・乱戦乱舞、《ギルソード使い》(3)
語録紹介(追加分)
・《銃撃連隊の機関銃》
女子生徒ヴィクトリア=スレイヤーに宿る《ギルソード》。
浮遊能力を持つ機関銃が計10丁存在する。
翼で宙を飛ぶ自動操作銃8丁《小鳥の機関銃》、右手に持つ銃1丁《母鳥の機関銃》、左手に持つ銃1丁《父鳥の機関銃》、そして1台の《インターカム》。
これらまとめた1セットで、1つの《ギルソード》であり、初めて実力を発揮する。
自動操作とはいえ、使用者の命令には必ず従う。
◇◇◇◇◇
__都市の中心街南部〈マリューレイズ軍立赤十字病院〉中央玄関口__
「そこの君……! ちょうどよかった! 中の状況はどうなっている……?」
入口周辺を警護する兵長の大声に、病院の玄関を出ようとした女子生徒、ヴィクトリア=スレイヤーは呼び止められる。
「……もう大丈夫ですよ! 周辺の市民と病院の患者方は、この街区外にもしくは緊急用シェルターへの避難が終わっているので、そこはご心配なく!
ですが……まだ私の仲間が病室に残っていて、市民の皆さんが無事に避難するまで、最後まで待っていたんです……!
一応、護衛の方々ともう1人の生徒が残ってはいますが……
もう連中に包囲されている以上は、こちらから打って出て、リリーナを守らないと……!」
ヴィクトリアは、状況の報告も兼ねてはっきり答えると、兵長は首をひねって悩みだす。
「……そうか、まだ彼女が1人残っているのか……! しかし参ったものだ……!
君は窓からの目視確認か、中の者からの報告で現状を知っているかは分からんが……!
今、この周域にテロ武装集団が複数潜伏している! 軍の独立部隊並の戦力と兵力を有している危険な奴等だ!
いくら君が《ギルソード使い》とはいえ、相手には多数で襲う分の策と戦術を備えている!
1人では対処しきれん!
我々一般衛兵で対処するから、君達〈学生〉の手は煩わせない! だから、君は中で市民の防衛に徹してくれまいか!」
防衛兵長の男性はそう言うと、彼女を病院内へ引き戻そうと説得するが、ヴィクトリアはそれをあっさり断ってしまう。
「いいえ! その心配はいりません……!
私が敵の連中をこの手で一掃しますので、皆さんは避難民の防衛に専念してください! お願いします!」
「なっ……!? ちょっと待ちたまえよ君……!」
「……何か問題でも?」
「いやいや……! 君は連中の布陣や戦力を把握しきっているわけじゃないだろう!?
下手に接近して奴等の罠に掛かったらどうする!? 予測外の戦力に奇襲でもされたら……!?
せめて増援部隊の到着を待った方が先決ではないのかね……!?」
思いもよらない言葉に兵長は困惑し、ヴィクトリアを制止させようと試みる。
しかし、彼女はそれを聞き入れる気もなく、寧ろ自身の実力を誇示しようと、全身から《ナノマシン・オーラ》を発光させて、それを見せつけた。
「……いいえ! 私の事なんてご心配なく!
寧ろ、こういった事態の方こそ、私の《能力》には売ってつけだと思っていますので……!
ほらおいで! お前達……………!」
(お前達……? 一体誰を呼びつけたんだ……?)
と、兵長が疑問を抱いた刹那、それは即座に解決された。
何かの物体が、彼の目の前を飛んで横切ったのだ。
『機関銃』だろうか。いや間違いない。確実にその形状を象った物が、まるで野鳥のように《翼》を生やして宙を舞っている。
旧時代の銃に似たそれは、きらびやかな『炎色』の輝きを帯びている。《翼》を生やしているのは、銃の『スライド』部分からだ。
瞬く間に、5丁6丁と出現しては数を増やし、たいには8丁にまでの増加に留まると、それ等全てはヴィクトリアの周囲に集結し、彼女を母体と認識するかのように、彼女の周囲を無尽に飛び交っている。
「これは……鳥のような《銃》!? 全部で8丁か!?」
「いいえ、10丁です! この子達は《小鳥の機関銃》!
__さぁおいで!《親鳥達》よ!」
ヴィクトリアはそう言うと、さらに彼女の両手に《ナノマシン》が集中し、今度は周囲の《それ等》よりも大型の《機関銃》が、その両手に形成され、出現する。
周囲を飛び交う《翼の機関銃》が8丁、ヴィクトリアが両手に握った《機関銃》が2丁、やはり合計で10丁のそれ等が彼女によって召喚され、生み出された。
「面妖な光景だな……! これが君の《ギルソード》か……!」
「えぇ、これが私の《銃撃連隊の機関銃》……!
