図に、血の気が引いた彼女は、即座に目を見開く。





「……っ!? ルフィー……ル……? これは……何? 一体……何が起きて……!?」





「……あぁ……そうね…… リリーナ、実は今……もう状況が最悪なの……すでに病院は敵に潜入されてて……その……!」




 余計な心配をかけて負担を与えたくなかったが、この光景は流石に誤魔化しが利かず、ルフィールは腹を括って、現状を事細かく報告することに決める。



 ところが、いざ口を開く瞬時__






「おい! 生存者だ! 生存者を確認!!」




 護衛の兵士が唐突に叫び出す。



 その声に、ルフィールとリリーナ、もう1人の護衛は、すでにそちらへと耳を意識を傾けていた。





「何!? 生き延びてる者がいたのか!?」




「はい! 年若い女の子です……! 怖かったろう? もう大丈夫だ!!」




 護衛のはずだが、すでにリリーナから距離を取ってしまっている2人は、気づきも構いもせずに、生存者だという者へと駆け寄ってしまう。



 ルフィールは、横たえるリリーナを守護する使命と自覚を忘れてはいないので、生存者の保護を兵士2人に任せて、遠くから覗くように見届ける。





「……大分怯えているようだな、もう安心していい。君の身柄は我々が責任持って守るからな……!」




 護衛兵士にそう声をかけられていたのは、白い白衣で頭を被せて座り込んだ、年齢16歳前後の少女だった。



 外見は亜麻色ツインテールにエメラルド色の髪飾り、蒼く透き通る瞳が特徴的である。



 少女は小さく縮こまったまま俯き続けて、頑なに護衛兵士の顔を見ようとしない。




 ルフィールは遠目から、微かに覗ける少女の姿をまじまじと見渡した。




「あの子は何者かしら? 大学医学部の研修生? その割には、やけに年齢が幼いように見えるのだけれど……!」


 まぁ、念には念のため……ちょっと様子を見てくるわ……!


 リリーナ? 悪いけど少しだけこの場を離れるわ。少し我慢して……」



 

 ルフィールはそう言うと、今一度周囲を警戒した後、兵士2人の元へゆっくり歩いていった。




 すると、その際にルフィールは気がつかなかったが、不安に駆られたリリーナは、包帯の身体でゆっくりと上体を起こす。




 眩らむ視界で、彼等の後ろ姿を見やった。




 すぐに彼女の瞳は、色彩を変貌させる。それは彼女だけが持つ、特別な能力の《瞳》__





「……すみません、お2人共! ちょっとその女の子の様子を見たいので、どちらかお1人、リリーナの傍まで戻って頂けませんか? 暗殺者対策として……念のため……!」




 ルフィールは冷静な口調で、2人の護衛兵に言う。





「……それは構わんが、どうする? 外の警備班の誰かを呼んで、この子を保護させよう……! なんせ我々には時間がないだろう?」




「無論そうだが、外は外で手一杯だ……! 余計な人員を割くなんて……! 一緒に連れていくしかないだろう!」

  



 傍でまごついている兵士2人を他所目に、ルフィールは彼等を避けて、蹲っている少女を覗き込もうとする。




「ほら、もう嵐は過ぎ去ってんだから……いつまでも震えたって仕方ないでしょう? ほら、すぐにここから避難するわよ!」




 ルフィールはそう言って、少女に右手を差し出そうとした。



 刹那__



 

 

「……ルフィール!! ダメ!! 今すぐその人から離れて!!」




 背後から、リリーナの絶叫がぴしゃりと響く__





 驚いて振り返ると、横たわっているはずのリリーナが、背後でベッドから上体を起こして、こちらを見張っていたのだ。




 彼女の瞳をよく見てみれば……《紅色の瞳》、紅の虹彩に白い瞳孔。



 それは《粒子器発動の覚醒瞳(ブレイン・アイズ)》__




 《ギルソード》の構成粒子である《ナノマシン》、それも、人の肉眼には絶対に見えない未発動時の透明な《それ》を、彼女の持つ紅色《目》は透視、感知、さらには情報分析までも可能とする、目に埋められた視覚OSのようなものだ。



