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新科学怪機≪ギルソード≫   作者: Tassy
3.〈新都市マリューレイズ〉と武装組織の逆襲 編
52/103

第21章 学園の仲間と迫る魔の手(1)


◇◇◇◇◇◇


 

 建物が立ち並ぶ地区『旧市街』__


 かつての中世、近世の建築物を復元せた建物が、あちらこちらと建ち並んでいる。




 港を後にしたユウキとキルトは、そのまま〈新都市マリューレイズ〉の高層ビルに囲まれた『中心街』を通り抜けて、ここへと辿り着いた。



 中心街とは異なって、集合住宅や団地等が大半を占めるが、大通りは商店街が多く、食料品や雑貨品を買い求めに、多くの人々が往来する繁華街でもある。



 そんな旧市街の大通りを、2人は未だ警戒態勢で歩いていた。


 


「ユウキ、異常は無いだろうな……?」




「安心しろよ。追手や尾行の影は無しだ!」




「……そうか、無事にここへ辿り着けたのはいいが、追手の気配がないのは……それはまた妙だな……!」





 元々慎重な性格であるキルトは、この状況を不自然に思い、逆に疑心を抱いていた。



 深く思考するにつれて、その表情は険しくなっていく。





「……おいキルト、ここは〈新都市マリューレイズ〉の市街だぜ?


 人の行き来が激しい上に 敵の連中からすれば極地のド真ん中だ。下手に目立つのは自殺行為だし、尾行すら命の危険に晒される。


 余程の馬鹿じゃなけりゃ、もう既に身を引いてるだろうよ!」




 キルトとは正反対に、ユウキは冷静沈着、肝の据わった表情で言ってみせる。



 その様子は、この危機的な状況に、身体が馴染んでしまっているかのようだ。




「……そうかもしれないが、決まったわけじゃないだろ……! とにかく警戒は怠るなよユウキ……!」




「……いや、もう既に全く別の手段で、俺達の行動を嗅ぎ回ってるかもなぁ?


まっ、監視カメラのハッキングは電脳の監視体制が頑丈だから無理だろうけど……


 例えば、レーダー観測できない高性能ドローンを上空8000mから飛ばしてるとか、潜入者(スパイ)が既に潜入して街の各所にカメラを設置しているとか……!


 連中だってアホじゃねぇぞ……?」




「くっ………!」




 険しさを増すキルトの顔は、ついに眉間の皺まで表れる。



 更なる危機を予測できない強大な不安が、彼の脳裏と胸の内を侵食するかのように。





「まぁ正直俺も、病院に搬送されたリリーナが心配でしょうがないが……!


 けど、奴等が動くのは今じゃない。流石の連中も、敵陣の情報無しにド派手な行動には出ないだろうし……!


 それに、ひとまずは……この目的地に逃げ込めば、有利なのは俺達だぜ……!」




 ユウキはそう言って、キルトのすぐ背後を指差した。



 そこには、軍用の施設らしき入口の門が構えられ、頑丈な煉瓦の塀に囲まれた敷地には、立派な超高層ビルが1つ、凛々しく聳え立っている。



 高さは地上約430mと高く、その外観は、旧西暦1930年代〜西暦末期時代のニューヨークに存在した『エンパイアステートビル』を思わせるような様相。



 ヨーロッパの旧建築物を模した、背の低い建物が立ち並ぶ『旧市街』の中では、ひときわ目立った存在である。



 そして、鉄格子の扉を構える入口の煉瓦柱には、胴の表記プレートが埋め込まれ、施設名が彫刻で表記されていた。 




『〈戴冠の女王軍(マリー・ルイーズ)〉軍立第7学園、〈グランヅェスト学園〉』




「……懐かしの我が家って感じだぜ! あのクラスメイトのバカ達は元気にしてんのかなぁ?」




「あぁなんとか辿り着いたが、後は本当に無防備に入って大丈夫か……が問題だな……!」




「分かんねぇけど? でも仲間もいるし大丈夫だろ!」




 ユウキはそう言ってキルトの背中を叩き、何食わぬ顔で門の方へと歩いていく。



 不安が拭えないキルトは、納得がいかず眉間に皺を寄せながら、渋々ユウキの後を追っていった。

 



