第20章 上陸、〈新都市マリューレイズ〉(1)
登場人物(追加分)
キルト=グランヅェスト(17歳)……ユウキ達の仲間であり、〈新都市マリューレイズ〉の軍事組織が設立する精鋭学園〈グランヅェスト学園〉の生徒会長兼理事長。ユウキ達の海外派遣の際は、携帯通信で彼等と連絡を取り合っていた。
所有する《ギルソード》は、大型対物ライフルを模した《熱炎奪取の破壊狙撃銃》。
語録説明(追加分)
・〈新都市マリューレイズ〉……北大西洋の中央に位置する巨大人工島かつ人口450万人の巨大都市。人体移植破壊兵器である《ギルソード》の研究、開発が盛んに行われている。軍事国家。
・〈戴冠の女王軍〉……〈新都市マリューレイズ〉を守護する軍事組織。国防、治安維持だけでなく、政治や経済の支配権まで有している。
「……はぁ? 死に瀕した状況で何を言い出すかと思えば、俺の断末魔だと……? ついに頭がイカれちまったらしい……!」
毒の海に浸かった瀕死のユウキとリリーナを前に、クローン人間、アクバルⅡは、水上の船という安全地帯から、もはや手に握る《銃》を構えることなく、ただ嘲笑っていた。
「お前の断末魔を聞いてやる」と、ユウキの言った言葉は、この絶望的な状況の中、アクバルⅡの耳には、必死の悪あがきを言語化したようなものにしか聞こえていないらしい。
「……なぁ……に……あくまで願望だよ……死ぬ前の……せめて……叶いたかったな……なんて……淡い願望だ……」
視界は眩み、意識は薄れつつも、ユウキは依然としてアクバルⅡから目を逸らさなかった。
敵は完全に油断している。こちらが死にかけているので、もう何も危害を加えることはできまいと、安心しきっている。
ユウキは、リリーナを抱いていた両腕のうち、その左腕を放し、恐る恐る水中に沈ませた。
銃の傷が、再び焼かれる程に痛みだす。
堪えつつも、ユウキは男の様子を伺っている。
男は表情を変えない。どうせ弱って力を失くしたようにしか思っていないのだ。
仕掛け時ならば、今以外に有り得ない。
しかし、ユウキの身体の前には、リリーナの右胸から突き出た《銃口》が、彼の左胸に狙いを定めている。当たり所が悪ければ終わりだ。
「ったく! しょうもねぇ遺言聞いちまったぜ。時間の無駄だ。じゃあ、きっちりあの世へ送ってやるからよぉ!」
刹那、リリーナの右胸の《銃口》が、轟音と共に熱と《銃弾》を炸裂させた。
銃弾は、無情にもユウキの左胸を貫いた。
「やった!! 奴を討ち……!」
アクバルⅡが、歪な笑みを浮かべようとした瞬時、絶大な水飛沫が、ユウキの浮かぶ位置から炸裂し、男を目掛けて、光線銃の如く素速い閃光が駆け巡った。
閃光は壮大な破壊力と速度を持ち合わせていた。
それはアクバルⅡの胴体を掠ったものの、威力の反動は、彼の右腕を根元から吹き飛ばした。
「う"ぉ"あ"ぁ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ……!! 痛ぇ"……!! 痛え"よ"ぉ"……こ"の"カ"キ"ィ"……!!」
「ぐっ……! あぁ痛でぇ……! くっそ……まぁ心臓は当たってねぇから助かったぜ……
へっ……! どうやら……ガンマンの早撃ちは……俺の方が素早かったみてぇだな……! いい断末魔だなおィ……! 願望達成だぜ……!」
「あがっ……ぐっ……! でめぇ……! あがっ……!」
腕を引きちぎられた右肩を押さえながら、アクバルⅡは船上で嗚咽し苦しでいた。
噴水のように血が吹き出して、白く塗装された船は、瞬く間に赤黒く染まっていく。
「はぁ……はぁ……まだ船は残ってるな……よし……奴を何とか引きずり落として……船を奪えば……!」
再度リリーナを抱き抱えながら、ユウキは意識が薄れるのを堪えて、どつにかして赤黒い船へと近付こうとした。
その刹那__
『『ユウキィ!! 聞こえてるかァ!? 死にたくなかったら船に乗るなァ!! 少し離れてろォ!!』』
遠方から拡声器の声が水上に響き渡る。
西の方角、島が見える方向からだ。