 たとえ3km先だろうと、壁や障害物囲まれていようと、それを透視して発見できる。故に《ギルソード》や《ギルソード使い》の正確な位置を把握し、人物及びその居所さえ特定する。



 正しく、透視の《瞳》__



 そんなリリーナを、ルフィールは一瞬だけ正気かと疑ってしまったが、その《瞳》を見るや否や、すぐに彼女の言葉を信じることにした。




「……リリーナ、それはどういう意味? 今……アンタの目には何が映っているのよ?」




「……その人はビルの屋上から私を狙ってたの……! 外見は全部覚えてる……!



 そして何よりも……彼女は《ギルソード使い》……!!



 その()()()()……! 私の見る限り〈この国〉で造られた《ギルソード》じゃないよ!!


 

 足……!! そいつの足に絶対触れちゃダメ……!! それが《ギルソード》だから……!!」





「あ……足に《ギルソード》? 何それ……? 一体どういう事……?」




 リリーナの言葉の意味が分からず、ルフィールは困惑しながら、一度、その少女の方向を再び見やった。



 

 瞬時に、その意味は理解できた__




 蹲っていたはずの少女が、白衣を捨てて起き上がっている。



 震えて動かなかったはずの姿とは正反対の、さらには少女の姿からもかけ離れた様相は、最早一目で感じられる、暗殺者のそれ__




 少女の正体、それは過激武装組織〈革新の激戦地(ヴェオグラード)〉専属の暗殺者ラインフェルト=フェリーベルであった。



 最高幹部フランツ=ロエスレルの命令で少女リリーナを暗殺すべく、先行して病棟まで潜入し、廊下に居た彼等を邪魔者として一掃したのである。



 そして、避難する彼女達が、この通路を通る機会を、じっくりと待っていたのだ。





「やっと近づいた……! 死ね………!」




 殺意の込もった言葉を発するや否や、ラインフェルトはその細足で素速い踵落としの蹴り技を、前方に立っていた護衛兵にお見舞いする。





「ぐぅおぁぁぁあ"ぁ"……!!」





 無残な光景と断末魔が、即座に彩られた__



 護衛兵の肩に踵落としが命中した。それなのに、それだけなのに__


 彼女の踵は、まるで巨大な刃物で刻み抉るように、肉体を斜め真っ二つに切り裂いて、噴水の血飛沫が拵えられる。

 



「お前も死ね………!」




 冷徹な殺戮者の眼差しで、少女はもう1人の護衛兵を獲物に定める。

 



「うぅ!? うぉあああァァ!!!」




 恐れ慄き、狂った兵士は、混乱のままに、手にした機関銃で乱射を試みるも……




 弾丸掃射と同時に、呆気なく間合いに入られ、少女の危険な足技、飛び蹴りを喰らってしまう。




 刹那、腹を蹴られた兵士は、爆風に飛ばされたかのように、ルフィール、リリーナよりも後方へ高速で転がっていっては、大量の血と血肉を地面に撒き散らしていった。





「何なの……!? アイツの《能力》………! まるで……その足に刃物でも仕込んでるの……!?」




 

 ものの1分以内での、衝撃的な出来事であるが故に、ルフィールは不覚にも護衛兵2人の遺体を見て硬直してしまう。




 しかし、ラインフェルトは、休む時間も考える時間も与えず、今度は殺意の刃をリリーナへと向ける。




「殺す……! リリーナ=フェルメール……!!」



 

 彼女は静かに呟いた瞬間、小柄な身体に似合わぬ跳躍力で、惨殺死体とルフィールの頭上を一気に飛び越えて、リリーナのベッドへと着地、死の蹴りを浴びせようとする。




「死ねぇぇ………!」




「くっ……! 《創造する(ズィミウルギア・)……脳操槍剣(ブレインセイバー)》……!」




 まずい、間合いに入られてはどうしようもない。



 

 そう悟ったリリーナは、怪我をおしてでも自力で対抗しようと、身体から《ブレイン=ナノマシン》を発動させて応戦と試みた。



 だが、次の瞬間__




【ガキンッ………!!】




 __刃と刃が鍔迫り合うような摩擦音が廊下に響く。




「ル……! ルフィール……!?」




 見ると、秒速でリリーナの元へ駆けつけたルフィールが、ベッドの上で彼女の身体を庇うように跨って、暗殺少女の踵蹴りを自身の腕で受け止めている。





「……ったく! 何のために私が傍に居ると思ってんの!?