リリーナのような《遠隔操作型》とまでは行きませんが、この《銃達》は私の分身で、みんな言う事を聞くんですよ! 《自動操作型》ってヤツです!」
そう言ったヴィクトリアの耳と口元をよく見ると、いつの間にか、司令用の《インターカム》が取り付けられている。
彼女の《ナノマシン》と同じ、炎色の輝きを帯びたそれ、《ギルソード》の一部であることが一目瞭然だ。
翼を生やした《小鳥の機関銃》8丁、
右手に握った《母鳥の機関銃》1丁、
左手に握った《父鳥の機関銃》1丁、
そして、耳元と顎に《インターカム》1台。
これらまとめた1セットが、彼女の異能の武器、《銃撃連隊の機関銃》である。
彼女は両手の《機関銃》を握り締め、バレェのように可憐な右ターンを1つしながら、病院の玄関口に目を向けると、《インターカム》に声を当て、独りでに言葉を発する。
「……《小鳥の機関銃》!!
今から命令を伝えるわ! 各《人工知能ナノマシン》によく記憶して!!
……敵は病院周辺を取り囲んでいる!
とはいえ、ここは都市の中心街だから! 人目から目立つ場所に突っ立っているのは有り得ない……! 目立つ行動をとるなんて尚更……!
恐らく、路地裏や地下通路の入口に潜んでいる可能性が高いわ……!
もう民間人は避難済み! だから周りにいるのは全員敵!
遠慮は要らないわ! 炙って殲滅しなさい!
任務開始!!」
ヴィクトリアの合図と同時に、翼を生やした《子供・機関銃》達は、高速で空中を駆け抜け、瞬く間に病院の敷地外へと飛び出した。
◇◇◇◇◇
______病院の周囲に聳えるビル群の路地裏___
テロ武装集団達は、監視カメラによる位置把握を避けるべく、この場所の他、廃ビルの内部、建築物の物陰、地下の通気口等、各8〜15人程度のチームが分散して潜伏し、襲撃の合図を今か今かと待ち侘びていた。
この状況から、少女ヴィクトリアの推測は見事に的中していた。
その内、病院から最短距離であるこの場所には、13人程度の襲撃チームが待ち構えている。
「……おい! 中の様子はどうなってんだ? もう連中に勘付かれたってのかよ!?」
このチームを取り仕切るリーダーの大男は、顔を覆うフェイスマスクの下から、くぐもった声を荒げる。
「……もう奴さん達は! 戦闘態勢でさぁ! ったく対処が素早いこってぇ! 連中の中に優れた索敵班でもいるんじゃねぇですかい?」
部下の1人が、冷静な物腰でそれに答える。
「クソッ……! そりゃ都市の中心部だからよォ! 敵に迎え撃たれねぇわけはねぇが準備が良すぎる!
様子を見れば、他の入院患者さえ1人もいねぇようだな……まさか計画がすでに読まれていたか?
奴らは患者がいる以上はまともに戦闘なんざできねぇと……
そう考えていたが………奴等はもう戦闘態勢じゃねぇか………!」
リーダーの大男は、頭を捻って悩み込んだ。
他の患者は、あわよくば人質に利用して、優位に立とうとも考えていたからだ。
その最中、路地の奥で潜む部下が、唐突に絶叫する。
「おい! 何だあれはァ……! 機関銃が飛んで……」
大男は仰天して振り返った。刹那……
銃声は激しく轟いて、発見者は崩れ落ちるように倒れる。
「……なっ!? 何だありゃァ……!?」
大男は、目の前の光景に絶句した。
《機関銃》が1丁、《翼》を生やして飛んでいる。
異様な《兵器》だ。ドローン技術の進化系というのか。
旧時代の『H&K MP5』の如き形状、色は鋼鉄の黒や銀ではなく、鮮やかな『炎色』の輝き__
言うまでもなく、これはヴィクトリアの操る《銃撃連隊の機関銃》__
翼を生やしたこの銃は、《小鳥の機関銃》と呼ばれる、彼女の能力の一部だ。
「あれは何だ!? ドローンの進化系か!? クソッ! 俺達の襲撃を予想して、あれを徘徊させてたってのか!?」
「……馬鹿野郎!! そんな生易しい技術なんざ、この都市は軍事力には利用しねぇ!! あれは何者かの《ギルソード》だァ!!」
大男は大慌てで指示を叫び、部下達は焦って銃を構え迎撃する。
だが、その瞬発力、機動力、攻撃力においては、全て《小鳥の機関銃》が勝っていた。
男達が銃を構えて迎撃する寸前、先だって《弾丸》を炸裂させたのは、軽やかに宙を飛び回る《それ》。
彼等の銃の軌道を尽く躱しては銃声を轟かせ、男達は悲鳴を上げながらバタバタと倒れていく。
「ヒッ……ヒィィ………!」
リーダーの大男は青ざめて驚愕しながら、たまらずに路地裏を飛び出した。
そして、人目につく大通りを滑走することも躊躇わず、彼はひたすら走りながら、惑いながら、左腕にはめた『ブレスレット型の通信機器』で、とにかく仲間への連絡を試みる。
「お……おい……! こちら玄関前の地点A班……! 未確認兵器の襲撃を受けた……! 《機関銃》が空を飛んでる……!
