・激戦の〈マリューレイズ〉(2)
〈登場人物紹介(追加分)〉
エヴァンズ=ヴァスティーユ(29歳)……《ギルソード》開発研究施設長の所長かつ管理取締役。
医師免許も取得し、軍立病院の院長と役職をも兼任する。軍の階級は少佐
◇◇◇◇◇
都市の国防拠点、〈戴冠の女王軍総本部〉のエントランスホールは、まるで内装が教会や聖堂のそれ。
軍事施設であるが故に、外観を真似た本物にこそ遠く及ばないが、内部を繕う豪華なステンドグラスと石膏彫刻の数々は、訪れた者に、聖なる界へ迎えられる錯覚を与える。
しかし、それは外観だけのカムフラージュに過ぎない__
実際は軍事仕様の防弾・防爆の最新特殊コーティングで厚く覆われ、壁穴や物陰からは、無数の自動掃射装置が、敵の侵略者を何時でも木端微塵にするべく、玄関口を標的に銃口を構えている。
その抜かりない防衛設備は内部だけでない__
外壁のデザインとして、同じ石膏彫刻が外部を囲んでいるが、その箇所や窓と柱の隙間等にも同様、高性能索敵レーダーや小型機関砲、更には《対ギルソード仕様》に改造された『レーザービーム砲台』が設置されている。
この総本部は国家にとって、まさに『守護神の城』__
「やぁやぁ、待っていたよ。お2人さん……!」
総本部の玄関口へ入ると、科学者の白衣を着た1人の男性が、すでにユウキ達を出迎える。
年齢は大凡30歳手前、外観の特徴は、赤い瞳の左側を隠した長い茶髪、研究学者の象徴とも言えよう純白の白衣、そして、髪の隙間から覗ける美顔は、火傷らしき古傷が幾つも刻まれている。
衣服に隠れて見えないが、それは身体中にも……
「久しぶりだねぇ、ユウキ君……♪」
彼はユウキに向かって声をかけると、優しく紳士的な笑顔で微笑みながら、小さく手を降りだした。
すると、ユウキは顰めた表情をがらりと変えて、まるで長年慕っていた親族との再会を果たすかの如く、純白で純粋な笑顔を見せて無邪気にその者へ駆け寄っていく。
「いやぁいやぁ♪ 随分とご無沙汰じゃないっすか〜? エヴァンズ先生〜♪」
彼、エヴァンズ=ヴァスティーユは、〈戴冠の女王軍〉の《ギルソード》開発研究施設長の所長にして管理取締役である。
《ギルソード》の開発研究者が本職ではあるが、医師免許までも取得しており、軍立病院の院長と役職を兼任している。
更には軍事的な指揮能力も突出しており『少佐』という軍の立派な高地位までも任命されている。彼はまさに、文字通りの多才軍人ということだ。
「フフッ……元気そうでなによりだ。君達も本当に立派になったものだね。今では国家のエリートとして海外での任務を全うとするようになったのだから……
地下の〈雛鳥の宿〉にいたときは……もう遠い昔の話かな……?」
所長エヴァンズは、ユウキ、リリーナの2人とは旧知の仲というものだ。
彼の言った〈雛鳥の宿〉とは、かつて総本部の地下最深部に存在した〈軍営地下孤児院"雛鳥の宿"〉の通称である。
過去にユウキとリリーナは、一時はそこにいたことがあるが、その場所は3年前、この国に起きた大規模な軍事クーデターによって、今は崩壊している。
そんな〈雛鳥の宿〉が、『惨劇の孤児院』として国の暗黒史に深く名を刻んだことは、後の物語で語ることにする。
「……懐かしい記憶っすねぇ。今の俺達のこの姿、あの時に死んだ仲間達が見たら、どんな反応するのかなぁ……?
またリリーナと行って、花束の手入れついでに自慢してやりますよ……!
敷地の中庭にある『孤児達の慰霊碑』に__!」
「……何言ってるのさユウキ、
もう天の上から祝福してるに決まってるじゃないか。僕は鮮明に覚えているよ。
彼等が君達を心から大切に思っていた、あの在りし日の光景を__
それに、志半ばで死んでしまったあの子達ができなかった事を、君達2人は立派に成し遂げているんだ。
誇りに思って、見守り続けてくれるさ……」
エヴァンズは、ユウキを称え激励するように言ったが、あの時の記憶が鮮明に蘇ったのか、彼等の瞳には、胸の内から込み上がってくる物悲しさと寂しさがはっきりと表れていた。
エヴァンズは、孤児院〈雛鳥の宿〉の関係者であった。
3年前のクーデターの日、あの孤児院で一体何が起きたのか、この場にてそれを知る者は、ユウキとエヴァンズの2人だけだ。
キルトは、話だけ聞かされてはいるが、後の歴史に『惨劇』と刻まれる程の惨状を、この目に焼きつけたわけではない。
この詳細のまた、後の物語にて語る事とする__
しばらくすると、案内を引き受けてくれた門番の兵士は、「私は仕事がありますので、これで……」と行って、その場を去って建物から出ていった。
「あの……大変失礼ではありますが、この事態は一刻を争っている状況のはずです。
申し訳ありませんが、昔話への思い入れは後にでお願いしたく、まずは命令通りご提出に上がったデータを見て頂けませんか?
