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新科学怪機≪ギルソード≫   作者: Tassy
1. 少年ユウキと闇社会の楽園 編
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・マフィアの少女(2)



 ローツェの突拍子もない発言に、ロザリアは耳を疑った。



というより、話の出だしから理解不能だ。内心そう思った。




「………あのさ、私をからかってんの? 一体何のSF小説の話を振ってんのよ!?」



「やっぱお前なら、絶対そんな反応を見せると思ったぜ! 残念だが大真面目な話だ! これからそれが実現するんだぜ? これから親父達がそれを買収しようって言うんだ。これはそのための会合ってわけだ……」



にわかに、いや全くと言っていいほど信じがたいのだが、少なくともローツェの言動からは、嘘の気配は感じられない。


故にロザリアは、マグナムをいじる手を止めて、彼の話を聞くことにした。




「そもそも《人体兵器》って何なのよ!? 言葉通り人体に爆弾でも搭載されてるわけ?」




「おぉその予想! 案外正解に近いぜ。だがもっと効率の良い、そしてもっと不可解なもんだ……」




 ローツェはそう言うと、マグナムを握ったロザリアの右手を指差した。




「例えば、お前が持っているそのマグナム、今はあくまで装備品としてお前が『所持』している形になるわけだが……」




「そうね……それがどうかしたの?」




「想像してみろ……! そのマグナムが、お前の身体の一部になって、四六時中お前の身体に、霊みてぇに纏わりく。


 いざ使うとなったら、次は寄生体みてぇに、お前の身体にから、あちこちに生えてくるんだぜ……? この話をどう思う? 気持ち悪ィと思うか?」




 案の定、話の内容を一通り聞いてみたが理解不能だ。ロザリアは最早呆れ果てる。




 何せ彼の話を要約すると、金属で造られた硬い武器が、身体から生殖するという事だろう。


 非現実どころか、妄想の域でしかない。彼は頭でも打ったのだろうか。




「まぁお前が理解できないのも無理はねぇ! 俺でさえ理解できないんだ。だが、実際にそれは実在してんだとよ。


 それを一目見たいがために、わざわざファミリーの幹部や頭領が諸島の各地から集まってるんだぜ。その『兵器』の名は、俺は聞かされていないがな……!」




ロザリアは、話の合間に「ふぅん、そう……」と興味無さげに頷いて、右手に持ったマグナムをスカートの中に仕舞い込んだ。


 話への関心など、欠片も無いのだから__




「……改めて疑問しか感じない話だわ。一体どうして、そんな得体の知れない物体のために、諸島の各地からマフィア達が大集結してんのかしらね?」




「さぁな? 何せ親父達の考えていることは、俺にもよく分からねぇんだ。けどよ、そいつが兵器って考えるとどうだ?

 手に入れば軍事力、そして絶大な権力が手に入る。結局は力が欲しいだけなんだよ。親父達は……!」



 ローツェのその言葉を聞くと、ロザリアはこの話を長々と聞いたことに後悔を感じた。




 父フランコはこの取引を、国の将来を見据えるものだと熱く語っていたが、なるほどローツェの言った通り、皆権力に目が眩んでいるのだ。




 確かにマフィア達は、このシチリア諸島の経済力を維持するために、麻薬や小型兵器など、世界の法に触れるような代物を積極的に輸出入してきた。


 

 それが『人体兵器』などという、かつて着手した前例のないものに手を出して、これまで積み上げた諸島の平穏を害しては先人の苦労が水の泡だ。



 それ考えると、やりきれない気持ちでいっぱいになる。



 仮にそれがかつての兵器よりも恐ろしい物だとして、それが些細な権力争いに使用されたとしたら__



 シチリアの将来を見据える、などという思考そのものが、心底馬鹿馬鹿しく思えてしまう。




「ねぇローツェ……」



「どうした? ライバル家の令嬢ちゃんよ?」



「私さぁ! この建物にいると、どうも息苦しくなるの! 少し外の空気を吸いに行ってくるわ。お父様に聞かれたら、適当に用事をつけてくれるかしら?」




ロザリアがそう言って立ち去ろうとすると、ローツェは、プライドの高い性格に似合わぬ笑顔で、ご親切に注意を促した。




「……いいかロザリア、街を歩くときは回りによーく注意を払いな……! マフィアたるもの、常に闇の世界に身を置いている自覚を忘れるなよ……?」




「……私は、そのマフィアが嫌いだっての……!」




 ローツェの忠告を聞き流したロザリアは、そのまま〔交流ホール〕を飛び出し、ひっそりと旧大聖堂(カテドラーレ)を後にした。



「クソガキがよォ……! 所詮はお前も俺たちと同類、薄汚ぇ名声に菅って生きてるクズ野郎なんだよ! 自覚しろ……!」




一人テラスに残ったローツェは、険悪な表情を浮かべ、しばらく独り言を呟いていた。




◇◇◇◇◇◇



 かつてのイタリア第5都市、パレルモ中心街は、毎日のように活気に満ち溢れていた__



 旧廃線駅の周辺、また旧市街と新市街を結ぶ大通りでは、ファッションやインテリア専門店が軒を連ね、観光名所である歴史市場からは、果物やスイーツの甘い香りが、この道を包むように漂っている。



