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新科学怪機≪ギルソード≫   作者: Tassy
2. 少女リリーナと戦乱の女兵士 編
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第18章 平和の遠い世界で(1)



◇◇◇◇◇◇◇





「………姉ちゃん……! ラティファお姉ちゃん………!」





 幼くあどけない少女の声が響いて、ラティファはふと目を覚ました。




「……ぁれ……ミーナ?」



 

 少し霞む視界で見上げれば、幼い少女ミーナが、隣に座り込んで深刻そうな表情でこちらを見下ろしている。



 気がつくと、何故だか自身は、地下壕の奥底にある隠し部屋、《超兵器の聖母体(ギルソード・マザー)》の保管場所の中で、地べたに直接寝転がっていた。



 この場所で、倒れていたのだ__





「うぅ……よかったぁ……! お姉ちゃん、ミーナが探してたら……ここで倒れてて……! 揺らしたのに起きてくれなくて……どうしようって……ひぐっ……!」




「なっ……泣くなって……! ほら……お姉ちゃんはどこも怪我してないし……! そっか……心配かけて……ごめね……?」




 ラティファは、ぐずりだすミーナを宥めようと、慌てて上半身を起こし、右手を伸ばしてミーナの頭をそっと撫でる。



 同時に、気を失う直前の事を、脳内の記憶を辿って必死に思い出そうとする。



 その記憶は、思いのほか鮮明に憶えていた__





「……そうだ……! 確か、あの時リリーナに会って……!」





 ラティファは、ふと左手で自身の首のうなじをそっと押さえた。この部位を殴られた感触が残っている。


 そして……




【これは私達が起こしたこと、私が追わなきゃいけない責任。もうこれ以上貴女達を巻き込みたくない……】





 最後に彼女から聞いた言葉、それが瞬時にラティファの脳裏を迸った。





「ねぇミーナ! リリーナを見なかった……!?」 




 

 頭を撫でていた優しい右手は、突如ミーナの右肩を強く掴み、揺さぶる。





「えぇ……? いや……いないよ……? いなくなってから……ずっと帰ってきてないよ……?」





「そんな………リリーナ……!!」





 ラティファは、急に飛び上がるように立ち上がって、そのままミーナを放置して隠し部屋を飛び出した。





「あぁ……待って!? ラティファお姉ちゃんどうしたの……!?」





 慌てて混乱するミーナの声は、すでにラティファには届かなかった。




◇◇◇◇◇




 地下壕マンホールの梯子から地上に駆け上がると、そこには避難民から〈自由軍〉の兵士まで、錚々たる人数が外に出て、何やら遠くの景色を眺めていた。





「何じゃ……!? あれは……!?」




「まさか〈旧政府軍〉の攻撃……?」




 民衆はどよめいていたが、ラティファの位置からでは、人集りに遮られていて見えなかった。





「あの……! すみません……! 前を通してください……! すみません……!」




 ラティファは人集りを掻き分けて、なんとか最前線に出てその景色を見ることができた。



 だが、その光景に愕然とした__



 目に映ったのは、遠方の空を覆い尽くす硝煙の雲。



 3マイル先なのでよく見えないが、その下の位置には、赤く染まる劫火の炎が、少し顔を出していた。




 

「まさか……敵の爆撃なの……?」




「いや……それにしてはおかしいぞ!? 何故ここまで攻めてこない!?」




「夕べ、誰かが敵に特攻した話は聞いたが、あんな光景になるような戦力ではないぞ……!?」




 ラティファは、民衆の声を耳にして、今度は悪い予感が脳裏をよぎった。




「……まさか………そんな………! ……リリーナ…………!」





 そう口走った瞬間、彼女の足は勝手に走り出していた__



 本能が命じたのだ。すぐに駆け出せ。あの少女の安否を確かめよと__

_



「おい………! ラティファどこへ行く……! 危険だぞ戻れぇ!!」




ある男性の静止する声が確かに聞こえたが、すでに彼女の思考は立ち止まることを拒んでいた。




◇◇◇◇◇




「ハァ……ハァ…………! リリーナあぁ……! リリーナあぁあ……!!」





 荒い息を切らしながら、彼女は必死に荒野を駆けていた__



 すでに1時間以上も走ってはいるが、兵士として鍛えられたラティファは構うことなく、平然として脚を止めない。





「ごめんなさい…! ごめんなさい……! 私……貴女に……なんて酷い事を……!」





 彼女の目から、大粒の涙が零れていく__


 