それが終われば、次は我々も都市内の防衛と警備に手を尽くすこともできましょう……!
ユウキ! そうだろう……!?」
意味もなく時間を費やすことを嫌うキルトが、眉を顰めて口火を切り、次にすべき行動を促す。
「はいはい分かったよ……! 容赦ねぇな! この鬼畜ブラック上司……!」
「そうだったねキルト君……! 時間を取らせてすまなかった。
だがテロリストの事は心配しなくていい。すでに総本部の上層階に居られる中将の方々が、直々に指揮を執られている。
市民への避難準備は問題なく進んでいるはずだ。だから君達は安心して自身の任務を達成すべく、そのデータを献上してほしい。
着いてきたまえ……! 地下の所長室まで案内するよ……!」
そう言って、エヴァンズは振り返り際に煙草を1本加えながら、そのまま本部の奥へと歩こうとした刹那__
『こちら〈総本部〉中央司令室……! 地下ライフライン管理センターより緊急入電……!』
唐突に1つの館内放送が、総本部の隅々にまで響き渡る。若い女性の甲高い声だが、その様子はどこか慌ただしい__
『〈地下ライフライン管理センター〉より! 貯水施設付近にて異常が発生したとの通報あり! 詳細は不明! 避難を呼びかけた現地作業員からの通信が途絶えているとの事……!
現在は対テロリストへの特別警戒体勢であるため! 地上での市民避難誘導や周囲への厳重な警備を継続しつつ! 余剰の人員は地下貯水施設に急行せよ……!』
ここで放送は途絶える__
不意に耳を傾けた3人だが、ここで少々、各々の疑問が感じられた。
「貯水施設のトラブルだって……? 全くテロリストとの睨み合いで忙しいこんな時にねぇ……最高にタイミングがいいのやら悪いのやら……!」
エヴァンズは口に咥えた煙草を左手で戻しながら、呆れ顔でそう呟く。
「詳細は不明? 作業員は事故か何かに遭ったのか? まぁ、ライフラインのトラブルなら、俺達が首を突っ込むことではないな……
さぁ! 我々は所長室へ急ぎましょう!」
曖昧で不可解な放送内容に首を傾げるも、キルトは特に重要に考えることもなく、任務優先で他事に関わるまいと判断する。
しかし__
「……っ!? いや待てよ!? その貯水施設……!」
またしても、ユウキが不吉を予知する表情を浮かべた。
先刻の学園で浮かべたそれと同じだ。ふとユウキを見たキルトは、不穏な空気を感じ取ってか、彼の様子に危機感を覚える。
「ユウキ、どうしたんだ……!?」
「確か地下通路でこの総本部と直結してなかったか!? しかも……!
この総本部の地下構造を考えちまうと、最悪だが……その付近には一体何があるのか、それを連中バレちまってたら……!?
これは、余剰の人員だけじゃ解決は不可能だぜ……?」
「どういう事だ……!? その貯水施設が敵に襲われていると言いたいのか……!?」
「それは行かなきゃ分かんねぇよ……! でも敵の連中が情報を色々と探ってんだろ……!? 可能性は有り得るぜ……!? ちょいと俺が行って確認してくる!」
ユウキはそう言うと、身体の向きをエントランスホールに戻して、この総本部を出ようと逆方向へ歩き出す。
「オイ! ちょっと待てユウキ……! 別働隊の状況報告を待てばいいだろ……! 俺達の任務は……!?」
「いやぁ、気が変わって心配になったぜ! 上層部に何か言われたら、「俺は傷の具合が悪くて早退しました」とでも言ってくれよ! 以後よろしくなァ!」
キルトの静止を無視して、ユウキは単独で〈総本部〉のエントランスホールを抜けて、外へ出ていってしまった。
「ったくアイツは……! どこへ行っても俺の言う事をまともに聞いた試しが無い……!」
苛立ちが最大限に募ったキルトは、精神安定のため深い深呼吸を一度ついて見せたが、そんな彼の右肩に、優しく手を置く者がいた。
所長エヴァンズだった。火のついた煙草を加えて煙を吐き散らしながら、彼はこう言った。
何しろ、彼はリリーナと同じ、ユウキの考えや人間性を熟知する、数少ない人間なのだから__
「まぁまぁ♪ 一度、ここは彼の好きにさせてみないかね?
ユウキ君は、何というか……確実だと思った事を絶対に実行へ移す人間でさぁ〜
さらには、その可能性を確固たるものにするべき計算も、正確で素早い人間なんだよ。
時にそれは__
冷酷非情な行動に働く事も、十分あるのだがね……!」
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