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新科学怪機≪ギルソード≫   作者: Tassy
1. 少年ユウキと闇社会の楽園 編
5/105

・マフィアの少女(3)


 

 男が告げた死の宣告に、少女ロザリアの血液は凍りついた。



 その直後、次から次へと、道の後方や路地裏から、機関銃やランチャーを担いだ、闇社会に携わる人間の風格をした男達が次々に集まってくる。



 やはり、ある者の服装はマフィアを象徴する黒スーツ、ある者は裸の上半身、顔、首周りにタトゥーを塗り染めていた__




「あの……どういうわけよ……! ていうか……〈ベルニーニ=ファミリー〉って……あの強豪ファミリーの一角よねぇ……!


〈ヴィットーリオ=ファミリー〉の掲げた『血の掟』では……マフィアはお互いに不利益な殺し合いは禁止だって……!!」




「あぁそうさ! だが、その掟がついさっき破られたんだよ!!


 うちの経営している莫大な収入源だった豪華客船『プレヴェザ号』がテメェ等に沈没させられたことによってなァ!! 分かるかァ!?」




「きゃ……!客船……!? ……何を言って………!」




「分かんねぇよなァ!? だったら確認は、あの世で取りやがれェ!!」




 男は一思いに怒鳴り散らし、即座にショットガンの照星(フロントサイト)をロザリアの顔面に突きつける。




 2秒と経たない間に2度目の銃声が響き、空中に舞った血飛沫は石畳の地面に飛び散った。ところがそれは彼女のではなく、男の左足から飛び散ったものだった。




「あぁ……! ……ぐっ……あァア………!!」




 男は嗚咽と断末魔を発して、その場に倒れ込んだ。



 一方ロザリアは、右手に金色のマグナムを構えていた。まるで動じていないかのように、凛とした姿勢と表情を保っている。



 どの道この男は、理由がどうあってもショットガンを炸裂させ、自分を殺すのがお約束だ。



 そう予測していた彼女は、スカートに隠したマグナムを急速に取り出し、使い慣れた手捌きで、銃使い顔負けの早撃ちをやってのけた__



 元々威力のあるマグナムが故、当然の如く、男の左足は無残にも粉砕されている__




「やりやがったなこのガキィ!! ぶっ殺せ!!」




 男達が憤叫し、銃を乱射しようとする。



 それをも見越したロザリアは、瞬時にマグナムをリロードさせ、さらに3発ほど火を吹かせる。耳を突く轟音と共に、弾丸は男達の顔や胴体に命中した。




「フンッ……! 何の話がさっぱりだけど……! マフィアの令嬢ナメるなよチンピラ共が!!」




そう叫んだロザリアは、構えたマグナムを下ろし、速攻で建物の路地裏へ駆け込んだ__




「追って殺せ……! ヘマやって俺らが殺される前に……!」



「オイ! 撃たれたヤツの処置なんざいい! 3人は表通りから回り込め!」



 彼女による被弾を免れた男達が、躍起になって銃を乱射しながら、路地裏に吸い込まれるように突入していく__




「もう何なのよ……! 何でこんな事になってんの……!? 今日は最っ高に厄日だわ……!」




 行きを切らして泣き言を叫びながらも、ロザリアは狭い路地裏を滑走する__



 背後から男達が弾丸を撒き散らして追うので、なるべく直線の道を避けて、短く複雑な道を選んで走っていた。



 ときには通りから通りを渡るように路地を移動し、人混みを盾にしながらも逃げていた。



 通行する人々は大きく騒いだが、街を支配するマフィア様の乱闘といえば、それだけで彼等には干渉のしようがない。


 それが裏社会の、暗黙の了解なのだから__




「あぁ……もうしつこい……!」




 曲がり角に差し掛かる際に、マグナムで反撃し追手を粉砕する。



 ロザリア自身はマフィアの娘でもあり、人生の中で命を狙われることも度々あったため、その場に対処するための護身術は心得ている。銃の扱いなど、知らないはずがない。




 先程ローツェからは、「外に出歩くときは、常に闇社会に携わる人間であることを忘れるな」などと言われたが、そんなことなど、彼女は百も承知のつもりだ。




 あの男がどれ程の経験を培ったかは知らないが、自分もマフィアの娘である以上は、血の掟や闇商売、殺し合いや制裁・見せしめ等、相応の現実というものは目視してきたのだから、その台詞を言われる事態こそが心外だ__




