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新科学怪機≪ギルソード≫   作者: Tassy
2. 少女リリーナと戦乱の女兵士 編
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・平和の遠い世界で(2)




 大量の血を流す親友リリーナの惨たらしい姿を前に、ラティファの精神と理性は急速に蝕まれていく。




「嫌………嫌……嫌……リリー………ナ………」



 

 差し伸べた右手は、感覚が麻痺したかのように、弱々しく震えている。




 すると、その背後からは、1人の若々しい男性の声が、ラティファの耳に飛び込んだ__



 彼女にとって、実に聞き覚えのある。それ__




「ラティファ……! 生きてて何よりだ……! もうとっくに死んでたのかと思ったからなァ……!」




 まさかとは思った……



 恐る恐る振り返ると、目に映ったのは、昨日の朝から行方不明になっていた〈自由軍〉の部隊長、イザールの姿だった。





「どうして………リリーナを……撃った……の………? リリーナは命を懸けて………私達を……助けて……くれて……」




「……何言ってんだお前!? 俺は伝えたろうが!? コイツは信用できないって……!?


 〈旧政府軍〉に地下壕の位置がバレたのだって、きっとコイツが裏で手を回してやがったから……!?」




 そう訴えるイザールの瞳は、何故だかラティファとの視線を合わせていない。


 


 __酷い違和感を、ラティファは痛感した。



 自分を助けたとは言うが、本気で仲間を案じるような様子ではない。そう思えて仕方がなかった__



 今、話している彼の言葉さえも、まるで嘘のように、重みのない、空っぽなそれに聞こえてしまう。



 ふと、イザールが右手に持っていた拳銃の銃口に目をやった。




 直感は確信へと変わっていく__



 構えられてはいないが、その銃口の先は、自身の左胸、心臓に向けられているように見えた__



 思えば、あの時にリリーナが押し倒すことがなければ、銃弾に倒れ血を流していたのは、間違いなくラティファ自身である。





「さぁラティファ……! みんなの元へ帰ろうぜ……!」





 平然と自身に歩み寄るイザールだが、彼に握られた銃の照準は、彼女の左胸から逸れることはない。




 ラティファはすぐに身の危険を察した。同時に、全ての真相をも察することができた。




 裏切り者の存在を__




 民衆を死の淵に追いやった張本人の正体を__





「くっ……来るな……!!」





 イザールとが2m程の至近距離にまで歩み寄った刹那、ラティファは即座に、胸元に隠した拳銃を突きつけた。刹那__





 __再び銃声が轟いた。その引き金を引く間際に。





「ぐっ………!! あ″ぁ………!! い″や″あぁ″ぁ″……!!」



 

 右腕から鮮血を撒き散らしながら、ラティファは、精神を引き裂かれるような激痛に悶え嗚咽した。




 赤黒い空洞が空いただけでなく、押さえつける左手も、真下の大地も、みるみる赤い液体に染められて濡れていく__




「………クソガキが感づきやがって……! テメェ等さえ消しちまえば! 俺は暴君から国を救った英雄として未来永劫崇められるんだよ……!


 別に武装組織〈革新の激戦地(ヴェオグラード)〉が〈旧政府軍〉を乗っ取って、国を支配してくれてもよかったがよォ……!


 結局はその女のせいで! 俺の目論見は丸潰れになったからなァ……!!


 畜生ォ……!! 何でだよ……!! 俺は散々……窮屈で死にそうな地獄に幽閉されてたんだぞ……!!


 アフメドもお前も……いつまでも人道だの正義だの言い訳にグズグズ行動に移さなかったよなァ……!!


 何年も何年も……〈ゴミクズ共〉に蹂躙されて虐げられて……! クソ味のような辛酸を味わってきたんだよォラァ……!!」





 極限なる欲求不満に支配されたイザールは、その苛立ちの儘に、ラティファの顔を蹴り上げる__





「がっ……! げほっ………! ごほっ………!」





「……俺はなァ……! そんな惨めな人生を送らされてきたんだァ……!! なァオイ……!!


だからお前の最期になァ……? 俺の頼みを聞いてやってくんねぇかァ……!?


 お前の屍をよォ……! 俺の踏み台にさせてくれよなァ……!?」





 顔から滴る鼻血と口血を左袖で押さえるラティファに、イザールは狂った笑顔を見せ、彼女を撃った拳銃を、その額にしっかりと定めていた。

 


