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新科学怪機≪ギルソード≫   作者: Tassy
3.〈新都市マリューレイズ〉と武装組織の逆襲 編
53/105

・学園の仲間と迫る魔の手(2)

登場人物紹介(追加分)


フランツ=ロエスレル(26歳)……武力行使組織〈革新の激戦地(ヴェオグラード)〉の最高幹部。少女ディズレーリと同じ役職。

シチリア島でのマフィア取引を阻止されてから、独自に行動して〈新都市マリューレイズ〉の潜入を行っている。


ラインフェルト=フェリーベル(16歳)……〈革新の激戦地(ヴェオグラード)〉に契約で雇われている殺し屋の少女、元々孤児だった彼女を、何らかの闇組織が暗殺者として叩き上げ、当組織と契約している。しかしながら、実態は奴隷のように扱われ、彼女の人権を尊重されていない。


◇◇◇



 2人がエントランスの人集りに駆けつけると、生徒達の視線の大半が彼等に向けられた。内緒話まで密かに行う声も聞こえる。




「会長のキルトだ! お前達そこを見せろ!」




 __と、キルトは強引に人集りを掻き分けて、すぐにその中央へ辿り着いた。



 その場の光景に、2人は驚愕した。



 夥しい数の、黒スーツを纏った男達が、深手を負い倒れている。



 数は40〜50人相当。誰も死んでいなければ、瀕死でもない。多少は手加減され、気絶か、もしくは意識が朦朧としているようだ。 




「これは……どういう状況だ……!? ここで転がっている彼等は一体……!?」

 



