表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新科学怪機≪ギルソード≫   作者: Tassy
2. 少女リリーナと戦乱の女兵士 編
41/103

・《ブレイン=ギルソード》(3)




『さ~て! 貴方様方の兵器には、私の能力である《融合造形の(コンバインモールド・)施工具(トールズ)》によって、《対ギルソード仕様》に『強化改造』してありますから!


 もう、一思いに焼き払いなさい! 我が祖国への忠義、その力と戦果で示して見せよ!!』





『『うぉあアアア!! 全部隊!総攻撃開始ィ!!』』





 無線から発せられるヴィザロからの指示と同時に、戦車から姿を変えた《起動兵器》の一斉射撃がリリーナに襲い掛かる。



 無限無数に広がる弾幕の嵐は、何も全てが銃弾ではない__




 《戦車機動兵器》の胴体に装備された《キャノン砲》からは、本来、旧西暦時代には無かったはずの《高熱粒子弾(ビーム)》までも放たれている__




『まずいぞ……!《ギルソード》が関わった兵器が、これだけの数となれば、流石にお前1人では……!』





「静かにして……! 集中できない……!」





 必死にビーム砲を避けるべく、リリーナは全速力かつ高速蛇行で、熱弾の雨を駆け回る__


 するとリリーナは、携える《創造する(ズィミウルギア・)脳操槍剣(ブレインセイバー)》を正面に向けるや否や__


 指5本による高速かつ可憐な動きで、その巨大な《槍》をまるで送風機の如く回転させ、実弾や《銃弾》を軽々と弾き飛ばしていく。



 これは、ユウキ=アラストルの持つ《高速射撃の剣(ダーツブレード)》と同様の仕様__


 《ギルソード》は自身の正面にそれを持って、かつ片手でバトンを回すように回転させれば、まず鉄の弾丸程度なら、無傷で弾き飛ばすことができる。



 しかし、相手も同じ《ギルソード》、また同等の破壊力の強い兵器が相手では、その手法は限界があった。


 それで身を守ることは可能でも、それを形成する《ナノマシン》は傷つき、徐々に破壊され綻びてしまうため、この防御は長続きしない。





「ハァ……! ハァ………!」





 無数の銃弾を弾き、動き回って《ビーム砲》を避けていくうちに、リリーナの息は荒くなっていく。



 《ギルソード使い》とはいえ、たとえ常人とは異なる訓練を受けていようと、消耗する体力は、それと何ら変わりはない__





『どうするリリーナ……! 援軍は必要か……?』





「いや…! ハァ……いい……! ……ハァ……変形するなら……こっちだってできる……!」




 弾幕の弱まった箇所を速攻で見極め、即座にそこへ駆け込んだ瞬時、右手に握った《創造する(ズィミウルギア・)脳操槍剣(ブレインセイバー)》を空中へ放り投げる。




 宙に舞い上がった《槍》は、落下することなくゆらゆらと空中に浮遊するかと思えば、


 突如、その先端の《刃》が、紅色の光を放つ。





「……《脳操変形ブレイントランス》!!」




 リリーナの絶叫を合図に、《刃》を形成していた《ナノマシン》は、閃光弾のような眩い輝きと共に一度解かれた。



 __その瞬間、粒子化した《ナノマシン》は、散りばめられることはない。


 唐突に、その場で《粒子再創成》が開始され、その形をがらりと変えて《新たなる花》が形成される。



「もう1つ! 《脳操変形ブレイントランス》!!」



 続けてリリーナは、もう一方の左手からも《ナノマシン》を呼び寄せて《創造する(ズィミウルギア・)脳力槍剣(ブレインセイバー)》を追加で1本生成させた__



 全ての《ギルソード》の発動生成には基本、数の制限は無い。故に何時でも、無限に生成が可能__


 彼女はそれを再び身体の真上へ放り投げ、途端に空中へと舞い上がらせる。





『何だアイツ……? 武器を捨てて降参か……!?』



 