 むしろこの状況に陥った今になっても尚、その言葉に対する憤りや反論が、脳を駆け巡らざるを得ない__




 だが、ただ一つ腑に落ちないことは、なぜ自分が狙われているのか、この状況を作り出した事の発端である。



 ヴェルニーニ=ファミリーといえば、先程悪態を着かれた少年、ローツェが次期頭領として統治するマフィア組織だ。



 我がファミリーとは、永久の宿敵でありながら、シチリアの安泰を築くために、停戦規約が結ばれていた。それも『血の掟』などという絶対的な誓約を行使する程に__



 男達はつい先程、「自分達の経営する客船が撃沈された」と、確かに言っていた。


 もし本当のことなら父親の工作なのだろうか。


 いや、そうだとしたら、娘のである自分の身を危険に晒されるような失態など、絶対にしないはずだ__



 ならばそれは、相手方のヴェルニーニ=ファミリーによる自作自演だろうか。


 そうだとしても、一体何の為に、何を目的にそんなことをする必要があるのか。どうも仮説が立てられない__



 ロザリアは通りから通り、路地から路地へと逃げ続けながらも、事態の把握、そして状況の整理を試みる。



 後ろを振り返ると、さっきまでの追手はなんとか振り切ったようなので、少しばかりは考える余裕が生まれたのだ。



 とはいえ、考えるほどうんざりする内容でもあった。どの道、このような抗争の状況は、必ずと言っていいほどに闇の権力とその暗躍が関わっているのだから__



 工作であろうが、父の企みであろうが、全く知らぬ者の陰謀であろうが、そこで行使される権力の実態など、いくらマフィアの娘とはいえ、15歳にも満たない産な少女には、熟知する手段はない。



 マフィアなんて、ろくな連中じゃない__


  