ふと、ユウキそちらに目を向けるや否や、視界が潰される程に眩い光が照りつけ、絶大なエネルギーを速度でこちらに接近する。
「あれは……! 《メガ粒子砲》!? キルトか!?」
「……何っ……!? 馬鹿な……!! ロエスレル様………っ!?」
アクバルⅡは、それに気がつくのが遅すぎた。
絶大な熱と破壊力を纒った《メガ粒子砲》は、秒速の速さでユウキ達の10m先を擦れて通過し、瞬く間にアクバルⅡと小型ボートを丸呑みにして消し去った。
《メガ粒子砲》が通過した場所は、熱湯と化した荒波が縦横無尽に掻き立てられ、ユウキ達の身体を揺さぶり弄ぶ。
「ったく……! 無茶苦茶だぜ……だが……助けてくれたのは……感謝……だな………あの……ブラック……上……司……」
熱い荒波に揉まれていたユウキは、薄れゆく意識の中で、遠方から近づく1隻の小型クルーザーを目に留めていた。
よく見えないが、船の先頭に人の立ち姿がある。
黄色いブレザーを纒って、巨大な《狙撃銃》を担いだ、同い年の少年らしき姿、髪は若緑。
その姿が一目見えたとき、ユウキの意識は途絶え、抱き抱えたリリーナと共に、そのまま海中へと沈んでしまった。
◇◇◇◇◇
「…………キ………ゥキ…………ユウキ! 目を覚ませ!」
耳障りな怒声が耳に響いて、ユウキは重い瞼をゆっくりと開けた。
どうやら、船の甲板の平らな場所で、横たわっていたようだ。
「……ぐっ……うぅ……あぁ……やっぱりお前か……ブラック上司……」
目を覚ましたユウキの前には、1人の美少年の姿があった。
黄色いブレザーと白いワイシャツ、黒のズボンと革靴を纒った格好は、同制服を着るユウキと共通点は多いが__
似ても似つかぬ相違点は、彼よりも高身長な背丈。
やや長髪かつ癖毛な質感の髪、細く鋭い瞳。双方はいずれも爽やかな若緑の色彩を持つ。
ブレザーに装飾された肩こそ、ユウキの金色とは違って、銀色であること。何よりもその美顔は、男性モデルやホストのように美しく整えられていた。
「フン! いい加減止めないか? その呼び方!
俺は学園の生徒会長兼理事長のキルト=グランヅェストだぞ。少しは敬意を払った扱いでもしたらどうだ?
解毒剤も飲ませて処置しなければ、2人共ここで死んでいたぞ!」
「解毒剤……? 処置……?」
ユウキは重い意識をはっきりさせながら、そのまま横たわった身体を見渡した。
ブレザーは羽織っているが、ワイシャツは脱がされていて、半裸状態の胴体や腕には、白い包帯が巻かれている。
どうやら、この少年キルトが手当てを施してくれたことには間違いないようだ。
「なるほど……それは感謝しないとなァ……てか……解毒剤って……? あれ毒じゃなくて『有害マイクロマシン』っていう人造の破壊兵器だろ……?」
「それを無効化できる薬品がちゃんとあるんだよ。『破壊防止抗剤』ってのがな。
この小型クルーザーは、〈軍〉の救命用の船だから、一通りの医療品は完備されている。しかし問題は……!」
キルトは、ユウキの横たわっている位置の左隣に目線を落とした。ユウキも釣られて目をやった。
「……リリー……ナ……!?」
目線の先にあったのは、全身の包帯と学生服を流血に塗られて横たえた、瀕死状態のリリーナ=フェルメールだった。
その容姿と容態は、敵の猛毒で苦しんだ最悪の状態から一向に変わらず、青白い肌は死体のように生気を失っている。
今は輸血や点滴の管、最新の携帯型人工呼吸器のマスクが繋げられ、辛くも生命を維持できているようだが、心許なく、長時間の維持は叶いそうにない。
ユウキは慌てて起き上がると、ぎりりと歯を食いしばりながら、脈の弱い彼女を覗き込んだ。
自身の怪我や容態など構うことなく、いの一番に彼女の身体を深刻に思う。
「……マズい状態だな。まずは一刻も早く〈マリューレイズ軍立病院〉に彼女を搬送することだ。
最も、負傷者を一時的に応急処置する程度しか積んでいないこの船の医薬品では、正直役に立たんがな……!」
「うっせぇな! 分かってるよ!! だったら海の真ん中でモタモタしてねぇで早く上陸を……!!」