◇◇◇



 〈新都市マリューレイズ〉を支配する軍事組織〈戴冠の女王軍(マリー・ルイーズ)〉には、《ギルソード使い》を育成、鍛錬を目的とした7つの〈学園〉が存在する。



 その1つが、この軍立第7学園__


 〈グランヅェスト学園〉である。



 全寮制かつ、中等部1年から高等部3までの6学年まであり、生徒の年齢層の幅広いこの学園は、全校生徒が《ギルソード使い》。


 尚かつ、〈グランヅェスト学園〉は、7育成学園の中でも、とりわけ実力者揃いと評価されている。



 キルトとユウキは、生徒証明カードで門のセキュリティを解除し、学園のロビーへと進んでいく。



 授業は終わっているようで、校内は生徒の往来が多い。だが、彼等は2人を見るなり、何やら妙な視線を送り、中には内緒話まで始めるものもいた。 



 すると、ある陽気な生徒が、ユウキに声をかける。




「よぉユウキ! 久しぶりだなオイ! お前達の帰り、クソ待ちわびてたぜ!」



 2人が振り向くと、そこには身長179cm程度の白髪の男子生徒が近寄ってくる。服装は黄色のブレザーに黒のズボン、金の肩章は無いが、ほぼユウキと同じ格好だ。




「クラウスじゃねぇか! アホみたく元気そうで安心だぜ。相変わらず女子生徒ナンパして遊んでんのか?」




「いやいや、今日は大人しく部活動だよ! 俺が主催の『科学実験部』のな。


 ナンパ遊びがバレると、部員のヴィクトリアに半殺しにされるからさァ?


 ……ってオイ!? 生徒会長のキルトも一緒じゃねぇかよ!


 先に言いやがれ!! なァ会長? 今の話は忘れろ!? 俺という紳士はむやみに風紀を乱さねぇ!」




 学友のクラウスは、学園生徒会長のキルトを見るなり、唐突に大人しい素振りへと己を変貌させる。


 やましい事があると、決まってこの態度を取る。


 調子に乗りやすい割に、嘘が極端に下手なのだと、キルトは前から知っていた。


 



「ほう? クラウス! お前はまだそんな遊びに興じてるのか!? 前回の指導でも懲りないようだな?!


  後日の再教育、俺は楽しみで仕方ないな!?」



「え? いや……その……」



 ギロリと睨みつけるキルトの視線に、クラウスは左右に目を泳がせる。




「あぁキルト会長ぉ? その……ヴィクトリアにはバレたくねぇんだよ? アイツ女の敵には怖ぇからぁ、ってうげェ! ……もう来やがった!?」




 クラウスが額から冷や汗を流した瞬時、ユウキの背後から、全速力で駆ける足音と女子生徒の怒声が近づいてくる。




「ユウキイィィィ!!」




 怒りの矛先が違ったようだ。ユウキが背後を向くと、既に少女が炸裂させる右足の跳び蹴り(ドロップキック)が顔面に迫っていた。



 だが、間一髪で阻止される。ユウキは彼女の右足を左手1つで軽々と受け止め、更には跳ね返すように、右足ごと女子生徒を投げ飛ばす。





「……危ねえな! 何しやがんだ! ヴィクトリア!」





 ユウキに投げられた彼女は、見事な身体能力でバク宙とバク転を続けて体勢を直し、即座に元の立ち姿に戻ってしまう。



 これは、ユウキをはじめ全校生徒に当てはまるが、 

 

 彼等は《ギルソード使い》または『優秀な士官候補』として育成・鍛錬するべく、その運動能力と身体能力を格段に向上させる訓練を受けている。



 《兵器》を身体に宿した自覚を持たせる目的もあり、若者の鍛錬には、軍全体で力を注いでいるのだ。




「何じゃないわよ!! リリーナの事聞いたわ!?


なんでアンタがそんな元気なのに、大親友のリリーナが大怪我して苦しんでるのよ!?


アンタ相棒として何やってんの!? この落とし前……どうつけて貰えるのかしら!?」





 蹴りかかった女子生徒、ヴィクトリア=スレイヤーが、拳の関節をパキパキと鳴らして、ユウキを睨んで威圧をかける。



 容姿はリリーナと同じく、灰色ブレザーと赤スカートの服装だが、特徴は橙色のボーイッシュヘアー。


 どこで買ったのか、銃弾の形を模したヘアピンをもみあげに装飾している。




 リリーナとは学生寮でのルームメイトであり、普段から彼女を大事に思っているのである。


 故に、彼女の悲報を耳にした瞬間、ユウキに対してこれ以上にない怒りを抱いたのだ。





「待て待てヴィクトリア!? これは事情があってだな……! 元々ユウキとリリーナは別行動していた……!