 道の先々から飛び交うは、往来する若者や店の売り子などによるはつらつとした声__


 

 過去の世界戦争によって、この島と街は総人口も、都市規模も、抉り食われるように縮小したと言うのに、街の雰囲気と人々の血気盛んな姿は、そんな事実さえ忘れさせてしまう__


 

 あくまで、この街の表面上でしか見えない、偽りの恰好ではあるが……




「ん~、やっぱ一人で街中を歩くのって気分良いわ~♪ ったくローツェの奴! 理解不可能な話を長々と聞かせやがって……!」




 会合を抜け出し、パレルモの中心街を一人放浪していたロザリアは、貯めていた愚痴を吐きつつも、この場ではとにかく息抜きをしようと考えた。




 そして、いつものように洋服やアクセサリーの専門店で、ブランド物の新作などを見回り、市場にてお気に入りの生洋菓子を買っていった。



 __満足に自由時間を過ごすロザリアではあったが、長く中心街を歩いていると、次第にシチリア諸島の暗黒面とも言える光景が、嫌でも垣間見えてしまうのである。




 道をすれ違う若者の中には、麻薬売人や売春婦も多く歩いており、立場の弱い中学生や小学生に、強引に押し売りする様子は、昼夜問わず見られる。




 建物の路地裏に入れば、ストリートギャングや破落戸が奇声を発し、そこに迷い込んだ観光客などが身ぐるみを剥がされ、時にはリンチされる者の悲鳴が大通りに筒抜けで聞こえる。




 さらにゴミ捨て場や建物の中庭を覗けば、マフィアやギャングに殺された人間の遺体や欠損部分が放置されていて、それ等は半径約10m範囲に強烈な悪臭を漂わせている。




 無論、大通りを往来する人々は、それを見て見ぬふりで通り過ぎる__



 先ほどの説明では、この街は毎日のように活気に満ち溢れていたと綴ったが、それは『シチリアの闇』と呼ばれるこの治安と格差を、ただカムフラージュしたいがための虚飾のようなものだ。



 そんなことは、このシチリア諸島に住んでいれば、嫌でも理解せできる程の暗黙の常識であった。



 ロザリア自身もまた、この栄華と零落が混じりあったこの光景を、幼少の頃から見て育ったため、これがシチリア諸島の実態である『闇』を全て受け入れているのだ。




 この街を牛耳るマフィア達も、その令嬢である自分自身も、それらの一部の他ないのだから__




「そういえば昔、このシチリアは『楽園』だった……って、死んじゃったママが言ってたっけ……全く信じちゃいなかったんだけどなぁ……」



 ふと、幼い頃に聞かされた昔話を思い出した。



 過去にこの場所が、『楽園』と呼ばれるほどに美しい場所であったという、美しくて素敵な話__



 事実かどうかは不明だが、今この時代でのシチリア諸島では、虚しくも子供のお伽噺で終わってしまうのだ。実際にそれを信じる者は、恐らく諸島のほんの一握りだろう。




「……もう帰ろうかしら、自由な時間は堪能したし。今日買ったお菓子は、明日あの娘と一緒に食べよう。きっと喜ぶだろうなぁ……」

  



 ロザリアが独りでに微笑みながら、来た道を戻って帰路に着こうと歩を進めようとすると、背後から男性の声が聞こえてきた。




「やぁお嬢さん? ひょっとして、ロザリア・ヴィットーリオさん……ではないでしょうかぁ?」




振り返れば案の定、声の持ち主は男性であった。漆黒のスーツを身に纏った東洋人で、外見は一目見た格好と伺える様子で、マフィアである事が瞬時に判断がつく。



 そして、その男の取り巻きなのか、裸の上半身裸をタトゥーで塗り染めた輩共が、小さな彼女を取り囲む__




「……何よアンタ、私の顔をどこで知ったのかしら……!?」




 まさかとは思いつつも、口をついて安直に答えてしまった。




 次の瞬間、男は唐突にレベッタ式の拳銃を突きつけ、彼女を目掛け一発の銃弾を放つ__




「……!!?」



 あまりの突拍子のない行動に唖然とするも、拳銃を見慣れて使い慣れていたロザリアは、衝動的かつ瞬発的に身体を横にずらした。



 そうして銃弾を間一髪で回避したが、手に持った生洋菓子の袋が粉砕されてしまった。




「……おい! 銃声だ……! 今銃声がしたぞ……!?」




「またマフィアの連中かよ! 堂々と中央通でおっ始めやがって……!」




 大通りの通行人は騒然とするも、このような事態に慣れていないこともないのか、迅速にその場からの避難に移る。




「……ハァ……ハァ………えっ……何を……!?」




 粉砕した紙袋の持ち手を手放し、頬に冷や汗を滴らせながら、彼女は男に問いかけた。




「悪いな、ヴェルニーニ=ファミリーの者なんだが、実はアンタを殺さないといけねぇんだ……」




 男が告げた死の宣告に、少女ロザリアの身体は凍りついた__


 

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