 無茶して戦おうとしないで、大人しく仲間を頼りなさい!!」





 ルフィールは、蹴りを受け止める腕を震わせながらも、自然な笑顔を浮かべて見せた。


 

 よく見ると、肉を裂かれた兵士達の身体と違って、その腕は制服の袖は裂けているものの、傷1つないのか、流血が見られない。





「……どうして!? 他の2人はこれで殺せたのに……? アナタは平気なの……!?」





 ラインフェルトは、その衝撃的な光景に、疑問が頭から離れず躊躇する。


 



「……どうしてって何!? わざわざ手の内なんて敵に教える訳ないでしょ? アンタが足の《ギルソード》を隠してるのと同じようにねぇ!!」

 



 ルフィールはそう言うと、反撃へ打って出ようと、両腕で防いでいたラインフェルトの踵を振り解き、彼女の腹部を殴りつける。




「がはっ……! ぐっ……!」





 瞬時、ラインフェルトは激痛と嘔吐を堪えながらも、若干眩む視界で相手を見やった。




 腹のみぞおち辺りに、硬く硬質な物体が当たる感触を覚える。

 

 素手ではない。これは袖に隠し持っていた相手の武器だ。鉄棒か、警棒か、棒状の打撃専用武器__




 確信を持ったラインフェルトは、腹を殴ったルフィールの手元に見をやれば、即座に正体が判明した。





「………なっ!? ……トンファー!?」




「あら珍しいわ! 旧時代の武術武器を知ってるなんて……♪」




 ルフィールが言った刹那、即座に反対の手で握っていたもう1本のそれを、次は棍棒部を回転させながら相手の顔面に打ち込む。




 だが、その攻撃はラインフェルトに見切られた。




 ルフィールの《トンファー》顔にが届く直後、瞬時に彼女は背後に後方回転をしてベッドから飛び降りては、床への着地と同時に直立態勢へ戻る。

 




「トンファーかぁ……! でもこれで……隠し武器の仕掛け……あっさり分かっちゃったわ……!」





 武器の正体が把握できた瞬間、ラインフェルトは勝算を得たような微笑をルフィールに見せる。





 その色白な両腕には、袖に隠していた全長60cm程度の黒い『トンファー』が2本、左右共に露出状態で握られていた。


  


 棍棒の端に握手を装着させた、なんの変哲もない東洋伝来の武器。




 そのはずが__





「……あら本当に? じゃあ、これは予想できたのかしら?」



 

 静かに笑った瞬間、ルフィールはトンファーの握手側、目を凝らせば銃口のような空洞がある棒先を、ラインフェルトの正面に向けた。




 突如……




【バシュッ!!!】




 棒先の空洞から《ビーム砲》が放たれる__




 瞬時にラインフェルトは左へ回避するも《光線》が掠れ、右側の亜麻色ツインテールの髪先が燃えて落ちた。

 





「ぐぁ……!? え………!?」





 髪先を焼き切られたラインフェルトは、重なる想定外の事態に焦り困惑する。


 


「惜しかったわね! 正解は《G(ガンス)・トンファー》よ……!


 まだ隠した仕掛けは残ってるわ? これでアンタの足の《正体》を見切ってあげる!!


 私の異能兵器(ギルソード)、《暗黒魔術の(ダークマジシャン・)砲撃拳棒(ガンストンファー)》の秘密__


 味わって貰おうかしら__!?」





 ルフィールは静かに暗殺少女ラインフェルトを睨みつけて、殺意むき出しの表情で宣言した。

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