 当時の状況は俺も知っている! だからリリーナがあんな傷を負ったのは、俺の方に責任が……」





 横にいたキルトは衝動的に弁明を試みるが、ヴィクトリアは憤慨のあまり聞く耳を持たず__


 ユウキ自身は反論する意思もなく黙っていた。


 またキルト自身も、その弁解の最中に罪悪感が過ってしまい、言葉が吃ってしまっている。



 このような事態を未然に防ぐことはできなかったのか。リリーナが自らの命を懸ける前に、少しでも力にはなれなかったのか。



 ユウキ自身、後悔とやるせなさと折り合いがつかず、思い悩んでいたのだ。





「何よ? 何も反論がないワケ? あるなら言ってみなさいよ! 自分の非を認めるなら一発殴らせなさい! 何なら模擬戦や決闘でも構わないわよ!?」





 激昂を抑えられないヴィクトリアは、そのまま右の拳を振り上げて、ユウキの前にゆっくりと迫る。



 しかし、殴られる寸前で、彼女の右腕は、背後からの男子生徒の右手に鷲掴みにされ、拳の一撃は免れる。





「やめてやれヴィクトリア、これはユウキでは防ぎようのなかった事だ__!」





「……なっ……何よ……! スタイン……!」




 ヴィクトリアの腕を掴んでいたのは、黒い学生服と黒縁眼鏡を身に着けた男子生徒、スタイン=アロノードだった。



 普段は無口で、遠くから見ると真面目で大人しい雰囲気だが、顔の額と頬には刃物の切り傷が目立ち、眼鏡レンズの奥からは、冷徹冷酷な氷の如き瞳が覗いて、ただならぬ威圧が感じられる。




「いいか? ヴィクトリア、ユウキとリリーナは元々別行動をとっていたんだ。各々に与えられた命令や目的地も全部違っていたからな。


 だからユウキは自分の仕事を終えた後、リリーナの元へ向かっていたんだ。だが彼女の現場では予期せぬ事態が発生し、彼女は人命を守るために命を懸けた。


 ユウキの到着を待てる状況ではなかったんだ。避けられなかった事態なんだよ。


 納得できないなら、リリーナの見舞いついでに聞いてみるといい。本当の事情が聞けるだろうさ……!」




「わっ……分かった……わよ……!」




 静止されたヴィクトリアは、スタインの言葉を素直に聞き入れて、捕まった右腕を震えながら下ろした。


 


 一同が静まり返った後、キルトは口火を切って現状を説明する。



 

「ところで、本来俺達は、回収した《ギルソード》の《記録(データ)ナノマシン》を持って、〈戴冠の女王軍(マリー・ルイーズ)〉総本部へと直行する予定だったんだが……!


 どうやら少しばかり尾行されているようでな!


 害虫を振り払うことも目的で、一度〈グランヅェスト学園〉に逃げ込んだんだが……!」




 だが次の瞬間、クラウス、ヴィクトリア、スタインの3人から答えられた返答は、実に異様かつ意外な言葉だった。




「おっ? そりゃ丁度良い! お前達から直接聞きたかったんだよ! その話をなァ……!」




「懸命に尾行を警戒していたようだけど、その努力は無駄だったみたいね……!」

 



 クラウスとヴィクトリアの2人は、冷徹な表情で突っぱねるように言う。




「警戒は無駄だと!? 一体どういう意味だ……!?」




 キルトは困惑のあまり、苛立って噛み付くようにように問い詰める。




「あそこに人集りがある。 実際に見ればわかるよ。状況は最悪だと、先に言っておくけどね……!」




 スタインは無表情にそう言うと、校舎であるタワービルの入口のエントランス付近に、確かに生徒達が寄ってたかって集まっている。




「……ユウキ、あれは何だ? 何が起きてるんだ……?」




「さぁね、だが雰囲気的にもヤバそうな状況だぜ!? なぁキルト……?」




 不穏な空気を感じながらも、ユウキとキルトは即座にその場所へ駆け出した。





登場人物(追加分)



クラウス=ドランセル(17歳)……軍立学園〈グランヅェスト学園〉の生徒、『科学実験部』の代表を務めている。基本は破天荒で女子にだらしがない。女子会に混ざってお茶を楽しむのが趣味。


ヴィクトリア=スレイヤー(16歳)……軍立学園〈グランヅェスト学園〉の生徒、『科学実験部』の部員。リリーナとは学生寮のルームメイトであり、お互いに思いやる親密な関係。常識のないクラウスをよくお仕置きしている。


スタイン=アロノード(16歳)……軍立学園〈グランヅェスト学園〉の生徒、『科学実験部』の部員。眼鏡をかけた一見大人しそうな姿を見せているが、実際は冷酷かつ凶暴と言われている。

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