 必死に駆けていくにつれて、少女リリーナに放った冷酷な言葉の記憶が、一語一句蘇ってくる__





【そんな綺麗事を抜かすならアンタが戦ってみろ……!! 私の代わりにあの大軍に向かって玉砕覚悟で戦いなさいよ……! できるものならさぁ……!!!】





自分達を守るために、その身に変えて戦う。そう覚悟していた少女に投げつけた愚かな言葉、そして行為。




「私………貴女に……死ねなんて………! ごめんなさい………!」


 


 ラティファの思考は、後悔で溢れていた。




 できるなら、彼女の目の前で、自らを罰してやりたいとさえ思っていた。




◇◇◇◇◇◇◇




「そんな……! ……これ……は………?」




 地下壕を出てから、約2時間半の事だった__




 地下壕の前から見た巨大な『硝煙の雲』が、目前に迫る距離にまで、彼女はやっと辿り着いた。




 その地獄絵図に、ラティファは絶句し、硬直する。




 見渡せば、辺り一面は劫火の海__



 周囲のあちこちで焼かれる鉄屑の残骸__



 硝煙に混じって放つ異臭は、血肉や油、不純物が焼け焦げるようなそれ。有害物質も発生しているだろう。





「まさか……これ……リリーナが………やった……の……?」





 何かの冗談だろう。そう考えてしまう心境が、未だにラティファの胸の奥底にはあった。




 だが、目の前の惨状は、嘘などつかない。




 ラティファは思い知った。《ギルソード》の恐ろしさを__


 


 《それ》がもたらす惨劇と凄惨な現実を__




 そして、自分達手に入れようとしていた《それ》の正体を__

 


 



「………そ……そうだ………リリーナは………? リリーナはどこ……?」






 ふと我に返ったラティファは、走り疲れた棒の脚を動かし、必死にリリーナを探して彷徨い始めた。




 だが、すぐにその姿は見つかった。最悪な姿で……




 ラティファが立っていた位置から70m程離れた正面に、リリーナは倒れていた。 






「リリーナ……! ……アンタ無事で……………っ!!?」





 思わず声を上げながら、彼女は慌てて駆け寄った。




 だが、横たわるリリーナの悲惨な姿を見て、ラティファは深く絶望した__

 



 破片の刺し傷、爆風・爆炎による裂傷で全身は覆われ、右腕は火傷で赤く染められ、手足と、腹部は無数の風穴が空けられ、その額から足元まで、尋常ではない程の血が流れ出ている。




 可憐なブレザーとスカートは焦げ目と血痕で覆われていた。




 当然、意識などなかった__




「いや……! いやァ……!! いやぁぁあぁぁァァァ!!リリーナ……!! しっかりして……………! 目を……開けてよォ……!」





 眼球から洪水の涙を流しながら、ラティファはリリーナを抱きかかえて絶叫した__



 最初の1回では目を開けなかったが、強く揺さぶり、感情のままに悲痛な叫び声を上げるうちに、その目蓋を重々しく震わせながら、ゆっくりとそれを開く。





「…………ラ…………ティ………ファ………?」





 耳を傾けないと聞こえない程の微かな声で、リリーナは彼女の名を呼んだ。





「リリーナ………!? 生きてる………!? 生きてた…………! いや……よくない………! 早く病院に行かないと………!早く………!」






 ラティファは、急いでリリーナの身体を抱きかかえ、地下壕の方角へ駆け出そうとした__ 



 刹那__




「ラティファ……! 駄目………!」




 突如として、抱きかかえられたリリーナが、重い傷をおして、力いっぱいにラティファを押し倒した。



 予想だにしない行動だったので、無論、無抵抗にラティファは倒れゆく。




 次の瞬間……




 1つの銃声が、劫火の海に響き渡った……




 重々しく轟くそれが、強く耳を打つと同時に、ラティファの視界には、自身のではない。彼女の血飛沫が映る__




 __倒れ込んだ直後、宙に投げ飛ばされたリリーナの身体が、その後ろで強く地面に打ちつけられた。





「リリーナ……! どう……し……? ……て………!?」





 即座に起き上がり、驚いた目を少女に向けた瞬間、放心したように、ラティファは凍りついた__




 押し倒された理由など、理解するのは容易だった。


 リリーナの脇腹に銃創が空けられ、赤黒い血液の沼が、どくどくと荒野の地に広がっている。

 




「あぁ………… リリーナ………! リリーナァァァァァァ……!!」


 


 

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