ドローンみたいにィ……! 至急……救援を頼む……! 救援をォ!」
大男が泣きながら叫んだ直後、目の前に聳えていた廃ビルが突如爆炎を咲かせる。
突入予定の病院玄関から50mの距離、旧総合商社の廃ビル2階は、索敵及び監視係として配置した別部隊B班を配置した場所だ。
爆炎と硝煙が撒き散らした地点、それは2階であった。
最悪の予感しか過ぎらない__
「なっ……B班までやられたのか!? 奇襲を受けたか……!?」
大男が唖然として見上げると、同胞の武装をした人間が2.3人、1階の大通りへと降り落ちる。
負傷しているものの、動ける状態のようだ。
「おい……! 一体何が……!? 状況は!?」
「……お前と同じ状況だ!! 2階で強襲を受けた!! 俺たち以外は全滅だ……! あの鳥みてぇに飛んだ機関銃のせいで……!!」
落ちてきた同胞が、立ち上がって指差した先には、やはり翼の生えた同型の銃《小鳥の機関銃》が、ビルの2階から2丁も顔を出している。
大男は癇癪を起こす。
「クソッタレェ!! あれは1丁だけじゃねぇのか!? 一体何丁をこの周囲に彷徨かせてやがる!!」
「……下がってろ!! 散弾をぶっ放して粉々にしてやる!!」
同胞の1人が、怒って旧式のショットガンを《それ》に向けるや否や、照準など知ったことかと、手当たり次第に乱れ撃ちをお見舞いする。
「クソッ! クソッォ!! 堕ちろォォ!!」
激しい銃音を轟かせ、がむしゃらに撃ち尽くす散弾のうち、2発が命中した。金属が衝撃音が、間違いなく響いた。
しかし__
「……何だよ……! ビクともしねぇ……! 壊れねぇよォ……!」
傷1つ見当たらない。被弾はさせたのに、《小鳥の機関銃》は無駄だと言わんばかりに、『炎色』の輝きを帯び続けている。
「あ……あァ……!」
ショットガンを構えた男は震えだした。
そして、気がつけば、すでに2丁の姿は消えていた。
刹那__
轟音を立てて、彼等の頭上に《銃弾》の嵐が降り注いだ。
姿を消した2丁は、高速で回り込んでいた。
【…………………!!!】
大通りに断末魔を響き渡らせながら、大男は手足と肩に《銃弾》を撃ち込まれた。
同胞2人は腹部に直撃を受けたのか、朽ちるように倒れ、声を出すことはなかった。
「ぐぅぉああああぁァ……………!!
ちっ……畜生ォ………別働隊はァ……どうしたァ……!」
痛みに叫び、流血する左腕を震わせながらも、男は通信機器を通して仲間を呼びかけた。
しかし__
『ザザッ……! こちら……中庭のD班……! ザザッ……! ドローンの銃に攻撃を……ぐっ……! 全滅……! ぐぉあぁァァァ……! ……!!』
部隊は全滅されたようだ__
ふと遠くを見渡せば、最後の襲撃隊C班が潜伏していた通気口の蓋から、やられた同胞の手が飛び出している。
残された大男は、地を這いながら絶望に打ちひしがれた__
気がつけば、彼は、浮遊する《小鳥の機関銃》達に包囲されていた。
全部で6丁だろうか、被弾した身体も動かせず、逃げ場も奪われている。
「……へへっ……ザマァねぇや……俺達普通の人間は《ギルソード使い》にゃどう足掻いても勝てやしねぇんだ……」
大男は肩の力を落として、撃たれるのを覚悟した瞬間__
ある光景が目に入った。
ふと頭上を見上げると、さらに《小鳥の機関銃》が2丁、空を飛んでいる。
しかも、目を凝らして見ると、それは大男の上を通り過ぎて、病院玄関の入口へと向かっていた。
彼の脳には、ある可能性が思い浮かんだ。というより、思い当たるのが妥当だった。
翼を生やしたドローン型の《銃型ギルソード》、その使い手が、その方向に存在するという可能性だ。
「……成る程なぁ! コイツ等の親玉さえブチのめせればと……心から願っていたが……居場所さえ分かっちまえば簡単だ……!