『いや違う……!? 何か先端の形が変わっ……!』





 元戦車であった《戦車機動兵器》の搭乗員は瞬時困惑したが、その本能的に察した予感は、運悪く見事に的中した。



 《再創成》を果たした《創造する(ズィミウルギア・)脳操槍剣(ブレインセイバー)》の先端には、先程まであった《ツツジの刃》の面影は一切見られない。


 全く別の形状に取って代えられている__



 《ツツジの刃》だった際の、《雌しべ》に値する部位には、硬く光沢を帯びたような、何やら主砲を思わせるような《大砲の筒》__


 つい先程まで刃だった周囲の《花びら》は、まるで高熱源エネルギーを覆い包み込むような、丸く囲ったそれを象っていた。




 その形状、まさに誰の目から見ても、一言で表せられるのは、『百合の花』__


 紅色に輝く《主砲》は、中に投げられ浮遊すると同時に、即座に、かつ静かに、標的(ターゲット)に照準を合わせ、高熱源体のエネルギーを蓄積させる。




「放て!! 形態(モード):ビーム主砲″シャスタリリー″!!」




 リリーナの絶叫を合図に、頭上に浮遊する《主砲》から、一線の《高熱粒子弾(ビーム)》が炸裂して荒野を迸る__




 空間を貫くように放たれた《弾》は、瞬く間に元戦車であった《起動兵器》2体の胴体を射抜いては、鮮やかな爆炎を花咲かす。




『ビ……ビーム砲だと!? 俺達と同じ装備を……!!』




『畜生……! 何でもありかよ! あの《ギルソード》はァ……!』




 〈旧政府軍〉の兵士達は、追い詰められながらも、魔物のような《戦車機動兵器》に装備された《ビーム砲》の照準を必死に定め撃ち続ける。



 しかし、彼女の頭正確かつ素速い射撃の上、その頭上を見れば《ビーム主砲″シャスタリリー″》の主砲は、次第に3門、4門と徐々に数が増えていく。





『慌てるなよ……!? 火力は我々が圧倒している!! 所詮ビームの1発や2発……!!』




『しゃ……車長……!! 前方10時方向に……敵の《ビーム砲》がァ…!!』




『……何っ!? ……馬鹿な……!? なぜこんな目の前にィ……!?』




 少女の力の脅威は、それだけで終わらない。


 この《主砲》と《創造する(ズィミウルギア・)脳操槍剣(ブレインセイバー)》__


 それ等を形成する《ブレイン=ナノマシン》__


 この全てが、少女リリーナの脳から発する特殊信号によって、自由自在に操っている。




 つまりは、彼女の意思で、この空間全ての箇所に、武装が生成される__


 戦闘機、武装ヘリ、また廃墟の残骸、さらには敵陣の奥地や中心地からの至る所に__


 《ブレイン=ナノマシン》の遠隔操作により、その《砲台》を自在に形成・設置させ、敵の兵器を破壊することが、彼女には出来てしまう。





『クソッ……! あれだけ隊列を成した我が軍の戦力……! 残されたのは……我々だけ……!?』




『……もういい! 特攻しろ! ……我らの神と先祖に忠誠を見せろ……! たかがガキ1匹に逃げを取るなど……!! あってはならん……!!』




 最後尾の守護を務める元T34/85型《起動兵器》、そして旧西暦末期時に開発が凍結された、10m級の《人型機動兵器G3X-275R》が、リリーナ自体を目掛けて突進する。




『死ね……! 同士の仇……!』




 元T34/85型戦車であった《起動兵器》の右手にあたる《機械腕(アーム)》からは、『鷹の爪』に似た格闘用の《鉤爪(クロー)》を正面にぎらりと輝かせ、ついにリリーナとの距離を5mにまで接近する。




『おい! リリーナ……!! まずいぞ……!!』




「大丈夫だよ。キルト………!」



 リリーナがぽつりと呟いた。刹那__

 


 __その《鉤爪(クロー)》で身体に触れようとした元T34/85型《起動兵器》は、その思惑も叶わず、あっけなく縦真っ二つに分断された。



 爆炎と劫火に焼かれた『鉄屑』達を背に、少女リリーナは《創造する(ズィミウルギア・)脳操槍剣(ブレインセイバー)》の銀の柄を片手で振り払い、悠然と立っている。




  __その手に握られた《槍》の先端の形状は、《ツツジの槍(アゼリア)》でも《百合の主砲(シャスタリリー)》でもない。


 