「待てユウキ! 苛立つな! 問題は……もう1つある……!」
キルトが言った刹那、緑色の《ナノマシン・オーラ》が、彼の身体を包み込む。
鮮やかで幻想的なエメラルドグリーンに発光する《それ》。言わずもがな、彼は立派な《ギルソード使い》である。
「いでよ、俺の美しい《銃》……!」
キルトの唱えを皮切りに、《ナノマシン》は彼の右腕へ吸い寄せられるように集中し、瞬時に『武器』の形を形成して彼の《ギルソード》が完成する。
その形状、『対物ライフル』だ。中でもかなりの大型のそれ。
そのデザインは、旧西暦時代に、アメリカ軍やヨーロッパの軍隊で大量に生産され活用された強力なライフル『バレットM82』にかなり酷似している。
外観がそのまま開発に流用されたのだろうが、《ギルソード》なので、破壊力の差異は「異次元」と例えるのが相応しい。
「射抜け……!《熱炎奪取の破壊狙撃銃》……!!」
キルトはそう言って、実体化して現れたその《銃》を後方6時、上に40°の角度に合わせて構える。
すると、《銃》は使い手の意思に応えるが如く、先端の銃口から、膨大なる熱と火力、そして閃光のように眩しく輝く《ビーム粒子》を蓄積し増大させていく。
それに人の手が触れたならば、間違いなく溶けて落ちる程に。
「オ……オイ……!! 馬鹿……! お前それ、さっきの《メガ粒子砲》だろ……!! こんな近距離でそれ撃ったら、リリーナの容態に響くだろうが……!!」
「うるせぇ……! 黙ってろ……! 火力調整の加減はしてある……!」
ユウキが激を飛ばすも、お構いなしにキルトはその引き金を引いてしまう。
彼の大きな銃、《熱炎奪取の破壊狙撃銃》は絶大なる火力を蓄えて、耳が割れる爆発音と共に《メガ粒子砲》を炸裂させる__
銃口から上空へ、一直線状の白い《光線》が、瞬く間の速度で解き放たれた。
だが、ユウキが恐れていた程の威力ではない。
リリーナの身体を気遣って、キルトは反動の衝撃を加減したのだ。
「………仕留めたな!」
キルトは《光線》の先を見て、得意げに笑った。
すると、《光線》が撃ち抜かれた空の遥か彼方から、もう1つの爆発音が轟いて、小さな爆炎の花と灰煙の綿が2つ、広大な大空に小さく咲き乱れた。
「……あれを撃ったのか? キルト……」
「あぁ、あれは敵の『無人ステルス機』だ__!
同時に『ドローン』が2機も飛んでいたので、一緒に撃ち落とした。
いつ離陸していたのかは知らないが、ずっとお前達は大規模な組織から、付け狙われていたワケだ!」
キルトの言葉に、ユウキは少々身震いがした。だが、特別に驚くという衝撃は走らなかった。
「テロ組織全体でかよ……! だが確かに帰る道中に何人かに尾行されてはいたぜ!
俺達が片っ端から見つけだして、その都度《剣》でぶった斬ったり、リリーナが《遠隔攻撃》で仕留めたりしてたけどな……足りなかったのか………!」
ユウキは、己が力が及ばぬことを悔しがり、その視界を船の甲板に落として落胆した。
「気に病むことはない! 俺も予想していなかったことだ。苛立っても問題は解決しない。対策を立てるぞ!」
「対策ゥ……?」
「あぁそうだ。本来ならば、合流してから向かう予定だったのは国家軍事組織〈戴冠の女王軍〉の総司令本部だ。
奪取された《ギルソード》の収集データの献上と詳細の報告、そしてリリーナの怪我を、本部直轄の『軍医病棟』で、より念入りな治療が受けられるからな。
だが、あの〈革新の激戦地〉とかいう武装組織にここまで尻尾を掴まれたなら、跡を付け狙う害虫を本部まで持ち込むのは禁物だ。
とはいえ、このまま3人共に行動していたら、奴等からは目立ちすぎる。だから仕方ねぇが……!」
「……仕方ねぇが何だよ!? 言ってみろ!! どうせお前の意見って大抵は無茶な案か、俺が納得しねぇクソボツ提案だかんな! このブラック上司!!」
冷静かつ孤高の自信に満ち溢れるキルトに、ユウキは苛立って、気に入らんと態度で噛み付く。
「あァ言うさ。だが決定事項だ! 黙って頷け!