フヘヘッ……! まだ俺は戦えるぜ……! ぶっ殺してやる……!
それに……俺達の真の目的は……!」
男は、出血した手足鞭を打って、それを引きずり動かした。
何故だか、周囲を囲う《機関銃》達は、彼を掃射する気配がない。
ただ取り囲んで、《翼》で浮遊しているだけだ。
「……そのまま動くなァ? 殺してやるゥ……!」
大男は身体を引きつりながら、ゆらゆらと玄関へ歩いていく。
◇◇◇
やっとの思いで辿り着き、病院玄関の門に身体を預けると、男の視界には衝撃の景色が飛び込んだ。
入口前に、1人の少女が立っていた。
灰色ブレザーと赤スカートの学生服を纏っている。髪色は火のように明るい橙色のボーイッシュヘアー、銃弾形のヘアピンを装飾。
彼女の顎にはインカムが付けられ、両手には、翼で飛んでいた《機関銃》と形状が似た銃が、2丁握られている。
そして何よりも、彼女の周囲には複数の『空間モニター』が取り囲んでいる。その数は8つ。
そこへ、先程大男の頭上を通り過ぎた《機関銃》2丁が、彼女の元へやってくる。
「……やぁ! よくやってくれたねお前達♪ ひとまず周辺の敵は片付いたようだから、また必要な時に呼ぶわよ。一旦解除!」
彼女がそう一言うと、その《機関銃》2丁は、命令に従って休むかのように、炎色の《ナノマシン》粒子と化して消滅していった。
それを見た瞬間、大男の推測は確信へと切り替わった。
あの8つの『空間モニター』は、自分達を痛めつけた《機関銃》と同じ数。
あれを操っていた《ギルソード使い》の正体は、あの少女であるということ。
「……よくもォ……! よくもよくもよくもォ……! 16歳ぐらいのクソガキ風情が俺達に恥をかかせてくれたなァ!!
俺達の誇りと旗を傷つけた報いだァ!! くたばりやがれぇェ!!」
大男は持てる力を振り絞って、背中に背負っていた切り札『M-134ガトリング砲』を構えて、怒りのままに猛接近する。
直接この武器で、確実かつ完膚なきにまで粉砕するために。
「……さて、誘き出した奴がようやく来たようねぇ……!」
やはり、少女ヴィクトリアは鋭く察知した。
大男が1.2歩近づいた瞬間、彼女は即座に空間モニターから目を放し、身体を彼の方へ向けて高速で立ち向かう。
「死ねぇェェェ!! 砕け散れぇェェェ!!」
大男のガトリング砲はトリガーを引かれ、ヴィクトリアの正面へと弾丸の嵐を炸裂させる。
しかし……
「遅いわよ!! 中年さん……!!」
ヴィクトリアは、《機関銃》に劣らぬ進発力と自慢の身体能力で、ガトリング砲の軌道を可憐に躱していく。
そして瞬く間に、彼女は大男の真上へと軽やかにジャンプし、呆気なくその頭上を捕えてしまう。
「ばっ……馬鹿なァ………!!」
「ほら貰った……♪ 《母鳥の機関銃》………!!」
艶やかに空中を舞いながら、ヴィクトリアは右手に握る《機関銃》で相手の両腕だけを精密に狙い、見事《弾丸》を命中・被弾させる。
「ぐぉあああ"あ"……………!!」
血飛沫を散らし、骨まで粉砕された大男の両腕は、とても重量級のガトリング砲を持ち上げることは不可能となり、たまらずその銃を地面へと滑り落とした。
無論、彼女が放った《弾丸》は、ガトリング砲には命中しなかった。否、命中させなかったのだ。
そして、ヴィクトリアは着地する瞬間、滑り落ちたガトリング砲を素早く蹴り飛ばす。
製造間もない軽量素材だったのか、軽やかに13m遠く吹き飛んだ後、彼女はようやくガトリング砲を射撃で破壊した。
ガトリング砲は、遠くで虚しく爆炎を巻き上げて散った。
「さぁ! これで打つ手は無くなったわ! チェックメイトよ!