 脳が混乱していたが、キルトは状況の把握を急がんと周囲に呼びかけた。



 だが、そんな彼等を見る生徒達の反応は、どこか冷酷だった。被害者の怪我を労る様子もない。寧ろ、彼等はこのような目にあって当然とでも思っているかのような。



 次の瞬間、周囲の生徒達の会話のから、恐ろしい単語が飛び交ったのだ。




「……おい、もうこの学区内を()()()()()()()奴はいないだろうな……?」




「あぁ、さっき外で調査してた班と連絡を取ったが、()()()()()()()()()の姿は、もういないそうだ……!」





 ユウキとキルトの背筋に戦慄が迸った。



 あれほど恐れていた存在の言葉を口にしたので、キルトは堪らず、すぐ後ろにいた生徒に食いかかるように問い詰める。




「おい! 一体どういうことだ!? 嗅ぎ回っている奴だと……!? 追跡者だと……!? 俺達はソイツ等にあれほど警戒してここまで辿り着いたんだぞ……!!」




 キルトは激昂するように、その者の肩を力一杯に握り締めて怒鳴るので、周囲の者は面食らったように呆けていた。



 だが同時に、その表情と瞳はキルトを憐れむようでもあった。




「お……おい……キルト……まっ……まさかとは思うが……」




 何かに気がついたユウキだが、何故だがその声が、何かに恐縮するように縮こまって吃っていた。




「まさか……って何だ? はっきり言えよ……!」




 苛立ったキルトは、ユウキに強く当たるように言ったが、内心は、それを口に出して欲しくはなかった。



 キルト自身、彼なりに状況に対する見当が、すでについていたからだ。



 確信を持った。


 それは最も起きはならなかった、最悪の事態__




「もう分かっただろ!? それでも念のため説明はさせてもらうがな……!!」




 背後から、男子生徒クラウスの叫び声が入口付近に轟く。



 ユウキとキルト、そして周囲の生徒達が振り向くと、後から遅れてきたクラウス、ヴィクトリア、スタインの3人組が、険しい表情で歩み寄る。




「ほらキルト! ユウキ! お前らの後方約20mに、ずっーとこんなモンが付け狙ってたぜ……?」




 クラウスが、キルトに向かって、何か小さな虫の死骸のようなものを投げつけた。



 キルトは、嫌な顔をして右手でキャッチしたが、手に取った感触が、決して虫の死骸の如く脆いものではなかった。まるで硬い機械の細部部品のようだった。




「なっ……クラウス……これは……?」



「『拡大』して見てみな? それ……ヤバい代物だぞ……?」




 クラウスがそう言うと、キルトはブレザーポケットから薄型スマートフォンを取り出し、それを右手の『虫らしき物体』に翳す。



 スマートフォンのディスプレイは、拡大カメラ機能の画面が表示されて、右手に乗ったそれの細部がよく確認できた。



 ディスプレイに映っているのは、確かに『ハナアブ』のような形をした虫が、じっくりと見渡せば、ただの『アブ』などとは決定的に違う箇所が見られた。



 昆虫の特徴とも言える大きな『複眼』が、巨大な人工のカメラレンズになっており、頭部には触覚が3本、本来は存在しないはずの、まるで『無線アンテナ』ような、他より長く目立った触覚が余分に1本、人為的に付けられている。



 断定ができた。


 これは決して天然の『ハナアブ』ではない。





「これは……!? 追跡用の小型カメラか……!?」





「ご名答だぜ生徒会長! しかもアンタ達の後ろだけじゃねぇ。


 コイツは学園周辺のそこら中を彷徨って監視してやがった! ここで転がっている連中と同じようになぁ……!


 ほらよ! これ見てみろ……!」




 クラウスはそう言って、左手をブレザーの膨らんだポケットに手を入れると、極小の機械製品をじゃらじゃらと大量に取り出して、キルトの足元に撒き散らした。




 それ等の物は、キルトの鳥肌をぞっと立たせた。




 足元に散りばめられたのは、その手に持った物と全く同じ、ハナアブ型の『追跡用小型カメラ』__





「……やられたな……! 連中は俺達の行動の先の先を読んで、幾日も前から準備を整えていたというワケか……!


あれほど背後を警戒していた俺達が馬鹿みたいだぜ……!


 ……用心深く俺達を尾行すると見せかけて、実はまんまと掌の上で踊らせていたってワケだ……! クソッタレが……!」





 無念と屈辱のあまり、キルト右手の拳を力の限り握りしめた。指先の爪で皮膚が裂けて、その手の中から血が滴り落ちる。


 生徒達は、そんな彼に同情するかのような眼差しを、ただ送り続ける他なかった。




「キルト……ちょっと頼みがあるんだが……」




 すると、ユウキは暗く深刻な表情で、キルトにある懇願を申し出る。




「……悪いな……お前の気持ちはよくわかるが……


 こうなった以上……俺は病院に残したリリーナのことが心配で気が気じゃねぇんだ……!


 その後に本部へ行く予定だったろうが……もう一度軍立病院に行って……アイツの安否を確認したい……!」




 

 その時、キルトに見せたユウキの顔は、傲慢で自尊心の高い彼には似合わない、落ち込んだようなそれだった。




 キルトとユウキ、2人の互いの心境は、双方痛い程に理解し合えていた。




「はァ……!? ちょっと待ちなさいよ……!? それは一体どういう意味かしら!? 説明なさいな!?」




 突如、その隣にいた女子生徒ヴィクトリアが、怒りの形相でユウキに食いかかるようにガンを飛ばす。





「……その言い方はさぁ? まるでこの状況下の中、怪我で動けないリリーナを、たった1人病院に残した……って解釈でいいのかしらねぇ!?」




「……あぁそうだよ! 俺達は別行動するって、3人で決めたんだ……!

 全員で行動してたら尾行や奇襲の格好の的になるから、それに一般市民を巻き込んだら駄目だってリリーナが………」



 

 ユウキが話してる途中だが、怒ったヴィクトリアは、途端にユウキの足の脛を思いっきり蹴りつけた。




「ぐわァ……! 痛ぇ……! 被弾箇所を……!」



 

 ユウキは弱々しく悲鳴を上げる。




「……信じられない!! アンタそれでも男なの!? 敵の連中が先にあの子を狙わないとも限らないじゃない!! どうして一緒にいてあげないの……!!


 もういいわよ……!! アンタ達みたく人でなしには頼らない!!