………ここで3人は別行動する。ユウキは俺と行動し、リリーナとは港で離別だ。
港に着いたら、リリーナは俺が手配する救急車に乗って、『マリューレイズ軍立総合病院』でそのまま傷を治療する。
『軍立病院』と『戴冠の女王軍〉総司令本部』は機密の地下通路で繋がっている。
緊急時には即座に兵を送れるから心配ない! 無論、救急車にも『特殊部隊』の護衛も数名手配する。
大怪我人を無防備には晒す真似はしない。
その間、俺とユウキは表の繁華街を通り抜けて、尾行に用心するべく、『本部』には向かわずに俺達の拠点に向かう。
『国家の切札』と呼ばれる、《ギルソード使い》育成機関、第6軍立精鋭学園〈グランヅェスト学園〉だ。
学園に立ち寄れば、そこは頼れる仲間が大勢いる。 追跡者を討ち取ってくれるだろうからな。
『総司令本部』の真所在地といった機密事項がバレることはない。
追手の襲撃、軍本部の特定、国家機密の漏洩。今から起こりうる最悪の事態から逃れるには、その方法の他はないだろう……!」
「……ちょっと待てよゴラァ!! ふざけんなよキルトてめぇ!!」
恐ろしい魔神のような形相を見せたユウキは、怒声を上げてキルトの顔面に迫り寄る。
掴みかかりはしなかったが、彼の顔との距離を寸分の距離まで接近して、ガンを飛ばす。
「……何だユウキ? 俺の決定に何処か不服か?」
「不服を通り越してキレるぞテメェ!? 何かの衝撃で頭でも打ったか!?
何で健全なお前と軽傷の俺を一緒にしておいて、重傷患者を1人手薄で危険な状態に晒すんだよ!!」
「あァ? お前こそ耳の鼓膜にダメージ受けたか? 話を聞いてろ!
俺はリリーナには『特殊部隊』の護衛兵を配置すると言ったはずだ!
相手の戦力も不明なまま3人で行動してたら、それこそ敵の相当な戦力に襲われて、余計な被害を俺達にも及ぼすことになる!」
「護衛2、3人程度でどうにかなると思ってんのか!?
あの襲撃犯達も然り、相手は《ギルソード使い》だぞ!? 確実になァ!!
それだったら、俺がリリーナに付き添って病院行ったほうがマシだろ!
敵の出方がヤバけりゃ、俺の責任で対処する!」
「……なるほどな、お前の意見は分かった。それで?
………お前の意見はどうだ? リリーナ……!」
「……っ!?」
意外な言葉に、不意を疲れたように面食らったユウキは、横たわっているリリーナに目をやった。
すると、彼女はすでに目を覚まして、自分達2人の話を聞いていたのだ。震える手で呼吸器なマスクを取り外し、ひゅうひゅうを細い息をしながら口を開く。
「……私は………キルトの………案が………いいと………思う……な……」
リリーナの言葉に、ユウキは驚愕して目を見開いた。
「お前……馬鹿言うなって……! そんな身体のお前を放置なんざできるか……!?」
「……ユウキ……さっきは……ありが…とう……助けてくれて……でも……ごめん……私を……街の……病院に……連れていって……くれるなら……1人のほうが……いい…………」
「何でだよ……! 分かるだろ……! そんなの危険すぎるって……」
「……だって………追われてるのは……私と……ユウキ……でしょ……?
軍の……病棟じゃ……なくて……普通の……病院なら……絶対に……他の人達が………巻き込まれ…ちゃう……
ケホッ………! ……ユウキ……私は……大丈……夫……大丈夫……だから……ごめん……キルトと……一緒に……後は…お願い……して……いい……かな……?」
青ざめて弱り果てた顔色で、リリーナはにっこりと笑って見せた。
ユウキは、己の悔しさを食いしばりながら、「分かったよ……」としか、言い返すことができなかった。
「リリーナ、悪いがそうさせて貰おう。本当はユウキも病院で手当てを受けるのが、最善なんだがな……」
「どうも! 俺の心配はいいって! さっきの毒物さえ消してくれたんなら、この程度の傷なんざワケねぇよ」
「そうか……さて、島が近づいてきたな。見ろよユウキ、マイホームがお帰りって迎えてくれてるぜ?」
キルトに言われて、ユウキは船の向かう前方に目を向けた。
ついに迫ってきたのだ。〈新都市マリューレイズ〉の姿が。
目の前に広がるは、500m級の巨大なビル群。この時代において、世界中を探し回っても指で数えるほどしか存在しない巨大都市の景観。
例えるならば、かつて西暦時代に繁栄していた。アメリカ大陸のニューヨークを呼ばれた都市が再現された、文明の再生と、人類の新たな希望を象徴づけるような、それ。
「……そういやキルト、お師匠様は元気にしてんのかなぁ……?」
「あぁ、軍の最高指揮官、ヴォルテール総帥だろ? お変わりなくお過ごしでいらっしゃる。それで、可愛い養子達に会いたいとも仰っていた。 今度、お会いしたらどうだ?」
「そっか、何日か後で落ち着いたら、またあの人とお茶がしてぇなァ……
俺とリリーナと3人で……」
近づいてくる都市の風景を見つめながら、ユウキは思い入れ深く微笑んだ。