 刃渡り2.9cm、幅300mm前後__




 銀の柄の先に見られた刃は、16歳の少女の体格には似合わない。《養葉の大剣》__




 

「断絶……!! 形態(モード):大剣″リュウゼツラン″……!!」




 紅色の輝きを帯びた《大剣:リュウゼツラン》の色は、少女の周囲に集う《ブレイン=ナノマシン》と、そして彼女の特別な目、《覚醒瞳(アイズ)》と同一のそれ__



 基礎設計は、旧14世紀頃の大剣『クレイモア』がさらに大型化れたようなものであり、刃の先端には、『植物の葉』が象られ、外側に鋭利な波を打ち、そして内側が窪んでいた。



 刃の表面には、振り払えなかった血痕、油の水滴、鉄錆が無数に残り、悪臭を放っている__





「神様、私の行った行為は、無慈悲で罪深いものです。お許しなど請う資格などありません。それでも私は……守りたい……あの子達の安息のために……!」




 __彼女は祈りながら、周囲を見渡したが、近くに既に敵影の姿は1つも見当たらない。


 無数の残骸、劫火、灰煙、この世の地獄だけが、視界の景観を埋め尽くしている。



 無数の残骸の上で1人、リリーナは冷徹な瞳で、おぞましい灰色の空を見上げながら、静かに呟いた。





◇◇◇◇◇◇





「かつて国家の盾であった勇敢なる〈旧政府軍〉が……なんて様だ……!」




 最後に残された指揮官用の特別装甲車の車内で、ヴィザロ=ディオロールは、左手で煙草の煙を炊きながら、不満を露わに声を漏らした。




『……なんて様だ……! じゃないでしょ!? 何をちょっとした妨害者風情に軍を全滅させられてるのよ!?


 《ギルソード》を取引に国家と軍を丸々買い取って支配する魂胆だったのに!!


 アンタのせいで私が大目玉喰らうじゃない……!?』





 操縦席中央に設置された無線機から、あどけない少女の怒り声が響いてくる。





「お言葉ですがディズレーリ様……! 今、貴女は『ちょっとした妨害者風情』と仰いましたが、とんでもない。


今回ばかりは相手が悪かったのです。これは『史上最悪の生体兵器』に捕まってしまった……!」




『史上最悪の生体兵器ぃ? 何よ!?


 アンタが仕切ってた〈旧政府軍〉は、その兵器の大半を、アンタの《ギルソード》の能力で《強化改造》してたじゃない……!?


 太刀打ちできない相手なんているの……!?』





「いいえ! 最悪な事に……! 相手はただの《ギルソード使い》ではなく、《ブレイン=ギルソード使い》だったのです!」





『《ブレイン=ギルソード》……!? まさか……!? あの人外じみたアレ……!?』





「ディズレーリ様もご存知ありますでしょう? その名前を……!


 約400年前の旧西暦時代終期、天才軍事科学者アルスダート=ギルソード博士によって実験開発され、全世界の大破壊いわゆる『西暦の終焉』を引き起こした人体兵器、《ギルソード》。


 その実験開発の最中、《ギルソード》を『遠隔操作』といった、より使用者の身体の一部のように、意識だけで自由自在に操作できる《進化型》の開発が試みられていた。


 それが《ブレイン=ギルソード計画》です__ 」





『【《ギルソード》の遠隔操作技術案】でしょ?


 確かに、これまで遠隔操作が可能な機械といえば、人の『脳波』で操作する『車いす』や『生活支援ロボット』など、民間機関では多数開発されてた__!


 当然、そんな優れた代物が軍事利用されない訳がないわよねぇ?


いや、元が軍事利用から始まったという資料も、実際に残されてるくらいだし……!』




「えぇ! 無論、仰る通りですよ! そして__


 それを《ギルソード》の技術に流用できないかと、博士を始め精鋭の開発グループは、模索していた。


 だが、《ギルソード》が『既存兵器』と決定的に違うのは、それを構成するものが《ナノマシン》という粒子形状のナノコンピューター。


 いくら『脳波』で動かす機械技術が発達していたとはいえ、本来、エネルギー等で発光でもしなければ目に見えない粒子を、しかも無数の数を、人間の脳波で動かそうとすることは実に困難な事でした!