 結局のところ、どうしてもその考えを拭いきれないでいた。




「……追手は……うまく撒いたかしら……?」




 走り回ってすっかり過呼吸になっていたロザリアは、思わず座り込んだ。



 気がつけば、旧大聖堂カッテドラーレからも新旧市街からも、随分と遠くなってしまっていた。




 闇雲に逃げ回るつもりはなかったが、日の射さない、薄暗い路地ばかりを狙って走り回っていたともなれば、多少の方向認識が混乱するのも無理はないのだろう。



 何しろ逃げるこちらは命懸けだ、贅沢など言えない。




「ハァ……ハァ……とにかく……ここまで来れば……アイツ等は……」




 狭い空間の中、安堵のため息をついて立ち上がった。



 刹那__




 背後から銃声がなり響く__





「がっ……あぐっ……!!」




 左足に激痛が走った__




 痛みに耐えかねて嗚咽を漏らし、ロザリアは前のめりに倒れ込む。



 即座に左足を確認すると、お気に入りのロングブーツが破れ、裂け目から血が吹き出ている。



 銃で撃たれたのは明確であるが、幸いな事に、先ほどのマフィア達のように、脚部もろとも破裂したわけではなく、かすり傷で済まされたのだ。



 ゆっくりと上体を起こしつつ、周囲を警戒すると、一つの腑に落ちない疑問点を抱いた。



 いや、それは現実的に考えても、非常に不可解な事態であった。




「……えっ? 追手が見えない……私を撃ったの……誰……??」




 妙な事に、光も満足に射さない、薄暗い路地裏のそこは、マフィアの追手どころか、通行人の姿の一つさえも見当たらない__



 追手が優秀な狙撃手でも雇っているのなら、ただ走り回るだけの標的を仕留め損ねるような間抜けなど、絶対にしないだろう。



 そもそも、ここは日差しさえ乏しく、人が1人か2人通るのが限界な程の、狭き路地裏の小道である。



 余程の人間場馴れした視力を持った狙撃手でない限り、標準を定めることは不可能なはずだ。



 一体誰が、どのようにして狙撃したのだろうか__




 再度銃声が響くと同時に、焼けるような激痛と流血する感触が、今度は右腕に走った__




「う゛……!! ぐぁぁ………!!」




 どうやらか、今度は掠った程度ではなく、腕には弾丸が直撃してしまったようだ。



 苦痛のあまり、顔を歪め涙と汗を滴らしながら、そっと顔を上げた途端、あまりにも非現実的な光景が視界に飛び込んできた。




 ベレッタ型拳銃の《銃口のみ》が、建物の壁から突き出し、顔を出している。



 節穴一つ無いはずそこから、まるで植物が生えているかのように__





「えっ……? 何? 拳銃が埋まって……えっ? ……生えてる……の?」





 一見、その建物の壁には、拳銃を通すための差し込み口でもあるのだろうかと思ったりもしたが、その銃口は紛れもなくその壁と同化していた__


 埋め込まれているように__


 いや、そこに寄生し根を張って生え出ているように__



 目を凝らして銃口の根元を見ると、何やら水銀のような、輝かしくも純潔とはいえぬ煌めきをした銀の《光の粒子》が、そこから大量に涌き上がっている。



 ロザリアは思わず唾を飲み、恐る恐る周りの壁を見渡した。そこに広がる非現実的な光景には、この上ない恐怖を身体に植え付けさせた__



 彼女を囲っている建物の壁には、同じような《銃口(じゅうこう)》が顔を覗かせていた。



 まるで『寄生植物』の如く突き出して、無数にその場を覆い尽くしている__




「いやぁァ!! 何!? これ……気持ち悪い……!」




 彼女は、顔を歪めて肩を震わせた。



 それはマフィア同士の抗争などとは全く別物の、今まで経験したことのない、得体の知れない恐怖で彼女の心は染まっていく。





「いたいた~! そこにいたのォ~!? お嬢ちゃん〜!?」




 

 背後から、一人の男性の影が忍び寄る。 



 身体の震えを押さえながらゆっくり振り向くと、黒いスーツを纏ったマフィアの姿があった。




 それは、先刻大通りにて、自分の放ったマグナムで左足を潰された、東洋人の男だった。



 足元に血溜まりを作り、左手で鉄製の狙撃銃ライフルを杖替わりについて、傍の壁にもたれ掛かっている。




 右手には、ベレッタ型の拳銃を握っている。それは両側の壁を苔のように覆った《銃口》と、形状は全く似ていた。


 


「……よくも俺の左足をォ……! だがさっきの発砲でお前の左足も血が滲んでやがる……! 人の痛みってなァ自分の身体をもって知らねぇとなァ……!」




 男の表情はひどく不気味だった。悪魔のような微笑みの形相をそっと浮かべたそれは、憎悪と侮蔑だけを感じさせた。




「そうだよなァ……? 派遣先の雇い主との人情もあってやむを得ないが、やっぱ俺にマフィアの真似事は柄じゃねぇ! 俺は誇りある『兵器』だ! 殺せと言われた奴を、何も考えずに殺すだけよ!」




 ロザリアは、躊躇せずにマグナムの銃口を男に向けた。恐怖よりも衝動的に体が動いていたのだ。




「……この化け物!! さっさとくたばれ……!!」




刹那に叫んでマグナムの銃口を向けた瞬間、彼女の思惑は崩れ去った。




 周りの壁中に寄生した《壁の銃口》から射撃されたのか、幾つもの銃声が耳を打つように鳴り響いた。



 気がつけば、右手に構えた金色のマグナムが、突如微塵に砕けて無惨にも彼女の膝元に散らばっていく。




「うっ……嘘……私の……マグナムが……!!」




「ウッハハ! 敵うワケがねぇんだよ! そんな不純物で構成(つく)られた玩具(おもちゃ)!! この《増殖の(インクリーズ)小型拳銃(ハンドガン)》の前じゃ木端微塵ってワケだ!!」