 

 私が傍にいてリリーナを守るわよ!! 今外で警備してるルフィールにも応援を頼むから……!」




 ヴィクトリアはそう言って、剣幕な表情のまま、さっさと立ち去って学園の門を飛び出してしまった。



 クラウスは、それを見るなり「本当アイツ、血の気多すぎ……」と言って、特に追い駆ける素振りもなく、ただ次なる行動を促そうと、両手をパチリと叩いて生徒達に呼びかける。




「オイ野郎共! とにかく対策を急がなきゃ始まらねぇ! 学園内のセキュリティは、俺達を含め、全校生徒の総出で固めるぞ! 学芸員にも協力を要請する!


 あぁついでに、そこで転がっている奴の1人でも、叩き起こして拷問でもしようぜ?


 手加減は可能な限りならするから、この中に風紀委員がいたら黙認してくれよな? やりたいヤツは勝手に参加しろ!」




 クラウスの鶴の一声で、人集りは一気に解散する。



 生徒達には互いに指示を出し合って、防衛の徹底を試みようと、一体となって協力大勢が形成される。




「おいユウキ……大丈夫か……?」




「くそっ……蹴られた足も精神も痛ぇ……で? 何だよキルト……!」




 ふとユウキに目をやると、彼はしゃがみこんで、ヴィクトリアに蹴られた足を痛々しく抑えていた。

 



 涙目だが、特に大事はない。




「リリーナのことは、ヴィクトリアとルフィールに任せれば大丈夫だ……!


 俺達はひとまず本部に急行するぞ! もう尾行どころの騒ぎじゃねぇ……! もうテロリスト共にそこら中を嗅ぎ回られてる!〈新都市マリューレイズ〉自体の重大な危機だ!


 街の何処に敵が潜んでいるのか分からない……! 上層部に報告して市民への警戒態勢を呼びかける!


 考えうる限りの対策を講じた上で、〈革新の激戦地(ヴェオグラード)〉を迎え撃つ! データの提出や諸々の業務は後回しだ……! これ以外に方法はないからな……!」





「フンッ! 大戦争不可避ってワケかい! しょうがねーな! 


 じゃあ引き続きお前を護衛してやるよ……!


この街の平和を脅かすゴミクズ共を《高速射撃の剣(ダーツ・ブレード)》で微塵切りにしてやるか……!」




 

 キルトの宣言に呼応すると共に、ユウキは冷徹な表情ですくりと立ち上がった。脛の痛みは即座に引いていたようだ。





「じゃあスタイン……! 後のことは、お前をはじめ各生徒に任せるぞ……!」




 キルトは、付近に立っていた生徒スタインの肩に軽く手を添えると、そのまま学園の門を目掛け立ち去っていった。 





「はっ? 何平気な顔して俺を置いて行ってるの? 俺が怪我人ってこともう忘れてるだろ……?」




 ユウキは軽く舌打ちをかましながら、すぐにキルトの後を追った。



 2人が学園から居なくなった後、その場に残ったスタインは、密かに独り呟く。





「フッ……! キルトのヤツ、うまくソイツを使ってやれよ!


 お前の懐にしまった剣は……


 『闇髪(あんぱつ)騎士(ナイト)』という強靭の刃だからなァ……!」





◇◇◇◇◇




 〈新都市マリューレイズ〉の『中心街』の一角に聳え立つ、1つの目立たない高層ビルの屋上にて__



 地上300mから眺める小さな景観を、マフィア崩れの外見をした青年フランツ=ロエスレルが、右手の双眼鏡から静かに見下ろしていた。





「ほぉ〜う? 学園のガキ共、いい教育を受けてやがるぜぇ♪


 周辺の監視に全部気がつきやがった……!