 この至近距離で、確実に外さないように__





「ハァ……ハァ……!! この……最っ低のクソクズ野郎……!! お前は今まで……良い同士だと……思ってたのに……!! 子供達だって……!! 父さんだって……!!」





 顔から滴る流血を拭いながら、ラティファは怒りと憎しみを込めて、イザールの目をぎっと睨みつける。





「死人にどう思われたって構いやしねぇよ……! 俺は最初からお前が嫌いだったぜ! ラティ…………………っ!!?」





 彼がその引き金に、指を当てようとする寸前__



【グチャ……!】




 __と、イザールの胴体を、1つの刃が貫いた。





「あ″…………ぉえ″ぁ………………!」





 血塗れになって、もがき苦しむイザールが、不意にくるりと回って背中を見せると、1本の大きな《槍》が、彼の背中に深々と突き刺さっている。




 その形状は、ラティファの記憶に鮮明に焼きついたものだった。



 紅色の、ツツジの花を象った《それ》__



 地下壕で少女が《人形兵器》に殺される寸前、リリーナが宙に放って彼女を救った《紅花の槍》__





「……ズィ………《創造する(ズィミウルギア・)……………脳操槍剣(ブレインセイバー)》……………」





 ラティファの後ろで、呻き声のように呟いた、リリーナの微かな声が聞こえた。




 やはりそうだった。振り向けば、彼女は血の海に囲まれながらも、這いずってイザールを睨んでいる。




 遠隔操作だろうか。どういった原理で、彼の背中に突き刺さったのか分からないが、そんな事はどうでもよかった。



 瀕死の重傷にも関わらず、あれだけ酷い仕打ちをした自分を助けた行動に、ラティファの目からは涙が零れ落ちる。





「……がはっ………ぐぞっ………死″に″た″く″ね″ぇ″……!」




 __かちゃりと、鋼鉄の落下音が響く。


 


 刃が刺さって衰弱したイザールは、腕の筋力が失われて、右手に持った拳銃を落としたようだ。




 __瞬時に見逃さなかったラティファは、すかさず駆け出してその拳銃を取り上げ、彼の眉間に、確実に、照準を定める。





「あ″ぁ……ラ″テ″ィ″………フ″ァ″………!」





「……さようなら。腐った私の元上官! アフメド父さんによろしくね!」





 彼女がそう言い残した直後、1つの銃声が轟き、イザールは血飛沫を散らして朽ち果てる__




 気がつけば、手が勝手に動いていた。



 いつかの夜中、リリーナの手錠を外した時と同じような感覚__



 直感的にその行為は正しい判断だと確信し、そのことに後悔はない。


 そんな感覚を、ラティファは再び感じ取っていた。



 だが……




「…………リ………リリー………ナ……?」





 彼女の感覚は、即座に現実に引き戻された__




 背後で苦しみ呻いていた、リリーナの声が聞こえない。息をしている気配さえ感じられない。



 最悪の予感が脳裏を(よぎ)る__



恐る恐る振り返ってみれば、脇腹に銃創を空けられ横たわっていたリリーナは、すでに生気をなくし、全身は蒼白としていた。




「リ……リリー……ナ……? リリーナぁああぁぁァァァァァ………!!」




 ラティファは喉を枯らして叫びながら、一目散に彼女の元へ駆け寄った__



 赤黒い血液の海によって、彼女の周囲は隈無く覆われた彼女を、ラティファは腕の傷をおして抱き上げる。



 青白く染まった肌色は血相を失い、辛うじて心臓は動いているが、呼吸音は聞こえない__





「あぁ……あぁああああ……!! ごめんなさい……ごめんなさい……!!」




 ラティファの理性は壊れ、冷静な思考力は完全に麻痺してしまった。



 血液が流れ出る傷口を抑えるも、周囲に生きた人間は見当たらず、助けさえも呼べない。


 地下壕までの距離は、ここから走っても2時間程。そんな時間など、彼女に残されているはずがない。



 絶望的な状況であった__





「ごめんなさい…… ごめんなさい…… 私……貴女に……何1つできないまま……! すごく酷いことを言って……挙げ句の果てに貴女をこんな……殺す……なんて……」




 涙で顔を濡らしたラティファの心は、次第に深い闇に飲まれていく。やがて、失意と後悔に胸の内を支配されていく。



 心優しい少女の絆を裏切り、死の淵に追いやった。罪深き己の非道__


 

 少女が背負うには、押し潰される程に重い十字架__




 それを背負って生きるのだ。ラティファは、そう覚悟した瞬間だった。


 

 __間もなくして、周囲から生きている者の声、それも、1人の少女の無邪気な声が、突如として耳に飛び込む。






「はぁ~! 何なのよヴィザロの奴! 自分はアクバルのヘタレとは違いますぅ~とかほざいてた癖に……! 結局は同じ末路辿ってんじゃん!?


 いつの間にか、イザールのヘタレ野郎も死んでるし、だっさいわ〜!」




 

 正面から聞こえてきた。


 

 慌てて前方に顔を向けば、黒ずくめのマントで身を覆った奇妙な少女が、こちらへ近づいてくる。



 その少女の容姿とくれば、見れば見るほど異様なものだ__


 その手足や頬、首筋、漆黒のマントから覗く浅黒い肌には、藍色のトライバル模様をした刺青が、目立つように張り巡らされている__



 一体、誰がどのような目的で、少女をこのような身体に変えたのか__?




 

「あら~お嬢さん? アナタ生存者ぁ? よくこんな地獄の乱戦地域で今日まで生き延びたわねぇ~!