 狂気に満ちたような目つきで、男はロザリアを見下して嘲るように笑い、右手に持っていた《光る小型拳銃ハンドガン》を、彼女の額にそっと近づけた。


 

その瞬間__



 向けられた拳銃が、見る者を唖然とさせる怪奇現象を引き起こしたのだ。



 両側の建物に取り付いた《壁の銃口》と全く同じように、銀色に発光した浮遊粒子が、拳銃全体から沸き出して、男の右手ごと包み込んでいく__



最早、普通の武器ではない事など、火を見るもより明らかだ。




「分かるかぁぃ? か弱いお嬢ちゃんよォ……! 俺には《この銃》があるんだよ。コイツはなぁ、今その辺に寄生虫みてぇに生えてるピストルの親玉つーか、製造元なんだよ?


理解できねーだろ? 理解しなくていいんだぜ? ここでお前死ぬんだからぁ……」




もう彼女には、先ほどの威勢などなかった。


 人の手で殺されるのではなく、悪霊や怪物に身を食い荒らされるかのような、誰もが感じ得たことのない戦慄が、彼女の身体を駆け巡っていた。





「さーて? 勿論のこと覚悟はできてるんだろうねぇ? お調子ぶっこいて、この俺様をコケにしてくれた罪……蜂の巣の刑にて償って貰おうかァ……!!」




 男がこちらへ、ゆっくりと歩み寄った。次の瞬間__




「__あったぜキルト! まさか探すのに手間暇掛かりそうなブツが、こんなあっさり見つかるなんてなァ! 意を決して、敵陣の中枢に踏み込んだ甲斐があったぜ!」




「あぁん!? オイ誰だ!?」


 


 唐突に少年らしき声が、通路を挟んだ建物の屋上から聞こえた。


 男が威圧をかけて返事をするや否や、少年の影はそこから飛び降り、重力の反動を利用した懇親の蹴りを、顔面目掛けてお見舞いさせる__




「うがっ……お“……!!」




 男は鼻血を噴き出しながら、蹴りの反動で車輪のように後方に転げ回るという、大胆な転倒を見せた。




「……えっ? ……何? ……今度は何なの……?」




 ロザリアは、目まぐるしい状況の変動に混乱していたが、それでも少年は察することなく、あろうことか彼女を姫君のように抱き抱えている。



そして驚異的な身体能力で、両側の壁を蹴って二段、三段と反転飛びをして見せたのか、いつの間にか、建物の屋上に辿り着いていた__



日向の光に照らされると、彼の姿がはっきりと映し出された。



 赤紫の髪と瞳に、軍服のような金の肩章が飾られた黄色のブレザーコート、黒いズボンに黄土色の運動靴を纏った、まるで自信と余裕に満ちたような、やけに涼しげな笑顔をしている。




「このガキィ……! 大した度胸と根性してんなァ……!」




 男は赤く染まった鼻を押さえながら、むくりと起き上がって屋上を見上げた。無論その表情に笑顔はない。険しく殺意に満ちたそれである。




「お前……俺に喧嘩売ったってことはよォ……!! 恐怖のドン底を前にした命日を迎えたぜぇ……!?」




「そうかよ!? どうでもいいわボケッ! とりあえず、アンタが持ってるその《兵器》、うちの国の国家機密なんだよ! 悪いが取り返しに来たぜ!?」




 男と少年、双方が放つ『殺気』とでも言い表せられるような威圧感は、マフィアどころか人間のそれではない。



 少年に抱き抱えられたロザリアは、それを感じて震えていた。



 この光景は、かつてない乱闘や騒動が、このシチリアで起こる凶兆を示しているのではないだろうか。




 ロザリアは頭のどこかで、そんな予感を走らせていた。






 


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