 かつ、《ナノマシン》は、その個体が小さいが故に、データ等の容量も小さい……!


 故に、人間の発する複雑な脳波を読みとって操作するには、《ナノマシン》とは別に、巨大な『信号変換装置』を別途開発する必要があったのです!」





『【技術の限界】ってのは、当時の《ギルソード》の世界じゃ未知数故に、至極当然だった__!


 一応、携帯できる程の小型化にも成功していたけど、実戦では精密かつ正確な操作が追いつかない。



 寧ろ、頭部に専用機械の装着が必要だった分、通常の《ギルソード》よりも、遥かに運用性が低く、コストも酷く高かった。おまけに目立ちすぎる!


 __そうでしょ!?


 何よりも決め手なのが、その《遠隔操作ギルソード》は、使用者の大脳に対する負担と戦場でのストレスが各段に大きかったらしいから__


 __計画も凍結状態だった。でも酷な事に……』





「よくご存知で……! 開発は成功したのですよ! 女子供1人犠牲にした残虐な方法でねぇ……!


 研究グループの1人である天才科学者であり名医でもあったエルシア=グングニル博士はある策を考案した。


 それは、人間の『脳波』で操るのではなく、《ギルソード》を意のままに操れるように、人間の『脳』自体を手術によって人工改造する事__



 この非人道的な考案には、さすがにギルソード博士も強く反対した。


 《ギルソード》なんて非人道的な兵器を、自らが開発しておきながら__




 だが、グングニル博士は、その反対を押し切って実験手術を強行させた。


 幼い少女を被験体に額を切開し、大脳を取り出し、《ナノマシン操作信号変換装置》を大脳の中枢に埋め込んだ。


 そして、その装置と脳中枢から視覚神経をはじめ、あらゆる神経系が《信号(シグナル)》に反応するよう、無数の《特殊マイクロチップ》で強化し、脳の兵器演算装置化への『改造手術』に成功した。


 さらに《ナノマシン》自体も、その《装置》から発する信号により自在に作動するよう《ブレイン=ナノマシン》として基礎設計から見直され再開発された。


 そうして誕生したのが、

 《ブレイン=ギルソード》__


 現に今現在、これは事実上、《ギルソード》の遥か上を凌ぐ兵器と呼ばれし、伝説の宝ですよ……?


 困りましたねぇ? ディズレーリ様?」





『ちょ……!? 冗談だと言ってくれないかしら!?


  何で!? あんな代物……!

 〈新都市マリューレイズ〉の連中風情が!?』





「えぇ、全くですよ……! 誠実で正義感の強い彼等は、その《ブレイン=ギルソード》を製造禁止にしているはずなのですが……!」





『……で!? この状況をどうすんのよ……! もう尋常じゃないくらい被害が出てんのに……!!』






「ご安心下さい……! 不測の事態など、想定して然るべきです……!


 このヴィザロ=ディオロール!


 最後の手段を以て、あの忌々しい少女を惨殺して見せましょう……!


 我が命運と引き替えにしても、この忠義……!


革新の激戦地(ヴェオグラード)〉に捧げるまで……!!」





 無線機の向こうで怒声を撒き散らす少女の声に、ヴィザロは静かに答えて、無線機の電源を落とした。



 そして、車両の乗降口を開けて外へ飛び出すと、その大地に広がる無数の硝煙と炎と残骸の山を目に焼き付ける。


 



【………!!………ォ……ォ!!…………ォ!!】





 すると、彼の背後から、まるで魔物のような呻き声が地の中から響いてくる。



 背後を振り返れば、荒野の地に小さな地割れのようなヒビが見られ、鮮血の如き真っ赤な《ナノマシン》が泉のように沸き出している。



 ヴィザロは歪な微笑を浮かべながら、《ナノマシン》が吹き出す泉の底に潜む《怪物》に向かって言った。





「……貴方様の出番のようです。そう焦らないで下さいよ。散っていった同士達に、貴方様から全てを奪った悪しき者達に、貴方様の全てを見せつけましょう。


 グスタフ=アッディーン少将閣下……いえ……〈旧政府軍〉の最終ギルソード《死の要塞の(デスフォート・)大巨人(ジャイアント)》」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