 私の名前はグレーネス=ディズレーリ、一応ね? 国際テロ組織の幹部やってるんだけど~♪


 ねぇ~♪ その手に抱いてる~灰色のブレザー来た死にかけの女の子♪ こっちに渡してくんない?」






「は……はぁ? 意味の分からないこと言わないで!? 見て分からないの!? こんなに大怪我して血を流して瀕死状態で……!!

 

 一刻も早くも救助しないと命が危険なのよ!? どうして平然と見ていられるの!?」

 

 


「まぁ~気持ちは分かるんだけどさ~? こっちも事情ってのがあんのよねぇ~? 可愛いがってこき使ってた部下がお世話になってたし~? つーか死んだし?


 その上司としてはさ? 報復(御礼)はしなきゃいけないでしょ? 分かるわよね~?♪


 ねぇ? アンタは別に悪いようにはしない予定だから~♪ その女の子だけ引き渡してよね~♪

 

 つーか、渡さないと殺……!」





 不気味な程に無邪気な様相で、少女ディズレーリは、リリーナを目掛けて、その右手を差し伸ばした刹那__





「………お断りだっての!!」





 ラティファは即座に拳銃を突きつけ、ディズレーリの眉間に照準を当てる。




 取り戻した彼女の理性と判断力が悟ったのだ__


 この刺青の女は危険すぎると__



 リリーナだけではない、放っておけば、地下壕の仲間や子供達にまで危害を加えるに違いない。


 論理的には説明はできない、彼女の『感』がそう囁く。



 過酷な戦場で彼女自身を守ってきた、数多の経験と判断力が生んだそれ__





「やっぱりアンタからは危険な匂いがする!! 今まで私が戦ってきた、どんな敵兵士やゲリラよりも!! 一層残虐で禍々しい匂いが………!!」





「へ~? かっこいいわねぇ~! 如何にも歴戦を生き延びた戦士の直感って感じ♪


でもさぁ~?《()()()()()()()》に拳銃なんて向けて……無知な命知らず♪」





「…………へっ?」




 刹那、少女ディズレーリの姿が忽然と消えた。



 同時に、ラティファは自身の右手にも違和感を覚えた。傷を負ったとはいえ、まだ感覚は確かなはずだ。



 ふと見れば、驚愕される__



 握っていたはずの拳銃が影も形もない。あるのは、まだ鮮明に動く五本指だけ。





「ほ~ら遅~い♪ 反射神経と運動神経は、そこら辺の人間の域を出ないわね~?♪」





 ディズレーリの声が、すぐ真後ろから聞こえる。



 慌てて振り向けば、自身が握っていたはずの拳銃を、彼女が自慢げに手に持っていた。





「そんな……!? 私が持ってた銃……!!?」




「丸腰相手に銃持ってれば有利……なんて思ったの? 思い上がんな雑魚がっ!!」





 この怒声の直後、ディズレーリが見せた異常な光景に、ラティファは絶句して目を見開いた。




__鋼鉄の拳銃が握り潰されていく。


 少女ディズレーリの華奢な片手で、まるで軟体生物でも握り潰すかのように__




 よく見れば、彼女の握った掌の隙間から、微かな赤い《ナノマシン》が仄かに光り輝いて顔を出す。


 

 まるで妖精のような光の結晶、その集合体が、ふわふわと湧き出して消えている。


 その時点で、目の前の超常現象の全てに説明がつく。





「私達、《ギルソード使い》の身体には、常に《ナノマシン》が周囲に纏わりついているの!


《ナノマシン》には《物体破壊作用》ってのがあるから、ちょっとの力で鋼鉄のダンベルもスライム同然に潰せるってワケ!!」





傲慢と黒い殺意に満ちた狂気の笑顔を見せつけて、ディズレーリは粉々に粉砕した拳銃の屑を荒野の地にばら撒いた。






「そんな…… こいつも……《ギルソード使い》………? 嫌ァ………父さん………」




「さ〜て!! そんな《ギルソード使い》相手に、チャカなんて向けちゃったアンタはもう終わりよ!!

 

 私に刃向かった事……!! 後悔させながら死なせてやるわ!!」





 ついに殺意を剥き出しにしたディズレーリの右腕が、その頭上に振り上げられる__



 腕は、赤い《ナノマシン》によって覆い尽くされ、そこに一種の『オーラ』が形成されていた。


 拳銃と同じように、その《力》で人体までも粉々に砕き、肉片まで細かく握り潰すつもりだろう__





「……リリーナ……みんな……ごめん………」





 死を覚悟したラティファの目から、一滴の涙が荒野に零れ落ちた。その刹那……






「…………悪夢魔の裂く鉤爪 (ナイトメア・ファング)!!!」





 少年らしき者の怒声が、猛々しく響くや否や、ディズレーリの頭上から人間らしき影が現れ、彼女目掛けて大きな鉤爪のような刃を振り翳す__


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