 まぁさすがに阿呆じゃねぇことは予測してたがよォ……!」





 彼は愉快な表情で歪な微笑みを浮かべながら、反対の左手で摘んだ煙草の吸い殻を、屋上のフェンスから放り投げる。





「ロ……ロエスレル……様……さ……作戦の実行に当たって……悪い……知らせ……が……」




 背後から、年端も行かない16歳前後の少女が、細々とした声を彼にかける。



 亜麻色ツインテール、エメラルド色の髪飾り、蒼く透き通る瞳に幼さが残る顔立ちは、年相応の少女らしいが、スーツ、革靴、スカートを全身黒に統一した格好は、まるで暗殺者のそれ。




「……ア……アクバルⅡが……討たれ…ました……! 仲間の……偵察によれば……《メガ粒子砲》によって……焼き払われ…て……壮絶な……最期……だった……と……」




 少女の顔色はどこか悪く、話口調も途切れ途切れで吃っていた。


 彼を恐れ服従し、感情を押し殺して飼われる奴隷のように、弱々しい表情と口調で語り続ける。



 

「……あぁん? その情報はよォ……! もうとっくに知ってんだよ間抜けがァ!!」




 ロエスレルは唐突に怒声を飛ばすと、右手に握っていた双眼鏡を、彼女を目掛けて力一杯に叩きつける。




「あぐっ……!」




 双眼鏡は少女の頭部に直撃し、レンズの硝子が割れると共に、彼女の額から赤い血が滴り落ちる。




「ご……ごめんなさい……ご存知でしたとは……情報が入ったのは……ついさっきなので……」




「ったく! テメェといい学園のガキ共といい……! 間抜けな連中しかいねぇもんだなァ……!!



 尾行をうまく撒いて、監視の連中や小型追跡カメラも見破って壊して、こっちの出方を挫いたつもりでいると思うと、笑えて仕方がねぇぜ!!



 俺は奴等の行動から次の一手まで、全てお見通しだっての♪」





 ロエスレルは、にやけながら少女の元へ近づいてくると、額の怪我を押える彼女の髪を、理不尽に引っ張り上げる。





「い"……痛い"……でず……! ごめんなさい……許して………!」





 怪我と精神の悲痛に涙ぐむ少女の目に、ロエスレルは懐から取り出した薄型スマートフォンの液晶モニターを、彼女の眼球に照らしつける。





「……こいつが見えるか泣き虫!〈新都市マリューレイズ〉の地図と、〈戴冠の女王軍(マリー・ルイーズ)〉の組織図及び本部の極秘見取り図だよ♪



俺様の特別な潜入調査術と可憐な采配によって生み出された傑作だ!



更には、俺様のもう1人のクローン兵士であるヴィザロⅡ(ツヴァイ)がすでに先手を打って本部に潜入している……!



 俺も直々にソイツと合流し、奴等の製造する《ギルソード》の奪取と、あの忌々しいクソガキ、ユウキ=アラストルの抹殺を遂行する……!


 テメェの仕事は1つだ……! この図面上にある軍立病院に赴いて、もう1人の標的(ターゲット)、リリーナ=フェルメールを始末しろ!


 そっちはどうせ深手を負って身体を動かせんよ♪


 お前1人でも余裕で殺せる……!」





 ロエスレルはそう言うと、その手に髪を引っ張られる少女の頭を、乱暴に押し放した。



 少女は倒れようとする寸前、意地でも足を踏ん張らせて、何とかバランスを保つ。





「こっからは別行動だ! ほら……お前の細足に眠るその《刃》を見せてみろ……《ギルソード使い》ラインフェルト!!」





 彼のその台詞に、殺し屋の少女ラインフェルト=フェリーベルは、突如その涙目を冷酷非情な氷の目つきに摩り替える。





 それは、1人の暗殺者としての瞳。






「………はい……我等〈革新の激戦地(ヴェオグラード)〉の……名の元に……」





 ラインフェルトはそう言うと、その様子は打って変わり、まるで獲物を狩る狼の如き身のこなしで、その場から瞬く間に屋上のフェンスまで飛び越えて、300mのビルから躊躇なく飛び降りた。

 




「……祭りの始まりだベイビー♪ キヒヒッ!」





 青年ロエスレルは、屋上で独り愉快に笑いだした。

 




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