観念してアンタ達の目的を大人しく自白しなさい!
あぁ、組織名は言わなくてもいいわ! もう〈革新の激戦地〉って分かってんだから!
もう仲間はいない!! 喋るもん喋りなさい!!」
ヴィクトリアは、《機関銃》銃口を大男の眉間に向けて怒鳴った。
傷つき血を流し、無残な敗北に追いやられた大男は……
「ブッ……ッククク……! ッヒヒヒヒ……フフッ……!」
笑っていた。気味の悪い程に、自身が置かれた立場など知ったことかと言わんばかりに……
「なっ……何よ……! 何がおかしいのよ……! さっさと話しなさい……!」
ヴィクトリアの表情に、焦りと不安が現れてしまう。
「いやぁ……お嬢ちゃん? 目的とやらを……素直に話してやるよ……
もう話しても支障のない頃合いだからなぁ……!」
「……頃合い……? ですって……!?」
「……俺達の目的はなァ……! ただの時間稼ぎってワケだよ……! 俺達は……我等が組織が放った……言わば『囮役』ってヤツだ!
……考えてもみろ! 俺達は敵地のド真ん中まで侵入してんだぜ!? お前等《ギルソード使い》の事も知らねぇ訳がねぇし!
俺達みてぇな普通の人間がお前ら《化け物》に敵わねぇなんて百も承知だ……!
俺達の役目は所謂『噛ませ犬』に過ぎねぇって訳さ……!」
わざとらしく結論を言わない男の発言に、ヴィクトリアは苛立って舌打ちする。
「ヂッ……! さっきから私を舐めた口調とその態度……! 1回アンタの身体を《弾丸》で細切れにしていかないと……分からないのかしら……!?」
彼女が脅して銃口を近づけると、大男はあっさりと青ざめる。
「……待った待った! 分かったよ! 焦らさずに教えてやる……!
俺達の目的は時間稼ぎだよ……! 目的は殺しだ……! 強襲でも無差別攻撃でもねぇ……! 暗殺だ……!
理由は中東地方で我々の計画を邪魔した報復さ……! もう分かるだろ……?」
「………っ!? ま……まさか………!? そんな……!? 私……なんて……事を……!?」
次の瞬間、動揺が表れて顔が青ざめていったのは、ヴィクトリアだった。
彼等の最悪な思惑が脳裏を過ったのだ。
大男はその苦悶の表情を見上げるなり、衝動を抑えさられず、盛大に嘲笑う。
「……ッハハハハハハ!! 気づくのが遅かったな馬鹿女!!
そうだ!! 俺達の目的はァ! あの中東の殺戮女、リリーナ=フェルメールを暗殺する事だ!
もうすでに病院内には、騒動に紛れて、同じ《ギルソード使い》の暗殺者が潜入している!!
打つ手なしィ!? チェックメイトォ!? それはテメェだァ……!!
邪魔者のお前が標的から引き離れて本当によかったぜェ……! ヒャハハハハハハハハハハ!!」
「黙れぇぇぇ!!」
笑い続ける大男を、ヴィクトリアは屈辱のあまり彼の顔面を蹴り飛ばした。
「ぶべっ…………!!」
男は鼻血を吹きながら、前歯を2本程吐き出して気絶する。
「……ルフィールに伝えなきゃ……そして戻らなきゃ……リリーナが狙われてる……しかも《ギルソード使い》に……!
お願いルフィール……! 私が着くまでにリリーナを必ず守って……! すぐに行くから……!」
ヴィクトリアは奥歯を噛み締めながら、病院施設の高さ90m上にある病棟を見上げて駆け出した。
◇◇◇
____〈マリューレイズ軍立赤十字病院〉病棟廊下___
暗殺者の手にかけられた医師やナース達が、無残に血溜まりの上で倒れている。
その上には、黒スーツとスカートに身を包んだ少女が立っていた。
亜麻色ツインテール、エメラルド色の髪飾り、蒼く透き通る瞳の可憐な容姿。
だが、血を流す彼等を映した彼女の目は、冷徹無慈悲に冷めていた。
自身が邪魔だと踏み潰した害虫を見下ろすような目で……
少女は薄型スマートフォンを取り出して電話を掛ける。
「こちらラインフェルト、病院内に潜入して、邪魔者を駆除したわ……!
襲撃班さん、そちらの状況はよく分からないけど、こちらはこちらで仕事を続行する……!
リリーナ=フェルメールを見つけ出して……殺す!!」
少女ラインフェルトは電話を切ると、静かに血の池まみれの廊下を、凛として歩き出した。




